分析056 RICOH GRシリーズの比較【性能編】

コンパクトカメラの名機リコー GRシリーズの性能分析・レビュー記事です。

特許情報や実写の作例から光学系の設計値を推測し、シミュレーションによりレンズ性能を分析します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

このGRシリーズ分析記事は、前編・後編の2本で構成されおり、本記事は後編「性能編」です。

前編となる「構成編」は以下のリンク先をご参照ください。

関連記事:RICOH GRシリーズの比較【構成編】

作例写真は準備中です。

設計値の推測と分析

本記事では前回に引き続き、RICOH GRシリーズのレンズを比較分析いたします。

まずは前回も紹介したGRシリーズの主な製品と、本記事での分析対象レンズのリストです。

  • 1996年 フィルム GR1
  • 2005年 1/1.7型 GRデジタル1
  • 2007年 1/1.7型 GRデジタル2
  • 2009年 1/1.7型 GRデジタル3
  • 2011年 1/1.7型 GRデジタル4
  • 2013年 APS-C GR1 (第5世代)
  • 2015年 APS-C GR2 (GR1と同レンズ)
  • 2018年 APS-C GR3

が今回の比較分析対象です。

まず、分析の前に注意事項を少々。

今回、フィルム時代のGR1レンズとデジタル時代のGRレンズ、2種の撮像素子サイズの異なるレンズを比較検証しておりますが、有利不利ができないように撮像素子サイズ分だけ評価尺度(スケール)を変更し比較しています。

この詳細につきましては過去に記事にまとめておりますので以下をご参照ください。

関連記事:センサーサイズとレンズサイズ

その他、性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

上図がRICOH GRシリーズの光路図になります。この項以下ではグラフを3つ横に並べて記載します。

順番は【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3としています。

各光路図の特徴は、前回の記事で詳細に説明しておりますので以下のリンク先をご参照ください。

関連記事:RICOH GRシリーズ 【構成編】

縦収差

球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

球面収差 軸上色収差

フィルムGR1

球面収差を見ますと、若干マイナス側に膨らんだフルコレクション型になっていますが、フィルム向けのコンパクトレンズとしては十分なレベルに補正されています。

また、球面収差をフルコレクション型にしますと疑似的にピント深度が深くなるような効果も得られます。

フィルムコンパクトカメラは、一眼レフに比べるとオートフォーカス機構が簡易的なため、精度や反応速度がどうしても劣ります。

そこで、少し球面収差を残し疑似的に深度をかせぐことでオートフォーカスの欠点をリカバーさせる効果を狙い、あえてこの球面収差の形を決めているとも推測されます。

今では失われたフィルム時代のコンパクトカメラ用の設計技法が垣間見えるわけですね。

なお、このフィルム時代のGRレンズは、性能が高く評価されライカマウントの単体レンズとして別に発売されたほどです。

軸上色収差については、現代的なレンズと比較すれば劣るわけですが、フィルム時代のレンズとしては十分な高性能な部類です。

APS-GR1

フィルムGRより約20年の時を経たAPS-GR1は流石に球面収差は略直線レベルのまとまりです。

これは、APS-Cサイズの高解像度CMOSセンサーをフルに活用するために、より高解像なレンズが必要としたためでしょう。

公式サイトの情報を確認すると、APS-GR1の撮像素子は、APS-CサイズのCMOSセンサーで有効画素数は1620万画素です。

計算式を記載するのは割愛しますが、APS-Cサイズ1620万画素センサーに必要な解像度を135フィルムを基準に比較すると、APSセンサーは4倍程度の高い解像度となります。

よって、レンズの収差量も4倍の解像度に見合うレベルに補正する必要があるのです。

それにしても、フィルム時代のレンズと構成枚数的には同じでありながら、設計技術だけでここまで収差を削減できるのが光学設計の面白い点ですね。

APS-GR3

APS-GR1よりも1枚レンズを削減し小型化しているのにも関わらず、収差量的にはさらに減少させています。

恐ろしい設計能力ですね。

これはご存じでしょうが、コンパクトデジタルカメラのオートフォーカスは、撮像素子の映像情報からコントラスト値を演算し、ピント位置を割り出し合焦させる方式が主流です。

この方式は「映る写真そのものでピントを合わせる」と同義なので、高精度なピント合わせが可能です。

フィルムコンパクトで説明したような「球面収差を少し残して~うんぬん~」と言うような設計手法は、現代では間もなく失われゆく技法なのでしょうね。

像面湾曲

フィルムGR1

フィルムGR1の像面湾曲は、一見しますと「だいぶはっちゃけた感じ」がしますが、フィルム時代のこのクラスのレンズであれば異常な量ではありません。

一例ですが、交換レンズで価格帯も同じとは言えませんが、過去にフィルムGR1と同じ焦点距離28mm F2.8仕様のレンズでNIKKOR 28mm F2.8を紹介していますので合わせてご覧いただけると納得いただけるでしょう。

関連記事:NIKON Ai AF Nikkor 28mm f/2.8D

APS-GR1

こちらはもう「フィルムGR1レンズがなんだったのか」レベルで収差が激減していますね。フィルムGR発売から約20年の間に一体何があったのか伺いたいぐらいですね。

APS-GR3

APS-GR1よりも1枚レンズを削減し小型化しているのにも関わらず、さらにブラッシュアップされている感があります。

歪曲収差

対称型光学系は、歪曲収差が小さくまとまる特徴を持つので、どのレンズも広角域の焦点距離の割には小さくまとめられています。

一般的な広角レンズはグラフがマイナス(左側)へ傾き樽型と言われる形になりやすいのですが、フィルムGRに関しては逆にわずかにプラス側へ倒れた糸巻き形状と言われる形です。

ただし、絶対的には小さく実写でもよくわからないレベルでしょう。

倍率色収差

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

フィルムGR1

フィルムGR1の倍率色収差は、若干過剰とも思えるほど小さくまとまっています。

対称型光学系は倍率色収差も抑えやすいとは言え、設計者の理念を強く感じます。

APS-GR1

デジタル化されたAPS-GR1では少々倍率色収差大き目の傾向です。

推測ですが、倍率色収差は画像処理で補正しやすい収差のため、画像処理に任せているのかもしれません。

フィルムGR1が異常に小さく、APS-GR1が大きくみえますが、特大というわけではありません。

APS-GR3

APS-GR1とほぼ同程度にまとめています。色収差の量はレンズ枚数に依存した傾向となりますが、APS-GR1より1枚レンズを削減しているにもかかわらず、同レベルを維持しており、設計者の強い執念を感じます。

横収差

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

各グラフの左タンジェンシャル、右サジタル

フィルムGR1

フィルムGR1の球面収差や像面湾曲は全体にマイナス側に倒れる傾向となっており、横収差ではサジタル、タンジェンシャル方向供にハロ(傾き)を持たせ全域でのピントバランスを取っています。

APS-GR1

一方のAPS-GR1では球面収差や像面湾曲は、ほぼ直線レベルに補正されていますので横収差も直線的に補正されています。

この少枚数で小型の光学系の割に驚異的にきれいにまとめていますね。

APS-GR3

最新のAPS-GR3では変化は小さいもののさらに直線感が強く、妥協の無い収差補正が行われたと想像させます。

乾かした雑巾をさらにロードローラーで絞り出し尽くしたかのような締め上げと言うのでしょうか、見ている私が「もう勘弁してやってくれぇー」と引き止めたくなるような絞り込みです。

とても余計な口出しですが、後継機となるGR4には一体どのような改善の余地が残されているのでしょうか?

次機種の設計担当者は、胃が痛い日々を送っているのかもしれませんね…

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

スポット標準のスケールで眺めますと3本のレンズともに周辺部の像高18mmあたりまではほぼ点で、隅の像高21mmあたりでフィルムGR1が若干苦しい程度の差しかありません。

スポットスケール±0.1(詳細)

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

詳細スケールで眺めますと、さすがにフィルムGR1はスポットサイズが全体に大きく、APS-GR1では小さくまとまっており、高解像度対応の様子がうかがえます。

何度も言うようですが、フィルムの解像度を考えればフィルムGR1のスポットサイズで十分高画質な写真が得られます。

MTF

開放絞りF2.8

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

フィルムGR1

中間部像高15mmあたりまでは山が一致し高さも申し分ありません。隅の像高21mmでは山の位置(ピント)はずれるものの高さは残しています。

ちなみにフィルム時代はプリントサイズの問題で、隅はカットされプリントされませんから大半の人は一生見ることが無いのでこのレベルでも十分以上です。

これを少し補足説明しますと、135フィルムのサイズは横36mm×縦24mmで、比率にすると3:2です。

一方のプリント用紙(例サービス版E)は、横117mm×縦82.5mmで、比率にすると2.8:2で、プリント用紙の比率に合わせなければなりませんから隅の部分がカットされます。

フィルムが横36mm×縦24mmとは言え誤差やバラつきなどもありますから、あらゆるカメラがキッチリそのサイズで露光されているか怪しいので、プリント時はフィルムの少し内側を狙う方が事故が少ないと言うアナログならではの事情もあったでしょう。

また、フィルム時代のファインダーは一眼レフでも一部のプロ機以外は視野率が100%ではありませんから、ほとんどの撮影者自体がフィルムの隅に写る物がそもそも見えていません。

さらに、コンパクトカメラに至っては、視野率は70~80%程度で、視差の問題もあります。ほとんどカンで写真を撮っているような物です。

よって、フィルムの隅には撮影者も何が映っているかわかりませんので、少々内側をプリントしてあげた方が良いという理由もあります。

以上のような、様々な理由もあり、プリントをお店に任せる人はまず隅を見ることがありません。

APS-GR1

全部のMTFの山の頂点がグラフスケール内には収まっています。実写上は周辺部にピントのズレたような感触は無いレベルでしょう。

さて、デジタル時代のファインダー事情は説明するまでもありませんが、デジタルカメラでは撮像素子の映像をそのまま液晶モニターやファインダーへ表示しており写るものと同じ映像を見ていますから、視野率はほぼ100%です。

これぞデジタル時代の恩恵ですね。

APS-GR3

周辺部まで山も高く、位置も十分に一致するように改善されています。

APS-GR1とGR3は収差図などで見るとわずかな改善にも見えますが、MTFにすると改善度合いを強く感じますね。

小型化を達成しながらこの改善度合い「只々すばらしい」やはり「美しい断面形状のレンズには相応の理由がある」わけですね。

名設計者達が、レンズの形に異常にこだわるのは伊達では無いと言う一端が、垣間見えたのではないでしょうか?

小絞りF4.0

【左】フィルムGR1、【中】APS-GR1、【右】APS-GR3

フィルムGR1、APS-GR1供にしっかりとした性能であることは間違いありませんが、APS-GR3の際立つ山の高さと一致度に感心します。

APS-GR3は、絞り込んだ時にさらに性能がグッと改善することをしたたかに狙い設計されているのでしょう。

総評

20年に渡るGRシリーズの光学系の発展の歴史をギュッと凝縮してお届けしました。

構成編で少し触れましたが、長い開発期間の変遷を経て対称型光学系へ帰着する様子に感動しましたが、それがまた性能面でも一切の妥協の無い進化の歴史となっている点にも驚嘆します。

その完全対称型光学系へ収束してゆく変遷は、光学設計の真理を垣間見るかのごとき様相で、触れ得ざる者を見てしまったのかもしれません。

なによりも、このような漢らしいプロダクトが市場で高い評価を得ている姿を見ると、カメラ市場には本当に多くの審美眼のあるユーザーがおられるのだと感服いたしますね。

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製品仕様表

製品仕様一覧表 リコー GRシリーズ

GR1
(フィルムGR1)
GR
(APS-GR1)
GRIII
(APS-GR3)
撮像素子135フィルムCOMS
APS-Cサイズ
COMS
APS-Cサイズ
レンズ構成4群7枚5群7枚4群6枚
最短撮影距離0.35m0.1m0.06m
発売日1996年10月2013年5月24日2019年3月15日

(カッコ内)名称は本記事内での略称です。

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