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【深層解説】シグマ 大口径標準レンズ SIGMA 50mm F1.4 DG DN Art -分析135

この記事では、シグマのミラーレス一眼カメラ専用の交換レンズである大口径標準レンズ 50mm F1.4 DG DNの歴史と供に設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

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レンズの概要

SIGMA 50mm F1.4 DG DNは、高性能で有名なArtシリーズの中でもフルサイズミラーレス専用として開発された大口径標準単焦点レンズです。

まずは、SIGMAの製品名称の定義についておさらいしてみましょう。

2012年以降のSIGMAレンズは、基本シリーズとして3つのジャンルに分かれています。

  • Art (高性能)
  • Contemporary (バランス型)
  • Sports (高機動)

 ※(カッコ)内の説明については、公式HPに記載された説明を一言で意訳しました。

そして、製品名称の末尾の記号(例:50mm F1.4 "DG DN")については、以下の意味になります。

  • DG (フルサイズ用)
  • DC (APS/フォーサーズ用)
  • HSM (超音波モーター)
  • DN (ミラーレス専用)

当記事で紹介する製品は、Artシリーズ 50mm F1.4 ”DG DN”ですから、「フルサイズ」&「ミラーレス専用」となります。

旧来までの一眼レフカメラ用として設計された製品ならば、マウントアダプタを利用して各社ミラーレス一眼カメラへレンズを流用できました。

しかし、「この製品はミラーレス専用」となりますので注意が必要です。

また、これまでのSIGMAは、各社のレンズマウントに合わせた製品を販売していますが、執筆現在(2023年)におけるDNシリーズはソニーEマウントと、SIGMAやPANASONICやLEICAの共同運営するLマウントの2種類のみが販売されています。

さて、Artシリーズの焦点距離50mmのレンズは、シリーズ創設の2012年から比較的早い2014年に50mm F1.4 DG HSM(初代Art)が発売となりました。

初代Art50mmレンズの時代、各社の標準レンズはまだダブルガウス型が一般的でした。

そのため標準レンズは「いわゆるオールドレンズ調の描写」であったのに対し、SIGMAの初代Art50mmレンズは超重厚な造りの高解像な「カリカリな超解像度」のレンズとして登場し、賛否両論の物議を呼び起こしました。

結果として見れば「高解像力なSIGMA」のイメージが浸透することなり、SIGMAの戦略的には成功したのではないでしょうか?

初代Art50mmは、一眼レフカメラ用のレンズでいわゆるバックフォーカスの長いレンズでした。

およそ10年の時を経た2023年に発売となった当レンズ50mm F1.4 DG DN Artは、ついにミラーレス一眼カメラ用となり、不毛なスペースのいらない自由な光学設計が可能なカメラ向けとなっております。

きっと当レンズは、SIGMAが目指す超高解像度を体現するような、熱い情熱を叩きつけた1本であることは間違いないでしょう。

文献調査

当レンズSIGMA 50mm F1.4 DG DN Artは、2023年 2月に発売されました。

製品の発売から半年以内で関係する特許の公開となることが、過去の事例としては多いパターンです。

しかしこの製品は、なかなか特許が公開されないものだなと業を煮やしておりましたが、2023年の年の瀬12月28日に無事公開の運びとなりました。

一般的には特許の出願され1年から1年半ほどの後に公開されますが、このSIGMAの特許が出願されたのは2022年6月なので、ちょうど1年半の期間で公開されています。

デジタル全盛期の時代に、この公開までの1年半には何か計り知れない意味があるのでしょうか…

特開2023-183894に記載された形態の酷似する実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がSIGMA 50mm F1.4 DG DN Artの光路図になります。

レンズの構成は11群14枚、球面収差や像面湾曲の補正に効果的な非球面レンズを3枚採用し、色収差の補正に特殊低分散ガラスSLD(Special Low Dispersion)を1枚採用しています。

さらに、当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

ミラーレス時代のレンズだけあり、一眼レフ時代のレンズの定番であるダブルガウス型の面影はまったくなくなりました。

ファインダーへ光を導くためのミラーが不要となったことで、撮像素子の近くまでレンズがぎっしりと並びます。

また、近年の潮流として動画撮影用レンズとしても使えるように、ピントを合わせるフォーカシングレンズの構造が特徴的です。

フォーカシング時には絞りの撮像素子側にある第8レンズが1枚だけ移動します。

軽量な第8レンズのみをフォーカシングに割り当てることで、高速で滑らかに駆動させることが可能になります。

さらにフォーカシングの駆動源にはArtシリーズでも初となるリニアモーターHLA(High-response Linear Actuator)を採用し、超静粛化も実現しているようです。

さすがは待望の大口径標準レンズだけあって、全方位に渡り盤石の構えを敷いているようですね。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、重厚長大が売りのSIGMA Artレンズですからもはや驚くことはありませんが、F1.4の大口径とは思えない補正具合でもはや「美しい」の一言に尽きますね。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も完璧に補正されています。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲も、基準光線であるd線(黄色)を見るとタンジェンシャル方向もサジタル方向も略直線で完璧です。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、最近のデジタル専用製品で定番化した画像処理による補正に頼る方針のようです。

かなり強くプラス側へ倒れる傾向となっており、撮影すると糸巻き型に歪みますが、画像処理により修正されます。

この方針についてSIGMA 85mm F1.4 DG DN Artではメーカーからも公式にアナウンスされており、小型化とのバランスを取るものであるとされています。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、収差量として大きくはありませんが、画像処理に適したまとめ方をしていることがうかがえます。

具体的には収差補正として、g線F線の青成分とC線の赤成分をそれぞれに最小にするまとめ、画像処理により青成分と赤成分の座標を補正します。

すると、すべての色成分が小さくなるという理屈ですね。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向も素晴らしく補正されていますが、右列サジタル方向もまた優秀で収差がほとんど残されていません。

Fnoが明るいレンズほど横収差でのサジタル方向の収差が大きくなり、鳥が羽ばたくようないびつな形のボケになるサジタルコマフレアが出ます。

いわゆる古典的な標準レンズであるダブルガウス型のレンズはとても優秀ですが、このサジタルコマフレアにのみ補正が効きません。

新発売

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

上段側が画面の中心で下段側が画面の外側になります。

一般的なレンズは中心側の性能が良く、周辺ほど補正が難しいので悪くなりますが…

むしろ周辺の方が良いのかもと思うほど全域で均質となっており小さくまとめられています。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

この拡大したスケールで見ても、周辺まで高いレベルで補正されている様子が見て取れますね。

MTF

開放絞りF1.4

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見るとF1.4の大口径レンズなのに極めて高く、中心以外の山の高さや位置もそろっており画面周辺部まで均質であることを示しています。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

ほとんどの画面位置で天井レベルまで高さが改善していますね。

開放から高すぎるので、実用上は絞っても解像感の差を感じないかもしれません。

高性能すぎるレンズにある「良い意味で、絞っても変わらないレンズ」ですね。

総評

まさにミラーレス時代のArtシリーズにふさわしい超高解像の性能でありながら、動画にも適した光学系配置と最新のリニアモーター駆動搭載と、これこそ「期待を裏切らないとはこういう事か」と、改めて思い知らせてくれたSIGMA 50mm F1.4 DG DN Artでした。

さらに、SIGMA 旧50mm F1.4レンズとの詳細な比較を行った記事もご用意しましたので、ぜひご一読ください。

 関連記事:SIGMA Art 50mm F1.4の新旧比較分析

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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製品仕様表

製品仕様一覧表 SIGMA 50mm F1.4 DG DN Art

画角46.8度
レンズ構成11群14枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.45m
フィルタ径72mm
全長111.5mm(Sony E)
最大径78.2mm
重量660g(Sony E)
発売日2023年2月23日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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