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【深層解説】一眼レフカメラのしくみ ~レンジファインダーや二眼レフとの違いから~

一眼レフカメラとは、フィルム時代の1960年代から普及が始まり、カメラがデジタル化された2010年代まで、レンズ交換式カメラの主流の製品として広く流通したカメラです。

すでにミラーレス一眼の方が主流となった現代ですが、この記事では改めて一眼レフカメラとはどのような製品だったのか、特許情報を元にレンジファインダーカメラや二眼レフカメラと比較しながら振り返ります。

なお、私「高山仁」はプロレンズ設計者として長年に渡りレンズの仕組みを研究してきた光学技術者で、現在は様々なレンズの分析と批評を行うウェブサイト「レンズレビュー」を運営しています。

この記事ではレンズのプロである私が、光学シミュレーションを使ってカメラ内部の正確な機構も世界初公開します。

ミラーレス一眼カメラについて別の記事を用意しておりますのでこちらをご覧ください。

 関連記事:ミラーレス一眼カメラのしくみ

「一眼レフカメラ」とは

最初に言葉で説明してみます。

一眼レフカメラの「一眼とは」

まず「一眼」とは

 「写真の構図を決めるファインダー光学系と、撮影用の光学系が共通(ひとつ)である」

との意味になります。

一眼レフカメラの「レフとは」

続いて「レフ」とは、英語のレフレックス(Reflex)を縮めた物で、日本語としては

 「反射ミラーを備えている

ことを意味しています。

一眼レフカメラ以前の世界

理解をより深めるために、一眼レフカメラの普及する前の時代のカメラから簡単にご紹介しましょう。

レンジファインダーカメラ

一眼レフカメラの勃興期1960年代以前に主流であったカメラがレンジファインダーカメラです。

かつては多くのメーカーが販売していましたが「Leica(ライカ)」が代表格です。

レンジファインダーカメラは、構図を決める「ファインダー」と、ピント合わせをするための「距離計」が一体となった構造で、写真の構図を決めながら目を離さずにピント合わせができ、さらに様々な撮影レンズに交換可能な画期的な製品でした。

この方式のカメラの完成形と言われて名高いのが「Leica M3」で現代でも希少価値が高い由縁となっています。

なお、レンジファインダーカメラの日本語訳としては「距離計連動式カメラ」なります。

レンジファインダーカメラの構造

ここではレンジファインダーカメラの一例としてCOSINA BESSA R4Aを例に構造を簡単に紹介しましょう。

まず簡単に外観を確認しますと、中央のレンズは交換が可能な撮影用レンズです。

カメラに向かって右上には窓があり、ここは構図を決めるためのファインダー光学系(Inverse Galilean Finder)が収まっています。

カメラに向かってやや左には小窓があり、こちらは距離計用の光学系(Range Finder)になります。

撮影レンズとファインダーは別々の光学系で構成されており「一眼」ではありません。

距離計の光学系も一つの光学系ですから、撮影レンズとファインダーと合わせて「三眼カメラ」と解釈することもできそうです。

 ※注:iPhoneのカメラみたいな表現ですが意味がまったく違います。

さらにもう少し詳しくレンジファインダーカメラのファインダーの内部構造を見てみましょう。

COSINAが出願している特許文献の特開2004-258296にはBESSAに搭載されていると思しきファインダー光学系の構成図が記載されています。

この文献の参考図を引用させていただき、レンジファインダーカメラの構造を簡単に紹介します。

では引用文献の【第1図】を見てみましょう。

第1図はカメラ全体の構成を説明するものです。

この図とBESSAの実機を並べてみましょう。

BESSAも数機種のバリエーションがありますから完全に一致はしないもののファインダー周りのレイアウトは一致することがわかります。

続いて【第2図】を見てみましょう。

この第2図は、レンジファインダーの内部を斜め上から見た構造図です。

カメラと並べて配置を確認してみましょう。

これは恐ろしく複雑ですね…1960年代にはこの基本構造ができていたのですから驚異的なアナログ技術です。

ただし、本質としてはそこまで難しい訳ではありませんので、理解のために補助線を付け説明します。

赤い線で示す光路は、構図を決める”ファインダー”の光学系です。

被写体側に凹レンズ、瞳側に凸レンズを配置した「逆ガリレオ式ファインダー」と言われるレンズ構成です。

このファインダーは、簡単に言えば人の目をより広角レンズにするワイドコンバーターのような光学系です。

写真レンズで普通に使われる焦点距離28mmや24mmのレンズでも”人の片目の画角”より広い範囲が写ります。

そのため、広角レンズと人の目を合わせるために広角化する効果を持つファインダーが必要となるのです。

青い線で示す光路は、ピント合わせのための”距離計”の光学系です。

距離計は光路の中間で一度結像するため、像の上下左右が反転してしまうので、向きを戻すためにプリズムを複数組み合わせており、とても複雑な構造に見えますね。

距離計の光路は、最終的にファインダー光学系の像と重なります。

2つの光路を重ねると下図のようになります。

緑の経路は撮影レンズの光路に相当します。

3つの経路があるので「三眼カメラ」とも言えるのかもしれません。

 ※そう表現する人はいませんが

では、ファインダー光学系と距離計光学系、2つの光路が最終的に重なり目に入るとどう見えるのでしょうか?

実際にファインダーを見ると、中央部に2つの像が重なったように見えます。

ファインダーを見ている様子をイメージ図にしてみました。

ファインダーの中央部には距離計の像が薄く写り込み、ピントがずれている場合は像が左右にずれた状態になります。

上のイメージ図で黄色く色付けている小さな領域が距離計の像が見える範囲のイメージです。

距離計の窓が小さいので像も小さいわけです。

ここで、撮影レンズのフォーカス操作部を回すと距離計光学系が連動して動き、距離計の薄い像の位置が画面左右に移動します。

そして「像のズレを合わせる」と「撮影レンズのピントが合う」そんな仕組みになっています。

言葉で表現するのは難しく感じるかもしれませんが、実際の操作はとても簡単でレンジファインダーカメラのピント合わせは一眼レフカメラよりも直感的で操作性の優れた方式です。

現代でも愛好家が多い理由がわかります。

しかし、いくつかの欠点もあります。

欠点1.ピント合わせはファインダーの中央部でしかできない

先ほどの図で示すようにファインダーの距離計の像が見えるのは中央部分のみなので、画面の周辺部でピント合わせを行うことができません。

欠点2.ファインダーの画角が変えられない

撮影レンズの交換に合わせてファインダーの画角を切り替えることができるカメラもありますが、あくまでもファインダー光学系は固定で枠が変わるだけの構造で、望遠レンズほどファインダー内の像(枠)が小さくなってしまいます。

欠点3.視差によるズレ

ファインダー光学系と撮影レンズの位置の違いによる、見える範囲の位置ズレを視差と言います。

レンジファインダーカメラは、ファインダー光学系と撮影レンズが異なる位置に配置されていますから、視差が発生し実際に写る範囲を正確に見ることができません。

特に望遠レンズほどズレが大きくなり、焦点距離135mmぐらいが限度となります。

なお、レンジファインダーカメラと言っても多種多様な方式がありますので今回紹介した物はほんの一例です。

続いて紹介するカメラも一眼レフカメラの前の時代の物です。

二眼レフカメラ

二眼レフカメラとはその名の通り、二つのレンズが縦に並んだ構造したカメラです。

まずは構造を簡単に紹介します。

下段のレンズは、フィルムに光を当てる撮影用レンズになります。

上段のレンズは、構図を決めるためのファインダー光学系です。

ファインダー光学系と撮影レンズはギアで連結されており、ファインダー光学系で映像を眺めながらピントが合うようにフォーカス操作を行うと撮影レンズもギアで連動して動作しピントを合わせることが可能になります。

二眼レフカメラのファインダーを見るには、カメラ上面から覗くよう見ます。

上から覗きこむと、上面に付いたピント板に写る像が見えてきます。

この像を見ながらピント合わせの操作を行い、最も良く見える位置に合わせると撮影レンズも連動してフィルムにもピントが合います。

それではこの二眼レフカメラの構造について、1950年に発売され低価格で市場に二眼レフブームを巻き起こしたRICOHFLEXIII(リコーフレックスIII)の情報を元に再現してみましょう。

RICOHFLEXIIIは、現在でもRICOHのホームページに情報が記載されています。

このHP情報によれば、レンズ構成は3群3枚、FnoはF3.5、焦点距離80mm、画面サイズ55x55mmとあります。

レンズ構成が3枚なら答えは簡単で、TRIPLET(トリプレット)構成でしょう。

なお、一般的な二眼レフのフィルムは中判(ブローニー版)で、35mmフィルム(現代のフルサイズ)のおよそ2倍ほどのサイズの撮像素子となります。

この中判用レンズの焦点距離80mmを、35mmフィルムサイズ用の焦点距離へ換算すると約50mmの画角に相当します。

 ※厳密には45mmほどですが、他の写真レンズと比較しやすいように50mmとします

まとめると「35mmフルサイズ換算で焦点距離50mm F3.5のTRIPLETレンズ」が装着されていたことがわかります。

こちらが仕様を元に類似データで再現したTRIPLET構成、F3.5のレンズの下側の撮影レンズの光路図になります。

3群3枚構成、凸レンズ、凹レンズ、凸レンズの略対称型の配置です。

こちらはTRIPLETの縦収差、左から球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフです。

TRIPLET構成は、とてもシンプルなわりにそこそこに高性能になる構成で、球面収差や歪曲収差を補正することができます。

ひとつ難点としては像面湾曲のサジタル方向とタンジェンシャル方向の差(アス)がだいぶ大きく残ります。

このアスは、オールドレンズでよく見られる画面周辺が渦を巻くようにボケて見えるいわゆるグルグルボケ(Petzvalボケ)の原因になります。

続いて、ファインダー光学系の構造を再現してみましょう。

カメラ上段のファインダーは、レンズの像側にミラー(反射鏡)があり、上面方向に光を折り曲げます。

このようにカメラ内で光を折り曲げる機構は昔からよく使われていますが面白い例では「写ルンです 望遠モデル」にも使われていました。

最後に撮影レンズとファインダー光学系を組み合わせて全体図を見てみましょう。

二眼レフカメラは非常に簡素ながらピント合わせと構図の決定を同時に行うことができる構造です。

国産二眼レフカメラの代名詞RICHOFLEXIIIは、構造の簡易さを上手く利用し、大量生産することで低価格を武器に市場を席捲したようです。

一方で、二眼レフカメラのの欠点としては

1.レンズ交換ができない

ファインダーごと交換となるため現実的ではありません。

2.視差によるズレ

この問題はレンジファインダーカメラと同じで、焦点距離が長くなるほどファインダーと撮影レンズのズレが大きくなる問題があります。

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一眼レフのしくみ

さて、ここまでに2種類のカメラの構造をご紹介しましたが、共通する課題は「見ている物と、写る像が違う」ことに尽きます。

レンジファインダーカメラや二眼レフカメラは、撮影用レンズとファインダー光学系が異なるため、視差(Parallax)のズレをゼロにすることができないのです。

この視差(Parallax)の問題に真っ向から改善に取り組んだのが「一眼レフカメラ」です。

前項で紹介した「二眼レフカメラ」は常に撮影レンズとファインダー光学系が分かれて備わっています。

二眼レフのようにレンズが二つ並んでいるのはよく考えると非効率ですね。これでは値段が倍です

 ※実はファインダー光学系の方が、Fnoが明るかったりと工夫があるそうですが。

ミラーによる切替

ここから一眼レフカメラの「レフ」(レフレック=ミラー)の登場です。

二眼レフのようにレンズを二つも準備せずに、ひとつのレンズだけで「ミラーで瞬間的に切り替えれば良い」と天才的な発想した技術者がいたのです…

 ※二眼レフを見て思いついたのかは知りませんが。

その様子を過去に当ブログで分析したNIKKOR 35mm F2.0Dの分析データで使って説明しましょう。

図の上段はNIKKOR 35mmの撮影状態を示しています。

下段はファインダーで構図を決める状態で、ミラーが回転し上面のファインダー側へ光を導きます。

撮影をするのはシャッターが稼働する数百分の1秒だけですから、撮影以外の時間はミラーを使って、撮影する像をそのまま見えるようにするのが一眼レフカメラの基本的な仕組みです。

ペンタプリズム

ただし、そのままミラーが折り曲げた像を見ると、35mm版(フルサイズ)の像は500円玉ほどと像が小さくピント合わせが困難です。

また、ミラーの影響で、像が左右反対に見えてしまうのも問題です。

この問題を克服するためにペンタプリズムを使って左右の像を整え、接眼レンズを付けて像を拡大する方式が導入されました。

こちらが一眼レフカメラのピント板とペンタプリズムそして接眼レンズまでの光路図になります。

撮影レンズと同じくNIKONの出願していた特許文献(特開昭64-81925)から引用させていただきました。

図の左側が撮影レンズの像が投影されている「ピント版」に相当し、中央の細長い長方形はペンタプリズム内の光路を示しています。

一番右には凹レンズ、凸レンズ、凹レンズの順で並んでいますが、これは接眼レンズ(Eyepiece lens)で虫眼鏡のように撮影レンズの像を拡大しつつ、人の目のピントを適切に補助しています。

この形態では少し馴染みが無いと思いますので、反射光学系としてレンズモデルを作成し、ペンタプリズム構造を再現してみました。

シミュレーションソフトの仕様から、最初の光線は図の右に向かって飛び始めるので、実際の使用形態とは角度が90度ずれています。

一眼レフカメラ完成形

この図を90度回転し、撮影レンズと組み合わせることで、一眼レフカメラの光学的な構造を完全に再現してみましょう。

この図がファインダーで構図を決める状態における、撮影レンズからペンタプリズムそして接眼レンズまでの全光路です。

このように完全な光路の形を再現することはメーカー内でも無いでしょうから世界初公開ではないでしょうか。

撮影レンズは、ミラーにより上面の「ピント版(Focusing Screen)」へ像を結び、ファインダー光学系は「ピント版」から出た光を巧みに折り曲げ接眼レンズ側へ導きます。

ここで撮影レンズとファインダー光学系がひとつなぎの光路となり「一眼」が完成しました。

だいぶカメラとしての形が見えてきたのではないでしょうか?

さらに補助線を付けるとカメラの構造が完全に見えてきます。

一眼レフカメラの簡単な歴史

一眼レフカメラが完成したおかげで、正確な構図の決定とピント合わせをひとつの光学系で実現しながら、さらにレンズ交換も可能とすることができるようになりました。

その後、一眼レフカメラは、露出やフォーカスの自動化、撮像システムのデジタル化など大きな変革を遂げ、約50年に渡りハイエンドカメラとして君臨してきましたが、2010年代の終わりにはミラーレスシステムに王座を明け渡すことになりました。

しかし、一眼レフカメラのファインダーは、光学像であるためクリアで自然な映像を見ながら構図を決めることができる、まだ捨てがたいシステムです。

ただし、ご安心くださいPENTAXだけは「一眼レフカメラ宣言」を行い一眼レフの存続を表明しています。

最後に長い一眼レフカメラの歴史の中で、代表的な出来事を極簡単にまとめましたのでこれを見て終わりましょう。

  • 1948年 ペンタプリズム式一眼レフカメラ「コンタックスS」発売
  • 1957年 世界初クイックリターンミラーとペンタプリズム両搭載「アサヒペンタックス」発売
  • 1959年 「ニコンF」発売
  • 1960年 世界初のTTL露出計搭載一眼レフ「アサヒペンタックスSP」発表
  • 1969年 中判一眼レフカメラ「アサヒペンタックス 6×7」発売
  • 1979年 世界初の110フィルム対応レンズ交換式一眼レフ「アサヒペンタックス auto110」発売
  • 1985年 本格的オートフォーカスシステム一眼レフ「ミノルタα7000」発売
  • 1999年 APS-Cサイズ撮像素子「ニコンD1」発売
  • 2007年 フルサイズ撮像素子「ニコンD3」発売
  • 2014年 「ニコンDf」カメラグランプリ大賞受賞
  • 2016年 Kマウント機初の「ペンタックスK-1」発売

 ※私的に重要な出来事です。


なお、ミラーレス一眼カメラについて別の記事を用意しておりますのでこちらをご覧ください。

 関連記事:ミラーレス一眼カメラのしくみ

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