レンズに関する雑学的情報、第2回目のテーマは現代レンズの基礎とも言える「ダブルガウスレンズ」の発見の話(想像)と設計例と供に開設します。
テーマ
少しレンズに詳しくなると必ず出てくるのが「ガウスレンズ」とか「ダブルガウス」などのガウスと言う謎の単語です。
私自身も日夜連呼しますから、「一体何を言ってるんだ?」と思われる前に解説しておくべきだろうと思い、以下にまとめます。
前置き
「ダブルガウスレンズ」とは、有名な数学者ガウスにちなんで命名されたレンズの基本構成(凸レンズや凹レンズの並び順)を指すものです。
一眼レフカメラの標準レンズにマッチすることから近代レンズの基本形として扱われています。フィルム一眼レフカメラの焦点距離50mmレンズのほぼ全てが、このダブルガウスと思って良いぐらい多数採用されています。
また、近年のレンズもガウス改良型と見えるレンズが続々と発売されています。
元は望遠鏡レンズ
まず初めに望遠鏡用のレンズとして、被写体側から凸レンズ→凹レンズが並ぶ構成の「ガウス対物」と呼ばれるレンズがありました。これは大数学者ガウスが実際に発案したとされています。

以下はガウス対物の想像図です。
ちなみにガウスと言えば私の世代なら「昔はピップエレキバンの強さの単位であった」と言えば理解しやすいでしょう。
※現在のピップエレキバンの強さの単位はテスラです
ダブルガウスレンズの大発見
このガウス対物をもう1つ絞りを中心にひっくり返してくっつけてみたら
「なんと写真用レンズにピッタリではないかッ!」
そんな大発見をヨーロッパあたりの誰かがしたらしいのです。
以下は、ダブルガウス大発見の想像図です。

大変残念ですが、この発見者のお名前は存じ上げません。
私が思うに発見者は、「レンズを生産してた職人さん」か「ものすごいお金持ちの人」このどちらかと想像してます。ガウス対物は、当時の最先端テクノロジーですからよほどの金持ちか生産者じゃないと2個持ってないと思います。
話を戻すと、ガウスは直接写真用レンズの制作には関わっていないそうですが、ガウス対物が2つなので「ダブルガウス」との名称がつきました。
上のダブルガウス発見の想像図は、適当に入力した曲率、肉厚、屈折率ですが、光路図を見るとそれなりに結像することがわかります。
こんな簡単な構造ですが、それなりに光を結ぶので偶然発見されるわけですね。
なお、光学系の呼び方に絞り前後を対称に配置する「対称型配置」と言われる構造がありますがダブルガウスがまさにその1つです。対称型配置については、説明が長くなるのでまた別の記事にします。
ダブルガウスの表記は、面倒なので「ガウス、ガウス」と呼び捨てにしているわけですが、光学設計で飯を食べている私の様な人種は「ガウス大先生のレンズ」とか呼ばないと地獄に落ちるかもしれませんね…
以上がダブルガウス発見までの経緯ですが、個人の妄想や思い込みが込められておりますので史実かどうかは定かではありません。試験に出てこの内容をコピペし不合格とされても私は責任が取れません。
ここからは設計例を交えてガウスレンズの発展を解説します。
なお、性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンクを参照ください。
初期ガウスレンズの発展
ガウスレンズの製品として記録に残る最古の情報としては、1888年の特許文献があるそうです。その文献によるとBausch&Lomb社のClark氏が設計しています。
以下のような設計値と推測されています
50mm F3.5 Clark想像図
断面図

縦収差
球面収差、像面湾曲、歪曲収差

横収差

球面収差や像面湾曲は大きいのですが、対称型の特徴で倍率色収差や歪曲収差は極めて小さくなっています。Fno3.5としては球面収差は大きいですが、サービス版で印刷して見るなら十分な画質が得られます。現代でも「味がある」としてむしろ好む方も多いでしょう。
そこから改良は進み1920年ごろになると、前後に凸レンズを追加した6枚構成の完全対称型で一旦落ち着きます。
50mm F3.5 4群6枚構成
断面図

縦収差
球面収差、像面湾曲、歪曲収差

横収差

球面収差がだいぶ減少したことで現代でも通じる十分な収差補正となります。
ただし、ガウスはこの頃主流のライカに代表されるレンジファインダーカメラには向かなかったので少し停滞します。
しかし、一眼レフカメラの時代になると、少ないレンズ枚数で性能も良く、バックフォーカスが長くちょうど一眼レフカメラのミラーのスペースが確保できるとあって戦後あたりから見直されさらなる大口径化が行われていきます。
50mm F2.0 4群6枚構成
断面図

縦収差
球面収差、像面湾曲、歪曲収差

横収差

F2.0と大口径化しているため収差は増大し、Clarkの4枚構成程度の量です。それなりに写るとは言え、決してシャープな写りとは言えません。Fnoを絞れば改善しますが、これ以上の超大口径化はこのままでは少々厳しいとわかります。
しかし、ご存じのように現代のガウスレンズはFno0.95などの超大口径レンズも存在しますのでさらなる発展の歴史がありますが、ここで「黎明期編」の記事は終わります。
続きは「近代編」として後日また別の記事にまとめたいと思います。