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【図でやさしくわかる】 MTFとは

当記事は、レンズの重要な性能指標のひとつ「MTF」に関する説明記事です。

当ブログは、これまでもレンズの性能指標である「収差」について、その意味や定義についてこの世で最もやさしくわかる記事を制作してきました。

収差とMTF

カメラのレンズは、「被写体」から放たれる光を正確に撮像面(フィルム/COMS)へ「集光」させることを目的としています。

しかし、正確に集光させることは難しく、どうしてもズレるそのわずかな量が「収差」です。

収差は、レンズの性能をごく断片的に数値にしたもので、大小の比較はしやすいのですが、収差図だけを見ても実写としてどれだけ影響があるのかイメージするのは難しいものです。

そこで、レンズ性能をより良く知るために収差と供に使われる代表的な評価方法が「MTF」です。

当ブログのレンズ評価記事でも、収差とMTFを合わせて掲載し、レンズの性能をよりわかりやすくしています。

合わせて、各メーカーが開示しているMTF図の見方や、空間周波数、サジタル、タンジェンシャル(メリディオナル)などの関連用語も解説します。

MTFとは?

MTF(Modulation Transfer Function)とは、直訳すれば「変調伝達関数」になるでしょうか、日本語で名称を表した時点で、一般の方にはすでにもう意味不明ですね。

MTFは、各メーカーのホームページやカタログにも記載され、一般公開されていますが、いまいち見方のわからない謎の評価値ではないでしょうか?

一方で、当ブログでは「収差」でレンズの良し悪しを語っていますが、「収差」はいくつもの指標に分かれており「結局、良いのか悪いのかよくわからん」と思われる方も多いでしょう。

そのため、収差と供にスポットダイアグラムやMTFと言ったシミュレーション結果を併記することで、よりわかりやすい分析記事にしています。

ひとことでMTFの意味を説明

一部の専門家でなければMTFの細かい計算定義を覚えることに意味はありませんから極簡単にひとことで意味を説明します。

MTFとは、各収差をひっくるめて「このレンズの性能は100点満点中の何点か?」を表現する指標です。

実際のMTFの数値は「0.00~1.00」又は「0%~100%」のような形式で表現されます。

完璧な性能のレンズで、各収差の全てがゼロならば、MTFの値は100%(又は1.00)になります。

あまりにも性能が低いレンズならば、MTFの値は0%となるわけです。

もう少しだけ詳しくMTFを説明

どのように計算しているのかもう少し詳しく知りたい方向けにMTFの導出までの道のりを一文で説明してみたいと思います。

「波面収差から点像強度分布を算出し、これをフーリエ変換した解の実部がMTFであり、所定の空間周波数の値を像高ごとにプロットしています。」

と、表現すればよろしいでしょうか…

意味不明もいいところですね。

メーカー公表MTF図

各メーカーのホームページやカタログにはレンズごとにMTF特性図が公開されています。

まずは、各メーカーMTF図の見方から解説します。

一般的には下図のような「MTF像高特性図」が掲載されています。

今回は、NIKON Nikkor 35mm f/2.0の仕様ページに記載された図をお借りました。

パッと見てもさっぱりわかりませんよね。

続いて、グラフの各部に補助線などを書きこみました。

グラフの縦軸が解像性能の指標であるMTF値で、要は上にあれば性能が高い事を示しています。

横方向は、画面内の位置(像高)に相当します。

簡単に言えば、グラフの位置が高く、水平に真横へ延びるような直線状であれば、画面の隅まで性能が良い、となります。

実際には「画面中心部は高いが、周辺部へ行くに従い低下する」右肩下がりなグラフになっています。.

その他の要素として

赤線の特性は、空間周波数10本/mmに対するMTF値です。

青線の特性は、空間周波数30本/mmに対するMTF値です。

実線はサジタル方向、破線はタンジェンシャル方向の特性です。

もう少し、各用語を説明します。

像高

像高とは画面内の位置で、MTFの像高特性図では中心(0mm)から画面の隅(最大21mm)までの特性を示しています。

上図は、当ブログのレンズ分析で登場するレンズ光路図とMTF像高特性図の位置関係を図示しました。

MTF像高特性図の横軸が画面の位置に相当することがおわかりいただけたでしょうか。

空間周波数

メーカーのホームページのMTF図は、フルサイズ用のレンズの場合、空間周波数10本/mmと30本/mmに対するMTF値が記載されている場合が多いです。

まずは空間周波数の意味から解説します。

空間周波数とは「被写体(画像)の細かさ」を示すものです。

下の模式図は、空間周波数10本/mmと30本/mmに相当する細かさの白黒の線をフルサイズカメラで撮影した場合に相当します。

上図は空間周波数10本/mmと30本/mmを模式的に表記したものです。

模式図と書いてありますが、白黒の線部分はおおむね正しい比率で描画してあります。

図の白黒の線は空間周波数10本/mmと30本/mmに相当するサイズで描画しています。

空間周波数10本/mmとは撮像素子上で「1mmの幅内に白黒の線が10組ある」に相当する細かさで、荒い被写体(低周波)とも言えます。

空間周波数30本/mmとは撮像素子上で「1mmの幅内に白黒の線が30組ある」に相当する細かさで、細かい被写体(高周波)とも言えます。

空間周波数10本/mm(低周波)の特性が良いと、一般的には「コントラストが高い」と言葉で表現されるようです。

空間周波数30本/mm(高周波)の特性が良いと、一般的には「解像度が高い」と言葉で表現されるようです。

どちらを優先し設計するのか、このようなところにメーカーごとの特徴が表れるわけですが、レンズの用途でも考え方が変わってくるでしょう。

例えば、ポートレートに多用される中望遠レンズならば高解像よりもコントラスト重視の方がモデルさんには好まれるかもしれません。

あるいは、マクロレンズなら学術研究方面での用途を重視し、少しでも高解像に設計した方が良いかもしれませんね。

サジタル方向、タンジェンシャル方向

サジタル、タンジェンシャル(メリディオナル)とは、性能を見る方向であり先ほどの白黒の線で表現すると、放射方向か回転方向かを示すものです。

空間周波数の説明と同じく、白黒の線をフルサイズカメラで撮影した場合の模式図です。

MTFのサジタル方向とは、図の赤矢印方向の事で、レンズの中心軸に対して回転方向へ像がボケる様子を数値にしています。

MTFのタンジェンシャル(メリディオナル)方向とは、図の青矢印方向の事で、レンズの中心軸から放射方向へ像がボケる様子を数値にしています。

この図では描画の関係上、白黒線や矢印が3セットしかありませんが、実際にはたくさん並べて計算しています。(に等しい処理をしている)

一般的にはサジタル方向のMTFが高く、タンジェンシャル方向のMTFは画面隅へ行くに従い低下するレンズが多いです。

各社の公開しているMTFは定義が異なる

ここで注意事項です。

各メーカーはMTF図を公開していますが、MTFを計算する時に必要ないくつかのパラメータが公開されておらず、各社同じ設定で計算していないためメーカー間のMTF特性の比較をすることができません。

当ブログでは、計算設定を統一しかつ公開していますから比較することが可能となっています。

MTFディフォーカス図

次に当ブログのレンズ分析記事に掲載しているMTFディフォーカス図について解説します。

 ※スルーフォーカスと称するソフトもある。

MTF像高特性図は、性能の一覧性が良いのですが、ひとつ問題があります。

どうしてMTF性能が低くなってしまうのか、MTF低下の原因がグラフを見てもわからないのです。

そのため当ブログではMTFディフォーカス図を掲載することで、どうして性能が低下してしまうのかその原因まで分析しています。

MTFディフォーカス図の例

まずは当ブログのレンズ分析記事に掲載する「MTFディフォーカス図」の一例をご覧ください。

山の形をした5色の線のグラフが記載されています。

グラフの縦軸は「MTF値」です。横軸は「ディフォーカス位置」となります。

各色の山は画面内の位置(像高)が異なることを示し、5色で分けています。

実線はサジタル方向、破線はタンジェンシャル方向の特性です。

空間周波数は20本/mmの特性のみ掲載しています。

このグラフの成り立ちを解説します。

ディフォーカスとは

まずは簡単のため一つだけに限定したMTFの山を使って説明します

このMTFディフォーカス図はNikkor 35mm F2.0Dの中心の性能だけを表示したものです。

ディフォーカス位置とは「ピント位置」と同じ意味です。

模式図を使って説明します。

上図はグラフの横軸である「ディフォーカス位置」と光路図との関係を示したものです。

MTFディフォーカス特性図とは、少しづつピントをずらしながらMTF値を算出しグラフへプロットしたものになります。

光路図で光線が最も小さく集まる焦点の位置が最適ディフォーカス位置(ピント位置)であるため結像性能が高く、よってMTF値も高くなるわけです。

ディフォーカス位置(ピント)がずれると焦点が広がりぼやけているわけですからMTF値は低下してゆきます。

像高重ね合わせ

先ほどの図は画面中心だけのMTF特性でしたが、同様の計算を画面内の位置(像高)を変えながら計算し、重ねて表示するといつものディフォーカス特性図が完成します。

各像高のグラフを重ねた時、見やすいように各像高ごとに色を変えています。

ディフォーカス特性図は、各像高の山の頂点位置のズレが見えるため、MTF低下がディフォーカスのズレ(ピントのズレ)によるものか、球面収差やコマ収差などによる山の低下によるものか、原因を判別することが可能です。

そのため、MTFディフォーカス特性図により、さらに深く性能分析することが可能となるのです。

サジタル方向、タンジェンシャル方向

各像高のMTFグラフには2本づつ描画されています。

これは像高特性図と同じく、サジタル方向とタンジェンシャル方向の特性を合わせて描画しているためです。

少々見づらく申し訳ございませんが、拡大すると「S」「T]とプロットされています。

それぞれ、「S:サジタル方向の特性」「T:タンジェンシャル方向の特性」を示しています。

空間周波数

MTFディフォーカス図では空間周波数は1つしか描画できません。たくさんあると見づらくなるためです。

当ブログでは、フルサイズカメラ用のレンズの分析では空間周波数を20本/mmに固定しています。

メーカーが開示するMTF像高特性図は、10本/mmと30本/mmの2種類を描画することが多く、これを1種で表すために中間の値20本/mmとしています。

近年の超高性能レンズは、性能が高すぎるが故により細かな線である空間周波数40本/mmでシミュレーションした方がわかりやすいかもしれませんね。

まとめ

当記事では収差と供にレンズの性能指標として重要視されるMTFの解説を行いました。

まず、メーカーが開示する「MTF像高特性図」の見方と供に空間周波数や像高、サジタル方向、タンジェンシャル方向などの関連用語も含めて解説しました。

また、当ブログのレンズ分析記事で掲載している「MTFディフォーカス特性図」も解説しました。

最後にMTFディフォーカス図の見方を1枚の図にまとめました。

簡単に言えば、MTFは光学性能を点数化したものですから、わかりやすく大変便利に感じる指標です。

しかし、ひとつの点数になってしまうと、例えば「球面収差で性能が低下するのか?」「色収差の影響で低下しているのか?」本質の部分がわからなくなります。

そのため、各種収差と供に見ることが重要なんですね。

その他、収差に関する記事をお探しの方は以下のリンクをご確認ください。

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 関連記事:光学設計者がおススメする「光学の入門書」

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