雑学012 像面湾曲とは

レンズの性能指標である収差を概念的に説明するシリーズ記事です。

収差の中でも本項では「像面湾曲」について図やシミュレーションを使い簡単でわかりやすく紹介します。

これに関連する「非点隔差」「サジタル方向」「タンジェンシャル方向」の用語の解説も行います。

なお、他の収差に関する解説記事をお探しの場合は、以下をご参照ください

収差と像面湾曲

まず、収差とは理想的な結像関係とのズレを示す指標です。

カメラのレンズは、「被写体」から放たれる光を正確に撮像面(フィルムやCMOS)へ「集光」させることを目的としています。

しかし、正確に集光させることは難しく、どうしてもズレるそのわずかな量を「収差」と呼びます。

この収差は、特徴ごとに分類されそれぞれに名称が付けられています。

初回の記事では球面収差について紹介しましたが、今回は「像面湾曲」についての解説になります。

過去に説明した球面収差軸上色収差は、写真の中心の性能を表す収差でしたが、像面湾曲は写真の周辺部分の収差となります。

さらに詳しく像面湾曲は「サジタル方向」と「タンジェンシャル方向」に分けて表現され、そのふたつの差は「非点隔差」と呼ばれます。

本項では、できるだけ簡単な概念として理解できるように「像面湾曲」と供に関係の深い「非点隔差」 「サジタル方向」「タンジェンシャル方向」 について解説したいと思います。

まずは想像してみましょう

真っ暗な空に、いくかの星があり「写真を撮ろう」とした、とします。

星は3個あり、画面の中心、周辺、隅にありました。説明の便宜上、星に名前を付けておきます。

さて3つの星を撮影してみましょう。まずは”中心の星”にピントを合わせて撮影してみます。

撮影結果を見てみますと、星という物は、数億光年の距離が離れているので、本来は極めて小さい点に写るはずですが、”中心の星”は小さな点に写ったものの、“周辺の星”や”隅の星”は少しぼやけています

では、次に”周辺の星”にピントを合わせて撮影してみました。

今度は、”周辺の星”は小さな点に写ったものの“中心の星”や”隅の星”がぼやけてしまいました

この結果から推測される現象は、中心/周辺/隅でピントの合う場所がずれている、と言う事です。

言い換えると、この現象は、光のピントの合う面(像面)が平らでない(湾曲している)関係性であることから「像面湾曲」と名付けられています。

まずは1枚のレンズで考える

本ブログでのレンズ分析記事で毎度登場する光路図において、像面湾曲がどのように見えるのかシミュレーションを使って説明します。

先ほど例に挙げた、「遥か彼方の星を写す」様子は、光路図としては下図のように表現されます。

上図は、たった1枚の球面レンズで構成された50mm F1.4仕様のレンズです。

100円ショップで売られているような安価な虫メガネをカメラ用のレンズとして使う様子を想像してください。

本来の星までの距離とは、数億光年の遥か彼方ですが、図に書くのが不可能なので、だいぶ近くにしておりますのでご注意ください。

まず、レンズを通過する光の様子を観察してみましょう。

図の左側が星側で、星から放たれる光はレンズ通過し、右側の撮像素子(CMOSやフィルム)へ集光されます。

たった一枚のレンズなので、各種収差が大きく、見づらいですが、”中心の星”の結像する位置と”周辺の星”が結像する位置には大きなズレがあります。

像面湾曲の概念図

全体図では少し見づらいのでレンズ~撮像素子までの範囲を拡大し、その光路図に補助線を記入し像面湾曲の概念図を作成しました。

たった1枚のレンズなので球面収差が大きく、見づらいですが、結像点(ピント位置)あたりを朱色の線で繋ぎました。

中心のピントの合うポイントと、周辺のピントの合うポイントのズレを結びグラフ化しています。

このカーブ形状が、像面湾曲の収差図に相当します。

収差図で表現

さて、いつもの分析記事でご紹介する収差図で表現してみましょう。

いつものグラフに日本語で注釈を入れておきました。

縦収差図における中央のグラフが像面湾曲になります。

なお、通常のレンズ分析記事における収差図の横軸スケールは±0.5mmですが、今回の1枚レンズは収差量があまりにも大きく横軸スケールを±10mmとしています。通常の20倍となっていますのでご注意ください。

また、グラフには2種の線種が表示されていますが、破線がタンジェンシャル方向、実線がサジタル方向の特性になります。

線の色は球面収差図での軸上色収差と同じく、光の波長(光の色)を示しております。波長に関する基礎的な説明は軸上色収差の記事をご覧ください。

関連記事:軸上色収差とは

非点隔差とは

像面湾曲グラフの説明において、さも当然のように「サジタル方向」「タンジェンシャル方向」と説明しましたが、こちらを補足します。

「サジタル方向」「タンジェンシャル方向」とは光線を「縦に見るか」「横に見るか」「斜めに見るか」と言う方向の話です。

まずは改めていつもの光路図をご覧ください。

こちらの光路図は、先ほどの「星を撮影する」話で出てきた”周辺の星”だけの光路図です。いつもの光路図とはレンズを横から見た様子を示しています。

現実のレンズは立体物ですから、この図で言う奥行方向の世界も存在します。

立体的に見る光路図

わかりやすく、立体的な3次元モデルで光路を表示してみます。

これは1枚のレンズなので収差が大きくわかりづらい点もありますが、先ほどの”周辺の星”の光路を3次元描画しております。

手前側が被写体側でレンズの表面側に相当し、奥側が撮像素子側となります。

3次元描画も見た目には面白いですが、光線の様子としては見づらいので、普段の分析記事では横方向の断面のみを記載しています。

サジタル方向とタンジェンシャル方向の方向図

この時、放射方向の光線のみを見るのがタンジェンシャル方向、回転方向がサジタル方向になります。

図で表現するとこのようになります。レンズを前から見たときに画面の放射方向の光線がタンジェンシャル方向です。

レンズの中心軸と光線の当たる像高を繋いだ方向がタンジェンシャル方向になります。

“周辺の星”の位置に対しては上図に記載した矢印の方向です。

タンジェンシャル方向の光線と直行する方向の光線がサジタル方向です。

サジタル方向とタンジェンシャル方向がなんとなくわかった所で、実際の光路図で確認してみましょう。

立体光路図で見るタンジェンシャル方向

3D表示で、タンジェンシャル方向の光線だけ描画すると下図のようになります。

上図はタンジェンシャル方向のみの光路です。

真上方向の像高への光線を描写している場合は、真横から見るといつもの光路図と同じになります。

立体光路図で見るサジタル方向

次に3D表示で、サジタル方向の光線だけ描画すると下図のようになります。

この光線を真上から見ると下図のようになります。

サジタル方向の光線とタンジェンシャル方向の光線の様子をご理解いただけたでしょうか?

より詳しく光線の様子を見ると、タンジェンシャル方向とサジタル方向では光線の集まる位置(ピント位置)が異なります。

このタンジェンシャル方向とサジタル方向のピント位置の差が「非点隔差(ASTIGMATIC)」と言われます。

非点収差と書く場合もありますね。

非点隔差が大きいとタンジェンシャル方向とサジタル方向の最でピントの合う位置が一致しません。

すると本来点に写るものが楕円のような形になります。

像面湾曲を補正する

先ほどまでは1枚のレンズでの説明でしたが、現実的にはこんなにFno明るいレンズならばたくさんの枚数で構成されています。

ここでは改めて球面収差の補正されたレンズの特性を見てみましょう。

先ほどはたった1枚で構成された50mm F1.4レンズの収差を紹介しました。

同じ球面収差のグラフスケールでダブルガウスタイプの7枚構成レンズの球面収差がどうなるか下図に示します。

光路図

縦収差

球面収差、像面湾曲、歪曲収差

最初の1枚構成レンズの横軸スケールに合わせ、通常の20倍サイズでグラフを作っています。

球面収差図を見ると略直線で表示する必要性があったのか疑問もありますが、このレンズは最も安価なクラスの製品ですが、人類の英知の結晶たるダブルガウスタイプレンズ特性を見事に活用し、極めて少数のレンズで収差補正が成されている凄みがご理解いただけるのではないでしょうか?

いつものグラフスケールでご覧になりたい方は元の記事をご確認ください。

関連記事:分析NIKON NIKKOR 50mm f1.4D

まとめ

わずか一言で説明すれば「像面湾曲とは画面周辺部のピントのズレ」です。

きっと像面湾曲をご理解いただけた事で本ブログが20倍楽しめるようになったと思います。

なお、他の収差に関する解説記事をお探しの場合は、以下をご参照ください