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【深層解説】 ニコン標準ズーム NIKON NIKKOR Z 24-120mm F4.0 S -分析109

ニコンのミラーレス専用Zマウントレンズシリーズよりニッコール Z 24-120mm F4.0 Sの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

NIKKOR Z 24-120mm F4.0 Sは、NIKONのミラーレス一眼カメラ用の交換レンズZマウントシリーズの1本で、一般的な標準ズーム(約3倍)よりも高いズーム倍率(5倍)を誇りながら、Fnoもズーム全域でF4と明るい、いわゆる万能ズームと言えるレンズです。

まずは、NIKONのズームレンズから代表的な類似仕様の製品についてその系譜を見てみましょう。

  • Ai Zoom Nikkor 35-105mm F3.5-4.5S(1983)12群16枚
  • Ai AF Zoom Nikkor 24-120mm F3.5-5.6D(1996)11群15枚
  • AF-S NIKKOR 24-120mm F4G ED VR(2010)13群17枚
  • NIKKOR Z 24-120mm F4 S(2022)13群16枚当記事

前回の記事、AF-S NIKKOR 24-120mm F4でもご紹介しておりますが、Fマウントのズームレンズは1960年代から始まりおよそ50年の期間を経て2010年に24-120mm F4の高仕様レンズへ到達しました。

その後、2018年からニコンの主力製品もミラーレス化の方針へ転換し、Zマウントシステムとして新生されたレンズ群を発売します。

小径なFマウントの呪縛から解き放たれたZマウントシステムのレンズは、いずれも従来レンズに比較すると極めて高い性能を実現していました。

そのため、もしかすると24-120mmのような高仕様製品は「性能向上が難しく発売されないのではないか?」と少々危惧しておりましたが、ついに2022年に発売となりました。

また、本レンズのような万能ズームとも言える仕様の製品は、利便性は高いものの描写性能について期待値が低いと思い込んでしまいますが、本レンズは発売直後から性能の面でも絶賛されているそうです。

さて、その進化を詳しく分析してみましょう。

私的回顧録

『どちらが困難か』

例えば、50mm F1.2のような超大口径単焦点レンズは、レンズシステムの中でも花形であることは誰もが認めるところでしょう。

そのような花形のレンズですから当然ですが最新の技術を惜しみなく投入し、極めて高い加工精度で製造されているとわかります。

 関連記事:NIKON NIKKOR Z 50mm F1.2S

開発にも多大な苦労を要していることでしょうが、世間では絶賛されているわけですから担当者は心報われていることでしょう。

一方で、本記事のレンズのような便利ズームかと万能ズームと言われるような製品は、どうしてもサイズや重量と言った利便性と価格の制約が重く性能についてはどうしても控えめにせざる得ない、このような運命にあります。

また、安価であるがゆえに大量に販売されることもあり、多くのユーザーに厳しく評価されることになります。

ユーザーの声というのは、満足していれば聞こえることが少ないのですが、不満ほどきつく書き叩かれるものです。

そうすると、安価な製品ほど市場における評価は少々辛口に書かれることが多いというのが事実です。

世間一般では高価な花形レンズほど開発が難しいものと思いがちですが、実は安価な製品ほどむしろ困難でしかも世間の厳しい目に晒される叩かれるわけですから担当者が心報われることも少ない製品であることが多いのです。

よって一概に「どちらが困難か」に答えるのは難しいのですが、本記事のような安価な万能ズームほどその進化の過程も正しく評価し、賛辞を贈りたいものですね。

文献調査

Zマウントシステムの開始からこの24-120mmがどのような仕上がりとなるのか興味を持っていたのですが、Zマウント発足から4年ほど経過した2022年1月についに製品は販売されました。

一方で、関連する特許文献がなかなか公開されずやきもきとしていたのですが、およそ1年ほどが経過した2022年の12月に公開となったWO2022/259649に製品に酷似するデータが記載されておりました。

では、この実施例5を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON NIKKOR Z 24-120mm F4.0 Sの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は13群16枚、第3/7/14レンズは球面収差や像面湾曲に効果的な非球面レンズ(aspherical)であり、第6/9/11レンズへ色収差の補正に好適なEDガラスを採用、さらに第15レンズには双方の特徴を兼ね備えたED非球面レンズ(EDaspherical)なる超特殊素子を採用しているようです。

ED非球面レンズはおそらく非常に高価な素子と推測されますが、これを安価な万能ズームに搭載するには大変な苦労があったのではないでしょうか?

続いてズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは7ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると被写体側へ飛び出す方式です。

第1ユニット全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、これを凸(正)群先行型と表現します。

この凸(正)群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。

高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸(正)群先行型と見て間違いありません。

凸レンズ群が被写体側にある構成をテレフォトタイプ(望遠型)とも言い、凸レンズ群の収斂作用で大きくなりがちな望遠レンズを小型にする効果を発揮します。

第5/第6ユニットは、ピントを合わせるためのフォーカシングユニットともなっており、ズームとは別にそれぞれが前後に稼働できる構造です。

このようにフォーカシング時に複数のレンズ群を独立して制御/動作させる方式をNIKONでは「マルチフォーカス方式」と呼んでおり、近年はズームレンズでも搭載されるようになっています。

 関連記事:NIKON NIKKOR Z 24-70mm F2.8 S

このような複雑なフォーカス構成を安価な万能ズームに搭載することができるのも、大口径なZマウントによる設計自由度向上の賜物なのでしょう。

最も撮像素子側の第7ユニットは、一眼レフカメラからミラーレス化した恩恵とも言えるもので、大口径でありながら撮像素子にかなり近い位置に配置されており小型化と高性能化に寄与しているようです。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、広角端側というのは球面収差が出ずらいものなので綺麗に収まっているのですが、驚異的なのは望遠端側も極めて小さく補正されています。

ハイエンドな単焦点レンズクラスと言えるでしょうか。

軸上色収差も、増大しやすい望遠端側でも見事なまでに補正されています。

像面湾曲

像面湾曲は、Fマウント時代の24-120mmとは別物と言ったレベルで、若干の変動はありますが、Fno4と控えめな仕様ゆえに問題となるレベルではなさそうです。

歪曲収差

歪曲収差は、広角端も望遠端も画面周辺では5%を超える大きさですが、これは画像処理により補正を前提とした設計がなされているためと推測されます。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm

倍率色収差は、Fマウント時代の24-120mmよりは低減しているものの、現代的なレンズと比較すると少々大き目です。

これも画像処理による補正を前提としているものと推測されます。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

広角端においては左列タンジェンシャル方向、右列サジタル方向供に申し分ない補正施されています。

倍率色収差の影響で、画面周辺の像高18mmを越えると色ごとに線が分かれているのがよくわかります。

望遠端においては画面周辺の像高18mmを越えると右列サジタル方向でサジタルコマフレアが少々残りますが、Fマウント時代の24-120mmレンズと比較すれば半減しているようです。

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

こちらの標準スケールで見ると、画面の中央側のスポットサイズは極小で、画面周辺側でも十分に小さくまとめているようです。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

こちらの拡大スケールで見ますと倍率色収差の影響で色ごとにスポットがずれていることが確認できますが、画像処理により補正されてしまうので写真として視認することは難しいでしょう。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm

開放絞りF4.0

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフから見ると、広角端も望遠端も理想値(天井)に届かんばかりの性能の高さです。

広角端は、周辺部まで極めて高い山を維持しています。

望遠端では周辺向かい低下しているものの、山の位置はそろっているため、写真としては違和感の少ないまとめ方になっているようです。

小絞りF8.0

FnoをF8まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

画面周辺まで十分な高さに達していますね。

総評

NIKON NIKKOR Z 24-120mm F4.0 Sは、ミラーレス化を生かした効率的な収差補正構造、超特殊素子ED非球面の導入、マルチフォーカス機構と惜しみない新技術の投入によって、Fマウント時代の鬱憤を晴らすかのごとく高い性能を見せつけているようです。

Zマウントの世界になり、24-120mmレンズは「真の万能レンズ」と呼ばれる資格を得た、と言えるのではないでしょうか?

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

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製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON NIKKOR Z 24-120mm F4.0 S

画角84-20.2度
レンズ構成13群16枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.35m
フィルタ径77mm
全長mm
最大径84mm
重量630g
発売日2022年1月28日

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