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【図でやさしくわかる】倍率色収差とは

レンズの性能指標である収差を概念的に説明するシリーズ記事です。

収差のなかでも本項では「倍率色収差」について図やシミュレーションを使い簡単でわかりやすく紹介します。

なお、他の収差に関する解説記事をお探しの場合は、以下をご参照ください。

収差と軸上色収差

まず、収差とは理想的な結像関係とのズレを示す指標です。

カメラのレンズは、「被写体」から放たれる光を正確に「撮像面(フィルムやCMOS)」へ「集光」させることを目的としています。

しかし、正確に集光させることは難しく、どうしてもズレるそのわずかな量を「収差」と呼びます。

この収差は、特徴ごとに分類されそれぞれに名称が付けられています。

過去の記事では球面収差軸上色収差歪曲収差などについて紹介しましたが、今回は「倍率色収差」についての解説になります。

色収差とは、写真を拡大すると見えてくる「色のにじみの事だ」と体感的にご存じの方も多いのではないでしょうか。

さらに詳しく色収差は「軸上色収差」と「倍率色収差」に分けて表現されます。

過去の記事では軸上色収差について解説いたしました。

関連記事:軸上色収差

この軸上色収差の記事は「色を感じる概念」から説明した世界一やさしい軸上色収差の解説記事となっておりますので、最初にこちらからお読みいただくことを推奨いたします。

本項では、できるだけ簡単な概念として理解できるように「倍率色収差」について解説したいと思います。

まずは想像してみましょう

晴天の昼、白点のある黒い壁があり「写真を撮ろう」とした、とします。

少し前の記事にもこんなシーンがありましたね…その時は星でしたが、今回は晴天の昼であることも密かなポイントです。

さて、この壁を撮影した結果、以下のような写真となりました。

中心の白点は問題ありませんが、周辺の白点は周囲に色のにじみがあります。

画面中心で起こる色にじみは「軸上色収差」ですが、周辺部に発生する色にじみは「倍率色収差」と呼ばれます。

一見すると発生する場所が異なるだけのように見えますが、どのような違いがあるのかシミュレーションなどを使って解説しましょう。

光の色と色収差

軸上色収差の解説記事で詳細に説明しておりますが、まずは光の色について簡単に復習します。

関連記事:軸上色収差

太陽のような白い光は多数の色が混ざりあっており、波長と言う単位で数値化され、代表的な色味は下図のようになります。

光の色が異なると「レンズを通過する時の曲がる角度」が変わります。

この角度の違いにより「ピント方向にズレる現象を軸上色収差」と言います。

下図は、シミュレーションにより青い光(400nm)と赤い光(750nm)によるピントのズレ(軸上色収差)を表したものです。

そして、光の色による光線の角度が「像高方向にズレる現象を倍率色収差」と言います。

少し誇張して倍率色収差のイメージ図を作成してみました。

d線(黄色)の光の経路にに対してg線(青)は波長の違いが曲がる角度の違いとなり、像高方向に少しずれた位置へ結像します。

この時、d線(黄色)の光線を基準としたズレ(差分)が倍率色収差となります。

この図は簡単のためにg線(青)だけの図ですが、太陽光下での撮影の場合はあらゆる光の色が含まれており、光の曲がる量や方向も変わるため、写真に写り込む倍率色収差による色のにじみは様々な色となります。

倍率色収差グラフ

さて、光路図を使って詳しい倍率色収差図の説明をしましょう。

d線(黄色)の光線を基準としたg線(青)の位置ズレを図示化しています。これが倍率色収差グラフの概念図になります。

倍率色収差は、球面収差などよりも値が小さい収差のため、あくまでイメージ図として制作したものです。

通常の倍率色収差は、1枚のレンズであっても目で見えるほどには大きくずれるものではありません。

上図は、g線(青)のズレですが同様にC線(赤)、F線(水色)でのズレも発生します。

1枚のレンズの倍率色収差

光路図

今回、準備しましたレンズは、たった1枚のレンズで構成された28mm F2.8仕様のレンズです。

見た目にもすでに収差は甚大ですが、倍率色収差はどうなっているでしょうか?

倍率色収差

倍率色収差図は、d線(黄色)を基準としますので、d線は直線です。最も大きくずれているのはg線(青)でマイナス側に大きく倒れています。

波長として見た時、d線(588nm)からg線(436nm)が最も大きく波長の短い側(紫外側)へズレていることに起因しています。

C線(赤)は、逆方向のプラス側へズレていますが、これはC線の波長は656nmで基準のd線から見た時に波長の長い側(赤外側)へズレているためg線(青)とは反対へ動きます。

倍率色収差の補正

先ほどはたった1枚で構成された28mm F2.8レンズの収差を紹介しました。

現実的にはこんなに広画角で、Fnoの明るいレンズならば多くの枚数で構成されています。

ここでは改めて、歪曲収差の補正されたレンズの特性を見てみましょう。

これまでの歪曲収差のグラフスケールで広角レンズの定番レトロタイプの6枚構成レンズの倍率色収差がどうなるか下図に示します。

光路図

こちらの光路図は、過去に分析したNIKON NIKKOR 28mm F2.8Dとなります。広角レンズの定番たるレトロタイプでいかんとも懐かしい姿をしています。

倍率色収差

6枚の非対称な広角レンズであるためまだ少々苦しい性能ですが、1枚で構成されたレンズに比べて約1/3程度まで収差を補正できている、と言ったところでしょうか。

なお、同じ6枚構成のレンズでもダブルガウスタイプのような対称型光学系であればさらに倍率色収差を小さく補正することも可能です。

関連記事:NIKKOR 50mm F1.8D

倍率色収差と歪曲収差の関係

倍率色収差にはもうひとつの見方が存在します。

それは「光の色ごとの歪曲収差の違いが、倍率色収差である」とも言えるのです。

他の収差と同様に歪曲収差も光の波長ごとにズレを持っています。

例えば基準光のd線(黄色)の歪曲収差の様子が下図のようだったとします。

光の色(波長)ごとに光線の曲がり方がことなるので、当然ですが歪曲収差も色ごとに形状が変わります。

次に少々大げさにg線(青)の様子を表現してみましょう。

g線(青)で撮影するとこのように歪んでいるとします。

現実的にはここまで色による歪曲収差が出ることがありませんが、d線(黄色)の形状とC線(赤)の形状差分が倍率色収差に相当します。

わかりやすく図示すると、d線とg線のグラフを重ねて見た時の差分に相当します。

まとめ

わずか一言で説明すれば「倍率色収差とは像高方向の色のズレ」です。

写真として現れる現象は軸上色収差とあまり違いが無いように見えますが、実は発生要因の違いから別の収差として取り扱うことで性能の指標としているのでした。

きっと倍率色収差をご理解いただけた事で当ブログが20倍楽しめるようになったと思います。

なお、他の収差に関する解説記事をお探しの場合は、以下をご参照ください。

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 関連記事:光学設計者がおススメする「光学の入門書」

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