レンズ分析

【レンズのプロが解説】 ニコン標準レンズ NIKON AI AF NIKKOR 50mm f/1.8D-分析016

ニコン ニッコール 50 1.8Dの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?

雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。

それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真をお探しの方は、記事末尾にありますのでこのリンクで移動されると便利です。

レンズの概要

NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctの特許資料発見の記念としてNIKKOR50mmの分析をシリーズ化して進めることにしました。

要は、勝手にNIKONレンズの歴史を楽しんでみようと言うシリーズ企画となります。

まず現在(2020年)のところNIKONの焦点距離50mm及び58mmのレンズとしては以下の製品が販売されています。

※50mm /f1.2Sは在庫限り

その総数は実に8本ですよ…脅威的です。しかもそれぞれに光学系は異なるようです。

例えばモーターや駆動機構、電磁絞りなどがレンズごとに異なるならわかりますが、なぜ光学系までわざわざ変えるのか…ミラーレス黎明期と言う背景もありますが、本当にNIKONは50mmが好きなんでしょう。

今回はシリーズの初回ですから、最も基本的なダブルガウス構成のf/1.8Dから分析をスタートします。

このNIKON 50mm F1.8は、一般に「撒き餌レンズ」などとも言われ、安さに惹かれてつい衝動買いすると、そこから暗く深いレンズ沼へ引きずり込まれてしまう恐ろしい呪いのような力を持つ製品です。

なおNIKONの公式ページでもこのレンズの開発の経緯がまとめられていますので合わせてお読みください。

 関連記事:ニッコール千夜一夜物語 - 第六十夜

極簡単に要約しますと、このNIKON 50mm F1.8Dの光学系はNikon EMと供に販売されたEシリーズと言われるニッコールレンズシリーズの光学系を流用しており、最初に発売されたのは1978年だそうです。

2013年ごろに製造が終了したようですから35年ほどに渡り生産された恐るべきレンズです。

このレンズは、一眼レフカメラ用ですがマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。

私的回顧録

単純なダブルガウス6枚構成のレンズは、現在でも各社から販売されていますが、特色が無いので取り上げないつもりでいました。

逆に言えば、それだけダブルガウスが優秀な証でもあります。

しかし、Z58mm f/0.95へ至る歴史を勝手に分析するためにもNIKONの50mm f/1.8は特例で分析することにします。

なお、私も若かりし頃にこのレンズのお世話になりましたが、そもそも50mm 1.8を使うより前にレンズ沼へハマっていましたので「たまに使うと軽くて良いよね」的な印象で軽く見ていました。

それは光学設計を生業とするまでの事です…

文献調査

さて冒頭でも説明したニコンの公式ホームページに記載されている開発秘話のページになんと設計者のお名前がフルネームで記載されています。

執筆者の名前さえわかればこちらのモノ、一撃で検索を終える事ができました。特開昭54-104334から性能の良さそうな実施例1を設計値と仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

 

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設計値の推測と分析

性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

詳細分析の前に「ガウス、ガウスって言うけど一体何なんだ?」との疑問にお答えするために極簡単な説明記事を以下のリンク先へ準備しましたので気になる方はご参照ください。

 関連記事:ダブルガウスレンズ

上記のリンク先では初期の4群6枚構成の完全対称型ダブルガウスを説明しています。

そして下図が、今回の設計値となります。

上図がNIKKOR 50 F1.8Dの光路図です。

5群6枚、基本の6枚構成で被写体側の接合を分離した、変形ダブルガウスの典型的な構成です。

初期の完全対称のガウス型レンズでは一眼レフカメラのミラーを配置するためのスペース(バックフォーカス)を確保しつつ、コマ収差を抑えるのが困難でありました。

そこで、絞りよりも被写体側のレンズの貼り合わせはがした構成(前接合分離型)とすることでコマ収差改善を果たし、一眼レフカメラに対応するためのバックフォーカスを確保を可能としました。

1960年代までの標準レンズは焦点距離55mmなどぴたり50ではないレンズが多々ありますが、その理由とは焦点距離を少し伸ばすことでバックフォーカスを確保していたわけです。

一眼レフ用レンズとして焦点距離50mmを達成すると言うことは各社の悲願であったわけです。

紆余曲折、各社の研究開発の末にこの前接合分離型の構成を発見し、ようやく焦点距離50mmレンズが改めて一眼レフの標準の座に落ち着きました。

さらにこのレンズは一般の前接合分離型ガウスレンズに比較すると絞り前後の凹面のカーブが緩く薄型に設計されているのが特徴です。 

もう一点、このレンズには設計値を見なければわからない特筆すべき点があります。

それはガラス材料がたったの2種しか使われていないのです。

この時代でも数十種のガラス材料が存在したはずで、Nikonほどの大企業なら1枚づつ異なる材料で設計し収差を抑えても許されたのではと思いますが…そこを耐え極めて少ない硝種で設計されているのです。

なんと禁欲的!ストイック!、ガラス材料が少なければ当然ながら材料調達も楽になり、値段も安くなり、ますます大量に製造しやすくなります。

要するに、安くしかも小型に設計されているこのレンズは、世に良いレンズを提供したいと願った設計者の慈愛に満ちたレンズであったわけです。

すでに本当の役割は終えたのかもしれないこのレンズをNIKONが頑なに製造を続ける理由が透けて見えます。

縦収差

球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

単純構成のガウスタイプは球面収差がマイナス側に倒れるフルコレクション形状とすることで開放時と小絞り時のピント変動を抑制しています。

軸上色収差はだいたいこの程度が限界となりますが、球面収差の先端部でF線とc線が重なる形状となっており、解像度と色収差抑制のための理想的なバランス点に補正しています。

像面湾曲

像面湾曲もマイナス側に残すことで開放と小絞り時の変動を抑制しています。ガウスタイプの場合、わざと残すところもテクニックになります。

歪曲収差

歪曲収差はわずかに樽型になりますが、対称型のガウスタイプの特徴で絶対値的には小さな範囲です。

倍率色収差

対称型レンズの特徴で倍率色収差はほとんど発生しません。

横収差

タンジェンシャル方向、サジタル方向

横収差として見てみましょう。

縦収差の項でわざと残している球面収差/像面湾曲は横収差を見ると意味を理解できます。

小枚数で大口径レンズを設計するとサジタル方向の横収差が甚大な量となりますがそのピント成分(ハロ)を打ち消すように縦収差を残すことで中心ピントと周辺ピントのバランスを取るのです。

小型化や材料の自由度を制限しているため低像高6mmあたりでのタンジェンシャル方向のコマ収差が若干多いですがコマ収差は絞れば改善するので開放でのみ現れる「味」ともなります。


記事の途中ですが、防湿庫を購入すると不思議と収納上限までレンズが生えてしまうというそんな恐ろしい都市伝説があるらしいですよ。

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スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

横収差で見た通りかなりスポットは大きくなりますが、これこそ堪能すべき味です。

横収差でサジタルの収差が大きい影響はスポットに現れます。周辺部の像高でスポットがV字になるので星などの撮影には注意が必要です。

スポットスケール±0.1(詳細)

MTF

開放絞りF1.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

横収差図で見ると甚大な量の収差が発生しているにも関わらずMTFの山はそこそこに一致しておりピントバランスが取れていることがわかります。

小絞りF4.0

像高12mmまでの中間部までは像面湾曲の影響でマイナス側にピントがずれるもののコマ収差が絞りでカットされる効果でMTFの山の高さが激しく改善し収差感は感じられなくなるでしょう。

総評

現代でも生産され続けるオールドレンズですが中身を見てみると、単純な6枚ガウスではなく、少ない自由度の中で薄型化と少硝種化を達成している正しい光学設計の象徴のようなレンズでした。

NIKONがこの製品を大事に30年以上生産する意味が良くわかり「感激とはこの事か」と、この歳で初めて感じた次第です。

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価格調査

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作例・サンプルギャラリー

NIKKOR 50 1.8Dの作例集となります。以下のサムネイル画像をクリックしますと拡大表示可能です。特に注釈の無い限り開放Fnoの写真です。

NIKON NIKKOR 50mm F1.8D 作例
NIKON NIKKOR 50mm F1.8D 作例
NIKON NIKKOR 50mm F1.8D 作例
NIKON NIKKOR 50mm F1.8D 作例
NIKON NIKKOR 50mm F1.8D 作例
NIKON NIKKOR 50mm F1.8D 作例

当ブログの画像編集には国産現像ソフトSILKYPIXを利用しております。

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製品仕様表

製品仕様一覧表

画角46度
レンズ構成5群6枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.45m
フィルタ径52mm
全長39mm
最大径63.5mm
重量155g

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レンズ分析リスト

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