ニコン ニッコール 58 1.4 Gの性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?
雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?
当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。
一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。
あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。
それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。
作例写真をお探しの方は、記事末尾にありますのでこのリンクで移動されると便利です。
レンズの概要
NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctの特許資料発見の記念としてNIKKOR50mmの分析をシリーズ化して進めることにしました。要は勝手にNIKONレンズの歴史を楽しんでみようと言う企画となります。
まず現在(2020年)のところNIKONの50/58mmのレンズとしては以下の製品が販売されています。
- AI AF NIKKOR 50mm f/1.8D
- AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G
- AI AF NIKKOR 50mm f/1.4D
- AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G
- AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G
- Ai NIKKOR 50mm f/1.2S
- NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
- NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct
8本ですよ…脅威的です。しかもそれぞれ光学系は異なるようです。
モーターや駆動機構、電磁絞りなどが異なるならわかりますが、なぜ光学系までわざわざ変えるのか…ミラーレス黎明期と言う背景もありますが、どれだけNIKONは50mmが好きなのでしょうか?
今回はシリーズの第5回目、前回は2008年発売の50mm f/1.4Gを分析しましたが、今回は焦点距離が若干変わって2013年に発売の58mm f/1.4Gを取り上げます。
この半端な焦点距離はNikkor-S Auto 5.8cm F1.4やAI Noct Nikkor 58mm F1.2をリスペクトしているものと思います。
この製品の発売当時のイベントや製品紹介記事などで光学設計の説明において「3次元的ハイファイな設計を行っている」と説明がなされ「何言ってんだ?」と各所でザワザワとしたのが印象的でした。
結局、当時は何を言っていたのかわかりませんでしたが、改めて設計値を眺めることで理解することができるかもしれません。
このレンズは、一眼レフカメラ用ですがマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。
私的回顧録
58mm F1.4が発売された2013年の私的流行語大賞は3次元的ハイファイでありました。職場では何に関しても「3次元的にハイファイにしといた」と言って済ませることができました…懐かしい。
なお翌年にはSIGMA Art 50mm F1.4が発売された衝撃でハイファイなどすっかり忘れました。
このNIKKOR58mmとSIGMA50mmはそれぞれの会社を代表する新時代の標準レンズとして偶然にも同時期に発売されています。
設計思想が特徴的に異なるのですが同時期に発売されている因縁めいた2本です。
一方は純粋に高性能を求め、片方は"レンズの味"を理論的に追及したようです。50mmレンズ好きを自称するなら必携の2本と言えます。
今回は58mmの単体分析を行いますが、後日この2本を比較する記事も作成する予定です。
文献調査
公開されているレンズの構成図とビタリと一致するような特許情報は見つかりませんでしたが、この製品もNIKONから設計者のお名前が公開されていますので、執筆者情報や実施例などから総合的に見て製品に近いと思われる特許を発見しました。
特開2014-13297が出願時期や構成が近いと思われる文献でした。
恐らくこの特許内に製品の特長が含まれるので改めての出願はしなかったのではないか、と推測されます。
ガウス変形タイプの光学系ならば変形部分の構成が似ていれば酷似した性能になるはずですから製品のエッセンスは十分に感じる事ができるはず。と言う事で見た目が良く似る実施例1を設計値と仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
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設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
詳細分析の前に「ガウス、ガウスって言うけど一体何なんだ?」との疑問にお答えするために極簡単な説明記事を以下のリンク先へ準備しましたので気になる方はご参照ください。
関連記事:ダブルガウスレンズ
上記のリンク先では初期の4群6枚構成の完全対称型ダブルガウスを説明しています。
さて以下が本製品の断面図になります。

上図がNIKKOR 58 F1.4Gの光路図です。
5群9枚構成、赤い面で示す第3レンズと第9レンズに非球面レンズを採用しています。ダブルガウスの構成は名残を残しているもののかなり構造が変わっています。
ガラスの材料については特筆すべき物は採用されてはいません。
冒頭に説明しましたが、実際の製品とは完全一致はしていません。
各レンズの形状はおよそ同じですが、製品は第5レンズと第6レンズが接合されていません。また、絞りより被写体側の非球面レンズは第1レンズになっており、絞りより撮像素子側の非球面レンズは第9レンズになっています。
製品の構成の方が軸上光束の高い第1面と絞り面に近い位置に非球面レンズを配置しているので球面収差はもっと小さくなるのかもしれません。
縦収差

球面収差 軸上色収差
球面収差は一見かなり小さく補正されているように見えますが、グラフ中間部がプラス側にまで至り、先端部はマイナス側に反り返るような特異な形状となっており、中間部と先端部の差として見ると旧来型の50mm f/1.4Gと絶対的にはあまり変わらない収差量です。
一般的なガウスレンズとは逆ともとれるような不思議な収差なので、ここら辺が3次元的にハイファイな所でボケ像に味を付けているところなのでしょう。
球面収差がプラス側にもマイナス側にもズレを持っているということは、前景ボケも背景ボケも似たような感じのボケ像になるという事なんでしょうか?
軸上色収差は旧来の製品などと大きくは変わりません。
像面湾曲
像面湾曲については少々大きめですが50mm f/1.4Gと同程度です。
歪曲収差
歪曲収差はわずかに樽型になりますが、対称型のガウスタイプを崩したためでしょう。絶対値的には気にする量ではありません。
倍率色収差

倍率色収差は、全体に均一ですが十分な補正量です。50mm f/1.4Gのように画面周辺で悪化するタイプではありません。ボケ味を重視していると言うことは、恐らくボケ像の周りに輪郭のようになる倍率色収差をできるだけ抑えることも意識しているのではないでしょうか。
横収差
タンジェンシャル方向、サジタル方向

横収差として見てみましょう。
50mm f/1.4Gに比較するとサジタルの収差量は激減しています。
中間像高ではガウスタイプでおなじみのサジタルフレアでピントを合わせるような収差の出し方もしていないようです。
3次元的にハイファイとはピント方向に均一な収差にすることでボケをなめらかに均一にすることだと思われるのでこのようなまとめ方なのでしょうか…
タンジェンシャル方向においては純粋にコマ収差が半減程度に削減されています。
記事の途中ですが、防湿庫を購入すると不思議と収納上限までレンズが生えてしまうというそんな恐ろしい都市伝説があるらしいですよ。
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
スポットは十分小さくなっていますが、特に像高12mmより内側ではスポットがかなり丸みを保っておりピントをずらした左右方向のスポットを見ても丸さを維持しています。ここら辺が3次元的にハイファイなところでしょう。
スポットスケール±0.1(詳細)

こちらはスケールを変更し、より拡大したスポットダイアグラムの様子です。
スポット形状の丸さに対するこだわり具合がよりわかりやすくなっているでしょうか。
MTF
開放絞りF1.4

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
MTFとしては画面中心はあまり旧来製品と差がありませんが、周辺部はだいぶ高く改善されています。ボケを重視とは言えど、解像力も現代的なレンズとして十分なレベルに仕上げているようです。。
小絞りF4.0

開放での収差が小さく補正されていますのでF4.0まで絞るとMTFは劇的に改善しますが、周辺部では像面湾曲が強くなります。
今回、製品と全く同じ構成図ではなかったので実際の製品では改善されいるのかもしれません。
総評
3次元的にハイファイとは極簡単に表現するとサジタルフレアを極端におさえつつスポットの丸さを追求することでボケをなめらかにしているのだろうと思います。
解像力の改善も重視しつつもボケ味を追求すると言うある意味で相反する2つの事象を同時に最適化することを追求したようですが、特徴的で斬新な球面収差や横収差のサジタル特性にイマイチ頭の中で実写像がイメージできません。
しかし、実写を見てみますとその意図がほんのり伝わってきました。
収差と異なる表現の仕方をすると、このレンズはいわゆる2線ボケ感が極めて少ないのです。
2線ボケとはボケ像に2重の輪郭が浮き出る現象で一般的には不自然で見苦しいとされています。
その2線ボケが少ないためボケ像がなめらかで美しいと撮影結果を見て気が付きました。
この自然に溶けるようなボケ味を狙ったのがこの製品の狙いですが、似た仕様の50mm F1.4がすでに2本発売されている中で、さらにこのレンズを追加で企画・発売するNIKONには会社として凄みを感じるところです。
【追記】予定しておりました通り、近代50mmレンズの性能比較記事を作成しました。以下のリンク先を合わせてご参照ください。
関連記事:各社50mm F1.4の比較
SIGMA/NIKON/SONYの最新レンズ3本を比較検証しています。
類似仕様のレンズ分析記事はこちらです。
関連記事:NIKON AI AF NIKKOR 50mm f/1.4D
関連記事:SIGMA Art 50mm F1.4 DG HSM
関連記事:SONY Planar T* FE 50mm F1.4 ZA
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価格調査
NIKON NIKKOR 58mm F1.4 の価格については、以下の有名通販サイトで最新情報をご確認ください。
マウントアダプタを利用することで最新のミラーレス一眼カメラでも使うことができます。
このレンズに最適なミラーレス一眼カメラをご紹介します。
作例・サンプルギャラリー
NIKON NIKKOR 58 1.4 Gの作例集となります。以下のサムネイル画像をクリックしますと拡大表示可能です。特に注釈の無い限り開放Fnoの写真です。
当ブログの画像編集には国産現像ソフトSILKYPIXを利用しております。
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【作例多数】国産現像ソフトSILKYPIX 11 の ススメ
SILKYPIX Developer Studio Pro10 (SILKYPIX10)は、唯一の国産写真データ現像ソフトです。
当ブログの作例写真の現像処理にはSILKYPIX10を活用しており特徴や、おすすめのポイントについて作例を使いご紹介いたします。続きを見る
製品仕様表
NIKON NIKKOR 58 1.4 G製品仕様一覧表
画角 | 40.5度 |
レンズ構成 | 6群9枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.58m |
フィルタ径 | 72mm |
全長 | 70mm |
最大径 | 85mm |
重量 | 385g |
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レンズ分析リスト
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