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【深層解説】 シグマ小型広角レンズ SIGMA 35mm F2.0 DG DN Contemporary -分析087

この記事では、シグマのミラーレス一眼カメラ専用の交換レンズであるコンパクト広角レンズ 35mm F2.0 DG DNの歴史と供に設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

レンズの概要

当レンズSIGMA 35mm F2.0 DG DNは、シグマのレンズシリーズではContemporaryラインに属する製品です。

SIGMAのレンズは、大きくArt、Sport、Contemporaryの3つのシリーズに分けられています。

シリーズの頂上であるArtラインは、大口径ながら至高の性能を目指した超弩級レンズです。

Contemporaryも妥協の無い高性能レンズですが、スタンダードな仕様にすることで製品サイズをコンパクトに抑えた、カジュアルなレンズと言ったところでしょう。

ArtやContemporaryのレンズシリーズが誕生したのは2012年のことでしたが、それ以降のシグマにおける35mm戦略を俯瞰してみましょう。

 (発売年)

  • 35mm F1.4 DG HSM Art(2013)11群13枚
  • 35mm F1.2 DG DN Art(2019)12群17枚
  • 35mm F2.0 DG DN Contemporary(2020)9群10枚
  • 35mm F1.4 DG DN Art(2021)11群15枚

表の通りSIGMAでは、執筆現在(2022)において、35mmレンズが4本販売されています。

見方を補足しますと「DG」はフルサイズ用、「DN」はミラーレス専用、を指しています。

最初に発売された(1)「35mm DG HSM」は、ミラー有一眼レフ用で各社のマウントで発売されており、さらにマウントアダプターを使えばミラーレスカメラでも使えます。

その後に発売となったDNの付く(2)~(4)のレンズはミラーレス専用で「SONY Eマウント」と、SIGMAとPANASONICとLEICAの連合「Lマウント」の計2種のマウント専用レンズが発売されています。

SIGMAの製品ラインナップ全体から見ると、同じ焦点距離仕様で4本あるとは突出した本数になります。

その他のSIGMAレンズを見ると、交換レンズの標準とされる50mmは「50mm F1.4 DG HSM Art」のわずか1本しか発売されていませんから、恐ろしく35mm好きな担当者が製品の企画を練っているではないでしょうか?

最初の1本である(1)「35mm DG HSM」はArtシリーズで新発売された最初の1本でしたし、(2)「35mm F1.2」は他社でほとんど発売されていない超大口径仕様ですから、焦点距離35mmとはSIGMAのプライドと言える仕様なのではないでしょうか。

当記事は、その35mmシリーズの末弟「35mm F2.0 DG DN Contemporary」がテーマとなります。

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私的回顧録

『35mm F2.0今昔物語』

現在でこそ、安価なレンズのイメージが定着している35mm F2.0のレンズ仕様ですが、はるか昔は上位クラスのレンズでありました。

一眼レフの誕生以前、1960年代よりも前から35mm F2.0レンズは存在していました。

例えば、LEICA用のレンズとしてSummicron 35mm F2.0が存在しておりましたし、LEICA互換レンズとして35mmでは世界最高の大口径だったW NIKKORC3.5cmF1.8 (1956)もありました。

LEICAに代表されるレンジファインダーカメラでは、明るい35mmは珍しいわけではなかったのです。

しかし、一眼レフの黎明期1960年代になると35mm F3.5やF2.8のように少々暗いFnoレンズが主流となります。

これは一眼レフ特有の問題が発端で、ファインダーへ光を導く「ミラー」を避ける光学設計をする必要が発生し、広角レンズほどその光学設計が困難となるため、Fnoを暗くしないと性能が担保できなかったためです。

一眼レフの時代が普及する1970年代になると、設計技術の向上から35mm F2.0(もしくはF1.8)が、各社のラインナップにあらかた登場します。

この時代までは、普及クラスの製品はF3.5もしくはF2.8仕様、上位クラスはF2.0仕様、との位置付けでありました。

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 関連記事:NIKON NIKKOR 35mm F2.0D

なお、1970年代当時から、New Nikkor 35mm F1.4(1971)などもありましたが特殊な存在で、他に追随するメーカーもほとんどありませんでした。

その後、80年代以降になりますと35mm F1.4仕様のレンズがポツポツと各社から発売されるようになりましたが、性能が苦しいこともありなかなか主流とはなりませんでした。

 関連記事:MINOLTA AF 35mm F1.4

2000年代を超えると35mm F1.4仕様のレンズも徐々に性能が向上し、気が付けばF1.4レンズはプロ御用達の地位になり、各社が競って超高性能レンズを発売しています。

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一方の35mm F2.0は、あまり更新が無い反面、手ごろなお値段で地味に人気があり、すっかり庶民的な存在となってしまいました。

そんな現代(2020年)に改めて発売された当記事のSIGMA 35mm F2.0 DG DNにはどのような意図が隠されているのか、読み解いて参りましょう。

文献調査

製品の発売から約半年ほどで関連する特許文献が公開となりました。

特許は、製品の発売より前に出さねばなりませんが、出願から公開に至るまでに1年から1年半ほどかかるのが通例です。

今回のパターンは比較的早めに発見できた方かと思います。

特開2021-165807から形状や性能から推測するに実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がSIGMA 35mm F2.0 DG DNの光路図になります。

レンズの構成は9群10枚、軸上色収差を良好に補正するSLDレンズを1枚、さらに球面収差や像面湾曲の補正に効果的な非球面レンズをなんと3枚搭載しています。

とてもお庶民向けとは思えない衝撃の構成です。

過去に分析したレンズPENTAX 35mm F2.0を例にすると全体でもわずか6枚構成で非球面レンズは1枚ですから、いかに豪華かおわかりになるでしょう。

少々お値段もお高めな当レンズですが、十分に価格なりの価値がある構成となっているようですね。

 関連記事:HD PENTAX FA 35mm F2.0

フォーカシング動作時は、第7レンズの1枚だけが駆動する構成で、レンズ鏡筒は伸び縮みしせずに内部のレンズが駆動するインナーフォーカス機構を実現しているようです。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差は、非球面レンズ3枚の効果でほぼ直線的になっています。

中間部で少し+側(右側)に倒れ、上端に向かって戻しつつわずかに-側(左側)に倒れて終わるのがSIGMAによく見られる伝統的な球面収差の傾向です。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も、Artレンズにも遜色無いほどに補正されているようです。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲も、同様に極小さく補正されています。

古き良き時代のNIKKOR 35mm F2.0Dあたりと比較されると面白いでしょう。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、グラフの上端にあたる画面の周辺部で5%ほどと単焦点レンズとしてはかなり大きい部類です。

これは画像処理による歪曲収差補正を前提に設計されているためと推測されます。

最近のSIGMAはArtレンズの85mm F1.4でもこのような傾向が見受けられます。

 関連記事:SIGMA 85mm F1.4 DG DN

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差も、画像処理による補正が容易な種類の収差ですが、画像処理が不要なレベルに十分に補正されております。

SIGMAのポリシーが垣間見えますね。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差を見てみましょう。

タンジェンシャル方向(左列)のコマ収差は極めて小さく補正されています。

サジタル方向(右列)もFnoがF2.0と控えめなこともありますが、画面の周辺の像高18mmあたりまではほとんど直線です。

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スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

見事に小さくまとまっており、標準スケールでの判別は難しいですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

さすがに画面の隅の像高21mmでは若干の広がりはありますがそれでも十分に小さい範囲のことです。

横収差でサジタルがきれいにまとまっている分、V字形状にはなっていないようです。

MTF

開放絞りF2.0

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

画面周辺部まで非常に高いMTFの山に感心しますね…

平面的な被写体であれば、絞って解像度を確保するような意味はありません。

開放から恐るべき解像度です。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

画面の周辺まで均質過ぎてどれが中心か一瞬わからなくなるレベルです。

総評

一見、地味で目立たない仕様のレンズですが、中身を見れば豪華絢爛の「ミニArtレンズ」とも言える超高性能レンズでした。

小さなな鏡胴に多くのレンズエレメントがギュッと詰まる姿は「素晴らしい密度」と形容したい美しさです。

ひとつ気になるのはSIGMAの上位製品の位置付けである「35mm F1.4 ArtをF2.0に絞った場合」と、当レンズ「35mm F2.0」はどちらが性能が良いのでしょうか?

「35mm F1.4 Art」にはF1.4で撮影できる絶対的な優位性があるものの、単純な解像度の点ではどちらが上なのか興味は尽きないところです。

 

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以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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製品仕様表

製品仕様一覧表 SIGMA 35mm F2.0 DG DN

画角63.4度
レンズ構成9群10枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.27m
フィルタ径58mm
全長67.4mm(Eマウント)
最大径70mm
重量325g
発売日2020年12月18日

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