オリンパス ズイコー 35 F2.0の性能分析・レビュー記事です。
レンズの仕組みやその性能は一体どう違うのか、具体的な違いがほとんどよくわかりませんよね。
雑誌やネットで調べても似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな記事ばかりではないでしょうか?
当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析します。
一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。
世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。
作例写真をお探しの方は、記事末尾にありますのでこのリンクで移動されると便利です。
レンズの概要
フィルム時代のオリンパスOMマウント用Zuikoレンズで、広角側の大口径レンズです。
Zuikoの小口径レンズは絶賛されていますが、一方で本レンズを含む大口径はクセが強いと評価されており、特に本レンズはその代表のような製品です。
一般的に焦点距離50mmのレンズは大口径でFnoが明るく、また価格も安うえ小型です。
一方の焦点距離35mmは、50mmの隣であることから「とても良いのだろう」と先入観や期待感を持たれてしまい、厳しい状況となるのが35mmの宿命でしょうか。
私的回顧録
私が本格的にカメヲタデビューしたのは、90年代にOM-1と35mmF2.8を拾ったことがきっかけとなりました。
OLYMPUSのOMシリーズを使い始めるもっと前から一眼レフは所有していましたし、カメラ自体も好きでしたから、OMを見つけたとき「レンズ沼の住民へと変貌を遂げ」たと表現すべきでしょうか。
さてこのZuiko 35 F2.0ですが、90年代当時はF2.8なら5000円ほどで中古の良品が買えたこともあり、高価なF2.0はとても買う財力が無く、購入したのは実に2000年代に入ってからでした。
ただし、正直なところ50mm Fno1.2を愛用していた事もあり、購入当時はまったく使いこなせていませんでした…
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文献調査
Zuiko 35mm F2.0の調査のために特許資料を読み漁りますと、製品の断面図と完全一致とまではいかないようですが、構成が酷似する物があります。
この不一致の理由として予想されるのは、特許出願後に設計値をさらにリファインしたか、開発中になにかの要因で設計値変更の必要があったのではないか、とか想像されます。
注:あくまで勝手な想像です。
その昔ですが「カタログに記載するレンズ構成図がだいぶ雑なメーカーがある」との都市伝説的な話も聞いたことがありますが…
構成枚数や形状に大きな違いはありませんので特開昭49-40127の実施例1が製品構成に類似と予想し再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
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設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がzuiko 35 F2.0の光路図です。
7群9枚構成。一眼レフカメラ用のレンズの基本構成はガウスタイプと言われますが、広角側のレンズになるとガウスの面影はほとんど感じられません。
一眼レフ用広角レンズ配置の一般的タイプは、レトロフォーカスと言い被写体側に凹レンズを配置する物が有名です。
しかしこのZuiko 35mm F2.0の第1レンズは、極強いパワーの凸レンズです。断面図を見るだけでも独特な世界観を広げています。
当時の35mmはFnoがF2.8が主流で、このレンズはFno2.0と一段明るい仕様です。
この明るさによる肥大化を抑制のため、強い凸レンズを被写体側に配置し、全長の短縮を狙ったのではないかと考えられます。
特にOMマウント用のZuikoレンズシリーズは、「小型カメラシステム」を売りにしていますから大口径レンズでも小型化を狙ったのでしょう。
全体のレンズ枚数は多めですが、サイズダウンを重視したのか収差補正は苦しい状況のようです。
硝材も大口径特有の軸上色収差を抑制するような特殊低分散材料は採用していないため色収差もかなり苦しい状況のようです。
現代は収差が完璧に抑えられたレンズが手に入りますから、むしろ収差が大きい方が楽しみが増えますので期待に胸が膨らみます。
早速、収差を見てまいりましょう。
縦収差
球面収差 軸上色収差
球面収差はフルコレクション型に補正されているとはいえその膨らみは50mm F1.2を超えるようでふわふわな写真が期待できます。
逆に言うと50mmがいかにガウスタイプの恩恵で容易に収差補正されているのか、存分に噛み締めることもできます。
軸上色収差は焦点距離に比例して小さくなる特性を持つので広角レンズほど小さくしやすいはずですが、このレンズは望遠レンズより多いぐらいの収差を残しているようです。
ただし、球面収差グラフの上端となる光線高さ10割部ではC線とF線が一致し、7割ぐらいの位置での各色の光線が重なるような特性としているので、少し絞れば色収差の改善は大きいでしょう。軸上色収差は残しながらも美しいまとめ方をしているようです。
像面湾曲
像面湾曲は球面収差の補正不足を補うために像面をアンダー側に大きく倒しています。収差を出すことで全体的なピントを一致させる基本的なテクニックです。ただし、この方法だとハロ・コマという横収差の収差成分が発生するのでMTFは全体に低めになります。
歪曲収差
歪曲収差は若干の樽型ですが、絶対値的には小さいの範囲内で特に問題ありません
倍率色収差
倍率色収差は、かなり大きく残っています。倍率色収差は絞り込むと目立ちやすくなりますが、開放からすでに目立ちそうです。
横収差
Zuiko 50mm F1.2レベルにサジタル方向のフレアが大きく、タンジェンシャル方向の収差も大きいですがハロ・コマを出すことでピントバランスを保っているようです。
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スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
横収差の通りで全体的にスポットサイズが大きいようです。
スポットスケール±0.1(詳細)
MTF
開放絞りF2.0
画面中央は山の高さがありますが、画面中間から周辺部はかなり低い特性です。山の位置は画面全体一致しておりズレは無いようです。
小絞りF4.0
絞るとMTF値の高さは意外なほどに改善します。
この当時のレンズは開放Fnoでの性能は重視されておらず、絞った時に真価を発揮するように設計されています。
フィルムの時代は、ISO400程度の感度が一般的ですから、シャッタースピードを高速化するためにFno明るくすることが要求され、開放Fnoでの描写性能は低くても許容されたわけです。
そして真剣に写真を撮影する際には必ず1段絞って使うことが「世の常識」とされていました。
総評
巷の噂通りのクセ玉です。実写してみますと解像しているのか、ピントを外したのか、手振れなのか、と悩むような不思議な写真が撮れていることが多々あります。特に背景のボケが収差が大きいゆえに独特なボケ方になりピントの合った位置が分かりづらくなる錯視的な効果を発するようです。しかし、現代的な高性能レンズばかり使っていると時折このZuiko 35 F2を使いたくもなるのですから、そこも不思議なところです。
レンズに味を求める方には是非使っていただきたい逸品です。
なお焦点距離の近い近代的レンズ設計の代表例として、SIGMA Art シリーズからSIGMA 35mm F1.4を分析しておりますので以下のリンク先を参考にご覧ください。
関連記事:SIGMA 35mm F1.4
作例・サンプルギャラリー
Zuiko 35 F2.0の作例集となります。特に注釈の無い限り開放Fnoの写真です。
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製品仕様表
製品仕様一覧表 Olympus Zuiko 35mm F2.0
画角 | 63度 |
レンズ構成 | 6群7枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.3m |
フィルタ径 | 49mm |
全長 | 33mm |
最大径 | 59mm |
重量 | 175g |
もし、ミラーレスカメラをお持ちでしたらマウントアダプターを使用すれば再びZuiko 35mm F2で撮影が可能です。
こちらの商品はOM用ZuikoレンズをソニーのミラーレスカメラのEマウントへ取り付けるためのアダプターです。
OM用ZuikoレンズをニコンのミラーレスカメラのZマウントへ取り付けるアダプターもあります。
その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。
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