この記事では、オリンパス の一眼レフカメラ用交換レンズシリーズの大口径広角レンズ ズイコー 35mm F2.0の歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
現代にもその名を残すOLYMPUS(現OMDS)の銘カメラと言えばOMシリーズですが、元は1970年代より始まるフィルム式一眼レフカメラがその源流です。
OLYMPUS初の35mmフイルムを採用したレンズ交換式一眼レフカメラ「OM-1」は1972年に発売され、当時の35mmフィルム一眼レフカメラの中で最小・最軽量で驚異的なサイズ感を実現したカメラでした。
OMシステムに合わせて準備されたのがOMマウント専用「Zuiko(ズイコー)」レンズ群で、基本のフィルタサイズがφ49かφ55とレンズも小型化されながら高画質化も達成し人気のシステムとなりました。
Zuikoレンズシリーズの特徴的な点のひとつは、FnoがF2.0と当時では大口径なレンズが多数発売されたことが挙げられます。
多くのレンズで「F2.0大口径」と「F2.8あるいはF3.5などの小口径」の2系列からレンズが選べるようになっていたのです。
F2.0仕様のレンズが用意された焦点距離は、21mm、24mm、28mm、35mm、85mm、90mm、100mm、180mm、250mmと、ほぼ隙間なく用意されています。
今回分析するZuiko 35mm F2 は、当時としては大口径な広角レンズになります。
Zuikoの小口径レンズは絶賛されていますが、一方で本レンズを含む大口径は「クセが強い」と評価されており、特に本レンズはその代表のような製品です。
一般的に焦点距離50mmのレンズは大口径でFnoが明るく、また価格も安うえ小型です。
一方の焦点距離35mmは、50mmの隣であることから「とても良いのだろう」と先入観や期待感を持たれてしまい、厳しい状況となるのが35mmの宿命でしょうか。
私が写真を始めた切っ掛けは親類から頂いたカメラからで、その後は自分でオートフォーカスの一眼レフカメラを購入し、あくまで普通のカメラ好きとして過ごしていました。
ところが、90年代に偶然OM-1と35mmF2.8を拾いこれを発端に深い沼へ誘われていったのでした。
いつしかわずかな財力が付き、この35mm F2.0も手にしたのですが、当時(今も?)まったく使いこなせていない大変難しいレンズです。
文献調査
この記事の初出時は直接関連する特許文献がわからず、かなり近い構成例を参照し記事にしておりました。
特に現在の日本の特許データは1975年ごろまでしか電子化されておらず、この時代のデータは存在するのか確認が難しい状態にあります。
海外のデータベースへアクセスすることで調査範囲を広げまして、ようやく文献を確認できました。
再調査の結果、US3844640Aが関連性の高い特許文献であることがわかり、実施例1が形態が類似することも判明しましたので、これが製品に類似すると予想し以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がzuiko 35 F2.0の光路図です。
レンズの構成は7群8枚。一眼レフカメラ用のレンズの基本構成はガウスタイプと言われますが、広角側のレンズになるとガウスの面影はほとんど感じられません。
一眼レフ用の広角レンズに採用される有名な構成は、レトロフォーカスと言い被写体側に凹レンズを配置する物が有名です。
しかしこのZuiko 35mm F2.0の第1レンズは、極強いパワーの凸レンズも有しています。
断面図を見るだけでも独特な世界観を広げています。
当時の35mmはFnoがF2.8が主流で、このレンズはFno2.0と一段明るい仕様です。
この明るさによる肥大化を抑制のため、強い凸レンズを被写体側に配置し、全長の短縮を狙ったのではないかと考えられます。
特にOMマウント用のZuikoレンズシリーズは、「小型カメラシステム」を売りにしていますから大口径レンズでも小型化を優先したのでしょう。
全体のレンズ枚数は多めですが、サイズダウンを重視したのか収差補正は苦しい状況のようです。
硝材も大口径特有の軸上色収差を抑制するような特殊低分散材料は採用していないため色収差もかなり苦しい状況のようです。
現代は収差が完璧に抑えられたレンズが手に入りますから、むしろ収差が大きい方が楽しみが増えますので期待に胸が膨らみます。
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。