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【深層解説】 ソニー大口径標準レンズの比較 MINOLTA AF 35mm F1.4 vs SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA -分析060

ミノルタ AF 35mm F1.4とソニー FE 35mm F1.4ZAの性能比較・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

レンズの概要

当記事ではSONY系35mm大口径レンズの比較分析として、源流であるMINOLTA AF 35mm F1.4と、そして約30年後にリニューアルされたSONY FE 35mm F1.4ZAの比較分析を行います。

それぞの詳細分析については各記事を参照してください。

 関連記事:MINOLTA AF 35mm F1.4

 関連記事:SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA

まずは簡単に、MINOLTAから始まった世界初のオートフォーカス対応35mm大口径F1.4レンズの系譜についてみて見ましょう。ミノルタから事業譲渡されたSONYから発売のレンズに至るまで、αカメラ用35mm F1.4レンズについて 発売年順に並べてみます。

  1. 1987 MINOLTA AF 35mm F1.4
  2. 2006 SONY SAL35mm F1.4G(MINOLTA流用)
  3. 2015 SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA
  4. 2021 SONY FE 35mm F1.4 GM

①MINOLTA AF 35mmは、SONYへの譲渡後も②SAL35mm F1.4Gとして光学系は流用され、本格的にリニューアルされたのは③SONY FE 35mm F1.4 ZAからとなります。

この約30年ぶりとなる ③SONY FE 35mm F1.4 ZAによるフルリニューアルは、新製品の発売と言う事だけでなく、もうひとつの歴史的意味があります。

それは、SONY FE 35mm ZAは世界初のフルサイズミラーレス一眼専用の35mm F1.4レンズであることです。

 注:厳密に言えばレンジファインダーのレンズがあるじゃないかとも言えますが…

要は、近年の各社レンズシリーズの代表とも言える35mm F1.4レンズにおける「オートフォーカス対応の始祖」と「ミラーレス一眼用の始祖」たる二つの「はじまりのレンズ」を比較するのが当記事の目的となります。

私的回顧録

MINOLTA AFレンズと言えば世界初の本格オートフォーカス一眼レフ用レンズシリーズですが、それゆえに起こった事件の結果、カメラ事業が縮小し売却されてしまうという悲しい歴史が隠されています。

その事件とは、誠に有名な事件ではありますが「ミノルタ・ハネウェル訴訟事件」の名で国際的特許紛争として記録に残されています。

事件の本格的な解説記事は、世の中にたくさんありますので、ほんの少しだけ嗜み程度に振り返ってみましょう。

ハネウェルとは、アメリカの電子部品メーカーで、1980年代にはカメラのオートフォーカス用の電子部品も製造しており、ミノルタを始めとした各社が購入していたようです。

その後、ミノルタ及び各社は一眼レフカメラのオートフォーカス化を見据えてハネウェルから脱却し独自開発の道を進んだようですが、この時にハネウェルの特許を侵害したとして訴訟を起こされ数百億の和解金を支払う結果になりました。

この訴訟に対する和解金捻出の余波が尾を引いてミノルタはカメラ事業を撤退したと「噂」されています。

よく聞く噂ではありますが、本当に撤退へ繋がったのでしょうか?ハネウェルとの訴訟が結審したのは1992年、その後2003年にミノルタはコニカと合弁しコニカミノルタとなります。

コニカミノルタが、カメラ事業の売却を発表したのは2006年ですから、 コニカミノルタの誕生時には事業撤退が計画されていたのでしょうが、ハネウェル事件が事業撤退に直結まではしていないようにも見えますねぇ…

このあたりの真相を知りたいところです。暴露本とか出ませんかね?

なお、公式な売却理由は、一言で意訳すると「デジタル化の乗り遅れ」と発表されております。

では、ハネウェルの特許とはどのようなものか、現物へのリンクを用意いたしました。

 外部リンク:ハネウェル特許US3875401(原版 英語)

この特許は、カメラのオートフォーカスを実現するための距離の測定方法を特許として出願しているもので、一眼レフに使われる基礎的な距離計測の技術である「位相差方式オートフォーカス」に関係します。

説明や挿絵を見るに一眼レフのオートフォーカス機構とは若干異なりますが、特許の主張する権利範囲とは発明としての基幹部分を指し必ずしも実施例と同形態である必要性はありませんから広い目で見ると一眼レフカメラも含まれてしまうというわけです。

こちらの技術や訴訟の解説は長くなりますので、わかりやすく詳細に説明されている書籍を紹介します。

紹介します書籍とは、尊敬する故小倉磐夫先生の著書「カメラと戦争」 と「国産カメラ開発物語」 です。

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「カメラと戦争」 は、残念ながら絶版のようですが、まだ中古ではお手軽な価格で手に入るようですね。プレミアム価格になる前にぜひ入手していただきたいです。

ちなみに小倉磐夫先生とは、2020年に惜しくも廃刊したカメラ雑誌「アサヒカメラ」で新製品のカメラを分析するドクターを長年担当されており、また並行して「Dr.オグラの写進化論」とのタイトルで手記風の近代カメラ技術史を執筆されておりました。

この連載をまとめたのが先の「カメラと戦争」と下記の「国産カメラ開発物語」の2冊です。

国産カメラ開発物語の方は、中古はすでにプレミアム気味の価格になっておりますが、オンデマンド版もあるようです。

オンデマンド版とは、注文後に印刷製本され届けられる形式であり、実質的に新品が手に入ります。

ハネウェル訴訟に関する技術的な考察は「国産カメラ開発物語」に記載されており、社会背景などは「カメラと戦争」にも記載されています。

なお、双方ともまさに名著であり、「カメラ好き」を公言するなら必携必読でしょう。

雑談はこのあたりで終了しまして、本題となりますMINOLTA AF35mmとSONY 35mm ZAの比較に移りましょう。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

左図MINOLTA AF 35mm F1.4(青字)、右図SONY FE 35mm F1.4 ZA(赤字)

上図がMINOLTA AF 35mm F1.4とSONY FE 35mm F1.4 ZAの光路図になります。

2つレンズの比較が容易なように同スケール比で描画しております。

MINOLTAレンズは、一眼レフカメラ用としてバックフォーカスの長い構成となっており、被写体側に凹レンズの多いレトロフォーカスと言われる構成です。

一方でSONYレンズは被写体側に凹レンズのある構成ですが、ミラーレス一眼用であるためバックフォーカスに余裕があり、撮像素子側にも凹レンズを多く配し、被写体側と撮像素子側の双方に凹レンズを配置した対称型に近い構成となっています。

レンズ枚数は、わずか2枚の差しかありませんが、非球面レンズに着目しますと、MINOLTAレンズでは1枚だけの採用ですが、SONYレンズは脅威の非球面レンズ3枚の絢爛構成となっています。

SONYレンズはいかにも収差の少なそうなイカツイ形でありますが、MINOLTAレンズも引き締まった無駄の無い美しい形をしていますね。

縦収差

左図MINOLTA AF 35mm F1.4(青字)、右図SONY FE 35mm F1.4 ZA(赤字)

各グラフ左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、MINOLTAレンズは味のある素直なフルコレクション型で柔らかな描写の中にも芯のある写りになりそうです。

一方のSONYレンズは、研ぎ澄まされたカミソリような鋭さです。

約30年の技術の進歩を感じますね。

軸上色収差は、SONYレンズの方ではほとんどゼロと言っても過言では無いレベルですが、MINOLTAレンズはだいぶ撮影時に工夫が必要そうな量です。

像面湾曲

像面湾曲は、MINOLTAレンズではグラフ上端の画面周辺部でだいぶはっちゃけた感じも受けますが、F1.4の浅い深度を考慮すれば、実用上はさほど差を感じないのではないでしょうか?

歪曲収差

歪曲収差はわずかな差ですが、SONYレンズの方が大きいようです。現代的カメラは画像処理によって歪曲収差を補正できるのであまり重視して補正していないのでしょうか。

絶対値として双方とも極度に大きいわけではなく、普通レベルといったところです。

倍率色収差

左図MINOLTA AF 35mm F1.4(青字)、右図SONY FE 35mm F1.4 ZA(赤字)

倍率色収差も像面湾曲同様にグラフ上端の画面周辺部でだいぶはっちゃけた感じとなりますが、よほどの平面被写体を取らなければMINOLTAレンズがなかなか健闘していると感心してしまうのではないでしょうか?

横収差

左図MINOLTA AF 35mm F1.4(青字)、右図SONY FE 35mm F1.4 ZA(赤字)

各図の左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

横収差図ではサジタル方向、タンジェンシャル方向ともにSONYレンズの収差の少なさは驚嘆の域です。

スポットダイアグラム

左図MINOLTA AF 35mm F1.4(青字)、右図SONY FE 35mm F1.4 ZA(赤字)

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

横収差で見た通り、SONYレンズのスポットダイアグラムは格段の改善を見せています。流石は30年の差が出ますね。

しかし、時代的な背景を考えるとMINOLTAレンズが異常に劣るわけではないのです。MINOLATAがオートフォーカス対応35mm F1.4レンズを世に出して以降、他社が追いつくにはなんと10年ほどの時間が必要だったのです。

そんなに難しいレンズ仕様が35mm F1.4でもあるのです。

スポットスケール±0.1(詳細)

MTF

左図MINOLTA AF 35mm F1.4(青字)、右図SONY FE 35mm F1.4 ZA(赤字)

開放絞りF1.4

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

SONYレンズは、もはや説明不要の改善度を見せていますね。

小絞りF4.0

開放での性能に限界のあるオールドレンズは、絞った時の性能を重視しているとも言われますが、このMINOLTAレンズもF4まで絞りますと現代的なSONYレンズに劣らない描写を見せてくれそうです。

とは言いましてもさすがにSONYレンズの方がF4の小絞りでも全体に高い特性のようです。

総評

SONY FE 35mm F1.4 ZAレンズは、MINOLTA AF 35mmに比較すると若干の大型化はしているものの驚くべき性能向上を果たしていることが良くわかりました。

約30年の技術の進歩を肌で感じる分析をお楽しみいただけだしょうか?

なお、歴史的価値の高いMINOLTA AF 35mmは、まだSONY SAL35mm F1.4Gのレンズ部分へ設計流用されているようですから現在でもこの歴史的描写を楽しむことが可能です。

当記事はMINOLTAから始まりSONYへ至る35mm F1.4レンズの歴史を総分析するシリーズの一部となっています。

関連記事は以下をご参照ください。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

作例は各分析ページでご確認ください。

 関連記事:MINOLTA AF 35mm F1.4
 関連記事:SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 SONY FE 35mm F1.4 ZAとMINOLTA AF 35mm F1.4

SONY FE 35mm F1.4 ZAMINOLTA AF 35mm F1.4
画角44度63度
レンズ構成8群10枚8群12枚
最小絞りF16F16
最短撮影距離0.3m0.3m
フィルタ径55mm72mm
全長76mm112mm
最大径65.5mm78.5mm
重量470g630g
発売日1987年2015年6月15日

記録メディアは、事故防止のため信頼性の高い物を使いましょう。

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