ニコン ニッコール 35mm F1.8Gの性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
レンズの概要
NIKKOR 35mm F1.8Gは、NIKONフルサイズデジタル一眼用に開発された比較的安価な大口径広角レンズです。
最初に焦点距離35mmレンズについて振り返ってみますと、まずNIKONのFマウントカメラの誕生初期から複数のFnoの異なる35mmレンズが開発されておりました。
過去に発売されたNIKONの35mmレンズのFnoはF2.8、F2.0、F1.4のいずれかの仕様であり、本項で取り上げるF1.8GはNIKON 35mmレンズでは初のFno1.8仕様だったようです。
また、執筆時点(2021)で現行販売されているNIKKORレンズは以下となります。
- AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G
- AF-S NIKKOR 35mm f/1.8G ED
- NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
つい最近までAi AF NIKKOR 35mm f/2Dも販売されておりましたので、50mmレンズに次ぐ選択肢の多いレンズと言えるでしょう。
私的回顧録
思い返せば、私の初めての交換レンズは、焦点距離50mmでFnoはF1.4でした。
世間で標準レンズ50mm派と35mm派が激しい争いを続けるなか、私は「50mmこそ標準の王道」と思っていたのですが、ある日ふと我が家の防湿庫を見てみますと、35mmがあるはあるわ…数えたくないほど出てきます。
どこから湧いて出るものか、不思議と35mmが増殖してしまうのです。
この理由を考えてみますと、昔の一眼レフ用の50mmレンズは、いわゆるガウスタイプのレンズしか選択肢がありませんでしたから、私レベルになりますと購入せずとも描写性能はおおよそ予想が付くものです。
なお、ガウスタイプについては過去にまとめた記事を参考にしてください。
関連記事:ダブルガウスレンズ黎明期編
一方で35mmレンズは様々なタイプが存在しますから、描写性能も千差万別。
昔からサイズの方もコンパクトなF2.8から巨砲的F1.4まで各種存在します。そのため、ついつい購入してしまったのでしょう。
しかし、最近では焦点距離50mmレンズの高性能化が著しく、それに伴い50mmが増殖している気がしますが…まぁ深くは考えたくないものです。
文献調査
さて若干調査に難航しましたが、特開2015-118186が関連する特許文献であることは間違い無いでしょう。実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がNIKON 35mm F1.8Gの光路図になります。
8群11枚、第6レンズは色収差を補正するための特殊低分散材料(EDレンズ)を配置し、最も撮像素子側の第11レンズは球面収差や像面湾曲を補正するための非球面レンズ採用しています。
凹レンズ群を被写体側に置き、ダブルガウス型の後群を配した、少々豪華なレトロタイプのようです。
Fnoの仕様は異なりますが、ほぼ同時期にはSIGMAのArtレンズ第一弾であるSIGMA 35mm F1.4が発売されております。大口径化により増大する収差抑制のためにさらに豪華な構成となっています。
SIGMAについてはすでに分析した記事がありますので、比較されると面白いでしょう。
関連記事:SIGMA Art 35mm F1.4
また、35mmレンズのFnoの暗い側としては伝統的なレトロフォーカスタイプの光学系であるNIKON 35mm F2.0も分析しております。
関連記事:NIKON 35mm F2.0D
これらも比較参照していただけるとより深くお楽しみいただけるのではないでしょうか?
縦収差
球面収差 軸上色収差
球面収差を見てみますと若干の曲がりを持つフルコレクション型です。
F1.8仕様は性能と値段のバランス解を狙ったのでしょう、F2.0Dのような強い収差残りは無いものの、ほんのりと味を残し、その分だけお値段は控え目としたのではないでしょうか?
定価での比較ですと、よりFno明るいNIKKOR 35mm F1.4Gに比較して1/3以下の価格差で販売されております。
軸上色収差は、製品名称にも「ED」を付けるほどですから十分に補正されています。
像面湾曲
像面湾曲は若干残りますが、大口径の割にはタンジェンシャル方向とサジタル方向の差(アス)が少ない特性です。
歪曲収差
歪曲収差は僅かに樽型ですが、量的には標準程度でしょう。
倍率色収差
倍率色収差は若干大きめに残るようです。50mmレンズは対称型ダブルガウスの構成とすることで少ない構成枚数で倍率色収差が効率良く補正できるのが特徴ですが、広角レンズはレンズ配置の非対称化が強くなるため倍率色収差の補正が難しくなってきます。
ただし、私の記憶ではこの頃からNIKONでは画像処理による倍率色収差補正を行っていると公言しているので、画像処理に適した収差形状にすることでサイズダウンや軽量化を優先しているのかもしれません。
横収差
左タンジェンシャル、右サジタル
横収差として見てみましょう。
大口径な割には横収差はきれいに収めています。
ニコンはサジタル方向の収差が抑えるのが本当に上手いですね…
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スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
スポット形状や色ごとのズレは少なくすっきりとした印象です。
単に解像度を上げるだけでなく、色のズレなど数値化の難しい点にこだわるのがNIKONらしい雰囲気です。
スポットスケール±0.1(詳細)
MTF
開放絞りF1.8
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
現代的なレンズだけあってお値段の割に、開放Fnoからしっかりした山の高さをキープしています。
小絞りF4.0
総評
このNIKKOR 35mm F1.8Gは、NIKONの現行フルサイズレンズの中でも50mm F1.8に次ぐお求め易い価格ではないかと思います。
その割にはしっかりとした解像度と小振りな製品サイズ感ですからNIKONレンズ沼の入り口にふさわしい1本と言えるでしょう。
また、フルサイズの35mmレンズは、APSサイズのカメラで利用すると約50mm相当の画角で利用できますから、APSカメラからのステップアップやシステムを兼用するためのレンズとしても大変に使い勝手の良い製品です。
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
このレンズは、マウントアダプターを利用すると最新のミラーレス一眼カメラでも使用可能です。
このレンズに最適なミラーレス一眼カメラをご紹介します。
作例・サンプルギャラリー
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製品仕様表
製品仕様一覧表 NIKON NIKKOR 35mm F1.8G
画角 | 63度 |
レンズ構成 | 8群11枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.25m |
フィルタ径 | 58mm |
全長 | 71.5mm |
最大径 | 72mm |
重量 | 305g |
発売日 | 2014年2月6日 |