ペンタックス DA 21mm F3.2の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
レンズの概要
PENTAXのLimitedシリーズとは、描写性能と製品サイズ感のバランスを取りつつ、上質で確かな造りの外装を纏わせることで「所有する喜び」も追及する現代の銘品と言えるレンズです。
Limitedシリーズにはフルサイズ用のFA-Limited、PAS-Cサイズ用のDA-Limitedの二系統が存在します。
執筆時現在(2021)、フルサイズ用のFA-Limitedはボケ味にこだわった大口径仕様の3本のレンズが販売されております。
- smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited
- smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
- smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited
過去にはFA 31mmを分析しました。上にリンクを貼りましたのでご覧ください。
もう一方のPAS-Cサイズ用のDA-Limitedは、6本のレンズが販売されています。
- HD PENTAX-DA 15mmF4ED AL Limited
- HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited
- HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited
- HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited
- HD PENTAX-DA 70mmF2.4 Limited
- HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR
DA-LimitedはAPSサイズシステムに求められる「機動性」を重視しつつ解像性能を確保するため小口径仕様となっています。
本分析ではDA-Limitedから21mm F3.2を取り上げてみたいと思います。
なお、APSサイズレンズの分析手法については以下の記事にまとめておりますのでご覧ください。
関連記事:雑学009 センサーサイズとレンズサイズ
私的回顧録
今回の記事はPENTAXレンズでは初めてのAPSサイズのレンズ分析となりました。
Limitedシリーズには他社には無い仕様のレンズも多いのでどれにしようかと悩みましたが、DA-Limitedシリーズの中では標準レンズ的扱いであるこのDA21mmにしました。
他の理由としては、FA-LimitedのFA31mmとの関係性についても比較して見たいとの興味もありました。
DAはAPSサイズセンサー用のレンズなので、フルサイズ換算の焦点距離は32mm相当となり、FA-LimitedのFA31mmと焦点距離の設定は近いわけです。
しかし、FA31mmはF1.8の大口径仕様ですから、設計の思想・趣向が大きく異なるものと思います。その思想の差が光学設計にいかに現れるか大変興味深い比較になるのではないかとの研究心から分析を決定しました。
あ、あと一つありました「このレンズ、見た目がかっこいいんですよ」と言えば、もう理由は不要でしょう。
文献調査
PENTAXは何しろわかりやすく特許を出すメーカーですから、関連文献は特開2007-225960とすぐにわかります。実施例1が見た目にも製品断面図と酷似していますのでこれを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がPENTAX DA 21mm F3.2 Limitedの光路図になります。
5群8枚構成、最も撮像素子側に非球面レンズを配置しています。
意外にもFA31mm(7群9枚構成)と雰囲気は似た配置になっています。FA31mmはF1.8の大口径なので構成枚数が多いのですが、その差は実質レンズ1枚分と思ったほどではありません。分析前は、もっと構成枚数差があるものと予想していました。
被写体側はクラシカルな広角レンズによくある凸レンズと凹メニスカスレンズを並べる構成ですが、絞り前後にはみっちりとレンズを配置し隙の無い現代的な風貌です。
思ったよりもレンズ枚数が多く、構成も複雑な理由としては「APS一眼レフレンズゆえの難しさ」によるものでしょう。
ミラーのある一眼レフは、フルサイズとAPSでマウントを同じにする会社が多いのですが、そうするとAPSレンズには相対的に不利な点が発生します。
その「不利な点」とは何か、おわかりでしょうか?
同じマウントですと、フランジバック(マウント~撮像素子の距離)もまた同じにする必要があります。
するとAPSレンズは撮像素子は小さいのに「フランジバックは同じ=相対的に長い」と言う「不利な点」が生まれてしまうのです。
そのため、APSレンズは撮像素子の比率ほどレンズ全系を小さくできません。むしろ、広角レンズほど相対的に不利な設計条件となってしまうのです。
マウントを同じくすればレンズが流用できるわけですが、上述のような不利な条件も生まれます。
本項で分析するDA21mmは換算31mm相当ですからちょっと広角気味で苦しくなってきているところですが、Fnoを控えめのF3.2とし非球面レンズも導入することでコンパクトさを際立たせつつも性能も犠牲にしない方針としたのでしょう。
縦収差
球面収差 軸上色収差
球面収差はFnoも控えめにし、非球面レンズを採用していることから、極小とまではいきませんが適度にまとまっています。
軸上色収差も実用上は申し分ないレベルです。
少々仕様は異なりますが、過去に分析した古典的レンズの代表NIKKOR 28mm F2.8Dなどとも比較していただけると「適度な具合」が理解しやすいかと思います。
関連記事:NIKKOR 28mm F2.8D
像面湾曲
像面湾曲は画面隅のあたりで若干マイナス側への倒れが大きいですが、サジタルとタンジェンシャル方向の差(非点較差)は少ないようです。
歪曲収差
歪曲収差は広角単焦点レンズとしては及第点で、現代的な高性能レンズと比較すると少々大きめと言ったレベルですが、このようにほんのり歪曲収差が残る方が広角レンズらしい描写で私としては好みです。
倍率色収差
倍率色収差は若干大きめですが、この収差は絞り込むとよく目立つものです。一方、このレンズは開放FnoがF3.2と暗めですから実用上絞り込む機会も少な目でしょうから気になりづらいでしょう。
このあたりの点は、お値段、サイズ、仕様に対する設定の妙が現れます。いかにもPENTAXらしい玄人っぽい選定です。
横収差
左タンジェンシャル、右サジタル
横収差として見てみましょう。
Fnoが控えめですからレンズ構成枚数の少なさの割に全体的に収差はおとなしい雰囲気となります。
タンジェンシャル方向の中間像高7.8mmあたりでのコマ収差が少し気になる程度でしょうが、このコマ収差は大きめの倍率色収差による強い色滲みを拡散させるためにあえて残しているようです。
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スポットダイアグラム
スポットスケール±0.2(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
懸念していた倍率色収差は、横収差の方で見るとg線(青)にコマ収差を残すことで拡散させているようで、結果的にスポット像で見ると集光作用を弱めているようです。
画面隅でのV字感は強いですが、星などの輝点を故意に隅に入れなければどうと言うことはありません。
スポットスケール±0.07(詳細)
MTF
開放絞りF3.2
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
球面収差の通り、画面中心から中間部に至っては高い特性にまとまっています。周辺部ではそれなりに低下するものの実用上十分で画面全域の平坦性も良さそうです。
小絞りF5.6
絞り込むと山は高くなるもの周辺部がマイナス側へ移動するようです。絞った分の解像度の改善効果は得られるものの注意が必要です。
総評
Fnoも控えめで手ごろなレンズですが、Limitedらしい絶妙なバランス感の設計で近年の巨砲主義を反省したくなる製品でした。
この軽妙かつ端正なレンズならば、ピント精度や深度のコントロールに悩む必要がなく、気負わない真のスナップ撮影が楽しめることでしょう。
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
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作例・サンプルギャラリー
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製品仕様表
製品仕様一覧表 HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited
画角 | 68度 |
レンズ構成 | 5群8枚 |
最小絞り | F22 |
最短撮影距離 | 0.2m |
フィルタ径 | 43または49mm |
全長 | 25mm |
最大径 | 63mm |
重量 | 134g |
発売日 | 2013年9月20日 |