この記事では、シグマの一眼レフカメラ用の交換レンズである大口径中望遠レンズ 85mm F1.4 DG HSMの歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真をお探しの方は、記事末尾にありますのでこのリンクで移動されると便利です。
レンズの概要
各社のマウントに対応した製品を販売する老舗レンズメーカーのひとつSIGMAは、2012年より「怒涛の超高性能Art」「超快速超望遠Sports」「小型万能なContemporary」と、わかりやすい3つのシリーズで製品を分類し構成しています。
その中でもArt(アート)シリーズは、超高性能を前提に金属部品を多用した高剛性、かつ端正なデザインの重厚長大なフラッグシップレンズです。
本項で紹介するSIGMA Art 85mm F1.4 DG HSMは、Artシリーズ開始時期しばらく経過した2016年に発売の製品となりますので、Artシリーズのコンセプトに対して完全にブレが無くなり、純粋に性能だけを追求するという真の狙いが具現化されたかのような、重厚な質感と高い解像性能を備えたレンズです。
焦点距離85mmの用途と言えば、当然ポートレート用レンズと察しますが、メーカー公式HPでのこのレンズの説明には「究極のポートレートレンズ」と自ら書き切っており、まさに高性能に対する強い自負を感じますね。
なおこのレンズは、各社マウントに対応した専用モデルがありますが、一眼レフカメラ用のマウントの製品はマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。
文献調査
さて特許文献を調べると現代の製品なので関連すると思われる特許が簡単に見つかりました。断面図の雰囲気から特開2018-5099実施例4が製品に見た目で近いので設計値と仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSIGMA Art 85 F1.4の光路図です。
レンズの構成は12群14枚、最も撮像素子に近い最終レンズに非球面を配置することで球面収差と像面湾曲を同時に補正し、色収差を良好に補正するための特殊低分散材料も2枚配置しています。
まるで少し昔の半導体露光装置の光学系(ステッパー)のような恐ろしい見た目です…
空間の広く空いた部分で光学系を前後に分けて見ると、被写体側(左)にもダブルガウス型のような光学系があり、撮像素子側(右)にもダブルガウス型のような光学系が見てとれる形状をしています。
前後の2組のダブルガウス構造と言うことはダブルダブルガウス?クワッドガウス?と呼ぶべきなのでしょうか?
なお、ガウス!ガウス!と連呼してしまいましたが、何の事かと思われた方は以下のリンクにまとめてありますので、ぜひご参照いただきたいと思います。
関連記事:ダブルガウスレンズ 黎明期編
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。