この記事では、シグマの一眼レフカメラ用の交換レンズである大口径中望遠レンズ 105mm F1.4 DG HSMの歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
レンズの概要
各社のマウントに対応した製品を販売する老舗レンズメーカーのひとつSIGMAは、2012年より「怒涛の超高性能Art」「超快速超望遠Sports」「小型万能なContemporary」と、わかりやすい3つのシリーズで製品を分類し構成しています。
その中でもArt(アート)シリーズは、超高性能を前提に金属部品を多用した高剛性、かつ端正なデザインの重厚長大なフラッグシップレンズです。
本項で紹介する105mm F1.4 DG HSM Artは大口径中望遠レンズでありながら極めて高い解像性能を誇るレンズです。
さらに、SIGMAが誇るArt大口径単焦点シリーズのなかでもSIGMA自身が「BOKEH-MASTER」との別名を付けるほどのレンズです。(ぼけますたー、と読みます)
大口径レンズによる像のにじみをボケと呼び愛でる文化は日本発祥で「世界共通でボケ(BOKEH)と言われるのだ」と聞いたことがあります。
外国人の知人がおりませんので真実なのかわかりませんが…
なおこのレンズは、各社マウントに対応した専用モデルがありますが、一眼レフカメラ用のマウントの製品はマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。
このSIGMA 105mm F1.4は、高い描写性能ゆえに注意すべき点も多いレンズです。
まず、1.6Kgとかなりの重量であるため「三脚座」が付属します。
一般的にレンズの三脚座が付属する理由は、カメラよりもレンズが重いと三脚に据えたさいにマウント部分が痛んでしまうため、レンズ側で三脚に固定できるように用意されています。
三脚座が付属するレンズは、できるだけレンズ側を持って保持するように心がけてください。
続いて、フィルターサイズにも留意してください。
このレンズのフィルターサイズはφ105mmと特大サイズです。
一般的なレンズのフィルターサイズの最大はφ82mmでこれでもだいぶ限られたレンズのみが採用しており、φ82mmフィルターでもかなり高価です。
それを上回るサイズですから、とても高価ですし、フィルターの種類も限られてきます。
普通のメーカーでしたら、できるだけ軽量でフィルターサイズもφ82mm以内で設計するために少し性能あるいは仕様を妥協するわけですが、SIGMAのArtシリーズにはそのような忖度はありません。
以上のようにあらゆる意味で妥協の無い最高の105mmレンズをしっかり分析して参りましょう。
文献調査
さて特許文献を調べると現代の製品なので関連すると思われる特許が簡単に見つかりました。断面図の雰囲気から特開2019-144477実施例1が製品に見た目で近いので設計値と仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSIGMA Art 105 F1.4の光路図です。
レンズの構成は12群17枚、最も撮像素子に近い最終玉に非球面レンズを配置し球面収差と像面湾曲を同時に補正し、色収差を良好に補正するための特殊低分散材料を5枚も配置しています。
これだけの枚数ともなると、どのように形状を形容すべきなのか、難しい問題です。
あえて言うと、基本的な中望遠的なレイアウトが二重になっているというのか、大きな中望遠のなかに小さな中望遠と言うか…じっと見つめると何か錯視の絵を見ているような錯覚を起こしてしまいます。
現代の光学設計はコンピュータを使い最適化法というプログラムで答えを求めるのですが、あくまで初期値の近くにある「少し良い答えを出す」そんなレベルの物です。
そして、レンズの枚数が増えるほど答えの候補(組み合わせ)が膨大な数になりますから、計算時間も増大します。
コンピュータで最適化しているのに不思議に思われるかもしれませんが、これだけの多枚数のレンズ設計ともなると熟練の設計者でなければすぐにコントール不能に陥りまともな答えを得ることも難しいのです。
レンズの設計はコンピュータがアシストしてくれるとは言え、設計者が信念をもって導かねば適切な答えにはたどり着くことはできません。
また、レンズ枚数が多ければ設計自由度が高まり高度な収差補正が可能になるわけですが、製造誤差の要素数が増えるので発売までの苦労はかけ算で増大します。SIGMAの中の人もたぶん大変だったでしょう。
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。