レンズ分析

【レンズ性能評価】PENTAX AUTO 110 24mm F2.8 & 50mm F2.8 -分析104

かつてペンタックスが販売していた世界最小レンズ交換式一眼レフカメラ オート 110 システムの標準レンズ24mm F2.8と、中望遠レンズ50mm F2.8の性能分析・レビュー記事です。


さて、レンズの仕組みやその性能は一体どう違うのか、具体的な違いがほとんどよくわかりませんよね。

雑誌やネットで調べても似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな記事ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析します。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。

それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

110フィルムとは

初めにカメラの名称ともなっている「110フィルム」から解説します。

一般に「ワンテンフィルム」と呼ばれ、35mm版(フルサイズ)の1/4ほどの小さなフォーマットのフィルムです。

1972年始まったフィルムフォーマットで、フィルムがすべてカートリッジ内に収まる構造で、初心者や子供にも扱いやすいことから、トイカメラにも多く採用されていました。

1990年代には、110フィルムの製造を終了するメーカーが現れ始めましたが、執筆現在(2022年)ではロモグラフィー社が供給を続けているそうです。

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さて、本題のPENTAX AUTO 110は、1979年に発売されました。

名前にある通り、110フィルムを採用したレンズ交換式の一眼レフカメラです。

PENTAXは、このAUTO 110を開発することで35mm版中判(ブローニー版)、110APSの主要な全てのフィルムフォーマットで一眼レフカメラを製造販売した唯一のメーカーと言えます。

PENTAXの一眼レフカメラに対する執念を感じる、まさに偉業ですね。

AUTO 110 レンズラインナップ

110フィルムを採用したカメラは、各社から色々なタイプのカメラが販売されましたが、一眼レフカメラスタイルで交換レンズまで一式取りそろえているのは本記事で紹介するPENTAXのAUTO 110だけでしょう。

まずは、AUTO 110に用意されたレンズラインナップを紹介します。

  • 広角 18mm F2.8
  • パンフォーカス 18mm F2.8
  • 標準 24mm F2.8本記事
  • 中望遠 50mm F2.8本記事
  • 望遠 70mm F2.8
  • ズーム 20-40mm F2.8

この小さなカメラに6種ものレンズが用意されました。

さらにAUTO 110システムにはレンズ以外にも、フィルムを自動で巻き上げるワインダーや、ストロボ(フラッシュ)などシステムカメラとして一通りのアクセサリーが用意されています。

本記事では、標準レンズ24mm F2.8と望遠レンズ50mm F2.8の2本を一緒に分析します。

標準レンズ24mm F2.8

35mm版フィルム(現代のフルサイズ)における標準レンズは焦点距離が50mmのレンズを指しますが、AUTO 110の場合は焦点距離24mmが標準レンズとなります。

これはフィルムサイズが、35mm版フィルムの縦横に約半分のサイズであるためです。

レンズの大きさや焦点距離は、撮像素子(フィルム)のサイズにより比例した関係となるため、小さい撮像素子ならば焦点距離も小さくなります。

コンパクトデジタルカメラで表記される換算焦点距離で表現するとわかりやすいでしょうから換算表現をしてみます。

AUTO 110 24mmのフルサイズ換算の焦点距離は48mmです。

換算48mm F2.8の仕様となるのですから、ちょうど標準レンズと同じ関係になるわけです。

換算焦点距離などについて詳しくはこちらの記事をご覧ください

 関連記事:センサーサイズとレンズサイズ

中望遠レンズ50mm F2.8

今回は、さらにもう1本、中望遠レンズ50mm F2.8もまとめて分析します。

こちらの中望遠50mm F2.8のフルサイズ換算の焦点距離は100mm F2.8になります。

ポートレートなどに向いたFnoの明るい中望遠レンズですね。

私的回顧録

『ちいさなフィルム』

2000年以前のカメラの記録媒体には主に「フィルム」が使われていました。

大雑把にフィルムを説明しますと、プラスチックの細長いシート状の基材に光に反応する薬品を塗布しておき、カメラへ装填します。

そして、カメラによりフィルムへ光を当てることで化学的に被写体像を写し込む、とてもアナログな方法で撮影する仕掛けです。

撮影の終わったフィルムには「現像」という化学処理を施し、ネガフィルムの状態を作ります、さらに印画紙へ「プリント」処理することでようやく写真として見ることができるようになります。

このフィルムですが、規格だけでもいくつもの種類が存在します。

最も普及したのが35mm版(ライカ版)サイズで、現代のデジタルカメラでは「フルサイズ」の名称で残っています。

今回は、35mm版よりも「小さなフィルムサイズ」を比較してみました。

APS

APS(Advanced Photo System)フィルムは、時代的には最も後発で1996年に販売が開始されました。

同じ規格のフィルムですが3種類のサイズを選択して使うことが可能です。

APSフィルムの全域を使うのがAPS-Hサイズ(縦横比9:16)で、一回り小さいのがAPS-C(縦横比2:3)、Hサイズの上下をカットし横長にしたのがパノラマとなります。

1990年代にパノラマ写真が流行りましたが、上下をトリミングしたプリントとも言えるので、画質的には何か損をしているような不思議な気持ちになるものでした。

現代、APSフィルムの製造は完全に途絶えてしまいました。カートリッジの構造が複雑なので今後の再販も難しいでしょう。

そしてAPSフィルムは、現代のデジタルカメラに「APS-Cサイズ」としてその名称だけが儚く残りました。

ハーフサイズ

ハーフサイズのフィルムは35mm版(フルサイズ)と同じですが「縦半分に露光」することで、撮影枚数を2倍にできる仕組みです。

一般的なハーフサイズカメラは、普通にカメラを構えると縦構図になります。

フィルムサイズ的にはAPS-Cサイズとおよそ同じなので、35mm版ほどではありませんが高画質が得られます。

フィルムを小さく使うためレンズが小さくて済み、そのためカメラも独特の形状をしている物が多く、未だに愛好家の方が多くいらっしゃいますね。

ちなみに2009年からOLYMPUS(現OMデジタル)のミラーレスカメラ「PEN」が発売されましたが、これは1960年代のハーフサイズ一眼レフカメラのOLYMPUS PEN Fをオマージュしたものです。

また最近、驚いたことにコダックからハーフサイズのカメラが新たに発売されました。

110(ワンテン)

記事の冒頭で紹介しています110フィルムは、各種フィルム規格の中でもかなり小さい規格であることがおわかりでしょう、面積的には35mm版の1/4ほどです。

110フィルムは、カートリッジに収められフィルム交換が容易など先見性の高い構造に見えますが、1970年代のフィルム技術では引き延ばし倍率が高いため画質低下の点で厳しく、徐々にトイカメラ用のフィルムとなってしまったのが早期衰退の大きな要因でしょうか…

一方で現代、高画質過ぎるデジタルカメラに対する反動なのか、110フィルムを再び愛用する方がおられフィルムが復刻されているのもカメラ文化の面白いところですね。


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文献調査

1970年代前半の特許は電子化されている物も多いのですが、画質も悪く調査が難しく難航しました。

しかし、海外のPENTAX愛好家サイトを調べた結果、特開昭54-099429の実施例2が24mm F2.8、特開昭5-111914の実施例2が50mm F2.8と推定できました。

これを製品化したと仮定し、今回は2本まとめて設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。


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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図の左側がPENTAX AUTO 110の標準レンズ24mm F2.8(青字)、右側が中望遠レンズ50mm F2.8(赤字)の光路図になります。

標準レンズ24mm F2.8は、5群6枚構成で一般的な標準レンズに採用される「ダブルガウス」的で、レンズ中央に2枚の凹レンズを配置しています。ところが、第1レンズは負レンズであり、広角レンズ風な面影を持っています。

この不思議な構成には理由があり、PENTAX AUTO 110レンズに共通した特殊な構造が関係しています。

その特殊な構造とは「絞りが撮像素子側に配置されている」ことです。

写真の中央部レンズマウントの内側に見える2枚の黒いシート状の部品が重なっていますが、これが絞りの役割をしています。

一般に、絞りはレンズの中央あたりにあることが好ましいのですが、AUTO 110のレンズはあまり鏡胴の小ささにレンズ内へ絞りを搭載することが難しく、絞りがカメラ本体側に配置されているのです。

参考にこちらが典型的なダブルガウスの例(NIKKOR 50mm F1.8D)です。

レンズの撮像素子側に絞りを付ける構造は、コンパクトカメラなどでされることがあった方式で「ビハインド絞り」型と言われます。

絞りを本体側に配置しますと、レンズとしては小さくできますが、大きなデメリットが発生します

一眼レフ用レンズにはミラーやシャッターを配置するためにレンズと撮像素子の間隔であるバックフォーカスを長く取らなければならない課題がありますが、そこへさらに「絞りを入れるスペース」も確保するデメリットが追加で発生します。

改めてAUTO 110のバックフォーカスを見ると、通常のダブルガウスレンズよりも大きく距離を空けていることがわかります。

この距離を空ける対策のために、第一レンズを負レンズとしたレトロフォーカス調の構成とし、通常よりも長いバックフォーカスを確保したものと推測されます。

一方の右図の中望遠レンズ50mm F2.8は、5群5枚構成でやはり絞りを撮像素子側に配置されています。

こちらは中望遠レンズなので焦点距離的にバックフォーカスを長く取れるため、レンズの形に違和感はありませんが、絞りが撮像素子側にありますと被写体側レンズ(前玉)のサイズが大きくなりやすいのが難点です。

しかし、AUTO 110は撮像素子が小さくシステム的に全体に小さいため、製品としては小さくまとまっています。

縦収差

左側は標準レンズ24mm F2.8(青字)、右側は中望遠レンズ50mm F2.8(赤字)

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、24mm F2.8の方はFnoからすると少し大き目にマイナス側へ膨らんでいます。

標準レンズの常套句とも言えるダブルガウスタイプが採用できないため収差補正に苦しんだのでしょう

50mm F2.8はバックフォーカス問題の影響が少ないためか適度に補正されているようです。

軸上色収差は、2本供に同時代のレンズ比較してもさほど遜色ないレベルに補正されています。

像面湾曲

像面湾曲は、50mm F2.8の方はFnoからするとかなり大きな曲がりが残ります。

焦点距離的にも像面湾曲があまり大きくならないとは言え、50mmの綺麗さが際立ちますね。

歪曲収差

歪曲収差は、24mm F2.8は同程度のダブルガウスタイプと同じでマイナス側に最大2%程度発生しています。いわゆる樽型に少し歪みます

50mm F2.8は中望遠で歪曲収差が少ない仕様とは言えど少々過剰なまでに補正されているようです。

倍率色収差

左側は標準レンズ24mm F2.8(青字)、右側は中望遠レンズ50mm F2.8(赤字)

倍率色収差は、24mm F2.8を見るとグラフで上端(画面の隅側)で急激に大きくなる傾向です。50mm F2.8は画面の中間部から平均的に収差が残るようです。

横収差

左側が標準レンズ24mm F2.8(青字)、右側は中望遠レンズ50mm F2.8(赤字)

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、24mm F2.8の画面中央の像高3mmあたりから非対称なコマ収差が残ります。50mmも量は少ないながらも画面の中間部の像高6mmあたりからコマ収差が残ります。

右列サジタル方向は、F2.8と少し控えめなこともあり、当時代のレンズと比較しても大きいと言うほどでは無さそうです。


記事の途中ですが、この冬の撮影用グローブの準備はお済でしょうか?

スポットダイアグラム

左側は標準レンズ24mm F2.8(青字)、右側は中望遠レンズ50mm F2.8(赤字)

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

全体にスポットサイズは大き目ですが、色ごとのズレや形状のいびつさは思ったほどでも無く、画面中間部の6mmまでは十分な解像度が期待できそうです。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

このスケール設定は、現代の超高性能レンズ用に用意しているものなので、この時代のレンズには過酷な評価です。

MTF

左側は標準レンズ24mm F2.8(青字)、右側は中望遠レンズ50mm F2.8(赤字)

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、標準24mm F2.8は、なかなかしっかりと高い山になっています。

しかし、画面中間の像高6mmあたりからの山の位置のずれが少々大き目でズレが残ります。

50mm F2.8は、特別に山が高いわけではありませんが、全体に位置が一致しており、画面全域で均質な解像度が期待できそうです。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

絞り込むと両方ともしっかり山の高さが改善します。110フィルムの解像度からすると十分でしょう。

総評

世界最小のレンズ交換式一眼レフカメラ PENTAX AUTO 110は、ミニチュア的なオモチャカメラではなく、PENTAXらしい創意工夫に富んだ逸品でした。

しかし、AUTO 110発売以降の歴史を振り返ると、残念ながら2世代目の機種の販売で終了となりました。

35mm版フィルムの技術が進歩し、小型化や自動化が進んだことで、画質的に厳しい110フィルムカメラはその役割を終えたのです。

軽さや簡便さの点では、後発のレンズ付きフィルム「写ルンです」の影響も大きかったのかもしれません。

そして時は流れ、かつての110フィルムを知る世代の記憶も薄らいできた30年後の2011年、AUTO 110のコンセプトを引き継いだかのような「PENTAX Q」が発売されています。

粋を知るPENTAX開発者には「畏敬の念を禁じ得ない」そんな気持ちになりますね。

なお、PENTAX Qについては過去に分析を行っておりますのでこちらの記事をご参照ください。

 関連記事:PENTAX Q 01 STANDARD PRIME


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製品仕様表

製品仕様一覧表 PENTAX AUTO 110 24mm F2.8 & 50mm F2.8

24mm F2.850mm F2.8
画角48.5度24.4度
レンズ構成5群6枚5群5枚
最小絞りF16F16
最短撮影距離0.35m0.9m
フィルタ径25.5mm37.5mm
全長----
最大径----
重量
発売日1979年3月1979年3月

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