レンズ分析

【レンズ性能評価】PENTAX Q 01 STANDARD PRIME -分析103

ペンタックス Qマウント用の交換レンズより、大口径標準レンズ 01 スタンダード プライムの性能分析・レビュー記事です。

さて、レンズの仕組みやその性能は一体どう違うのか、具体的な違いがほとんどよくわかりませんよね。

雑誌やネットで調べても似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな記事ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析します。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。

それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

PENTAX Qとは、2011年から発売されたQマウントを備えるレンズ交換式ミラーレスカメラシステムです。

まずは、カメラ本体のラインナップから紹介します。

カメララインナップ

PENTAX Qシリーズは、大きく分けると撮像素子の異なる2系統のモデルが存在します。

PENTAX Q系

2011年から発売された最初のシリーズで1/2.3インチ型の撮像素子を備えたカメラです。

様々なカラーバリエーションのモデルやコラボモデルなどが存在し、後継機にQ10があります。

PENTAX Q7系

2013年から発売、1/1.7インチ型の撮像素子へサイズアップした上位モデル。

オーダーカラーという選択式のカラーバリエーションサービスが存在し、パーツごとに好きな配色を選択でき、その組み合わせは120種にも至るそうです。

後にはQシリーズとしては最終モデルであるQ-S1を2014年に発売しました。

撮像素子(CMOSセンサー)

Qシリーズの撮像素子は、1/2.3インチ型と1/1.7インチ型の2種類で展開されていました。

このサイズの撮像素子は、当時の多くのコンパクトデジタルカメラに利用されていたものです。

撮像素子のサイズをフルサイズ(35mm版)と比較しました。

このような小型な電子撮像素子の名称は逆数表記なため、1/1.7型の方が撮像素子サイズとしては大きいことにご注意ください。

どちらもフルサイズに比較するとだいぶ小さいセンサーで、現在(2022年)ではスマートフォンのカメラ用に採用されている事が多いサイズです。

レンズラインナップ

全8本のレンズが存在しますが、ユニークレンズシリーズと高性能レンズシリーズの2系統に分かれています。

ユニークレンズシリーズ

製品名焦点距離Fnoフルサイズ換算焦点距離
03 FISH EYE3.2mmF5.615mm
04 TOY LENS WIDE6.3mmF7.129mm
05 TOY LENS TELE18mmF8.083mm
07 MOUNT SHIELD LENS11.5mmF9.053mm

ユニークレンズとはFISH EYE(魚眼)やトイカメラ風など、遊び心のあるレンズをラインナップしています。

フルサイズ換算焦点距離はQ7系カメラの場合を記載しております。

高性能レンズシリーズ

製品名焦点距離Fnoフルサイズ換算焦点距離
01 STANDARD PRIME当記事8.5mmF1.939mm
02 STANDARD ZOOM5-15mmF2.8-4.523-69mm
06 TELEPHOTO ZOOM15-45mmF2.869-206mm
08 WIDE ZOOM3.8-5.9mmF3.7-7.017-27mm

高性能レンズシリーズとは、一般の安価なセット販売レンズよりも一段上の明るいFno仕様で、かつ高性能なレンズです。

今回の記事では、高性能レンズシリーズの中でも最大口径となる01 STANDARD PRIMEを分析します。

私的回顧録

『デジカメ黄金期』

デジタルカメラの販売台数の黄金期はコンパクトカメラが絶頂を極めた2008年ごろから踊り場に達し、2010年以降は衰退を始めます。

今回の記事で取り上げるPENTAX Qシリーズの生まれた2011年ごろは、カメラの売上は減少が見え始めたとはいえ、まだ膨大な台数が販売されておりました。

当時のカメラ市場としては、台数減あるもののコンパクト型からデジタル一眼レフへのシフトとも受け止められたので、まだ深刻さや悲壮感は無かったと思います。

ただし、各社ともにコンパクトカメラ依存からの脱却を図ろうとしたのか、実に様々な機種が生まれ淘汰された時期でもあり、思い起こせばカメラファンには楽しい時代でもありました。

PENTAX Qもそんなカメラのひとつでありましたが、時を同じく2011年あたりから始まった各社の代表的な製品を思い出してみましょう。

SONY Eマウント α NEXシリーズ

2010年、SONY Eマウントを初搭載したNEX-3が発売されています。この規格は当初APS-Cサイズの撮像素子用と思われましたが、後に機能を拡張しフルサイズ対応を果たしました。

NEXの名は廃止されてしましたが、Eマウント自体は存続し現在のSONYフルサイズミラーレス α7シリーズへ繋がります。

2022年現在の視点で見ると、最も成功した事例でしょうか。

NIKON 1シリーズ

2011年、NIKON初のミラーレスカメラ 1(ワン)シリーズの初代NIKON 1Vが発売されています。

マイクロフォーサーズよりもわずかに小さい特殊なサイズの撮像素子を採用し、像面位相差オートフォーカスを一早く採用することで当時のミラーレスカメラとしては高速なオートフォーカスを実現したカメラシステムでした。

本格的な交換レンズも10種類以上の販売されていましたが、その後に発売されたNIKONミラーレスZシリーズの誕生した2018年にひっそりとホームページから消えたそうです。

SAMSUNG NXシリーズ

2010年、韓国SAMSUNGからAPS-Cサイズの撮像素子を採用したミラーレスカメラが初めて発売されています。

ご存じない方が多いと思いますが、この時代のコンパクトカメラ世界市場を見ると、SAMSUNGのカメラは日系メーカーと比肩する規模で売れていました。

日本国内では国産品が安く、また性能的にも高いため、SAMSUNG製品はほとんど販売されていませんでしたから意外に思う方も多いでしょう。

しかし、海外の販売店の売り場を見ると、日系メーカーと遜色ない販売面積を占有していましたし、売り上げ的にも日系メーカーと並ぶ規模でした。

そして、SAMSUNGは、本格的なミラーレスカメラ市場での地位の確立に打って出たのですが、市場に受け入れられなかったようで2016年ごろにはカメラ事業から撤退したようです。

なお、2010年ごろのSAMSUNGはまさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」で、日本にも大規模なカメラ関連の研究開発拠点を設立し、大量にヘッドハンティングを行い、私も何度かメールなどを受け取りました。

その後、数年で事業撤退しているわけですから「目先の金に釣られて行かなくて本当に良かった」と、時折ふと思い出します。

さて、そろそろ本題のPENTAX Q 01 STANDARD PRIMEの分析へ移りましょう。


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文献調査

Wikipediaに記載されている情報によれば、Qシリーズのいくつかのレンズは日本電産コパルのOEMとも書かれています。

実際に当時のPENTAXの特許を調べると、01 STANDARD PRIMEと02 STANDARD ZOOMらしき文献は発見できました。

一方で、その他のレンズは発見に至らなかったので、後日コパルなどの調査も行いたいと思います。

さて、発見した特開2012-26248見るとこれは明らかに実施例1は01 STANDARD PRIMEと同じ構成を示しておりますので実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。


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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

このレンズは、フルサイズに比較すると小さな撮像素子ですが、性能評価グラフのスケールをフルサイズと比較可能なように変更してあります。

もしも「フルサイズで同じ設計をしたらこうなる」という見方ができるようにしてあります。

Qシリーズのレンズは撮像素子の異なる2種類のカメラがあるため両方のカメラでの性能を確認できるようデータを作成しました。

以下の図では左側が1/2.3インチ型(Q系カメラ)、右側が1/1.7インチ型(Q7系カメラ)となります。

光路図

上図がPENTAX Q 01 STANDARD PRIMEの光路図になります。

5群8枚構成、球面収差や像面湾曲の補正に効果的な非球面レンズは2枚採用されています。

Q7系の方が撮像素子が大きいため、レンズの全域を使い全ての性能を使っていることになります。

小さな撮像素子であるため実際の差焦点距離は8.5mmとなります。

カメラ本体をQ系を利用した場合、フルサイズ換算の焦点距離47mmとなり、Q7系カメラなら換算の焦点距離39mmとなります。

換算焦点距離でおよそ40mmなら、フルサイズカメラ用レンズでよくあるのは、F2.8のパンケーキタイプのレンズでしょうが、このQのPRIMEレンズはF1.9ですから1段以上明るい仕様で、PRIMEの意味が確かにわかります。

このレンズは、標準域の大口径レンズですが、ダブルガウスタイプの50mm F1.8かと思いきや少々趣きが異なります。

下図は過去に分析したNIKKOR 50mm F1.8Dで典型的ダブルガウスタイプのお手本です。

Q PRIMEレンズとの大きな違いにお気づきでしょうか?

ダブルガウスタイプのレンズは、撮像素子に対してかなり角度ついた光線が斜めに入射しています。

一方のQ PRIMEレンズは撮像素子に対してほぼ垂直に光が入射しています。

このように垂直に光を射出する光学系をテレセントリック光学系と言い、小さく高画素な撮像素子ほどそのテレセントリック性が重要視されます。

Q PRIMEレンズは、小さな撮像素子に対しても高画質を得られるよう、しっかりとした対策が施されていることがわかります。

縦収差

左側が1/2.3インチ型(Q系カメラ)、右側が1/1.7インチ型(Q7系カメラ)

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、球面収差は画面のど中心の特性ですから左右の図ともに同じです。

基準光線であるd線(黄色)を見ると、ほとんど直線で、いわゆるダブルガウスタイプとは一線を画す高性能です。

あの小さなレンズ筐体に非球面レンズを2枚も採用することで高性能を実現しています。

軸上色収差は、大口径ゆえに少々補正残りがあるようですが大きさとのバランスや実用性を考えると妥当でしょう。

例えば似た仕様ならNIKKOR Z 50mm F1.8などをご覧いただくと、構成の違いと異常な高性能に驚かれるかもしれません。

像面湾曲

像面湾曲は1/2.3インチ型のQ(左図)ではかなり整っていることがわかりますが、1.7インチ型のQ7(右図)では画面の隅にあたるグラフの上端部ではズレが大きくなってきます。

これは撮像素子が1/1.7インチ型の方が大きいためですね。

歪曲収差

歪曲収差は、標準画角にしては少々大きいようですが、画像処理による補正を前提としたシステムなのではないかと推測されます。

倍率色収差

左側が1/2.3インチ型(Q系カメラ)、右側が1/1.7インチ型(Q7系カメラ)

倍率色収差も像面湾曲と同じく、1/1.7インチ型のQ7の方が撮像素子サイズが大きいためグラフの上端での曲がりが大きいことがわかります。

全体に補正残りが大きめですが、歪曲収差を画像処理で補正しているとすれば倍率色収差も同じ原理で補正できるため、倍率色収差の補正はカメラの画像処理にある程度任せているシステム設計と推測されます。

横収差

左側が1/2.3インチ型(Q系カメラ)、右側が1/1.7インチ型(Q7系カメラ)

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

特筆すべきは右列サジタル方向の収差がとてもよく抑えられています。

一般的なダブルガウスタイプでは不可能なレベルに抑えています。非球面レンズの使い方が非常に効率的なのではないかと推測されます。


記事の途中ですが、カメラマンは眼が命です。眼精疲労を感じたらこちらはいかがでしょうか?

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

左側が1/2.3インチ型(Q系カメラ)、右側が1/1.7インチ型(Q7系カメラ)

F1.9の大口径の割に標準スケールでは十分に補正されています。

横収差でのサジタル方向の収差が少ない効果で、画面の周辺部の像高まで全体に丸みをおびた美しい形状のスポットですね。

小さな撮像素子を使うとどうしても「ボケ」は減ってしまいますので、そのような環境でも美しい写りを追求していたことが滲み出ています。

スポットスケール±0.1(詳細)

こちらはスケールを変更し、拡大したスポットダイアグラムの様子です。

MTF

左側が1/2.3インチ型(Q系カメラ)、右側が1/1.7インチ型(Q7系カメラ)

開放絞りF1.9

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、現代の超高性能レンズには劣るかもしれませんが、味がありながら画面全域で解像度も十分得られる特性を示しています。

古き良き時代の50mm F1.8 ダブルガウスとは違う「PRIME」の責務を感じます。

1/1.7インチ型の撮像素子の大きなQ7(右図)は、画面隅の特性を示す赤線のグラフを見ると像面湾曲の変動で山の位置が変動していることがわかりますが、それなりの高さを残していますから実用性が十分にあることがわかります。

シリーズの初期段階から撮像素子の大型化も視野に設計されていたようです。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

画面全域で十分な解像度を得ることができそうです。

総評

一見すると小さくオモチャのように見えてしまうPENTAX Q 01 STANDARD PRIMEレンズですが「PRIME=最良の、極上の」と名付けられた意図は伊達ではなく、実力由縁の硬派なレンズであることがよくわかりました。

見た目に騙されず、真実を見極める目を常に養いたいものですね。

残念ながら後継機の途絶えたQシリーズですが、いつの日かまた再び会えることを星へ願い(注1)、今日の話を終えましょう。

 注1:スターレンズのPENTAXだけに

作例・サンプルギャラリー

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製品仕様表

製品仕様一覧表 PENTAX Q 01 STANDARD PRIME

画角58度
レンズ構成5群8枚
最小絞りF--
最短撮影距離0.2m
フィルタ径40.5mm
全長23mm
最大径45.5mm
重量37g
発売日2011年8月31日

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