シグマ 45mm F2.8の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
レンズの概要
SIGMA 45mm F2.8は、フルサイズミラーレス専用の小型標準単焦点レンズです。
本レンズが発売された2019年末を振り返ってみますと、この年からライカ、シグマ、パナソニックが提携し、共通マウントシステムを軸としたカメラ・レンズの販売が始められました。
この組織名称はLマウントアライアンスとされ、オールドレンズファンなら誰もが知る”Lマウント”の名に「だいぶ勘違いのざわめき」が起こったのがそろそろ懐かしい思い出です。
この中でシグマは35mmフルサイズにしては非常にコンパクトな新型カメラfpを発売し、同時に専用標準レンズ45mm F2.8も発売しました。このレンズが今回の分析対象となります。
2010年代のSIGMAレンズと言えば、2012年35mm F1.4から始まったArtシリーズが代表格となっており、そのコンセプトは大口径・高性能・重厚なことを特徴としていましたが、本レンズは本体カメラに合わせてサイズをコンパクトにまとめています。
他、近年は廃止される事の多い絞りリングを復活させるなどオールドレンズファンも意識したような機構も採用しています。
しかし45mmとは謎の焦点距離設定ですし、Fnoも2.8と近年の単焦点としては少々暗い仕様ですが、どのような特徴が隠されているのでしょうか?
私的回顧録
まず45mmと言う焦点距離は何から来ているのでしょうか?少し考察してみます。
撮影システムの標準焦点距離の決め方のひとつに「撮像素子の対角線長さと焦点距離を合わせたものにする」との考え方があります。
その考えなら35mmフルサイズセンサの対角線長は”約42mm”ですからこれに合わせたとも見れますね。
ご存じのように一般にはフルサイズ用レンズの標準は50mmとされています。これには所説ありますが「35mmカメラの始祖たるライカが最初に採用したから」説が最有力でしょう。
ではどうしてライカは標準を50mmにしたのかですが、人の目の分解能から逆算されたとか所説ありますが、残念ながら正確な記録は残っていないらしいです。
ちなみに、ライカの標準は正確には焦点距離51.6mmとされており、レンジファインダーカメラの時代は各社これに合わせていたため、その名残で現代でも各社の50mmレンズの実際の焦点距離は51.6mmになっていると聞きます。
そうするとこのSIGMA45mmレンズとの焦点距離差は6.6mm(約7mm)となり、実用上は50mmレンズと十分に異なる画角差が得られるので「あえて50mmとの差異を出そうと企画した」のかもしれません。
その他の見方としては、標準レンズは「ライカを始祖とした50mm派」と「眼の画界に近く自然な描写とされる35mm派」が対立しており、この抗争を止めるため約中間の焦点距離を標準にする「SIGMA提案するの粋な計らい」なのかもしれませんね。
初のミラーレス製品用なので撮像素子側に余裕ができ自由に設計してみたら一番バランスが良かっただけ、なのかもしれませんけど…
文献調査
現代のレンズですから検索すれば瞬時にわかります。特開2019-211703です。
本文を参照しますと単群でフォーカシングする一般的な構成と複数群でフォーカシングするフローティング構成の2種が提案されています。
SIGMA 45 F2.8製品の公式HPにはフローティングに関する記述はありませんから単群でのフォーカシング構造の実施例1を設計値と見て以下に再現します。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSIGMA 45 F2.8 の光路図です。
7群8枚構成、非球面レンズは2枚も採用されています。過去の分析記事でも紹介した通り、50mmレンズは一般的にガウスタイプと言われる構成が最も性能が良く小型で効率的になります。
このレンズを見てみると一見ガウスとはかけ離れたようにも見えますが、絞りの前後はガウスの名残らしききついカーブの凹面があります。被写体側の5枚のレンズはガウス構成の由来でしょう。撮像素子側に負の焦点距離のコンバーターを付けたような構成になっているわけです。
この撮像素子側へコンバータを配置した設計はミラーレス用特有の設計で、撮像素子側に自由な空間ができたための工夫であると想像できます。
縦収差
球面収差 軸上色収差
球面収差は一般的なガウスレンズのようなマイナス側へ膨らむフルコレクション型とは逆向きになっています。公式ホームページの説明によると「ボケを重視」したとか「クラシカルなボケ描写を目指した」とあるので、故意に通常とは逆の収差残しを行っているようです。
これは実写での検証が大変楽しみですね。
軸上色収差は現代レンズらしくほぼ完全に抑制されています。
像面湾曲
像面湾曲はグラフ上端の画面最周辺部での変動は大きめなものの中間部までは理想的に補正されています。
F2.8のこのレンズ場合、Fnoが暗めなため若干ボケ量が不足するので最周辺部の描写を甘くすることであえてボケを強調している可能性もあります。
歪曲収差
歪曲収差は珍しいことですが、若干の糸巻き形状になるようです。普通のガウスタイプのレンズは若干の樽型になります。
これも何かの視覚効果を狙っているのか?又はミラーレスタイプ特融の現象で撮像素子側の強い負レンズ群が影響しているのかもしれませんね。もしくはただの深読みしすぎかもしれませんが…
倍率色収差
倍率色収差は、現代レンズらしいきれいなまとまりです。
横収差
横収差として見てみましょう。
Fnoが暗めなこともありますが、きれいなグラフです。元々Fnoが暗いと右図のサジタル方向の収差は激減します。左図タンジェンシャル方向のグラフを見ても非球面レンズ2枚の効果で十分に補正されています。グラフ中心軸周りがきれいなので絞り込むとさらに解像性能が上がるのでしょう。
レンズフィルターのマグネット化システム誕生
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
球面収差をわざと残しているのでスポットは若干大きめのようですが、策略なのでしょう。
過去に分析した事例では3次元ハイファイ設計で有名なNIKON NIKKOR 58mm F1.4に似た考えなのかもしれません。
スポットスケール±0.1(詳細)
こちらはスケールを変更し拡大したスポットです。
サジタルコマフレアが少なく、少々独特なスポット形状をしています。
SIGMAの考えるミラーレス時代の安価レンズの味なのでしょうか。
MTF
開放絞りF2.8
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
球面収差を故意に残していますがさすがのバランスで開放からキレキレです。
小絞りF4.0
F2.8⇒F4.0なので1段絞っただけですが、ほぼ無収差レベルの高い解像度です。
総評
新生したSIGMAのミラーレス一眼カメラ「fp」専用に開発されたと言っても過言では無い45mm F2.8 DG DNは、小型軽量な筐体にカリカリの解像度を備えた、ARTシリーズともまた趣きを違えた新たな一歩を感じさせるレンズでした。
是非ともこの小粋な一本で、いぶし銀のような一枚を撮りたいものです。
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
作例
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製品仕様表
製品仕様一覧表 SIGMA 45mm F2.8 (Lマウント用)
画角 | 51.3度 |
レンズ構成 | 7群8枚 |
最小絞り | F22 |
最短撮影距離 | 0.24m |
フィルタ径 | 55mm |
全長 | 46.2mm |
最大径 | 64mm |
重量 | 215g |