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【深層解説】ニコンミラーレス用コンパクト広角レンズ NIKON NIKKOR Z 28mm F2.8 -分析133

ニコンのミラーレス用コンパクト広角レンズ NIKON NIKKOR Z 28mm F2.8の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

28mmの単焦点は、ズームレンズによって一時期は絶滅に近い状況となっていましたが、2020年以降のフルサイズミラーレスの普及と供に見直され復活させるメーカーが増えている不思議なレンズです。

 ※28mm F2.8をまとめて分析した記事でも記載

今回のNIKKOR Z 28mm F2.8もそんな1本で、大型化と高価格化の進む現代のカメラ業界においてはとても安価かつ小型なレンズで、昭和の頃を思わせる懐かしい画角とも相まってとても人気の高まっているレンズです。

また、焦点距離28mmのレンズは、APS-Cサイズのカメラで利用するとフルサイズ換算の焦点距離で約40mm相当となるため、NIKON Zマウント対応のAPS-Cカメラでは標準レンズとして利用できることも人気の秘密です。

まずは、NIKON NIKKORレンズの28mm F2.8レンズの系譜を確認してみましょう。

上記リストの上段7本のレンズはNIKONの一眼レフカメラ用のFマウントレンズ、最下段の1本だけがミラーレス一眼カメラ用のZマウントレンズです。

Fマウント用の28mm F2.8レンズは、かつて5枚レンズ構成から8枚構成までの4つタイプが存在していましたが、1990年代を最後に途絶えていました。

しかし、2021年、なんと約30年ぶりにミラーレス一眼カメラ用のZマウントレンズとして復活を果たしました。

なお、Zマウントのレンズには上位グレードの「S-Line」と、一般グレード「無銘」の2種にクラス分けされています。

「S」は「優れた:Superior」「特別な:Special」「精緻な:Sophisticated」の意味であり、製品名称の末尾にSの文字が付いています。

 例:NIKON NIKKOR Z 50mm F1.2S

S-Lineのレンズは大型で高価なぶん極めて良好に収差補正の施されたレンズシリーズで、一方の無銘レンズは小型化や軽量化を優先してほんのりと収差を残し古き良き時代の香りを残す傾向にあります。

過去には無銘シリーズのNIKKOR Z 40mm F2.0を分析したこともありましたが、収差を楽しむことができる「NIKONの良心のような滋味深いレンズ」でありました。

さて、今回の無銘レンズである28mm F2.8がどのような味を残すのか、分析して参りましょう。

なお、レンズの価格が気になる方は、下記のショッピングサイトへのリンクから最新価格を確認していただけると幸いです。

文献調査

近年のNIKONの特許は、国際公開(WO)の形でまず見つかることが多いです。

私は弁理士ではありませんので国際的な特許の仕組みに詳しいわけではありませんが、一般的に特許に関連した条約に加盟している国家間では自国で特許を出願した日を加盟国でも出願日とできるような制度などがあったりします。

NIKONほどの大企業ともなれば世界各国で特許を出願するので、国際公開としていち早く世界へ発信するのでしょう。

通常、日本で出願された特許は、出願から公開まで1年半ぐらいかかることが多いのですが、国際公開ですと不思議と少し早めに公開されるので、私としてはありがたいことこの上ない対応です。

さて、形状から推定して製品に最も近いと予測されるWO2022/071249の実施例2を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON NIKKOR Z 28mm F2.8の光路図になります。

レンズの構成は8群9枚、球面収差や像面湾曲の補正に効果的な非球面レンズを2枚も採用しています。

Fマウント時代の28mm F2.8レンズは最大でも8枚構成で、最後まで製造されていた28mm F2.8Dでは7枚構成でした。

このレンズはZマウントレンズの中でも特に安価なレンズですが、構成枚数はFマウント時代よりも多く、しかもなんと非球面レンズを2枚も採用しています。(Fマウント時代の非球面枚数はゼロ)

さて、一眼レフカメラの光学系は、ファインダーへ光を導くためのミラーを配置するスペースを開ける必要があるため、広角レンズでも全長が長く、被写体側レンズ(前玉)の口径が大きいのが特徴です。

被写体側に強い凹レンズを配置する構造をレトロフォーカス型と呼び、一眼レフカメラらしい広角レンズの特徴です。

 関連記事:NIKON Ai AF Nikkor 28mm F2.8D

一方、このレンズであるミラーレスカメラでは、ミラーが無いぶん撮像素子付近までレンズを配置できる(ショートフランジバック)ため、撮像素子側レンズ(後玉)の口径が巨大になりますが、カメラ全体としての長さや前玉は小さくなり小型化が促進されます。

これがミラーレスカメラの特徴であるショートフランジバックによる小型化効果で、さらに大口径マウントであるほどレンズの配置自由度が増しさらに高性能化あるいは小型化が進みます。

言うまでもなかったかもしれませんが、これこそ「大口径ショートフランジバックの極みZマウントの特徴」ですね。

  

さらに、フォーカシング(ピント合わせ)の構造も確認してみましょう。

下図のように2か所のユニットを移動させる方式を採用しています。

このような方式を2か所を移動させる方式を一般には「フローティングフォーカス」、NIKONでは「マルチフォーカス」と呼びます。

マルチフォーカスを採用すると、特に近接撮影時に変化する収差を効果的に補正することが可能になりますが、設計難易度が上がるだけでなく駆動源であるモーター類が2倍必要になりますから、価格に跳ね返ってしまうものです。

ところが、Zマウントのなかでも最安クラスのこのレンズへ、贅沢な2枚の非球面レンズとマルチフォーカスを搭載しているのです。

信じ難いこの行為、価格破壊?市場破壊? あるいは…

「そんなことするから経営状況が怪しくなるのだ!」と思わず苦言を呈してしまう「これは暴挙」と言っても過言ではないでしょう。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、非球面レンズが多く現代的なレンズだけあってすっきりと補正されています。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、C線(赤)は理想的なもののg線(青)は少々補正残りがあります。視感度が低いので問題にはなりづらいですが、白く高輝度な被写体には注意がいるかもしれません。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、わずかに全体にマイナス側の特性ですが、Fマウント時代のレンズに比較すれば半減しているといえます。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、画面の周辺部でマイナスに倒れる特性で、実写をすると樽型に歪みます。

Fマウントより少し大きくなっていますが、現代では画像処理により補正できるので他の収差を抑制する方針なのでしょう。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、少しはしたない感じですが歪曲収差と同様に画像処理により補正する方針なのでしょう。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、倍率色収差の影響で色ごとのズレはありますが、コマ収差(非対称性)が少なく、高解像が期待できます。

右列サジタル方向は、特別に小さいわけでもなく並み程度で、こういったところは小型化を優先している由縁と思われます。

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

全体のバランスが良いですね。Fマウント時代とは「余裕が違う」と言うべきでしょうか。

画面周辺の像高18mmあたりではサジタルコマフレアの影響でスポットが横に伸びるものの、思ったほど倍率色収差の影響は大きくはなさそうですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

この激安クラスのレンズに適用するのは少々厳しい条件です。

MTF

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると十二分な高さがあり、画面隅の像高21mm(赤線)を除けば良いバランスです。

なお、画像処理により歪曲収差を除去すると、この像高21mmあたりの領域は切り取られてしまうので、実際には目にすることはありません。

時代の先端技術に合わせて、歪曲収差や倍率色収差など残すところは残しながらも、締めるところはキッチリと締めることで、パンケーキレンズのごとき超小型化と、実用十二分の高性能を実現しているようですね。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

画面周辺の像高18mmあたりまで十分な高さになりますね。

総評

NIKON NIKKOR Z 28mm F2.8は、入門用の安価なレンズですが、2枚の非球面レンズにマルチフォーカス機構の搭載と「NIKONの経営を心配する」ほどのレンズでした。 

入門用のレンズは、見た目が簡素なので設計も簡単そうに思われがちですが、厳しいコスト制約と低い設計自由度、そして市場でヒットさせなければならない超重圧を耐えねば成し得ない、心技体その全てが試される高難易度の設計業務です。

しかも、その生み出された製品は、優れていても残念ながら雑誌やネットでも評価されることは少なく、ましては賞賛を得るようなことは滅多に無いかもしれません。

しかし、NIKONの過去の資料などを読んでおりますと、安価な入門用レンズに対してNIKONの光学設計者が共通して語る言葉があります。

「入門用レンズこそ手を抜いてはならない、入門者が初めて手にする最初のニッコールレンズは全てのニッコールを代表するからだ

ただそのまま聞いても素晴らしい言葉ですね。さすがはNIKONの光学設計者、恐れ入ります。

さらに、詳細に設計値を眺めながら改めてこの言葉を聞くと、魂が打ち震えるような感動に包まれますね。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

NIKON NIKKOR Z 28mm F2.8の作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON NIKKOR Z 28mm F2.8

画角75度
レンズ構成8群9枚
最小絞りF16
最短撮影距離--m
フィルタ径52mm
全長43mm
最大径70mm
重量155g
発売日2021年12月10日

記録メディアは、事故防止のため信頼性の高い物を使いましょう。

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