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【深層解説】ニコン中望遠Fマウントマクロの比較 NIKON Micro NIKKOR F 105mm F2.8 -分析097

ニコン Fマウント マイクロニッコールレンズ3本の比較性能分析・レビュー記事です。

Fマウント時代に発売されたMicro NIKKOR 105mm F2.8仕様の全3本をまとめて比較分析します。

  • AI Micro NIKKOR 105mm F2.8S
  • AIAF Micro NIKKOR 105mm F2.8S
  • AF-S VR Micro NIKKOR 105mm f2.8G IF-ED

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

今回分析するNIKON Micro NIKKORレンズは、他社ではマクロレンズと称される拡大撮影をするための特殊レンズになります。

まずは、NIKONのFマウントレンズから最新のZマウントに至るMicro NIKKORレンズの系譜を確認してみましよう。

焦点距離仕様ごとに発売年と構成をリストにしました。光学系を共通とする物は除いています。

◆Micro Nikkor 55mm系

Micro NIKKOR 55mm系のレンズは過去に3本を分析しました。

マクロレンズの基本的な仕組みの説明なども行っておりますのでぜひご覧ください。

◆ Micro NIKKOR 105mm系

  • New Micro NIKKOR 105mm F4 (1975) 3群5枚
  • Ai Micro NIKKOR 105mm F2.8S (1984) 9群10枚当記事
  • AiAF Micro NIKKOR 105mm F2.8S (1989) 8群9枚当記事
  • AF-S VR Micro NIKKOR 105mm F2.8G (2006) 12群14枚当記事
  • NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S (2021) 11群16枚

当記事で分析しますのは、105mm系の中でもFnoがF2.8の大口径化を達成した3本を対象としました。

◆ Micro NIKKOR 200mm系

  • Ai Micro Nikkor 200mm F4 (1979) 6群9枚
  • AiAF Micro Nikkor 200mm F4D (1993) 8群13枚

Fマウントレンズでは200mm系のMicro NIKKORレンズも存在します。

執筆現在(2022年)、まだZマウントシリーズで200mm系は発売されておりませんが是非開発していただきたいものですね。

Micro NIKKORレンズの全体を俯瞰したところで、当記事の3本の特徴をもう少し確認してみましょう。

Ai Micro NIKKOR 105mm F2.8S

1984年、105mm系では初めてF2.8の大口径化を達成したレンズです。

レンズ単体では撮影倍率(β)が0.5倍のハーフマクロの仕様ですが、AI オート接写リング PN-11使用することで撮影倍率(β)が1.0倍の等倍を超えた撮影が可能になるレンズです。

当記事では、表記の簡略化のために以下「初代レンズ」と記載します。

AiAF Micro NIKKOR 105mm F2.8S

1989年、105mm F2.8系では初めてレンズ単体で撮影倍率(β)1.0倍の等倍撮影を実現しました。

1993年にはDタイプへリニューアルし、2000年以降も販売が続くロングセラー製品となりました。

当記事では、表記の簡略化のために以下「二代目レンズ」と記載します。

AF-S VR Micro NIKKOR 105mm F2.8G

2006年、105mm F2.8系では初めて手振れ補正(VR)機能の搭載を実現しました。

また、光学系の構成も大幅に変更し、近距離撮影時にレンズが被写体側へ飛び出さない全長固定タイプとなったことも大きな変更点です。

Fマウント105mmでは最後のMicro NIKKORレンズとなりました。

当記事では、表記の簡略化のために以下「三代目レンズ」と記載します。

私的回顧録

『3本目のレンズ』

マニュアルフォーカス時代の一眼レフには、決まって焦点距離50mmの標準レンズがセットで販売されていました。

一眼レフ黎明期からズームレンズはありましたが、性能的に一段下に見られていたことと、50mmレンズは価格が安かったためでしょう。

オートフォーカス化が進んだ1990年代ともなると、ズームレンズが一般的となり焦点距離28-80mm F3.5-5.6あたりがセットされていたと記憶しています。

最初に手にする「1本目のレンズ」は、当然ながら標準レンズか標準ズームレンズが大多数であったわけです。

続く「2本目のレンズ」は定番が決まっており、多くの人が安価な望遠レンズを購入するのが一般的でした。

運動会など家庭内のイベントにおいて、お父さんの立場を確固たる物にするマストアイテムであったのです。

2010年あたりのAPS-Cサイズのデジタル一眼レフカメラの興隆期には、ダブルズームキットと言って標準ズーム(18-55mm)と望遠ズーム(55-200mm)がセットになった商品が飛ぶように売れていました。

問題は「3本目のレンズ」で、ここからは様々なパターンに分岐します。

近年はズームレンズが一般的となりすぎて、逆に焦点距離50mmあたりの標準レンズが3本目となる方も多いそうです。

しかし、山岳写真などに興味のある方は広角レンズが気になるかもしれませんし、ポートレート派は大口径中望遠でしょうか、花や昆虫などの撮影をしたい方はマクロレンズでしょうか。

あなたの「3本目のレンズ」は何だったでしょうか?

実は私の3本目のレンズは、NIKKORではありませんでしたが90mm Macroでした。そのためMacroには思い入れが強く今回は3本まとめて分析した次第です。

文献調査

さて、今回は3本まとめて分析となりますので、文献の紹介は少々簡素に行いましょう。

初代レンズは、特開昭56-107210の挿絵から実施例1を製品化したと仮定します。

二代目レンズは、特開平2-19814に色々なパターンの実施例が記載されていますが、NIKONの設計者自身が製品の思い出を解説する「ニッコール千夜一夜物語」で構造が語られており、移動レンズ群の解説から実施例5を製品化したと仮定します。

三代目レンズは、特開2006-106112の挿絵から実施例3を製品化したと仮定します。

それではそれぞれの情報を元に設計値として再現してみましょう。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

各図の配置は、以下のようになります。
 左:AI Micro NIKKOR 105mm F2.8S(初代)青字
 中:AIAF Micro NIKKOR 105mm F2.8D(二代目)黒字
 右:AF-S VR Micro NIKKOR 105mm f2.8G IF-ED(三代目)赤字

光路図

上図がMicro NIKKOR 105mm F2.8の光路図になります。

初代レンズ9群10枚構成、二代目レンズは8群9枚構成で2本の見た目はかなり似た様子です。

被写体側にはダブルガウスタイプのようなレンズを配置し、撮像素子側へテレコンバータのような光学系が配置されています。

三代目レンズは、12群14枚構成で、趣を大きく変えています。

フォーカシング構成

各レンズのフォーカシング(ピント合わせ)の構造を説明します。

各図は同じスケール比で描画しているので、実際の製品のサイズ差と同じ比率になっています。

各図の上段は、無限遠(超遠距離Far)にピントを合わせた状態です。

各図の下段は、最短撮影距離(Near)である撮影倍率(β)1.0倍にピントを合わせた状態です。最も大きく写る距離とも言えます。

なお、以降の収差や光学シミュレーションの結果も、上図のごとく無限遠と最短距離の2種を記載します。

AI Micro NIKKOR 105mm F2.8S

初代レンズは、レンズ単体では撮影倍率0.5倍のハーフマクロ仕様ですが、接写リングPN-11を装着することで撮影倍率1.0倍の等倍撮影が可能になりますので、PN-11を装着した状態を再現しています。

フォーカシング時のレンズUNITの動きを見ると、ダブルガウス風の前群が第1UNITと第2UNITに分かれ、大きく繰り出しながら、間隔をわずかに広げています。第3UNITは少し遅れるように繰り出しています。

3本レンズの中で最も大きく繰り出していることがわかります。

AIAF Micro NIKKOR 105mm F2.8D

二代目レンズは、レンズ単体で撮影倍率1.0倍の等倍撮影を実現しています。

フォーカシング時のレンズUNITの動きを見ると、ダブルガウス風の前群が第1UNITと第2UNITに分かれ、大きく繰り出しながら、間隔をわずかに狭めています。第3UNITは中間距離では撮像素子側へ膨らむように移動します。

レンズ単体で等倍撮影を実現しながら、繰り出す量を減らしていることがわかります。

二代目レンズの特徴にオートフォーカス化もありますが、繰り出し量を抑制することもオートフォーカス化の実現に大きく貢献したことでしょう。

AF-S VR Micro NIKKOR 105mm f2.8G IF-ED

三代目レンズは、ついに繰り出し時にもレンズが飛び出さない全長固定のインナーフォーカス化を実現しています。

フォーカシング時のレンズUNITの動きを見ると、第1UNITと第2UNITが近づくように移動することで等倍までの撮影をインナーフォーカスで実現するようです。

このレンズは、光学式手振れ補正(VR)も搭載していますが、直接の情報は得られず確証はありませんが、レンズの配置上おそらく第11レンズと12レンズの貼り合わせレンズを振動させ手振れを補正しているものと推測されます。

縦収差:無限遠 Far

撮影距離が無限遠(Far)における縦収差。

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

無限遠の球面収差から見てみましょう、3本のレンズとも基準光線であるd線(黄色)は綺麗に補正され、大きな差はありません。

解像度が重視されるレンズですから当然なのでしょう。

軸上色収差は初代レンズと二代目レンズは大きな差はありませんが、三代目レンズは半減程度に削減されていそうです。

現代的な高性能の大口径単焦点に比較すると少々大き目ではあります。

像面湾曲

像面湾曲も時代性を加味すると初代などは綺麗すぎるぐらいに補正されていますが、このレンズは学術研究用途などに使われるものですからピント面の平坦性も重視されていたのではないでしょうか。

歪曲収差

歪曲収差は焦点距離的もあまり歪曲の大きくならない仕様であることもあって3本ともにかなり小さいようです。

倍率色収差

倍率色収差は初代と二代目は似た傾向で少々大き目です。三代目レンズは現代的なレンズに劣らないレベルにまとめているようです。

縦収差:最短距離(β1.0) Near

球面収差 軸上色収差

最短距離の収差も球面収差から見てみましょう、3本のレンズとも中間部がマイナス側に大きくふくらむ特性であまり差は無いようです。

軸上色収差は初代レンズ→二代目→三代目の順に改善の傾向が見られます。

像面湾曲

像面湾曲は初代レンズはずれが大きいですが、本来の初代レンズは単体としては撮影倍率0.5倍までの仕様ですから少々厳しいのも当然でしょう。

二代目レンズから綺麗に補正されており、最短撮影距離で平面被写体を撮影しても像面湾曲によるボケは少なそうです。

三代目レンズはさらに補正に磨きがかかっているようです。

歪曲収差

歪曲収差は3本ともにかなり小さいようです。例えば切手のような四角い物を撮影しても歪みはほとんど無いでしょう。

倍率色収差

倍率色収差は二代目レンズが突出して少ないですね。三代目レンズの方が大きいぐらいですが、フォーカス方式を大きく変更しているためでしょうか。

横収差:無限遠 Far

タンジェンシャル、右サジタル

無限遠から横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、中間像高で少々コマ収差が見られるものの、3本とも大きな差はありませんが、流石に三代目レンズが一番よく補正されているようです。

右列サジタル方向は、大きな差はありません。FnoがF2.8と単焦点としては控えめな仕様なのであまり大きくならないのでしょう。

横収差:最短距離(β1.0) Near

続いて最短距離での横収差です。

倍率色収差が少ないためか二代目レンズのまとまりが良くも見えますが、基準光線であるd線(黄色)を見ると三代目レンズが優秀そうです。

スポットダイアグラム:無限遠 Far

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初に無限遠のスポットダイアグラムから見てみましょう。

やはり三代目レンズが突出してスポットが小さいですが、初代もレンズ単体での撮影倍率が0.5倍までと控えめにしていることもありなかなか健闘しています。

スポットダイアグラム:最短距離(β1.0) Near

スポットスケール±0.3(標準)

こちらは最短距離のスポットの様子です。

二代目と三代目はかなり拮抗しているようです。

三代目は全長の変わらないインナーフォーカスの画期的なフォーカシング構造を採用していますが、二代目のような全体が大きく繰り出す構造も色収差補正の観点では捨てがたいものがあるようですね。

MTF:無限遠 Far

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

無限遠の開放Fnoでは、初代レンズと二代目レンズはかなり拮抗していますが、画面全域のバランスとしてはわずかに二代目が優勢でしょうか。

三代目はさすがに図抜けてMTF性能が高いですね。

小絞りF4.0

無限遠でFnoをF4まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

多少の優劣は認められるものの、3本のレンズともに実用上の差は無いレベルまで改善するようです。

MTF:最短距離(β1.0) Near

開放絞り

最短距離の開放Fnoでは、初代が低いことは仕方がないものの、二代目と三代目はなかなかいい勝負です。

二代目レンズは最短撮影距離での倍率色収差が小さいこともあって画面全域でバランス良く性能が高いようで、三代目レンズは画面中心域での性能が高いようです。

なお、無限遠の性能に比較すると妙にMTFが低く見えるかもしれませんが、近距離の撮影では被写体が近づき大きくなるので、この程度のMTFでも十二分に解像感が得られます。

感覚的には人間でも「近づけば細かい物がよく見える」と表現すれば理解しやすいでしょうか。

老眼の私としては「近づきすぎると見えづらい」ので困ったものですが。

小絞り 1段

最短距離で1段絞った状態です。

開放Fnoでの収差量の大きさもあって初代レンズの改善度合いは限定的ですが、二代目と三代目レンズはしっかりと改善しますので解像度の必要な場面では1段程度絞ることが望ましいでしょう。

総評

画期的なフォーカス機構の採用による三代目レンズの圧倒的な性能差を見せつけられるのかと思いきや、二代目レンズもなかなかの健闘ぶりでロングセラーの秘密を垣間見る一面がありました。

今回、3本まとめて分析したのは、ZマウントMicro NIKKOR分析の準備として行いました。

次回は、最新のNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sを予定しております。

過去に分析したMicro NIKKOR55mm系の分析記事はこちらをご覧ください。

 関連記事:Ai Micro-NIKKOR 55mm F2.8
 関連記事:AiAF Micro-NIKKOR 60mm F2.8 
 関連記事:AF-S Micro-NIKKOR 60mm F2.8G

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

こちらのレンズはマウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラでも利用可能です。

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作例・サンプルギャラリー

Micro NIKKOR 105mm F2.8の作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 Micro NIKKOR 105mm F2.8

AI Micro NIKKOR 105mm F2.8SAIAF Micro NIKKOR 105mm F2.8SAF-S VR Micro NIKKOR 105mm f2.8G
画角23.2度23.2度23.2度
レンズ構成9群10枚8群9枚12群14枚
最小絞りF32F32F32
最短撮影距離0.41m0.3140.314m
フィルタ径52mm52mm62mm
全長83.5mm104.5mm116mm
最大径66.5mm75mm83mm
重量515g560g750g
発売日1984年4月1989年7月2006年3月24日

※AI Micro NIKKOR 105mm F2.8SはPN-11併用時、最大撮影倍率1.1倍まで撮影可能

記録メディアは、事故防止のため信頼性の高い物を使いましょう。

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