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【深層解説】 ニコン大口径標準ズーム NIKON AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8E ED VR -分析074

ニコン AF-S ニッコール 24-70mm F2.8E ED VRの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

当記事で紹介するNikkor 24-70mm F2.8E VRは、FnoがF2.8の大口径標準ズームの4代目として発売されたレンズです。

NIKONのF2.8標準ズームレンズについて、前回の記事では先代にあたる3代目の24-70mm F2.8Gをご紹介しました。

 関連記事:AF-S Nikkor 24-70mm F2.8G

まずは、NIKONにおけるF2.8標準ズームレンズの系譜を確認してみましょう。

 ※光学系を流用している製品は除きます。

今回紹介する4代目F2.8標準は、先代と同じく焦点距離域は24-70mmですが、念願の「手振れ補正機構」が搭載されました。

手振れ補正とは、光学系内の一部のレンズを動かし手振れを打ち消すと言うなんとも荒っぽい補正機構です。

これにより、手持ち撮影時に低速シャッタースピードで発生する、手の微小なブレによる解像度低下を軽減することができます。

NIKONでは、手振れ補正機能を「Vibration Reduction」(振動 減少)の頭文字をから「VR」と称しております。

F2.8の大口径標準ズームレンズは各社販売しておりますが、ミラー有り一眼レフの大口径F2.8標準ズームの仕様で手振れ補正を搭載する製品は非常に少ない状況でした。

他社が追随できないということは、手振れ補正機能の搭載は相当な困難を伴うものだったと思われますが、今回の分析では手振れ補正機構も含めて詳細に見ていきましょう。

私的回顧録

『プロは使わねぇ』

いつの時代でも耳にする言葉ではないでしょうか?

例えば80年代であれば、一眼レフにオートフォーカスが搭載され始めましたが、当時のプロフォトグラファー界隈からは「あんな機能使うヤツはプロじゃねぇ」などとリアルに聞かされたことがあります。

しかし、90年代ともなりますと「オートフォーカスの優劣=カメラの優劣」となるほどに浸透し、ファインダー光学系の構造もオートフォーカスに優位な設計となったためにマニュアルフォーカス機能が廃れてしまいました。

また、当記事のレンズNikkor 24-70 F2.8E VRにも搭載される「手振れ補正」は、90年代から各社普及が始まりました。

お察しの通り、登場時には度々「プロは使わねぇ」と聞いたものです。

そう言われる課題の一例として、手振れ補正をONの状態でフレーミングを変えると、カメラは手振れとフレーミングの判別がつかないことから、独特の動作をしてしまいます。

これは、スポーツ撮影などの一瞬を切り取るような撮影では確かに影響がありました。

しかし、現代ではご存じの通り、手振れ補正機構はカメラシステムの優劣の重要な要素となっており、プロであってもどこまで手振れ補正機能を使いこなせるかが重要とされる時代です。

次なる「プロは使わねぇ」は電子ビューファインダー(EVF)でしょうか、EVFは光学式ビューファインダー(OVF)に比較すると反応速度に難があり、ミラーレス一眼普及の阻害要因となっていました。

これも、執筆現在(2021)では、EVFの改良が進み反応速度は実害の無いレベルとなり、また露出の状態が直接わかるなどの利便性から、EVF製品であるミラーレス一眼への移行が進んでいます。

さて、歳を取ると新しい技術を受け入れるのが困難になりやすく、つい「プロは使わねぇ」と言いたくなりますが、技術者としては何事も真摯に受け止め「プロは使わねぇ」などと言うことの無い「良い歳の取り方」をしたいものですね。

さて、余談は終わりレンズの分析へまいりましょう。

文献調査

調べると特開2019-61270の実施例1が製品に近い構成であることはあきらかですが、本製品の発売年である2015年より遅い年号で矛盾しています。

本文の履歴を見ると特願2015-17916が優先権主張番号となっており、初出願後に分割を行った後の文献を発見したようです。

一般的に分割後に実施例を増やすことはありませんから、特開2019-61270の実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8E ED VRの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

レンズの構成は16群20枚、第1/第2/第20レンズは像面湾曲や球面収差に効果的な非球面レンズを採用し、色収差の補正に好適なEDガラスも 第17/第18レンズの2枚へ採用、さらには球面収差と色収差を同時に補正するためED非球面レンズを第15レンズに採用しているようです。

先代となる3代目標準ズームの24-70mm F2.8Gから構成枚数は5枚も増量し、超特殊材料のED非球面レンズが採用されています。

続いてズーム構成については以下になります。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは全体として4ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端では物体側へ飛び出していますが、望遠端へズームさせると撮像素子側へ移動しますからレンズ鏡筒としては引っ込むようになります。

第1ユニット全体として凹(負)の焦点距離(拡散レンズ)の構成となっていますが、これを凹(負)群先行型と表現します。

この凹(負)群先行型は、一眼レフの標準ズームレンズや広角ズームレンズに多い構成です。

第2ユニットと第4ユニットは、広角端から望遠端へズームのさいに各々が被写体側へ移動しています。

第3ユニットは微小に撮像素子側へ移動しています。実際の製品は固定としているのかもしれません。

先代の24-70mm F2.8Gでは5つのユニットで構成されておりましたが、本レンズは構成枚数は増えたもののズーム時の移動構成は4ユニットと整理されているようです。

なお、レンズ構成枚数の豪華さの理由である「手振れ補正機構」は、第3ユニットの撮像素子側の3枚のレンズで構成されています。(図内にVRと表記)

この手振れ補正レンズを図中の上下方向(又は奥行方向)に移動させることでブレを打ち消します。

一般にFnoが明るいレンズほどレンズの口径は大きくなり、当然ですが手振れ補正部分のレンズも大型化します。

そこで問題になるのが、レンズの大型化により手振れの駆動装置も肥大化し、結果としてレンズが非常に大型化してしまうことです。

本レンズでは全体のなかでも口径が小さくなる第3ユニットに3枚のレンズを追加し、「手振れ補正レンズユニット」を構成しています。

この配置は、レンズの口径としては小型で軽量なのでしょうが、光学性能の維持/向上といった観点では負の側面があったようです。

なぜなら、手振れ補正レンズユニットは3枚ですが、それ以上に全体の構成枚数が増加しています。(全体としては5枚増加)

搭載が容易であったなら、手振れ補正の無かった先代レンズと同構成枚数程度に収まったはずです。

別の視点で考えると、ミラー有一眼レフカメラにおいて他社のF2.8標準ズームレンズに手振れ補正機能が無いことも相当に搭載が難しい事をうかがわせます。

この困難な手振れ補正を搭載しつつ、どのような収差特性に性能をまとめ上げたのか見ていきましょう。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、手振れ補正機構を追加しても広角端では十分に補正されています。望遠端も若干マイナス側に倒れているものの数値的には先代と同様程度です。

軸上色収差は、望遠端のg線(青)が若干過補正気味であるものの、グラフの上端側でうまくバランスさせているようで極度の小絞りでなければ軸上色収差が目立つことは無さそうです。

像面湾曲

像面湾曲は、広角端では先代よりも改善しているようです。なお、望遠端は先代同程度ですが球面収差がマイナスになっているところに合わせているので悪いわけではありません。

歪曲収差

歪曲収差は広角端では先代よりも少し大きくなっています。

デジタルカメラでは、カメラ内の画像処理によって歪曲収差を補正できるため、これをあえて残し他の収差の改善に力を割いているのかもしれません。

特に本レンズの発売の頃は、すでにフィルムユーザーは極少数派となっていた時代ですからデジタルシステムの恩恵を受けたとも言えるかもしれませんね。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

倍率色収差も先代と同程度ですが、これもデジタルカメラではカメラ内の画像処理によって補正できるため他の収差補正を優先しているのかもしれませんね。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

先代に比較してさらにタンジェンシャル方向のコマ収差やサジタル方向のコマフレアが削減されています。

手振れ補正搭載だけに飽き足らず、解像性能の向上も狙っていたようです。

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

スポットダイアグラムで見ると、先代よりさらに散らばりが半減したでしょうか?

ズームレンズとは思えないレベルを実現しています。

現代のズームレンズは「一昔前の単焦点レンズを超えた」と言われますが、その一端を垣間見ることができます。

スポットスケール±0.1(詳細)

こちらの図は、さらにスケールを拡大し詳細に性能を確認できるようにしております。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

広角端は画面のほんの隅である像高21.6mm付近を除けば極めて高いMTFの山で、頂点位置の一致度も高いようです。

望遠端も先代に比較するとさらに頂点の一致度を向上させているようです。

小絞りF4.0

NIKON NikkorレンズシリーズよりF2.8標準ズームとしては4代目となり、夢の手振れ補正機構を搭載したAF-S Nikkor 24-70mm F2.8E VRを特許情報と実写による作例から分析します。

F4まで絞れば単焦点レンズの出番はもはやない高性能です。

総評

ユーザーの夢であったのか?それとも技術者の夢であったのでしょうか?

「F2.8標準ズームに手振れ補正を搭載する」そんな『夢』のような仕様を実現した本レンズですが、単なる機能追加に留まらず、極めて高い光学性能も実現していることがわかりました。

近年「ズームレンズと単焦点の性能差が無くなった」と言われますが、先代の24-70 F2.8Gからズームレンズでありながら単焦点と同列レベルまでの性能を実現し、本レンズに至ってはすでに単焦点を上回る性能を実現してきているようです。

さて、次回はいよいよミラーレス時代の標準ズームNikkor Z 24-70mm F2.8を分析する予定です。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

NIKON AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8E ED VRの作例集は準備中です。


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製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8E ED VR

画角84-34.2度
レンズ構成16群20枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.41-0.38m
フィルタ径82mm
全長154.5mm
最大径88mm
重量1070g
発売日2015年10月22日

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