【レンズ性能評価】NIKON Ai Micro Nikkor 55mm F2.8 -分析067

ニコン マイクロ ニッコール 55mm F2.8の性能分析・レビュー記事です。

特許情報や実写の作例から光学系の設計値を推測し、シミュレーションによりレンズ性能を分析します。

一般にはまず見ることのできない光路図や収差特性などの設計情報をプロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、深くそして優しく解説します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

Micro Nikkor 55mm F2.8は、NIKONのFマウント用Micro(マイクロ)レンズシリーズの二代目で、1981年の発売開始から2020年ごろまで販売されたロングセラー製品です。

マイクロレンズとは、一般的にはマクロレンズと言われる拡大撮影用レンズのことです。

そのため、Micro Nikkor 55mm F2.8は非常にコンパクトなレンズでありながら、最大撮影倍率は等倍(1.0倍)までを達成しています。

他社ではマクロレンズと言いながら最大撮影倍率は0.5倍程度の物も多い中、等倍まで撮影できる機能性とコンパクトさ、そして手ごろなお値段であることが長きに渡り販売された秘訣でしょうか。

なお、このレンズは単体での最大撮影倍率は0.5倍ですが、接写リングを使うことで等倍までの撮影に対応しています。

まずは、NIKONのFマウントレンズから最新のZマウントに至るマクロレンズの系譜を確認してみましよう。

焦点距離仕様ごとに発売年と構成をリストにしました。光学系を共通とする物は除いています。

◆Micro Nikkor 55mm系

◆ Micro Nikkor 105mm系

  • New Micro Nikkor 105mm F4 (1975) 3群5枚
  • Ai Micro Nikkor 105mm F2.8S (1984) 9群10枚
  • AiAF Micro Nikkor 105mm F2.8S (1989) 8群9枚
  • AF-S VR Micro-Nikkor 105mm F2.8G (2006) 12群14枚
  • Nikkor Z MC 105mm F2.8 VR S (2021) 11群16枚

◆ Micro Nikkor 200mm系

  • Ai Micro Nikkor 200mm F4 (1979) 6群9枚
  • AiAF Micro Nikkor 200mm F4D (1993) 8群13枚

本記事で取り上げる55mm系について振り返りますと、初代は1961年55mm F3.5に始まり、二代目は55mm F2.8として1981年にリニューアルされ、そこからなんと2020年ごろまで改良と販売が続きました。

それでは約40年という長きに渡り世に愛された逸品 Ai Micro Nikkor 55mm F2.8 を分析してみたいと思います。

私的回顧録

『マクロか?マイクロか?』

さて、上の概要欄にて意味が分からなくなった方がいらっしゃるかもしれません。

世間一般には拡大撮影レンズをマクロレンズと呼ぶが、NIKONのマイクロレンズは何か違うのか?

そのように疑問に思われる方がいるのは当然でしょう。

「マクロとマイクロ」不慣れな方にとっては、なんとも紛らわしい単語が誤用されているかのように連呼されているわけですから。

単純に直訳すれば「マクロ=巨大」で「マイクロ=小さい」まったく反対の単語を類似語のように並べて書かれると意味不明もいいところでしょう。

さてその「マクロとマイクロ」その違いはNIKONの哲学によるもです。

NIKONは写真用途以外の多様な光学機器を製造するメーカーですが、その製品の中には顕微鏡のような「等倍以上」に拡大して観察できるレンズがあり、これをマクロ(拡大)レンズと呼び、そこに至らないものは縮小しているの意味でマイクロ(縮小)レンズと明確に定義していました。

よって、NIKONでは一般的な写真用レンズの等倍程度の仕様を「マイクロレンズ」とし、これを長きに渡り厳格に守っています。

マクロレンズ以外の普通のレンズの最大撮影倍率は大きめでも0.3倍程度の物が多く、一方のマクロレンズの撮影倍率の多くは「等倍(1.0倍)」であり普通のレンズよりも大きく写すことができますが、あくまでも「等倍」ですから撮像素子(フィルム面)上の光学像としては拡大できているわけではありません。

 ※等倍とは、被写体と結像が1対1の同サイズである意味です。

よって、NIKONの表現は厳格で正しいのですが、NIKON以外のほとんどの会社は最大倍率が0.5倍あたりからをマクロレンズと呼んでおり、多数決的に等倍仕様のレンズでも「マクロレンズ」とか「マクロ撮影」と言った表現が世間では一般的となりました。

世の中の軽薄な潮流に乗らないNIKONの哲学がMicro Nikkorの名に刻まれていると言えるでしょう。

文献調査

さて、本記事で分析するAi Micro Nikkor 55mm F2.8は、NIKON自身が過去のレンズを回顧する「ニッコール千夜一夜物語」でも特集され、設計者のお名前まで公開されておりますので文献調査は一瞬です。

余談ですが「ニッコール千夜一夜物語」は、作例もしっかりとカラー化された新装版書籍が販売されましたね。

本題に戻りますと特許文献の調査結果から、設計値に近いデータが記載されている特開昭55-28038を確認しますと、記載された実施例にはFnoがF2.0などの異仕様も記載されておりましたが、製品と仕様が同じF2.8で形状が良く似る実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON Ai Micro Nikkor 55mm F2.8の光路図になります。

5群6枚構成、絞りを中心にはさむように凹レンズが配置され、凸レンズ2枚が外側に配されるいわゆる対称配置のダブルガウス型のレンズです。

FnoがF2.8と、おとなしいため全体にスリムな見た目と言うべきでしょうか?

近い時代に設計された普通のダブルガウス型の代表例として、過去に分析を行ったNIKON 50mm F1.8Dを参考にご覧いただくと違いがわかりやすいかと思います。

 関連記事:NIKON Nikkor 50mm F1.8D

また、今回はマクロレンズの分析のため下図の繰り出し状態の図を準備しました。

左図(青字Far)は遠距離にピント合わせた状態、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態です。

遠距離とは正確には無限遠であり例えば「星を撮影している状態」とお考えください、一方の近距離とは本レンズの最大撮影倍率となる等倍(1.0倍)に写る最短撮影の繰り出し状態です。

このレンズは、単体では0.5倍までの撮影倍率ですが、接写リングを使うことで等倍までの撮影に対応しています。

右側(赤字Near)をご覧いただくと、レンズ全体が被写体側へ大きく繰り出している事に目が奪われますが、よく見ると絞り前後の間隔も変わっています。

このレンズは、レンズ全体が被写体側へ移動しつつ、絞りよりも前側群は異なる軌道でさらに大きく被写体側へ移動しています。

このようにレンズを分割し別々の移動量で動かす繰り出し方式をフローティングフォーカスと呼び、簡単に言うと近距離撮影時の収差の変動を抑えるのに効果的です。

縦収差

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、遠距離ではF2.8と控えめなFnoであるため球面収差は十分に補正されています。

近距離ではかなり大きく球面収差が膨らみ変動の大きさが伺いしれますが、近距離とは被写体へ近づくために小さな物が少なくなるとも言えるので、このレベルでも十分に高解像感は得られます。

軸上色収差も同様にFnoのおかげで遠距離は十分、近距離はかなりの変動です。

古いレンズを知る方の中には「マクロレンズは遠距離での性能が悪い」と言われる方がいらっしゃいますが、それはフローティングフォーカスの普及前の時代(およそ一眼レフ普及の前)での話あり、近代では遠距離も十分な性能で気にする必要はありません。

像面湾曲

像面湾曲は遠距離ではガウス型の特徴でグラフの上端部の画面隅でサジタルとタンジェンシャル方向のグラフにズレが出る「アス」が大きいのですが、写真として気になるほどではないでしょう。

近距離では大きくマイナス側へグラフが倒れている様子がわかりますが、実はフローティングフォーカスのおかげでこの程度で収まっているのです。等倍の仕様にしては十分に小さいと言えるレベルです。

歪曲収差

歪曲収差は対称型ガウスレンズは少々マイナス側の歪曲が残りやすいのですが、ほぼゼロに抑えられています。

このレンズは焦点距離が55mmと半端な仕様のレンズですがその理由として、「バックフォーカスの確保しやすい仕様」であること、また「歪曲をより抑えやすい仕様」、この二つの理由から焦点距離55mmが選ばれたのではないかと推測しています。

この時代のマクロレンズの用途は、学術研究用やマイクロフィルムへの記録などで、いずれも歪曲収差が目立ちやすく嫌われるジャンルなのです。

その他に、私が若い頃に聞いた話では「マクロレンズのユーザーには切手収集家が多い」と、噂されていました。

若い方のために補足しますと「切手収集」と言う趣味がかつてブームだった時代があり、このレンズの開発された当時である70年代末ぐらいまでが切手収集ブームの最盛期であったのです。

そして「収集した切手を記録するためにマクロレンズを購入する方が多くいる」そんな噂があったのです。

切手は、だいたい四角形で歪曲収差が目立ちやすく、またレンズの解像度を試すかのように細かい模様が刻まれており、さらに美品であることの証明に細かな傷の有無を撮影するのですから当時の光学設計者には恐ろしい被写体であったことでしょう。

そのため、光学設計者界隈では恐怖の対象として「切手収集家にまつわる噂」が流されたのかもしれません。

一方で、現代のマクロレンズの使用方法と言えば、花や植物、飲食物、広告(物撮り)などが主でしょうか?

現代的な利用法ですとあまり歪曲収差が気にならないジャンルのような気がしますね。

倍率色収差

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

倍率色収差は対称型ダブルガウスの特徴で十分に補正されています。近距離での変動もわずかですね。

横収差

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

タンジェンシャル、右サジタル

遠距離ではサジタル方向の画面隅である像高21mmではサジタルコマフレアが大き目であるもののそれ以外は特に目立つ悪さはありません。

近距離では全体に変動し悪化はありますが、驚くような変動をしませんね。フローティングフォーカスの効果と言えるでしょう。

スポットダイアグラム

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

スポットスケール±0.3(標準)

遠距離は十分にスポットサイズが小さく、近距離では全体にスポットサイズが大きくなるものの自然な丸みを帯びているのでボケ像が美しそうですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

MTF

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

開放絞りF2.8

遠距離のMTFは画面隅である像高21mmを除けば十分に高く、控えめなFnoを選択している効果と言えます。

一方で近距離では全体に山が低下するものの、ある程度の高さが残っていることがわかります。

近距離とは被写体へ近づくため、被写体に含まれる細かな成分が拡大されるとも言い換えられるので、この程度でも十分な解像度を得ることができるでしょう。

小絞りF4.0

F4に絞り込みますと、遠距離では山の高さが改善するものの像面湾曲の影響で頂点位置がズレているため思ったほどの解像度の改善は無さそうです。開放から高性能ですからあまり必要は無いでしょうが。

近距離では、画面中間の像高12mmあたりまでの性能がだいぶ向上します。平面被写体を撮影時に解像度を上げたい場合は少し絞るのが効果的ですね。

総評

本ブログでは初めてとなる近距離性能も含めたマクロレンズの分析を行いましたが、いかがだったでしょうか?

今回以降、マクロレンズをいくつか連続して分析する予定で、このAi Micro Nikkor 55mm F2.8は古典かつ原典として分析を行いました。

40年に渡るロングセラー製品の一端を垣間見ることができたしょうか?

その他にも過去に分析したマクロレンズの記事もご参照ください

 関連記事:AiAF Micro Nikkor 60mm F2.8
 関連記事:SIGMA 70mm F2.8 Macro Art
 関連記事:OLYMPUS 90mm F2.0 Macro


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製品仕様表

製品仕様一覧表 Ai Micro Nikkor 55mm F2.8

画角43度
レンズ構成5群6枚
最小絞りF32
最短撮影距離0.225m:接写リング使用時(倍率1倍)
フィルタ径52mm
全長70mm
最大径63.5mm
重量290g
発売日1980年2月

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