シグマ Art 50 mm F1.4の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?
雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?
当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。
一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。
あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。
それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。
作例写真は現在準備中です。
レンズの概要
SIGMAのArtレンズシリーズは、金属部品を多用した高品位な外観と、高い解像性能を兼ね備えるフラッグシップモデルです。
本項で紹介する50mm F1.4 Artは大口径レンズでありながら極めて高い性能で、以降の各社フルサイズデジタル一眼レフレンズの方向性まで変えてしまった革新的レンズでした。
なおこのレンズは、各社マウントに対応した専用モデルがありますが、一眼レフカメラ用のマウントの製品はマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。
私的回顧録
本項で紹介するSIGMA 50mm F1.4 Artの発売当時の標準レンズと言えば、基本中の基本であるダブルガウス型ばかりで、似通ったレンズ構成ばかりとなっていました。
そんな中で、SIGMA 50mm F1.4 Artは、一般的なダブルガウス型に対しておよそ2倍ほどの巨躯で、一体誰が何の目的で購入するのか発売当時の私の理解を超えてました…
現在の視点で見ると、結果としてフルサイズデジタル一眼の高画素化と低価格化による市場の広がりに上手くマッチした事もあり、新たなジャンルとユーザーを開拓したように思います。
今回も「SIGMA 35mm F1.4 Art」の記事から引き続きArtシリーズの単焦点を分析します。
これは現代的な光学設計値の基準作り(ベンチマーク)を行うための取り組みの一環になります。
SIGMAのArt単焦点レンズは「性能重視、大きさ度外視」という非常にわかりやすいコンセプトで設計されており、性能ベンチマークの基準として扱いやすいためです。
文献調査
さて特許文献を調べると現代の製品なので関連すると思われる特許が簡単に見つかりました。断面図の雰囲気から特開2019-117419の実施例2が製品に見た目で近いため設計値と仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
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設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図

上図がSIGMA Art 50 F1.4の光路図です。
8群13枚、最も撮像素子に近い最終レンズに非球面を配置し球面収差と像面湾曲を同時に補正し、色収差を良好に補正するための特殊低分散材料も3枚配置する贅沢な仕様です。
一般的なダブルガウスは6枚で構成されてますが、こちらは2倍以上の13枚ものガラス枚数かつ非球面レンズも入っていますので、性能は3倍マシを期待したいところです。
基本的な構造を見てみると被写体側の5枚部分の前群がフォーカシング時固定の群で、残りの撮像素子側の後群でフォーカス動作を行う前後2群構成です。
ガウス的な構造の後群の前側にフロントコンバーターを付けたような見た目と表現すべきでしょうか?一般的なガウスタイプに比較すると独自色の強い構成です。
写真用レンズとしては最も有名なガウスタイプについては下記リンク先へ簡単にまとめてありますので参考にご覧ください。
関連記事:ダブルガウスレンズ
縦収差

球面収差 軸上色収差
球面収差は解説する意味も無いほどに、略直線の特性図です。
一般的には球面収差形状をマイナス側に膨らませたフルコレクション型にすると小絞り時の像面変動とバランスを取りやすいのですが、このレンズはひたすらに収差を少なくし解像性能を上げることで小絞り時の変動にも耐えられるような設計指針なんでしょう。
像面湾曲
中間部分を超えると少し像面湾曲、非点隔差があるようです。
歪曲収差
元々ガウスタイプでは対称型配置のため歪曲収差は略ゼロになります。このレンズはだいぶ対称性の崩れたレンズ構成のため収差が大きく悪化しそうな物ですがゼロレベルまで抑制されています。
倍率色収差

倍率色収差も十分に補正されています。一般的な50mmレンズで定番のダブルガウス型は対称配置と言う特殊な構造ゆえに倍率色収差が小さい特徴があります。
本レンズはダブルガウス型と離れた形としたために大変だったのでしょうが、ダブルガウス型に迫る収差補正を実現しています。
横収差

横収差として見てみましょう。
サジタル方向のハロは、Fno1.4の仕様を考えれば極めて小さく抑えられています。
タンジェンシャル方向では、一般的なダブルガウス構成程度レンズに比較すれば遥かに上ですが、像高12mmぐらいからコマ収差が少しあり、MTFが低下しないか気になります。
記事の途中ですが、防湿庫を購入すると不思議と収納上限までレンズが生えてしまうというそんな恐ろしい都市伝説があるらしいですよ。
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(詳細)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
F1.4の仕様からすればキレイにまとまっています。サジタルフレアはガウスタイプに比べれば十分小さいですが、夜景や星を撮影するなら1段程度絞る方が良いでしょう。
スポットスケール±0.1(詳細)

こちらはスケールを変更し拡大した様子です。
MTF
開放絞りF1.4

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
中心域は文句なく高く、像面変動も少ないようです。横収差で見えた通り像高12mmを超えるとコマ収差により頂点が低下してきますが、一般のガウスタイプに比較すればもう異次元のレベルで高性能です。
小絞りF4.0

画面中心から周辺部の像高18mmあたりまではほとんど完璧と言えるMTFの山の高さになっています。
周辺部の山の高さが向上するのは横収差図で見るとわかるのですが、タンジェンシャル方向の像高12mmより高い所に残るコマ収差が絞りによりカットされるためです。
総評
ガウスタイプの光学系に比較すると周辺部まで驚くほど収差が補正されています。発売からしばらく経過し値段もこなれていますから高コスパレンズであることは誰もが認めるところでしょう。
もし知人に高性能な50mm F1.4が欲しいと相談され、重量に問題が無ければ、まず1本目に推薦するのはこの製品で間違いありません。
SIGMA 50 1.4以降、各社が高性能50mmを投入しいているのも面白いところですが、性能と引き換えに大型化の流れは止められないようで、むしろ初発のSIGMAが見慣れて小さく見える、なんとも恐ろしい時代となっています。
小型化と高性能を両立するような製品にも今後は期待したいところですね。
近代50mmレンズの性能比較の記事も作成しております。以下のリンク先も合わせてご参照ください。
関連記事:各社50mm F1.4の比較
この記事では、近い時代に発売されたSIGMA/NIKON/SONY3本を比較検証しています。
50mm F1.4の個別分析記事はこちらです。
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関連記事:SONY Planar T* FE 50mm F1.4 ZA
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価格調査
SIGMA Art 50mm F1.4 の価格については、以下の有名通販サイトで最新情報をご確認ください。
マウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラでも使用できます。
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
作例
SIGMA 50 1.4の作例は現在準備中です。
当ブログの画像編集には国産現像ソフトSILKYPIXを利用しております。
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製品仕様表
SIGMA Art 50 1.4製品仕様一覧表(Lマウント用)
画角 | 46.8度 |
レンズ構成 | 8群13枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.40m |
フィルタ径 | 77mm |
全長 | 123.9mm |
最大径 | 85.4mm |
重量 | 890g |
その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。
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レンズ分析リスト
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