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【深層解説】富士フィルム コンパクトカメラ FujiFilm X100 23mm F2.0 シリーズ -分析138

この記事では、富士フィルム プレミアム コンパクトカメラ X100シリーズの広角レンズ 23mm F2.0の歴史と設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

レンズの概要

FujiFilm X100は、2011年に最初のモデルが発売されて以降、何度もモデルチェンジを繰り返し、2020年代でも品薄になるほど人気の製品です。

このX100は、レンズが単焦点の固定式でいわゆるコンパクトカメラのジャンルに位置する製品です。

しかし、APS-Cサイズの大型な撮像素子や、光学式と電子式のファインダーを瞬時に切り替える「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」の搭載など、一般的なコンデジとは格の違うプレミアムな製品となっています。

<X100シリーズの基本的な特徴>

  • 撮像素子:APS-C
  • レンズ:焦点距離23mm F2.0 (フルサイズ換算35mm)
  • アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー
  • 小型で秀逸なデザイン
  • フィルムシミュレーション機能

さて、歴代X100シリーズは、撮像素子サイズやレンズの仕様は基本的に同じですが、正確にはレンズの設計が異なり第1世代と第2世代の2種類のレンズが存在します。

各モデルの発売年次と搭載レンズを見てみましょう。

<第1世代レンズ>

  • 2011年 X100
  • 2013年 X100S
  • 2014年 X100T
  • 2017年 X100F

<第2世代レンズ>

  • 2020年 X100V
  • 2024年 X100VI

初代が発売された2011年からX100は定期的にリニューアルされていますが、初代からおよそ10周年を迎えようとする2020年X100Vの発売時に第2世代のレンズへ更新されています。

X100シリーズに搭載されるレンズの仕様は伝統的に焦点距離23mm、FnoはF2.0で第1世代も第2世代も同じです。。

X100は撮像素子がAPS-Cサイズなので、フルサイズに換算すると焦点距離35mm相当の画角になります。

フルサイズとAPS-Cの撮像素子は下図のようなサイズ差になっています。

換算すると焦点距離35mm F2.0のレンズは、フィルム時代から定番の伝統ある仕様で、当ブログでもNIKON往年の銘玉NIKKOR 35mm F2.0Dを分析したこともありますし、SIGMAが現代へ復活させた超高解像なSIGMA 35mm DG DNを分析しておりますので、合わせてご覧ください。

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文献調査

コンパクトカメラの光学系は、構成図が開示されない物が多いのですが、X100シリーズはカタログなどで構成図を確認することができます。

FujiFilmの自身の現れとも言えるのでしょうか。

公開された構成図を元に調査しますと、第1世代は特開2012-063676、第2世代は特開2020-177110であることがわかりました。

それぞれの文献から実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

左側が第1世代(青字)、右側が第2世代(赤字)

上図がFujiFilm X100 23mm F2の光路図になります。

左側が初代X100から搭載されている第1世代(青字)、右側がX100Vで更新された第2世代(赤字)で最新のX100VIにも搭載されています。

レンズの構成は6群8枚、第1世代は球面収差の補正効果の高い非球面レンズ(赤面)を1枚採用し、第2世代は2枚採用しています。

構成枚数は両者ともに同じで、絞りより撮像素子側の4枚の配置が変わり、非球面レンズを増加させているようです。

かつての一眼レフカメラの焦点距離35mmのレンズは、被写体側(前側)のレンズが大きくせり出したような構成になります。

一方でX100のようなコンデジやミラーレスカメラでは、撮像素子付近(後ろ側)を自由に使えるため、後ろ側のレンズが大きい構成になります。

後ろ側のレンズが小さい方が製品全体としては小型化になるので良い事ですが、前側のレンズが大きい方が見た目はとても「立派」に見えるので、少々悩ましいポイントですよね。

縦収差

左側が第1世代(青字)、右側が第2世代(赤字)

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見ると、第1世代も第2世代も十分小さく補正されており、両者拮抗しています。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も大きな差はありません、十分に高いレベルです。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、両者ともに複雑怪奇にうねりを伴う補正形状ですが、第2世代の方が全体に半減しており極めて優秀です。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、第1世代も十分に補正されている方ですが、第2世代はほとんどゼロと言える高い次元の補正です。

倍率色収差

左側が第1世代(青字)、右側が第2世代(赤字)

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、若干両者とも大き目に残るのですが、恐らく画像処理で補うものと推測されます。

f線(水色)とg線(青)を重ねておく補正になっていますが、こうすると画像処理で補正した時に最も補正効率が高いのです。

横収差

左側が第1世代(青字)、右側が第2世代(赤字)

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、全体に第2世代でコマ収差(非対称)が減少しているようです。

右列サジタル方向は、画面中間の像高12mmあたりから第2世代の方が良く補正されているのが目立ちます。

非球面レンズを追加している効果でしょう。

スポットダイアグラム

左側が第1世代(青字)、右側が第2世代(赤字)

スポットスケール±0.2(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

標準スケールではだいぶ拮抗しているように見えます。詳細スケールでの確認が必要ですね。

スポットスケール±0.066(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

標準スケールではわかりづらかったのですが、詳細スケールで見ると第2世代の方が、ぎゅっと核の密度が高いことがわかります。

MTF

左側が第1世代(青字)、右側が第2世代(赤字)

開放絞りF2.0

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、第1世代と第2世代に差はほとんどありません。

しかし、画面中間の像高12mmあたりから画面の外側へ向かってだいぶ大きく改善しているようです。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

絞り込むと第1世代も十分な高解像度ですが、第2世代はさらに高くほぼ理想レベルまで改善するようになっています。

総評

FujiFilm X100シリーズの第1世代と第2世代のレンズは、見た目やサイズはほとんど変わらない構成でありながら、着実な改良を積んでいるようです。

X100シリーズは、まさかのレンジファインダーの観察光学系を進化させたハイブリッドビューファインダーに、往年の銀塩カメラを思わせるやさしくトゲの無いデザイン、そして今は亡きフィルムテイストで撮影できるフィルムシミュレーション機能と、まさに唯一無二の機能を備えるカメラです。

写真を撮るだけならスマホでも済む現代ですが、撮影を楽しむためにはX100のような相棒がなくてはなりませんね。

 

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 FujiFilm X100 23mm F2

レンズ構成6群8枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.1m
発売日2011年(X100)

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