この記事では、オリンパス の一眼レフカメラ用交換レンズシリーズの超大口径標準レンズ ズイコー 50mm F1.2の歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
現代にもその名を残すOLYMPUS(現OMDS)の銘カメラと言えばOMシリーズですが、元は1970年代より始まるフィルム式一眼レフカメラがその源流です。
OLYMPUS初の35mmフイルムを採用したレンズ交換式一眼レフカメラ「OM-1」は1972年に発売され、当時の35mmフィルム一眼レフカメラの中で最小・最軽量で驚異的なサイズ感を実現したカメラでした。
OMシステムに合わせて準備されたのがOMマウント専用「Zuiko(ズイコー)」レンズ群で、基本のフィルタサイズがφ49かφ55とレンズも小型化されながら高画質化も達成し人気のシステムとなりました。
Zuikoレンズシリーズでも当然ながら標準50mmレンズは特に多種類用意されました。まずはその系譜を確認してみましょう。
- 50mm F1.2
- 50mm F1.4
- 50mm F1.8
- 50mm F2.0 Macro
- 50mm F3.5 Macro
- 55mm F1.2
今回分析しますZuiko 50 1.2は、オリンパスOMマウント用のZuikoレンズシリーズの中で最大口径比を誇るレンズです。
システム発売初期には焦点距離55mmのレンズが存在しましたが、1983年に50mmへリニューアルされ、さらに光学系は同じですが外観の異なる前期/後期型があるようです。
OMシステムは、2002年に終売するまで大手のカメラ店では普通に店頭販売されており、コンパクトデジタルカメラが一般的となりつつあった時代でもまだまだ入手可能でした。
私は、このZuiko 50mm F1.2を2000年ごろにヨドバシカメラ新宿店にて当時5万円ほどで新品購入しました。
今でもオークションでは新品同様なら5万円程度するようですね。(2019/12現在)
なお、F1.2の大口径Fnoのレンズといえば現代の感覚なら「ボケ味」を重視するレンズとして定着していますが、フィルムカメラの時代では異なる意味合いを持ちます。
フィルムでの撮影は、デジカメのようにISO感度が低くしかも手軽に変えられませんから、少しでもシャッタースピードを速くして撮影するために大口径Fnoのレンズが求められたのでした。
F1.2などの超大口径レンズは「ハイスピードレンズ」と呼ばれており、当時は「とにかくFnoが明るい」それだけで「確かな正義」だったのです。
文献調査
日本の特許文献は、執筆現在(2020年)において1970年あたりまでの特許が電子化され公開されています。
1970年代の特許文献は電子化されているとは言え、紙のデータをスキャンした画像が保管されている状態であり、キーワード検索はできません。
なんとかメーカー別に分類はされていますので、1970年代後半ぐらいからのオリンパスのレンズ関連の特許文献を総当たりで調べると焦点距離50mm、Fno1.2の仕様の文献を複数発見できます。
出願されてるオリンパス全体の光学系特許数に対して50mm仕様の特許件数は比率的に多いようなので、開発にも力が入っていたように思われます。この時代の特許はさすがに手書きではありませんが、印刷した物を再度スキャンし電子データ化しているので画像が荒くなんとも読みづらい…
なお特許の実施例は焦点距離が100mmとなっていますが、光学系の特許実施例は全系を比例倍して焦点距離を100とか1になるようにして記載するメーカーがあるので、画角から推定するのが確実です。
さて年代や性能から推測すると該当する特許はおよそ2択のようですが、私の直感で性能の良さそうな特開昭53-69031を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がzuiko 50 1.2の光路図です。6群7枚構成で、非球面レンズは採用されていません。
構成は一眼レフ標準レンズの定番であるダブルガウスタイプの像側に凸レンズを1枚追加した大口径ガウスタイプです。
前後に1枚づつレンズ追加する8枚構成の設計も他社にはあるようですが、オリンパスとしては後ろ側に1枚で十分との判断だったようです。
このレンズの発売当時、非球面レンズを使う特許も多々出てきていた時代ですが、すべて球面レンズだけで設計されており当時の設計の苦労が伺い知れます。
当時、すでにコンピュータで設計していたはずですが、今のコンピュータがジェット機なら当時のは”蚊”みたいなものでしょう。
そのような開発環境でどのような苦労をして設計していたのでしょうか?
さて光路図をよく見ると大口径のため軸上(中心)の光束が非常に太く、周辺の光束が相対的に細くなり周辺減光が激しい事がわかります。
広角レンズで発生するコサイン4乗則による減光とは異なる大口径特有の光量の落ち方です。
この光量低下は小絞りにすると劇的に改善します。
ガウスタイプで非球面も無し、しかも大口径Fno1.2ですからオールドレンズらしい激しい収差の出方に期待が高まりますね。
ガウスタイプの優秀な点のひとつは、特殊材料を使わずに高い性能を達成できる点があり、本レンズも材料には特筆すべき特殊な物は採用されていません。
ガウスタイプと言われる光学系は一眼レフ用レンズでは基準とされるレンズですが、以下のリンク先へ概要をまとめてあります。興味のある方はご参照ください。
関連記事:ダブルガウスレンズ
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。