この記事では、コシナの専用の交換レンズである超大口径標準レンズ 50mm F1.0の設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
COSINAは、日本の長野県に本拠地を置く1959年創業の老舗レンズメーカーです。
カメラファンの中でも、COSINAについては「少し敷居が高く手を出しにくい」と思う方も多いのではないでしょうか?
COSINAは、かつては安価なカメラのOEM製造を得意とするメーカーでしたが、現代では硬派なマニュアルフォーカスのLeica互換レンズの開発や、ドイツの名門光学メーカーZeissレンズの共同開発と製造の受託が有名になりました。
そのためか、なんと言うか入ったことのない「老舗の高級料亭」のような佇まいに、敷居の高さを感じてしまうのかもしれませんね。
まずは、現代のCOSINAの製品ラインアップを簡単にご紹介しましょう。
Voigtlanderシリーズ
Voigtlander(フォクトレンダー)は、カメラの誕生期よりさらに前の1756年にオーストリアで創業した光学メーカーでしたが、1970年代には操業を停止してしまいました。
1999年、Voigtlanderの設計思想とブランド性をCOSINAが引き継ぎ、往年の銘レンズを現代風にアレンジした製品を開発し生産しています。
COSINAのVoigtlanderシリーズは多くのカメラシステム向けに開発されています。
例えば、名門のライカMマウント用のVMマウント向け、最新のミラーレス一眼用であるSONY Eマウント向け、小型軽量なマイクロフォーサーズ向け、さらに外部メーカーがレンズを発売していなかったNIKON Zマウント用も発売を開始しました。
いずれのレンズも、味のあるしっくりとした操作感に定評のあるマニュアルフォーカスです。
ZEISSシリーズ
ドイツの名門光学メーカーであるZEISSのカメラ用レンズもCOSINAが共同開発あるいは受託製造を行っているようです。
ZEISSレンズも複数の製品ラインが存在し、一切の妥協を排除した最高級Otus、品位とサイズをバランスさせたMilvus、かつてのCONTAXカメラ用の銘レンズを現代にも継承したClassicとZM、実に多数の製品が生産されています。
今回、分析するレンズ NOKTON
今回分析するCOSINA NOKTON 50mm F1.0 Asphericalについて、その名前の由来を確認してみましょう。
まず、NOKTは「夜」を意味する言葉が由来であり、Voigtlanderのレンズの中でもFnoが1.5クラスの明るいレンズに付けられた名前です。
似たような「NOKT」に由来する名レンズは他のメーカーからも発売されていますが、なぜ「夜」に由来する名前なのでしょうか?少し説明します。
カメラの創成期にはフィルムという記録メディアで写真を撮影していましたが、現在で言うISO感度が100ほどが普通でしたから、屋内で撮影することも少し難しく、明るいFnoレンズにより「夜の月明りでも撮影できる」とアピールする狙いがあったのです。
また、Fnoが明るい(小さい)レンズは早いシャッター速度で撮影できますから「ハイスピードレンズ」とも呼ばれていました。
通常、Fnoが明るいほど収差が多く発生し解像性能は低下してしまいますが、解像度よりも早いシャッター速度で撮影できることの方が優先度が高かったわけです。
その後、フィルム時代も末期となると高感度化が進みISO400程度が一般化し、ストロボの小型化や内臓化もあって、明るいレンズの需要が少し低下します。
なお、最初のNOKTONは、1951年のNOKTON 50mm F1.5から始まりました。
同じNOKTON 50mm F1.5の名称でもレンズ構成の異なる物がいくつかあり、そのひとつとされる特許情報から再現しました。
こちらが1950年代のオリジナルのNOKTONのひとつとされるUS2646721から再現したレンズの光路図です。

再現データを確認してみると、かつてのオリジナルNOKTONは、ダブルガウス型で被写体側へ凹レンズを1枚追加した変形型だったようです。
ここで、今回分析するCOSINA製のNOKTONは、FnoはF1.5どころではなく、F1.0と極大口径化を図っています。
F1.0もの極大口径ともなれば、甚大な量の収差が発生します。
この収差の増大に対して、製品名称に対処法が記載されています。
その対策とは、Aspherical「非球面レンズ」で、これを搭載することで収差を抑制しているようです。
非球面レンズは、1966年にLEICA NOCTILUX 50mm F1.2に初めて採用され、長らく一部の特殊レンズにのみ搭載された高価な部品でしたが1990年代にもなるとだいぶ採用する製品が増えました。
さて、この伝統的な銘レンズをCOSINAはどう現代的にリメイクしたのでしょうか。
文献調査
このレンズは、各社のマウントに合わせた製品が用意されていますが、先行して発売されたLEICA用とその他のマウント用は発売時期がだいぶ異なります。
LEICA用VM版は2022年1月26日、SONY用Eマウント版は2024年3月19日、NIKON用Zマウント版は2023年2月23日、の発売です。
最も早いレンズの発売日あたりを参考に調査しますと特開2023-063766が該当する特許文献であると推測されます。
この文献から形状が似ている実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
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設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図

上図がCOSINA NOKTON 50mm F1.0 Asphericalの光路図になります。

