レンズ分析

【レンズのプロが解説】 ニコン標準レンズ NIKON AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G-分析017

ニコン ニッコール 50 1.8Gの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?

雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。

それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctの特許資料発見の記念としてNIKKOR50mmの分析をシリーズ化して進めることにしました。

要は勝手にNIKONレンズの歴史を楽しんでみようと言う企画となります。

まず現在(2020年)のところNIKONの50/58mmのレンズとしては以下の製品が販売されています。

8本ですよ…脅威的です。しかもそれぞれ光学系は異なるようです。

モーターや駆動機構、電磁絞りなどが異なるならわかりますが、なぜ光学系までわざわざ変えるのか…ミラーレス黎明期と言う背景もありますが、どれだけNIKONは50mmが好きなのでしょうか?

今回はシリーズの第2回目、初回は基本的なダブルガウス構成のf/1.8Dから分析をスタートしましたが、今回は光学系のスペックは同じf/1.8Gとなります。

この2本は一般の方からすると「レンズは同じでフォーカス機構や電磁絞りなどメカニカルな違いだけじゃないの?」と思うはずです。

私も今回調べるまで中身は同じだと思っていました。

なんとNikonと言う企業は恐ろしいことにまったく異なるレンズを新規設計しているのです。

f/1.8Dの光学系は、特許資料やNIKONのホームページ情報からわかる通りで1978年に発売された光学系が連綿と流用されています。

一方でf/1.8Gは2011年発売ですから、開発された時期は約30年もの差があります。この差分が"どう出るのか"がこの記事の醍醐味となります。

このレンズは、一眼レフカメラ用ですがマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。

私的回顧録

単純なダブルガウス6枚構成のレンズは各社ともに販売していますが、特色が無いので取り上げないつもりでいました。

それだけダブルガウス自体が優秀な証でもあります。しかし、Z58mm f/0.95へ至る歴史を勝手に分析するためにもNIKONの50mm f/1.8は特例で分析することにします。

文献調査

さてガウスタイプの光学系は各社多様な特許を出しますから発見できるか不安でしたが、無事に発見する事ができました。似たような文献が多すぎてわからん…と、なるかと思ったのです。

では見つかった特開2011-175123から見た目や性能の良さそうな実施例1を設計値と仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

 

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設計値の推測と分析

性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

詳細分析の前に「ガウス、ガウスって言うけど一体何なんだ?」との疑問にお答えするために極簡単な説明記事を以下のリンク先へ準備しましたので気になる方はご参照ください。

 関連記事:ダブルガウスレンズ

上記のリンク先では初期の4群6枚構成の完全対称型ダブルガウスを説明しています。

そして下図が、今回の設計値となります。

上図がNIKKOR 50 F1.8Gの光路図です。

6群7枚構成、対称型ダブルガウスの撮像素子側に1枚凸レンズを追加し、第6レンズには非球面レンズ(赤面)を採用しています。

伝統的なダブルガウスタイプを継承しながらも現代的な改善を施した、と言った見た目でしょうか、先代のf/1.8Dに比較するとなかなか豪華になっています。

縦収差

球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差軸上色収差ともにf/1.8Dに比較すると約半減しています。

非球面レンズの効果で球面収差を取り除いているのでしょう。

軸上色収差は硝種を増やすことで補正しています、f/1.8Dは脅威の硝種2種で設計されていましたが、このf/1.8Gレンズは第2レンズと第5レンズは共通した同じ硝種ですがそれ以外は別の物が採用されています。

像面湾曲

像面湾曲f/1.8Dに比較しておよそ同程度ですが、球面収差を抑えたことを考慮すると若干悪いような?

歪曲収差

歪曲収差は数値的には小さいの範囲ですがマイナス側の樽型方向へ悪化しています。完全対称型ならもっと少ないので、対称からずらしてしまったためだと思います。

倍率色収差

倍率色収差も同様に絶対値的には小さいですがf/1.8Dに比較するとわずかに悪化しています。対称構造からずらしたためでしょう。

横収差

タンジェンシャル方向、サジタル方向

横収差として見てみましょう。

基準光線(d線:黄色)の収差量としては、タンジェンシャル、サジタルともにf/1.8Dの約半減といった雰囲気です。


記事の途中ですが、防湿庫を購入すると不思議と収納上限までレンズが生えてしまうというそんな恐ろしい都市伝説があるらしいですよ。

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スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

流石は2011年の製品ですからスポットは、かなりおとなしい感じになりました。

スポットスケール±0.1(詳細)

拡大した詳細確認用のスケールでは画面の周辺の像高18mmを超えるとサジタルコマフレアにあよるV字感が強くなります。

MTF

開放絞りF1.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

中心から画面の周辺の像高18mm程度まではしっかり山が高く位置も良好です。

f/1.8Dに比較して中心から像高18mmぐらいの中間領域までは10ポイント程度の向上がわかります。

非球面レンズによる球面収差の改善と、ガラス枚数の増加による軸上色収差の改善によるものです。

小絞りF4.0

こちらは絞りをFno4.0に絞り込んだ状態でのMTF特性図です。

絞ることで全体にMTFの山の高さが改善し、解像度が非常に高まります。

しかし、50f/1.8Dと比較すると大きな改善ではありません。

逆に言いますと、これがダブルガウスタイプ(対称配置型)の恐ろしい底力で、あまりに素養が高く30年の時を持ってしても大きく改善させることが難しいわけですね。

当然ですがSIGMAのArtレンズのように巨大化させれば性能はもっと上がりますが、製品の軽量さというものも重要な指標ですから安易に大きくすれば良い物ではありません。

しかしコンピューターの進歩に例えるなら30年差あれば「三輪車がF1カーになる」ぐらいの劇的進化が起こるわけですからレンズの進歩はなにしろ遅く、ゆえに色々な進化の道に分かれ面白さもより深くなるわけです。

総評

伝統的なレンズ構成であるダブルガウスタイプを継承しながら、サイズや価格も極限まで抑えたまさに匠な設計の技の施されたAF-S NIKKOR 50mm F1.8G。

単なる模倣に留まる事のないNIKONらしい伝統と先進性の融合を見ることができ、30年ぶりのリニューアルにふさわしいバランスだったのではないかと思います。

また、現代において改めて感じるダブルガウスタイプの素養の高さにも感心する次第です。

近年の超高性能&超重量レンズに飽きた方には、オートフォーカスも効きながら、オールドレンズ的な味も残している「軽快に遊べるレンズ」として所有するのにもちょうど良いですね。

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価格調査

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作例

Nikkor 50 1.8Gの作例は現在制作中です。


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製品仕様表

NIKKOR 50 1.8G製品仕様一覧表

画角47度
レンズ構成6群7枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.45m
フィルタ径58mm
全長52.5mm
最大径72mm
重量185g

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

レンズ分析リスト

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