この記事では、ニコンのミラーレス一眼Zマウントシステム用の交換レンズである極大口径標準レンズZ 58mm F0.95Sの歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
1959年に発売が開始されたニコン初の一眼レフカメラ「NIKON F」には専用の「Fマウントレンズ」が用意されました。
その後、NIKON Fシリーズは、激動の昭和から平成の終わる2018年まで一貫したマウント構造を維持しながら発展を続け、カメラと供に多くの銘レンズを発売し続けました。
さらに2018年以降は、ミラーレス一眼カメラとして進化したZマウントシステムへ移行し、新たな発展を続けています。
これまでに半世紀以上続くFマウント/Zマウントのレンズシリーズは、標準レンズである焦点距離50mm台のレンズも多数発売されました。
そこで、現在(2020年)でも入手可能なNIKONの標準レンズの分析をシリーズ化して行います。
現在、NIKONの標準レンズ(焦点距離50mm台)の製品は以下の製品が販売されています。
Fマウントレンズ
- AI AF NIKKOR 50mm F1.8D
- AF-S NIKKOR 50mm F1.8G
- AI AF NIKKOR 50mm F1.4D
- AF-S NIKKOR 50mm F1.4G
- AF-S NIKKOR 58mm F1.4G
- Ai NIKKOR 50mm F1.2S
※Ai 50mm /f1.2Sは在庫限り
Zマウントレンズ
その総数は実に8本と脅威的、しかもそれぞれに光学系は異なるようです。
なお、Zマウントレンズとも言われるNIKKOR Zは最新のミラーレス一眼カメラ用のレンズです。
Zマウントカメラは、例えば以下のような製品が発売されています。
Zマウントのカメラには、マウントアダプターを装着すると一眼レフ用のFマウントレンズなどを利用することも可能です。
逆にZレンズはミラーレス専用ですから、一眼レフのFマウントカメラには装着できませんのでご注意ください。
今回のレンズ
今回は標準レンズシリーズ記事の第7回目、前回はNIKON初のフルサイズミラーレス用標準レンズZ 50mm f/1.8Sを分析し極めて高い光学性能に感動しましたが、今回は同じくミラーレス用の超大口径58mmf/0.95を分析し、一旦はシリーズ記事の最終回となります。
この製品の特長であるFno(Fナンバー)の0.95と言う数値の凄みについて記しておきます。
Fnoとは光学系の明るさを示すもので、√2(≒1.4)のべき乗で表されるのが通例です。
焦点距離が同じ時、Fnoが1段小さいと言うのはレンズを前から見た絞りの面積が2倍、直径なら1.4倍大きくなることを示しています。
レンズの特性について収差と言うパラメータで表現しますが、簡単に言えば光を極小の1点に集める能力の事ですからレンズの径が太くなると言うことはそれだけ光を1点に集めるのが困難になる、と説明すれば感覚的にFnoと性能の関係が理解できるでしょう。
一般的なFno表記は、暗い順に1段刻みで記載すると
Fno32 22 16 11 8.0 5.6 4.0 2.8 2.0 1.4 1.0
となり、Fno1.4とFno1.0は差で0.4とわずかな量に感じますが、面積としては2倍異なります。
いかにF1.0のレンズが大きくなり収差補正が困難か、おわかりいただけるのではないかと思います。
このレンズは2018年にNIKONのフルサイズミラーレス参入と同時に開発発表され、当初からその存在をにおわせていたレンズですが、およそ1年後の2019年10月に衝撃のサイズ感と価格で発売されました。
希望小売価格は126万5千円、受注生産、オートフォーカスはできません。マニュアル専用です。
重量に至っては2Kg、もうネタとしか思えませんが、私が予測するにNIKONとしてはついに新規となったZマウントとフルサイズミラーレスの新システムの存在意義を示すためにこのようなレンズが必要だと考えたのでしょう。
なにしろついこの前までは不変のFマウントとか言ってたわけですから、今更引っ込めるわけにもいきません。
ここはとんでもない物をだしてごまかそうという作戦ですよ。(たぶん)
しかし、ただ事ではないこのサイズ感と価格ですから衝撃の性能であることは間違いありません。
私の財力からすると一生、実物を手に取る事は無いように思いますが、このようなレンズでモデル撮影でもしてみたいものです。
文献調査
この製品の特許は出願されないのではないかと思っていました。特許を出願する意味は他社に真似されない事が第一の目的です。
この製品を真似しませんよね…普通。このような仕様のレンズを開発・販売したら普通の会社は倒産します。
世界のNIKONだからできる所業でしょう。
そんなわけで特許の発掘は諦めていたある日、期待していなかったところに唐突に発見してしまいました。WO2019/229849です。実施例1、2ともに差はあまり無いようなので1を設計値として早速再現してみましょう。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がNIKKOR Z 58 F0.95 Sの光路図です。
レンズの構成は10群17枚、非球面レンズを3枚も採用しています。色収差を補正するための特殊低分散材料EDレンズも4枚投入と現代の最新技術は全て入っているのでしょう。
ですが…
やはりガウスの呪いは解けないのか、絞り前後にはカーブの強い凹の面が向かい合いガウスらしい構成を残しています。
絞り前後のガウス的構成部の被写体側には負の焦点距離のレンズ群を配置し、ガウス構成部よりも撮像素子側には正のレンズを配置した構成となっています。
前回、Z50mmf/1.8を分析しましたが、それともと異なるガウス変形パターンです。SIGMAのArt50mmF1.4の方が雰囲気は近いでしょうか。
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。