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【深層解説】スマホの望遠レンズの仕組み apple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8 -分析128

apple iPhone 15 Pro Max に搭載された望遠レンズ 120mm F2.8の性能分析・レビュー記事です。

この記事では、AppleのスマートフォンiPhoneに搭載されている小型望遠レンズの構造を分析します。

現代(2023現在)では、世界中の人々が手にしているスマートフォンですが、カメラとしての機能も近年急激に向上し、もはや利便性においてはカメラを越えた部分も多くなりました。

その一方で、誰もが常に身に着けているスマートフォンですが、そのカメラとしての仕組みや構造をご存じの方はとても少ないのではないでしょうか?

そもそも、カメラが内蔵されていると言われても「本当に何枚もレンズが入っているのか?」と不思議に感じるサイズです。

そこで、当記事ではApple iPhoneに望遠レンズについて特許情報や実写の作例から光学系の設計値を推測し、シミュレーションによりレンズ性能を分析します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください

レンズの概要

執筆現在(2023)のiPhoneに代表されるスマートフォンのカメラは、いわゆる多眼化により焦点距離(画角)を広げています。

要はカメラとレンズを複数搭載し、これを切り替えたり画像を補完することでズームレンズのように焦点距離(画角)を可変させています。

まず、初期のスマートフォンの標準レンズは、焦点距離35mm(換算値)ぐらいから始まりましたが、徐々に広角化(短焦点化)が進み焦点距離26mmを越えるほどになりました。

このスマートフォンの標準レンズの代表例については、過去に分析を行っておりますので以下をご参照ください。

 関連記事:iPhone 標準レンズ分析

さらにスマートフォンの第2のカメラには、超広角の焦点距離13mmあたりが搭載されるようになります。

超広角が搭載されたのは、広角レンズは薄く設計できること、広い画角で撮影できれば切り出し(デジタルズーム)ができること、などが理由でしょう。

そして近年、スマートフォンの第3のカメラには待望の「望遠レンズ」が搭載されるようになります。

ここで、近年のiPhoneに搭載された望遠レンズの仕様を見てみましょう。

  • iPhone 12 Pro : 65mm F2.0
  • iPhone 13 Pro : 77mm F1.8
  • iPhone 14 Pro : 77mm F2.8
  • iPhone 15 Pro Max : 120mm F2.8当記事

     ※数値は35mm換算値

望遠レンズと言っても一般カメラの焦点距離とは異なり、スマートフォンの望遠レンズとは一緒に搭載されている標準レンズ(26mm前後)よりも長いとの意味合いです。

初期に搭載された65mm F2.0の仕様ならば、一般的なカメラでは標準レンズあるいは中望遠レンズの範疇ですね。

しかし、年々改善が進み、ついにiPhone 15では120mmまで長焦点化を達成し、望遠レンズと名乗っても違和感の少ない領域に達しました。

さて、今回はiPhone 15 Pro Max に搭載された望遠レンズ120mm F2.8について、長焦点化を実現した裏にどのような技術や仕組みがあるのか分析してまいります。

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文献調査

apple iPhoneのレンズは、主に台湾のラーガンプレシジョン(大立光電)などアジア系のメーカーが開発しており、レンズの仕様も公開されていないため特許から推定することが通常は難しいものです。

しかし、apple自体がレンズの特許を出願する事例が極わずかですが存在し、今回も珍しく関連する関係特許を発見することができました。

予想するに、ラーガンは他のスマートフォンメーカーとも取引があるので、新規性の高い機能に関しては他社への流出を防止するため、apple自体が特許出願し権利を握っておきたいのだろうと思われます。

さて、発見された関連文献US 2022/0091373を見ると複数のパターンの実施例が記載されており、大別するとレンズ構成が3枚の物と4枚の物がありました。

どちらが実際の製品に近いのかは現時点では不明ですが、実施例の数やバリエーション的に3枚構成を推しているよう感じるので3枚構成の実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

おそらく詳細な設計は、ラーガンプレシジョンなど外部で実施されているので、今回のデータは「基礎設計としてこのような仕組みだ」と見ていただくのが妥当だろうと思います。

なお、当ブログでは撮像素子のサイズによらずグラフを比較して見られるように撮像素子のサイズに合わせてスケールを調整して記載しています。

イメージ的には、もしもこのレンズがフルサイズ用として設計されたら…として見られるようにしてある、と考えていただけるとわかりやすいかと思います。

なお、撮像素子の小さなシステムは、光学的な収差量が同程度でも引き延ばしなどの影響や、ノイズの影響があるため最終的な画質が同一であるわけではないので注意が必要です。

さらにスマートフォン用のカメラは様々な合成技術や画像処理を駆使しているそうなので、性能を見るうえで注意が必要です。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がapple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8の光路図になります。

光学系は3群3枚構成、第1レンズは望遠レンズで発生しやすい軸上色収差の補正に効果的な超異常低分散ガラスを採用しています。

これはNIKONではスーパーEDレンズと名付けられ、蛍石に匹敵する効果があるとされる材料です。

第2レンズ、第3レンズは、球面収差や像面湾曲の補正に効果的な樹脂製の非球面レンズです。

レンズに続いて最も特徴的なのは、レンズの撮像素子側にある「長い四角」のガラスブロックです。

このブロック部分はappleが「テトラプリズム」と呼称する光路の折り曲げ部に相当します。

あの薄いスマートフォンにこの長い光学系をそのまま格納するのはスマートとは言えませんので、光路を折り曲げて薄くするわけです。

実際に折り曲げた様子の光路も以下に作成しました。

横から見た状態はひし形ですが「テトラプリズム」と呼ぶだけにプリズム内部で光を4回反射させて撮像素子へ光を導いています。

このように反射を上手く活用することで、レンズの被写体側頂点から撮像素子までの距離(厚み)を大きく削減します。

この折り曲げにより、スマートフォンへスマートに格納できるようになるのです。

iPhone 15 望遠レンズを初めて見た方は「とても異常な光学系」に見えるかもしれません。

一般にレンズ構成が公開されるのは一眼レフカメラ用のレンズぐらいなので、そう思われても無理のないことです。

しかし、このプリズム使った折り曲げ光学系は、光学設計をしている者からすると「いわゆる枯れた技術」です。

このような光学系は、反射光学系あるいは屈曲光学系と言われさほど珍しいものではありません。

例えば、当ブログでも過去に分析した「写ルンです望遠」は、2枚の鏡を使った折り曲げ光学系で1990年代にすでに実用化しています。

上図は「写ルンです望遠」の光路図です。鏡を使った2回反射なので少し見た目は違いますが、基礎的な概念は同じですね。

世間一般ではこのように折り畳んだ光学系をPeriscope(ペリスコープ)レンズとも呼んでいます。

ペリスコープとは、潜水艦に搭載されたいわゆる潜望鏡の意味ですね。

テトラプリズムとペリスコープの違いとしては、ペリスコープでは反射回数が2回に対し、テトラプリズムは4回反射するので2倍反射回数が違います。

他にも、コンパクトデジタルカメの興隆期(2000年代)に発売されたMINOLTA Dimage Xは、世界初のプリズムを使った折り曲げ型ズーム光学系として有名です。

もっと例を挙げれば、一眼レフファインダー機構のペンタプリズムはもっと複雑怪奇です。

ペンタプリズムは断面を見ると3回反射ですが天頂部で左右方向の入れ替えもしています。

しかしながら、iPhone 15 望遠レンズの恐ろしいところは、この超小型のテトラプリズムを大量生産している点でしょう。

これだけ小型の部品を超高精度に仕上げ、かつスマートフォンという超大量に製造する製品に搭載するのですから、驚異的な製造技術です。

カメラ用レンズとスマートフォンの生産台の差について正確な数はわかりませんが100倍では足りないぐらいの差があるでしょう。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見ると若干プラス側にふくらみが残りますが、3枚構成のレンズとしては健闘していると言えます。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、スーパーEDレンズを採用していることもあり、3枚のレンズ構成としてはかなり健闘しているものの少々苦しい量が残っています。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、画面の中間部の像高1.4mmあたりまでは十分ですが、周辺部では補正不足が目立ちます。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、中望遠域のレンズなので焦点距離仕様的に発生しづらいためほとんどゼロです。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、極小というわけではありませんが必要十分程度で良くまとまっています。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、画面の中間の像高1.5mmあたりからコマ収差(非対称性)が強くなり、画面周辺の像高2.3mmを越えるとハロ(傾き)がきつくなっており像面湾曲の影響がかなり強いようです。

右列サジタル方向は、FnoがF2.8と控えめなためさほど悪さは目立たないようです。

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

軸上色収差の影響でグラフで上段の画面中心部でも少々大きめですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

このスケールは現代の超高性能レンズ用の表示なので、今回のような3枚構成のレンズに適用するのは少々厳しい評価です。

MTF

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、全体に山が低めで苦しさが滲みます。

小型化のために構成枚数が少なく、軸上色収差の補正が苦しいことが要因でしょう。

過去に分析した似た仕様の1970年代のレンズZuiko 135mm F3.5を見ていただくとわかりますが、このぐらいの構成枚数は欲しいところですね。

 関連記事:OLYMPUS Zuiko 135mm F3.5

総評

apple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8は、温故知新で反射光学系技術の研鑽によりスマートフォンのサイズの中に120mm相当の光学系を見事に格納しましたが、レンズ構成枚数がわずか3枚ですからやはり少々苦しさを感じる光学性能でした。

なお、冒頭にも説明した通りレンズの詳細構成は明かされていませんから、実際の性能はもっと改善されている可能性もあります。

執筆時点では発売前のため検証できませんが、スマートフォンのカメラは画像処理や補完技術が一般カメラよりも大きく先行しており、おそらく最新のAI技術などを駆使して少々苦しい性能でも劇的に修正してしまうものと予測されます。

当然、appleほどの企業ならそのあたりも含めての最適化が行われているのでしょう。

きっと驚愕の実写性能を見せつけてくれるのではないでしょうか?

システム全体を含めての総合的な実写評価をするのが楽しみです。

スマートフォンの望遠レンズと一眼レフカメラの望遠レンズはどのくらい性能が違うのか気になりませんか?

そんな比較記事も用意しましたのでご覧ください。

 関連記事:スマホの望遠レンズと一眼レフカメラの望遠レンズの比較

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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製品仕様表

製品仕様一覧表 apple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8

画角--度
レンズ構成3群3枚
最小絞りF2.8
最短撮影距離--m
フィルタ径--mm
全長--mm
最大径--mm
重量---g
発売日2023

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