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【深層解説】PENTAX中望遠レンズ smc PENTAX M 120mm F2.8 -分析129

PENTAX中望遠のレンズ PENTAX M 120mm F2.8の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

フルサイズ用(35mm版)焦点距離120mmの単焦点レンズはとても珍しい仕様で、私もPENTAXの120mm F2.8しか知りません。

まずはPENTAXの120mm F2.8の歴史を確認してみましょう。

  • smc Takumar 120mm F2.8 4群5枚 (1972)
  • smc PENTAX 120mm F2.8 4群5枚 (1975)
  • smc PENTAX M 120mm F2.8 5群5枚 (1977)当記事

PENTAXの焦点距離120mmレンズは、1972年発売の「Takumar 120mm」から始まりました。

なお、Takumarとは1950年代からPENTAX(当時:旭光学工業)がレンズのブランド名としていた名前です。

Takumarはレンズマウント部がスクリュー(ネジ式)でしたが、初代の発売からすぐの1975年に現代にも続くバヨネット式マウントであるKマウントへ移行を始め、同時にレンズ名もPENTAXへ移行します。

このため、初代レンズの光学系を流用しつつ、Kマウントへ変更されたのが二代目である「PENTAX 120mm」になります。

その後、PENTAXは小型化を目的にリニューアルしたレンズシリーズ「M」を展開、その一環として1977年に光学系も一新した「PENTAX M 120mm」が登場します。

そして、残念ながら120mmの系統のレンズは、現代では途絶えてしまっているようですね。

ご存じのように現代一般的なフルサイズ(35mm版)の中望遠レンズの焦点距離は85mm、100mm、135mmあたりが定番で、120mmはあまり見かけない焦点距離仕様となっています。

しかし、かつてのTakumar中望遠域の焦点距離を確認すると85mm、105mm、120mm、135mm、150mmがラインナップされておりました。

これは当時、ズームレンズがまだ未発達な時代であったため単焦点レンズを隙間なくそろえることで、システムを拡充する思想のためと推測されます。

1980年代の後半にはオートフォーカス化とともにズームレンズが発展し、大口径中望遠ズームが実用化されると特徴の少ない中間的な焦点距離のレンズは消えていきました。

今回の記事では、この希少性の高い焦点距離仕様であるPENTAX M 120mm F2.8を分析してまいりましょう。

文献調査

日本の特許情報はJ-PlatPatを代表としていくつかのサイトで参照できますが1980年以前のデータはあまり電子化が進んでいないようで、今回のPENTAX 120mm F2.8 は1970年代なので見つからないかと思っておりました。

しかし、米国ではもっと古い特許も電子化されておりまして、キーワード検索などができないので探しづらいのですがUS4134645を発見しました。

文献の内容を確認するといくつか仕様の異なるレンズが記載されているものの、実施例1が仕様的に120mm F2.8相当とわかりましたので、これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がsmc PENTAX M 120mm F2.8の光路図になります。

レンズの構成は5群5枚構成、時代的な背景からも非球面レンズや特殊材料は使われていません。

一眼レフ用レンズ構成の最も代表的な例にダブルガウス型という構成がありますが、焦点距離が100mmを越えるとダブルガウスのような対称型配置は難しくなります。

中望遠域の代名詞的なレンズとしてはエルノスター型があります。

エルノスター型は、絞りより被写体側(図左側)になる前側群に凸凸凹のレンズ配置で、絞りの撮像素子側(図右側)の後側群へ凸レンズを配置しています。

PENTAXの120mm F2.8の前群は凸凹凸で組み合わせが異なり、後群に凹レンズを追加しています。

前群は凸凸の順で並べた方が凸レンズの収斂作用が強まるので、レンズ全系を圧縮し小型化しやすくなります。

しかし、このレンズは一眼レフカメラ用なのでファインダーへ光を導くためのミラーを配置する空間を確保するため、レンズ全長を少し伸ばしたいぐらいなので、この方配置の方がむしろ好適なのでしょう。

 ※エルノスターは一眼レフが普及するよりずっと前の製品

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見るとほんのりマイナス側にふくらむフルコレクション型で、構成枚数の限られたレンズでマイナス側に倒れる像面湾曲とのバランスをとる手法です。

フルコレクション型の副次的な効果として絞り開放ではふんわりした描写となり、絞り込むとふくらみ部分がカットされることで解像度が増します。

いわゆるオールドレンズ的な描写の原理です。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、構成枚数が少ないだけに大き目ですが、基準光線のd線(黄色)とF線(水色)を重ねる解像度を最も高める補正形状とし、にじみの目立つC線(赤色)にg線(青色)を重ねることで緩和させる、色収差の補正のお手本のような特性です。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、構成枚数が限られるレンズは基本的にマイナス側に補正残りが発生しますが、球面収差をマイナス側に残すフルコレクション型にすることでバランスを取っているのです。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、一般的に望遠レンズではプラス側に倒れる特性になりやすく、実写すると糸巻き型になります。

このレンズも望遠よりのため、ほんの少しプラス目に収差が残りますが、撮影してわかるほどではないでしょう。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、目立ちやすいC線(赤色)と解像度の低下を起こすF線(水色)は十分に補正されています。

g線(青色)はだいぶ大きめに残りますので、開放Fnoでの撮影には少々注意が必要でしょう。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、構成枚数わりにコマ収差(非対称性)は少なく、高解像度が期待できそうですが、g線の傾き(フレア)が強く残っています。

Fnoを1段程度絞ると半減するため、逆光や明暗差の大きな被写体では絞りに注意が必要です。

右列サジタル方向は、FnoがF2.8と大口径とまではいかないので気になる補正不足はなさそうです。


最新フィルムカメラもどうでしょうか?

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

軸上色収差で見た通り、C線(赤色)とg線(青色)の残りが気になりましたが、スポットでもそのまま表れています。

倍率色収差でg線(青色)の補正残りが大きい影響もそのまま表れており、画面の周辺側となる下段側でg線の広がりが目立ちます。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

こちらのスケール表示は、現代の超高性能レンズ用なので、この時代のレンズに適用するのは厳しい条件です。

MTF

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、かなり高く現代的レンズにも引けを取らないレベルです。

画面の周辺部の特性は全体に山の頂点がプラス側へ倒れますが、高さは十分に残しているので撮影時に気になるレベルではないでしょう。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

画面中心の特性を示す青線のグラフは一段上がり、画面の周辺部の特性を示す山の頂点もズレが低減しています。

この時代のレンズは、技術的に開放Fnoでの性能を十分高めることが難しかったため、開放Fnoはあくまで緊急時用でFnoを一段落としてして使うことが常識でした。

現代的なレンズと違い、ひと絞りしたところに性能のピークを持っています。

このようにFnoの使い分け描写の違いを味わうのが、オールドレンズを使う最大の楽しみですね。

総評

smc PENTAX M 120mm F2.8は、簡素簡潔な構成でありながら、いにしえの収差補正技術のお手本のような匠の1本と言わざる得ない特性でした。

実は、このレンズを分析した事にはもう一つの目的があります。

近代的な光学・電子技術の結晶たるiPhone 15のレンズにこのレンズと同じ120mm F2.8のレンズが搭載されました。

そこで、一般的なカメラ用レンズと比較するためには唯一と思われる同仕様であるこのレンズの分析が重要となったわけです。

すでにiPhone 15の分析は行っておりますので以下をご参照ください。

 関連記事:apple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8

次回、比較検討記事も準備しておりますのでお楽しみに。

 

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

マップカメラ楽天市場店

作例・サンプルギャラリー

smc PENTAX M 120mm F2.8の作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 smc PENTAX M 120mm F2.8

画角10.2度
レンズ構成5群5枚
最小絞りF--
最短撮影距離1.2m
フィルタ径--mm
全長--mm
最大径--mm
重量---g
発売日1977

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