ニコン ニッコール 50mm F1.8D と ニッコール Z 50mm F1.8Sの比較分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?
雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?
当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。
一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。
あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。
それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。
レンズの概要
NIKON 50mm F1.8Dは、ニコンFマウントカメラの標準レンズですが、当初はEシリーズとして1978年から販売されている光学系を流用し開発され、2013年に製造が終了しました。
2018年ごろまでは新品が一般的に市場で流通していたでしょうか、2021年執筆現在のところ一部のネットショップを除くと新品の入手は困難になってきたようです。
一方のNIKKOR Z 50mm F1.8Sは、ニコンの初フルサイズミラーレス一眼であるZマウントカメラ用に2018年に登場した新時代の標準レンズです。
NIKON 50mm F1.8Dの終焉は、まるでニコンのフルサイズミラーレスの立ち上がりを見守りつつ、そっとその生涯を閉じると言う、まるで古武士のような潔さすら感じます。
今回は、NIKON 50mm F1.8Dの追悼として改めて新旧標準レンズを比較検証してみたいと思います。
私的回顧録
さてこの2本のレンズは、ブログの開設早期にそれぞれ分析を行いました。
ちょうど2020年のコロナ騒動の始まりの最中に私的自粛活動としてNIKON 50mmレンズを全部分析するシリーズ企画を行いました。(本当に辛かった…)
それぞれの記事は以下をご参照ください。
関連記事:Fマウント NIKON 50mm F1.8D
関連記事:Zマウント NIKON Z50mm F1.8S
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図

上図、左はNIKON Ai AF NIKKOR 50mm F1.8D と 右はNIKKOR Z 50mm F1.8Sの光路図になります。
当記事執筆にあたり改めて同スケール比で光路図を再制作しました。
Fマウント 50F1.8Dは、伝統的なダウブルガウス構成を元にした変形したタイプとなっています。
ダブルガウスタイプについては以下に詳しい記事を準備してありますのでご参照ください
関連記事:ダブルガウスレンズ
一方でZマウント Z50F1.8Sは、ダブルガウスレンズの前後を凹レンズ群で囲んだような配置で、フルサイズミラーレス時代を象徴するような新時代の対称型配置構成を発案したものと推測されます。
縦収差

球面収差 軸上色収差
縦収差も同様に左はNIKON Ai AF NIKKOR 50mm F1.8D と 右はNIKKOR Z 50mm F1.8Sを配置しております。
球面収差を見ると、Fマウント 50F1.8Dはマイナス側に膨らんだ伝統的フルコレクション型の収差形状をなしているの対し、Zマウント Z50F1.8Sは、略直線の如き収差形状となっています。
かつてFマウント 58mm F1.4Gの開発発表時点では「描写の味と解像度」を追求する3次元的ハイファイな光学設計と言う物を提唱していましたが、Z 50 F1.8Sを見れば「そんなもの糞くらえだッ!」と言わんばかりのゼロ収差を目指して開発されたことが見て取れます。
関連記事:NIKON 58mm F1.4G
ミラーレスと言う新時代にふさわしい新レンズを見せつけるためなのでしょう。
軸上色収差においても1/5ぐらいになっているのでしょうか、こんなに良くしてしまって今後どうするのか心配になりますね。
像面湾曲
像面湾曲も同様にZマウント Z50F1.8Sは、略直線の如き収差形状となっています。
歪曲収差
歪曲収差も同様にZマウント Z50F1.8Sは、略直線の如き収差形状となっています。
50mmF1.8のレンズでここまで各収差を小さく抑えられますと、もしや設計担当者は、何かのトラウマでもあったのではないかと余計な心配を隠せない気持ちになります。
倍率色収差

倍率色収差は、Zマウント Z50F1.8Sの方が画面周辺18mmあたりから悪くなっています。
NIKONはFマウントカメラでも倍率色収差を画像処理で補正することを公言しているので、Zマウントカメラではさらに画像処理を活用する方針なのかもしれません。
横収差
左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。
Zマウント Z50F1.8Sは、写真の味たるサジタルコマフレアは激減しています。
物理的には絶対的に正しいわけですが、若干の侘しさもある複雑な心境になりますね。
記事の途中ですが、防湿庫を購入すると不思議と収納上限までレンズが生えてしまうというそんな恐ろしい都市伝説があるらしいですよ。
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
スポットのサイズも激小化されています。Zマウント Z50F1.8Sの画面隅のスポットサイズの方が、Fマウント 50F1.8Dの画面中心スポットよりも小さいのです。
これこそ衝撃的収差補正技術。
仮に「好きに設計をしても良い」と言われてもここまで補正するのは難しいものです。
常軌を逸する鍛錬と設計センスがなければ成しえることではありません。
スポットスケール±0.1(詳細)

MTF
開放絞りF1.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
スポットダイアグラムでもご覧の通りですが、MTFで確認してみてもZマウント Z50F1.8Sの画面隅(赤線の山の高さ)のと、Fマウント 50F1.8Dの画面中心性能(青線の山の高さ)にはわずかしか差がありません。
信じ難いレベルの高性能です。
小絞りF4.0

ガウスレンズの優秀さによりF4まで絞りますとFマウント 50F1.8Dかなり善戦しますが、やはりZマウント Z50F1.8Sには一歩及ばないようです。
総評
改めて2本のレンズを並べて比較してみますと、Fマウント 50F1.8Dは、クラシックなダブルガウスレンズらしい味わいのある収差特性ですが、Zマウント Z50F1.8Sはもはや異次元レベルの収差補正を果たしていることが良くわかります。
悲しいものですが、Zマウント Z50F1.8Sの登場によりFマウント 50F1.8Dは遂にその役割を終えた…と言う事がよくわかりますね。
しかしながら、Fマウント 50F1.8Dの描写性能は代えがたい味わいがある事も事実です。
Zマウントでも復刻していただけることを心より願いたい。
それまではFマウント 50F1.8Dをしっかり確保しておきたいものです。
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以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?
それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
Fマウントレンズもマウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラでも利用できます。
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
作例・サンプルギャラリー
作例集は各分析ページをご覧ください。
関連記事:Fマウント NIKON 50mm F1.8D
関連記事:Zマウント NIKON Z50mm F1.8S
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製品仕様表
製品仕様一覧表
Ai AF NIKKOR 50mm F1.8D | NIKKOR Z 50mm F1.8S | |
画角 | 46度 | 47度 |
レンズ構成 | 5群6枚 | 9群12枚 |
最小絞り | F22 | F16 |
最短撮影距離 | 0.45m | 0.4m |
フィルタ径 | 52mm | 62mm |
全長 | 39mm | 76mm |
最大径 | 63.5mm | 86.5mm |
重量 | 155g | 415g |
その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。
以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。
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レンズ分析リスト
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