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【深層解説】 シグマ大口径標準ズーム SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN ART -分析077

シグマ 24-70mm F2.8 DG DNの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

当記事で紹介するSIGMA 24-70F2.8 DG DNは、ミラーレス一眼用の大口径標準ズームです。

本レンズはSIGMAのレンズシリーズの中でARTラインに属しており、高性能でありながらも重厚な金属外装の高い質感にもこだわるSIGMAの最上位レンズシリーズの1本です。

改めておさらいしますとSIGMAの名付けパターンは以下となっています。

  • DG (フルサイズ用)
  • DC (APS/フォーサーズ用)
  • HSM (超音波モーター)
  • DN (ミラーレス専用)

本レンズはSIGMA 24-70F2.8 DG DNなので「フルサイズ」+「ミラーレス専用」と言う意味になりますね。

執筆現在(2022)では、本レンズはSONY Eマウント用とSIGMAやpanasonicで共通のLマウント用の2種が発売されています。

まずはSIGMA F2.8通し仕様のフルサイズ用レンズの系譜を確認してみましょう。

  • 24-60mm F2.8 EX DG (2004)
  • 28-70mm F2.8 EX DG (2004)
  • 24-70mm F2.8 IF EX DG HSM (2009)
  • 24-70mm F2.8 DG OS HSM ART (2017) 
  • 24-70mm F2.8 DG DN ART (2019)★当記事
  • 28-70mm F2.8 DG DN Contemporary (2021)

前回の記事では先代となるミラー有一眼レフ用の最後の標準ズームとなった24-70 F2.8 DG OS HSMを紹介しました。

この先代レンズの薄命さに涙した方も多かったことでしょう。(まだ販売してますが…)

 関連記事:SIGMA 24-70mm F2.8 DG OS HSM

本レンズはF2.8仕様の5代目、ミラーレス専用としては初の24-70 F2.8仕様の王道的レンズです。

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私的回顧録

『増える収差、減る収差』

レンズについて知ってくると絞りを「絞ると収差が減る」事に気が付く方も多いことでしょう。

その一方で、絞りを「絞ると増える」収差も存在します。

この現象を一言で説明しようにも、どの収差が絶対に減る/増えると区別できるわけではありません。

光学設計的に「どのように収差がまとめられているか?」がポイントになるからです。

しかし、収差図を見慣れてくるとその特性がわかるようになってきます。

今回は、球面収差と軸上色収差について絞りの効果を見てみましょう。

わかりやすい題材としてNIKON Nikkor 50mm F1.4Dを使って確認します。

Nikkor 50mm F1.4Dの絞り開放状態の光路図は下図です。

今回は軸上色収差の確認ですので、画面の真中心に結像する光線のみ表示しています。

ここでFnoを小絞りのF2.8に絞り込むと、光路図は下図のようになります。

絞り込まれF2.8の状態となった光路図を見ると光線が細くなり、絞りによって光線束の外側の光がカットされていることがわかります。

ひとつの見方としては、これは撮像素子へ入射するエネルギー量(露光量)が減ることを意味しています。

もうひとつの見方は、光線束の外側の収差がカットされているとも言えます。

それでは、絞りにより球面収差がカットされる様子を以下の模式図に示します。

左側は開放FnoのF1.4状態の球面収差です。

中央は小絞りのF2.8に絞り込む様子です。球面収差図上で「絞る」とはグラフの上端側からカット(遮光)されることを意味します。

右側は再度描画しなおした小絞りF2.8状態の球面収差図です。

開放では上端が大きく曲がっていた球面収差がカットされ、小絞りF2.8状態では略直線的な特性になりました。

同時に主にg線(青)の収差の曲がった部分も大きくカットされています。

さらにわかりやすく、この真中心の光線からスポットダイアグラム図を作成し詳細に結像状態を見てみましょう。

上図は先の光路図にある真中心に結像する光線のスポットダイアグラムを光の色ごとに描画しています。

上段の開放FnoのF1.4の状態を確認すると、d線(黄)のスポットも散らばりが見えますが、g線(青)に至っては枠をはみ出すほどに散らばっています。

下段の小絞りのF2.8を見ると、d線(黄)は当然小さくなっていますが、g線(青)はdよりも小さいぐらいになっています。

構成枚数の少ないレンズは、収差補正に限界があるため「開放重視の設計とするか」「小絞り重視とするか」これがまさに設計者の腕の見せ所でした。

そしてこのような特性を知り、絞りにより収差をコントロールして、収差の少ない美味しいポイントで撮影したり、収差の大きい味のあるポイントを楽しむことがオールドレンズの遊びの醍醐味であるわけです。

文献調査

さて特許文献を調査したところ、直接的にSIGMA 24-70mm F2.8 DG DNに該当する文献は存在しないようでした。

ところが、特開2021-71677に記載された実施例4は、若干仕様が異なる28-85mm F2.8ではありますが、当記事のレンズと同一の構成であることがわかりました。

少々仕様が異なりますが、Artレンズとして狙う性能は同程度と推測されますので、特開2021-71677の実施例4を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がSIGMA 24-70mm F2.8 DG DNの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態です。

 ※正確には広角端は28mm、望遠端は85mmの例を使っています。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

レンズの構成は15群19枚、第4/第15/第16レンズは像面湾曲や球面収差に効果的な非球面レンズを採用し、色収差の補正に好適なFLD、SLDガラスも7枚も採用しているようです。

先代のレンズに比較しますと非球面レンズは1枚少なくなったようですが、おそらくミラーレス専用レンズとなり撮像素子近傍までレンズの配置が可能となったことから収差補正が容易となったのでしょう。

続いてズーム構成については以下になります。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは全体として6ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると被写体側へ飛び出す方式です。

第1ユニット全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、これを凸(正)群先行型と表現します。

この凸(正)群先行型は、一眼レフでは高倍率ズームや望遠ズームレンズに多い構成で、全長を短くするメリットがありますが、第1レンズ側が大きくなるデメリットがあります。

第2ユニットは望遠端でわずかに撮像素子側へ移動します。

第3から第6ユニットは、広角端から望遠端へのズームのさい各々が被写体側へ移動しています。

第5ユニットは、フォーカス(ピント合わせ)でも移動するレンズとなっています。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mm

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、ARTシリーズのレンズですから驚くほどではありませんが、略直線的と言える補正がなされています。

望遠端はわずかに中間部でプラス側へふくらむ特性で、SIGMAのレンズには多いパターンで共通する味なのかもしれません。

軸上色収差は、球面収差図の色ごとの根本の差に相当しますが、この根本部分に差が見られません。軸上色収差がほぼゼロなのです。これはARTシリーズの単焦点レンズでもこのレベルのレンズは少ないのではないでしょうか。

これだけの色収差の補正をF2.8の大口径ズームでやってのけるのですから「見事」と言わざるを得ないでしょう。

像面湾曲

像面湾曲は大口径レンズでは大きくなりがちなサジタル方向(実線)がむしろ少なく好印象です。タンジェンシャル方向(破線)は複雑に曲がっていますが横収差図上で巧みにバランスを取っているのでしょう。

歪曲収差

歪曲収差は広角端では画面隅で約5%ほど、望遠端でも約2%ほど発生しており、セット販売用の安いズームレンズに見られるような数値です。

本レンズはミラーレス専用のレンズであるためデジタル処理による歪曲収差の補正が可能となっておりますので、実写では歪曲収差は残らないのでしょう。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mm

倍率色収差は程よく補正されています。倍率色収差を画像処理で補正しても解像度の低下は戻せないため、適度に補正されていなければなりませんから画像処理とのバランスを最適化しているのでしょう。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mm

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

広角端の横収差では画面隅の21mmあたりのサジタルコマフレアが少々大きく見えますが、実は画面の隅は歪曲収差を画像処理で打ち消してしまうと一緒に消えてしまうので画質への影響はありません。

この画面隅を無視すると横収差は全体に小さいことが良くわかります。

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mm

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

特に望遠端は、標準のスケールで見るとほとんど点ですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

こちらは同じ物ですが、拡大して表示しております。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mm

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

軸上色収差が極限まで補正されているため中心部の山は極めて高く、周辺部まで十分に高い特性です。

小絞りF4.0

小絞りF4.0では、周辺部が均質に中心部並みに向上しています。

総評

ミラーレス専用の新標準ズームにふさわしい高性能化を達成したSIGMA 24-70mm F2.8 DG DNやみくもに非球面レンズなどを多用し収差を補正しているのではなく、レンズメーカーでありながら歪曲収差の画像処理補正なども駆使し、ミラーレス時代にふさわしい進化を遂げていることが良くわかりました。

 

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

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当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN

画角84.1-34.3度
レンズ構成15群19枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.18-0.38m
フィルタ径82mm
全長124.9mm
最大径87.8mm
重量830g
発売日2019年12月20日

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