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【深層解説】ペンタックス広角レンズの比較検証 PENTAX FA 28mm F2.8 AL vs SOFT -分析093

PENTAX FA 28mm F2.8 AL と SOFTの比較性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

新刊

レンズの概要

PENTAX FA 28mm F2.8 ALは1991年の発売で、製品の名称に付けられたALはAspherical LENSの略称で「非球面レンズ」を指しています。

小型軽量で少ないレンズ構成でありながら、なかなかの高性能で隠れた「逸品レンズ」として一部界隈で有名です。

比較するPENTAX FA 28mm F2.8 SOFTは1997年に発売されたもので、球面収差を過剰に発生させて、独特のボケ味を楽しむことができる「珍品レンズ」です。

実はこの2本、レンズの内部構成を図示した構成図を見るとまったく同じに見えます。

さて、この見た目にまったく同じ2本の不思議なレンズ、その謎を解明するのが本記事の目的ともなっております。

私的回顧録

手元の文献「CAPA特別編集 交換レンズ1999」を開くとこの2本とも評価記事が残されています。

文献から故:西平英生先生が遺されたコメントを引用させていただくと

PENTAX FA 28mm F2.8 ALの方は

「ズームレンズの性能が一段上がった時代に単焦点レンズを使う意義があるのか?」と辛辣なコメントから始まるも「中心部の解像度は全レンズ中で最高、平均値も高い」と性能については絶賛されています。

一方のPENTAX FA 28mm F2.8 SOFTの方は

「オートフォーカスが使用できる広角ソフトレンズとしては唯一の存在」と評していますが「何かを撮影するかが問題だ」とのコメント。さすがの西平先生も評価が難しかったようですね…

ボケを付加したり可変させるレンズを「ソフトレンズ」とも言いますが、ボケを変化させるにはいくつかの手法があります。

過去に当ブログで分析したNIKON DC NIKKOR DC 135mm F2は、リング操作でレンズの間隔を変え球面収差を自在に変えることでボケ味を変化させる恐るべきレンズでした。

また、MINOLTA STF 135mm F2.8[T4.5]はアポダイゼーション素子を搭載することで主被写体の前後のボケを同時に美しく仕上げる希少なレンズです。

さて、当記事のPENTAX FA 28mmではどのような手法でボケを付与しているのか詳細を確認してみましょう。

文献調査

製品の発売年から逆算し当時の特許文献を調査したところPENTAX FA 28mm F2.8 ALと思わしきレンズが特開平4-261511に記載され、SOFTの方は「広角ソフトフォーカスレンズ」のタイトでの特開平9-179023に球面収差を過剰に残したレンズが記載されています。

それぞれの実施例1は共通するレンズのようですから、これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図左はPENTAX FA 28mm F2.8 AL(青字)で、右はSOFT(赤字)光路図になります。

それぞれ、5群5枚構成で同じ枚数です。

ALレンズでは第4レンズが非球面で、SOFTレンズは一般の球面レンズであることが大きな違いです。

ぱっと見たところは双方まったく同じに見えますが、それもそのはずでALに搭載された非球面レンズを抜いて、一般の球面レンズに置き換えたのがSOFTレンズのようなのです。

非球面レンズ以外、レンズ材料も形状もまったく同じレンズが、2つの特許文献に記載されていました。

推測ですが、わずかこれだけの違いのために全部のレンズを新規に変更するとは考えづらいですから、おそらく真実なのでしょう。

縦収差

左はPENTAX FA 28mm F2.8 AL(青字)で、右はSOFT(赤字)

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

従来スケール

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、こちらはいつもの分析記事に記載されているグラフと同じスケールサイズで表示しています。

左のALレンズは、非球面レンズが導入されているだけに、少ない構成枚数でありながら適切に補正されています。

右のSOFTレンズは、球面収差を過剰に残しているためにグラフの枠を大きく超えて飛びぬけてしまっています。

軸上色収差は、2つのレンズ供に同じガラス材料ですから同レベルで、現代のPENTAXの★(スター)レンズやLimitedレンズのレベルではありませんが、十分に補正されています。

像面湾曲

像面湾曲

左のALレンズは、非球面レンズがされているだけに少ない構成枚数でありながら適切に補正されています。

過去に分析した似たタイプのレンズとしてはNIKON AiAF NIKKOR 28mm F2.8Dが近い構成で、非球面レンズが搭載されていません。

非球面レンズの効果を比較するには好適ではないでしょうか。

NIKKOR 28mmに比較するとグラフの上端となる画面隅あたりでの像面湾曲量はおよそ半減していることがわかります。

歪曲収差

歪曲収差は、双方ともに単焦点レンズとしては一般的な数値特性で、ズームレンズに比較すると小さいレベルでしょう。

◆10倍拡大スケール

さて、今回SOFTレンズの収差量があまりに大きいので、球面収差と像面湾曲グラフのスケールサイズを10倍にして表示してみました。

左のALレンズは、一筋の線となっておりもはや違う意味でわかりませんね。

右のSOFTレンズは、なんとかグラフの枠内に収まっている状態です。

SOFTレンズの球面収差量がいかに尋常ではないか、お判りいただけたのではないでしょうか。

倍率色収差

左はPENTAX FA 28mm F2.8 AL(青字)で、右はSOFT(赤字)

倍率色収差は、双方とも同じガラス材料だけあってかわりません。

非球面レンズの採用によりその他のレンズ材料選択の自由度が高まったのでしょうか、先のNIKON AiAF NIKKOR 28mm F2.8Dに比較するとだいぶ改善しています。

横収差

左はPENTAX FA 28mm F2.8 AL(青字)で、右はSOFT(赤字)

タンジェンシャル、右サジタル

従来スケール

横収差として見てみましょう。

左のALレンズから見ると

右列タンジェンシャル方向は、中間像高でわずかにコマ収差(非対称性)が見られるものの、構成枚数から考えると優秀なまとまりです。

右列サジタル方向は、FnoがF2.8と控えめなこともあり、画面周辺の像高18mmぐらいまではサジタルコマフレア(傾き)は適度に収まっています。

右のSOFTレンズは、あまりの収差量にもうなんだかよくわかりません。

◆10倍拡大スケール

SOFTレンズの収差量が収まりきらないため通常の10倍に拡大したスケールで表示してみました。

ALレンズは逆にあまりにも小さくわかりませんね…

SOFTレンズは10倍に拡大してもまだだいぶ大きく、ALレンズの20倍ぐらいの収差量といったレベルです。

新発売

スポットダイアグラム

左はPENTAX FA 28mm F2.8 AL(青字)で、右はSOFT(赤字)

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

ALレンズは画面周辺の像高18mmあたりからスポットの散らばりが気になります。

星などの点光源の多い撮影にはひと絞り必要ですね。

SOFTレンズは、わずかに光の集まる核が残るのは確認できますが、評価が難しいレベルです。

MTF

左はPENTAX FA 28mm F2.8 AL(青字)で、右はSOFT(赤字)

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で、ALレンズの画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、フィルム時代のレンズとしてはかなり上位の高さです。

画面中間の像高12mmぐらいまでは十分な高さで、画面周辺まで見ても全域でNIKKOR 28mmから一段高いことがわかります。

NIKKOR 28mmは、あくまで非球面レンズを使わないオールドレンズの代表例であって、悪いと言っているわけではありませんのでご注意ください。

SOFTレンズを見ると言葉を失う直線状態ですね。

逆に言うと、この程度(MTF0.1ポイントほど)でも、被写体がわかる程度には写るのです。

小絞りF5.6

続いて小絞りF5.6状態のMTF特性です。

ALレンズは、全体にMTFの山が上昇することがわかります。

一方のSOFTレンズも上昇(?)してはいるものの、まだ解像度としては一般のレンズには至らないようで、F5.6ではソフト効果が残るようです。

小絞りF8.0

さらに小絞りF8.0も状態です。

ALレンズは、改善度合いは小さくなったものの、全体にMTFの山が上昇することがわかります。

一方のSOFTレンズは、一般的なレンズの開放Fno程度の程度の高さにまで達しているので、キャビネ版サイズで見るなら一般レンズとさほど変わらない解像度が得られそうです。

逆に言えば、F8.0まで絞るとソフト効果は、ほぼ消滅していると思われます。

総評

PENTAX FA 28mm F2.8 AL は、噂通りに★(スター)レンズほどではないにせよ、安価な普及クラスレンズよりは一段上の性能でした。

一方のSOFTレンズは「まさかの非球面レンズを置き換えただけ…」が真相のようで、これを発想する人もすごいのですが、商品化する会社もなかなか大胆と言いますか、度胸があると言うのか、普通の企業にはマネできなさそうです。

さて、今回の中身はほとんど同じ「逸品」と「珍品」の分析は、いかがだったでしょうか?

発売より20年以上が経過するなかで、まさか謎が究明されるとはPENTAXの中の人たちも予想しなかったのではないでしょうか。

SOFTレンズは、あまり流通量が多くはなかったようで中古品も少なく、オークションなどで見かけると少々プレミア付きの価格になってきているようですから入手されるなら最後の時期かもしれませんね。

ALレンズは小型軽量で高性能、普段使いに最適なレンズですが、まだまだ安価な中古品が多数あるようです。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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製品仕様表

製品仕様一覧表PENTAX FA 28mm F2.8 AL / SOFT

画角75度
レンズ構成5群5枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.25m
フィルタ径49mm
全長40.5mm
最大径65mm
重量185g
発売日AL1991年/SOFT1997年

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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