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【深層解説】タムロン大口径準広角ズームレンズ TAMRON 20-40mm F2.8 Di III Model 062 -分析139

この記事では、タムロンのフルサイズミラーレス用の交換レンズである大口径準広角ズームレンズTAMRON 20-40mm F2.8 Di IIIの設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

注目の商品

レンズの概要

分析するTAMRON 20-40mm F2.8 Di IIIは、フルサイズミラーレス用の大口径のF2.8通しズームでありながら小型で安価と大変に高評価なレンズです。

ところでこのレンズは、公式HPによれば標準ズームレンズとして紹介されています。

一般的に標準ズームの定義とは「標準焦点距離を含むズーム」ですから、フルサイズ用レンズの場合は焦点距離50mmが標準なので、ズームレンズの焦点距離範囲に50mmが含まれている必要があります。

逆に広角ズームレンズとはどんな仕様かと言えば、1975年に世界初の本格広角ズームレンズとしてNIKONが販売したNew Zoom Nikkor 28-45mm F4.5で、焦点距離50mmをわずかに含んでいません。

そのため、公式様には申し訳ございませんが「標準ズームレンズ」と呼ぶのは当ブログでは差し控えさせていただきます。

となりますと「どう呼ぶべきなのか?」が重大な問題ですね。

近年の広角ズームレンズは、焦点距離12-24mmとか16-35mmなどの仕様が一般化しておりますので、当記事の20-40mmを現代の感覚で広角ズームと言うのも少し違和感があります。

よって、当ブログではこの焦点距離仕様のレンズを「準広角ズームレンズ」と紹介することにします。

さて、お気づきの事と思いますが2024年現在、焦点距離20-40mmのような標準域から少し広角寄りな「準広角ズーム」が流行の兆しを見せています。

完全に仕様が同じわけではありませんが、NIKON ならNIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3、SONYでもFE 24-50mm F2.8 Gなどが発売されています。

このような、仕様のレンズが増えている背景には2つの要素が関係していると推測されます。

ひとつは、iPhoneに代表されるスマホでは焦点距離23mm程度の短いレンズが「標準レンズ」とされている事。

ふたつめは、流行しているVLOGと言われる自撮り動画には焦点距離24mm前後の広角域あたりが使い勝手として良い事。

「スマホ慣れした若者向け、流行のVLOGにも最適」これらが相まって近年この領域の製品が急増しているのではないかと考えられます。

なお、当記事のTAMRON 20-40mm F2.8 Di IIIは、2022年の発売ですから準広角ズームレンズの中でも先駆け的な製品で、TAMRONの商品企画力の高さ、その先見性には感服いたしますね。

文献調査

TAMRONの特許の出願方針は少し読みづらく、製品によっては関連する特許文献がまったく見つからないこともあれば、何件も見つかる場合もあります。

当記事の20-40mm F2.8は、いくつかの文献が見つかりましたが、構成のよく似る特開2022-131391の実施例5を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がTAMRON 20-40mm F2.8 Di IIIの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離20mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離40mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズは11群12枚構成、黄色に示すのは色収差の補正に効果的な特殊低分散レンズであるLD(Low Dispersion)で3枚採用されています。

緑で示すのは像面湾曲や球面収差の補正に好適な複合非球面レンズ(Composite Aspherical)で、ガラス製レンズ母材に非球面形状の樹脂層を形成したものです。

複合非球面レンズは、母材が一般のガラスなので素材が自由に選べる利点がありますが、樹脂層がデリケートであるなど製造上扱いが難しい点もあります。

紫で示すのは特殊低分散レンズをガラスモールディングで非球面形状に加工したLD非球面レンズ(Low Dispersion Aspherical)です。

ガラスモールディングとは、超高温の金属製の型で数十トンの超高圧でガラスを潰すことで非球面レンズの形を作り上げる加工方法です。

LD非球面レンズは、像面湾曲や球面収差の補正に適した非球面レンズを、色収差も補正できるLDレンズで作っているので、考えられうる最高の組み合わせを実現するまさに夢の素材と言えます。

LDレンズ自体が高価な材料なのに、加工費のかかるガラスモールディングで非球面レンズへ加工するので、技術的にも難易度が高く超高価な素材であり、近年ようやくほんのわずかな製品にのみ採用されています。

続いて、ズーミング時の構造を確認してみましょう。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは5ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると撮像素子側へ引き込まれる方式です。

第1ユニット全体として凹(負)の焦点距離(発散レンズ)の構成となっていますが、これを凹(負)群先行型と表現します。

この凹(負)群先行型は、広角のズームレンズでは定番の構成です。

凹レンズ群が被写体側にある構成をレトロタイプとも言い、凹レンズ群の発散作用で広角化させています。

第4ユニットは、ピントを合わせるためのフォーカシングユニットともなっており、ズームとは別にそれぞれが前後に稼働できる構造です。

初期の広角ズームレンズは、わずか3つのユニットが移動するタイプから始まっていますから、だいぶ複雑な構造となっています。

このレンズは、焦点距離20-40mmと少々控えめな仕様ですが、F2.8と大口径なのでなかなか贅沢なガラス構成と移動ユニット構成となっているようですね。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離20mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離40mm

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線のd線(黄色)は広角端も望遠端もかなり直線的で十分に補正されています。F2.8の大口径とは思えませんね。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、望遠端は極小さく、広角端は比較すると少々補正残りが感じられますが優秀な範囲です。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、広角端は非常に小さい範囲にまとめられていますが、望遠端は画面の端に向かってズレが残ります。

焦点距離20mmの広角レンズ側は、星空だったり遠方の景色など画面の隅々まで被写体が存在することが多く、解像度の平坦性が求められると言います。

そのため、像面湾曲の補正に重点を置いているのでしょう。

一方の焦点距離40mmの標準レンズ側は、人物などポートレート撮影を想定し中央部の解像度を優先するとも言われますから、球面収差や軸上色収差を優先した補正がなされているのではないでしょうか。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、カメラ内の画像処理による補正が一般的となっていることもあり、広角端では少し大きめです。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差も、カメラ内の画像処理による補正を活用する方針なのでしょう。

特別に大きいわけではありませんが、一般レベルと言ったところです。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離20mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離40mm

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向、右列サジタル方向ともに見事に補正されていますね。

MTFの高さが期待できます。

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スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離20mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離40mm

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

広角端、望遠端ともに大きな差の無いレベルで補正されています。

画面の中間の像高12mmまでは中心とほとんど同じレベルですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

拡大するとようやく、画面の周辺の18mmより外側でのスポットの広がりがわかります。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離20mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離40mm

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、広角端も望遠端もほぼ理想値(100%)に近いレベルです。

広角端側は画面の周辺部で山が全体に少しずれますが、同じ方向のズレなので完全な平面を撮影しなければピントを合わせてしまうと気にならないレベルです。

望遠端は、プラスにずれたりマイナスにずれたりしていますが、十分な高さがあるので解像度に困ることは無さそうです。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

特に広角端での改善効果が高いですね。広角側で平面を撮影する際には心に留めておきたいものです。

総評

流行りの準広角ズームレンズの先駆けとも言えるTAMRON 20-40mm F2.8は、安価で凡庸なレンズかと思いましたが、高価な素材を採用しながら実に練られた構成で「惜しみない技術」を感じる1本でしたね。

近年、ヒットレンズを連発するTAMRONの技術陣に妥協などあるはずも無かった…と反省したいと思います。

 関連記事:TAMRON 35-135mm F2-2.8 Di III

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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製品仕様表

製品仕様一覧表TAMRON 20-40mm F2.8 Di III

画角94.3-56.49度
レンズ構成11群12枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.17-0.29m
フィルタ径67mm
全長86.5mm
最大径74.4mm
重量365g
発売日2022年10月27日

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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