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【深層解説】 タムロン超大口径ズーム TAMRON 35-150mm F2-2.8 Di III VXD -分析112

タムロンから販売されているフルサイズ用の超大口径ズームレンズ35-150mm F2-2.8 Di III VXDの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

まず、TAMRONのレンズ名による仕様の見分け方を整理してみましょう。執筆現在(2023年)現行で販売される製品は、この3つのいずれかの名称が付いています。

  • Di:フルサイズデジタル一眼レフカメラ用
  • Di II:APS-Cサイズ、デジタル一眼レフカメラ用
  • Di III:ミラーレス一眼カメラ用

Di IIIは、ミラーレス一眼カメラ用ですが、APS-Cサイズセンサ用とフルサイズセンサ用が混在していますので注意が必要です。

ご存じの通り、執筆現在(2023年)のフルサイズカメラはすっかりミラーレス一眼カメラが主流となったことから、TAMRONからも続々とフルサイズ用のDi IIIレンズが発売されています。

執筆現在の主なTAMRONのDi IIIタイプのズームレンズを発売日と供に一覧にしました。

  • 17-28mm F2.8 Di III RXD(A046) 2019
  • 20-40mm F2.8 Di III VXD (A062) 2022
  • 28-75mm F2.8 Di III VXD G2 (A063) 2021
  • 28-200mm F2.8-5.6 Di III RXD(A071) 2020
  • 35-150mm F2-2.8 Di III VXD (A058) 2021当記事
  • 50-400mm F4.5-6.3 Di III VC VXD (A067) 2022
  • 70-180mm F2.8 Di III (A056) 2020
  • 70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD (A047) 2020
  • 150-500mm F5-6.7 Di III VC VXD (A057) 2021

2018年以降、怒涛のごとき勢いでDi IIIタイプのレンズが発売されており、当記事で紹介する35-150mm F2-2.8 Di IIIはフルサイズ用の超大口径標準ズームとなります。

一般的な大口径ズームと言えば、Fnoの仕様をF2.8とした物が定番で各社から発売されており、F2.8よりも明るいズームレンズはSIGMA 24-35mm F2 DG HSMなど数えるほどしかありません。

当記事のレンズは、FnoがF2.0と広角側で一段明るい独自性の高い仕様で、焦点距離域は王道の定番35mmから始まり、望遠レンズとしても使える150mmでF2.8大口径で、一般の標準ズームよりも少し望遠寄りで高倍率なとても利便性の高い仕様選定となっています。

このレンズはSONYのミラーレスカメラEマウント用として販売が開始されましたが、2023年 9月21日よりNIKONのミラーレスカメラZマウント用でも販売が開始されました。

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私的回顧録

「第二次世界大戦後の復興期、日本のカメラやレンズのメーカー名の頭文字を並べるとJ,U,Xを除きA~Z全てあった」と国産カメラ開発物語(小倉磐夫著)には記載されています。

現代(2023年)における2大レンズメーカーと言えば、TAMRONとSIGMAであることは揺るぎないと思います。

近年のSIGMAは、大口径単焦点を中核とした巨砲Artシリーズを主力に王道的な仕様の製品が多くラインナップされている印象です。

一方のTAMRONは、王道からは少し外した仕様ながらも利便性が良く質実剛健な製品が多くある印象です。

本記事の35-150mm F2-2.8の仕様も他社には無い少し変わった仕様ですが、私などにとってはどこか懐かしくもある仕様です。

このレンズは、広角端では35mm F2.0の仕様となるわけですが、古くから安価で味わいある描写のレトロフォーカス型レンズNIKKOR 35mm F2.0Dなどを思い起こします。

 関連記事: NIKON NIKKOR 35mm F2.0D

一方で、望遠端側は150mm F2.8の仕様となります。少し仕様は違いますが、はるか昔愛用していた135mm F3.5などの懐かしいレンズを思い出させる仕様です。

 関連記事: OLYMPUS Zuiko 135mm F2.8

さて、他社とはほんのりと異なる趣きある仕様のTAMRON 35-150mm F2-2.8の正体はいかなるものか、早速分析してまいまりましょう。

文献調査

各社、特許の出願の方針は様々で、気が向いた時にだけ出す会社もあれば、思いついた物を片っ端から出す会社もあります。

TAMRONは、製品に直結するような出し方はせず、抽象的な書き方をしたりすることが多いようです。

ところが、稀に製品とだいぶ一致する出願をすることもあり、特開2023-4721の実施例1はまさに35-150mm F2-2.8に近似することがわかりました。

今回は、これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がTAMRON 35-150mm F2-2.8 Di III VXDの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離35mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離150mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

さらに、当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は15群21枚、第15/16/7/21レンズは球面収差や像面湾曲に効果的な非球面レンズ(aspherical)であり、第2/3/7/11レンズへ色収差の補正に好適な異常低分散(LD)ガラスを採用しているようです。

ミラーレス一眼カメラ専用に設計されているだけあり、撮像素子の手前までこれでもかと多量のレンズが詰め込まれています。

続いて、ズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは5ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると被写体側へ飛び出す方式です。

第1ユニット全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、これを凸(正)群先行型と表現します。

この凸(正)群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。

高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸(正)群先行型と見て間違いありません。

凸レンズ群が被写体側にある構成をテレフォトタイプ(望遠型)とも言い、凸レンズ群の収斂作用で大きくなりがちな望遠レンズを小型にする効果を発揮します。

さらに第4ユニットは、ピントを合わせるためのフォーカシングユニットとなっており、ズームとは別に前後に稼働できる構造です。

製品の名称末尾にある「VXD」はリニアモーターフォーカス機構(Voice-coil eXtreme-torque Drive)の略で、静粛性・俊敏性に優れているレンズであることを示しています。

21枚ものレンズで構成された製品は、当ブログの過去の分析事例の中でも最大ではないかと思います。

構成枚数が多くなるほど性能が向上する反面、構造が複雑になり高精度に組み込むことが難しくなり、結局は加工誤差の影響で性能が低下してしまいます。

しかし、このレンズが現実に仕上がっているわけですから、高精度な加工や組立技術の確立あっての事なのでしょう。TAMRONの高い技術力が伺い知れますね。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離35mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離150mm

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線d線(黄色)を見ると一般的な大口径ズームレンズのFnoを上回るF2.0でありながら信じ難いレベルで直線的に補正されており非情に高い解像度が期待されます。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も、現代的な単焦点レンズかと見紛うばかりの素晴らしい補正です。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は広角端のグラフの上端部である画面隅の像高21mm付近では少々ズレがあるものの、あくまでも荒れているのは画面の隅の話です。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、広角端は35mmとあまり広角でもない焦点距離だからなのでしょうか、かなり小さくまとめられています。

一方で望遠端側はプラス方向へ大きく倒れる傾向で撮影すると糸巻き型になるタイプです。望遠端側は画像処理による補正に任せる方針なのでしょう。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離35mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離150mm

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は広角端も望遠端も若干苦しい雰囲気ですが、ミラーレス一眼カメラ用のため画像処理による補正に任せる方針なのでしょう。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離35mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離150mm

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、広角端も望遠端も超大口径ズームとは思えないレベルでコマ収差が補正されています。

右列サジタル方向は、大口径ゆえに画面隅の像高の高いところでサジタルコマフレア(傾き)が見られますが仕様を考えれば優秀なものです。


最新フィルムカメラもどうでしょうか?

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離35mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離150mm

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

標準のスケールでは判別がしづらいレベルでまとまっています。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

画面の中心から中間部分まではスポットの形状は丸みを帯びて綺麗なまとまりです。

画面隅の像高18mmあたりを越えるとサジタルコマフレアの影響でスポットがV字というか、三角というか少し不思議な形です。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離35mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離150mm

開放絞り

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると天井に張り付かんばかりの極めて高い特性を示しています。

さらに、画面の中間部まで同様の高い特性が続いています。

画面隅の像高21mmあたりでは像面湾曲の影響で山の位置が左右に大きくずれていますが、開放の画面隅なので深度的にボケやすく主要な被写体が入る場所ではありませんから実用上さほど気にならないでしょう。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

少々気になった画面の隅もグッと改善するようです。

総評

TAMRON 35-150mm F2-2.8は、少し「懐かしさの香る仕様」などとの先入観から、若干の大味な性能と予想しておりましたが、中身はカリカリ解像度の現代的レンズであることがわかりました。

一昔前は「ズームレンズは単焦点レンズには敵わない」とも言われていました。

ところが、ミラーレス一眼カメラの時代となりレンズ設計の自由度が改善したおかげで、むしろ現在では単焦点レンズの意義を見つけるのが難しいほどに性能逆転の様相を見せています。

利便性と高性能を両立する万能レンズ、是非とも実写をお試しください。

 

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

TAMRON 35-150mm F2-2.8 Di III VXDの作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 TAMRON 35-150mm F2-2.8 Di III VXD

画角63.26-16.25度
レンズ構成15群21枚
最小絞りF16-22
最短撮影距離0.33-0.85m
フィルタ径82mm
全長158mm
最大径89.2mm
重量1165g
発売日2021年10月28日

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