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【深層解説】 ニコン超望遠ズーム NIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5S -分析115

ニコンの一眼レフカメラ用の高倍率望遠ズーム50-300mm F4.5の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

NIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5Sは、NIKON Fマウント用レンズの中でもマニュアルフォーカス時代後期の高倍率な望遠ズームレンズです。

まずは、NIKONにおける望遠端(長焦点距離側)が300mmを越える望遠ズームの系譜を確認してみましょう。

下のリストは、Fマウント創成期からZマウントの100-400mm F4.5-5.6に至るまでの代表的な望遠ズームレンズです。

  • Zoom NIKKOR Auto 50-300mm F4.5 (1967)13群20枚【初代】
  • Zoom NIKKOR Auto 200-600mm F9.5 (1971)12群19枚
  • Ai Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5S (1977)11群15枚【二代目】当記事
  • Ai Zoom NIKKOR ED 200-400mm F4S (1984)10群15枚
  • Ai AF Zoom NIKKOR 75-300mm F4.5-5.6S (1989)11群13枚
  • Ai AF VR Zoom NIKKOR ED 80-400mm F4.5-5.6D(2000) 11群17枚
  • AF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6G ED VR (2013)12群20枚
  • NIKKOR Z 100-400mm F4.5-5.6 VR S(2022)20群25枚

Fマウントを採用した最初のカメラNIKON Fが発売されたのが1959年でした。

Fマウント用で最初のズームレンズとしては、1963年にZoom Nikkor Auto 43-86mm F3.5が発売されています。

意外だと思われるかもしれませんが、ズームレンズはかなり昔から販売されていました。

その後、1967年に初代50-300mm F4.5の望遠ズームが登場しています。これは近年でも見かけない大胆な仕様ですが、驚くべきことにFマウントでは最初の望遠ズームレンズとして登場しています。

この初代50-300mmついては、NIKON自身が過去のレンズを回顧する「NIKKOR 千夜一夜物語」にも詳しく記載されています。

そして、当記事で分析する二代目となるAi Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5Sは、仕様としては初代レンズと同じですが、構成枚数からすると大きな変更があったようで初代の20枚構成から15枚構成へ変更されております。

また製品名称にもあるようにED(特殊低分散ガラス)が採用されているようです。

ちなみに、手元の古い文献「カメラ年鑑1981年版」によれば、このレンズの価格は28万円となっています。現在(2022年)の消費者物価指数などから推測すると40万円ほどの価格に相当するでしょうか。

まだ、望遠レンズに大金をかけることが一般的ではなかった時代のことですから、金額以上に高価な物として感じたのではないかと思います。

現代の感覚で推し量るのは難しい価格設定ですね。

さて、1970年代の望遠ズームレンズがどのような性能だったのか?分析して参りましょう。

私的回顧録

『一眼レフと望遠レンズ』

日本の本格的システム一眼レフカメラの端緒となったのは、旭光学工業(PENTAX)が製造した「アサヒフレックス I(1952)」。

この前の時代に、どんなカメラが主流だったのかと言えば「二眼レフカメラ」と「レンジファインダーカメラ」で、双方ともに望遠レンズに向かない構造でありました。

二眼レフやレンジファインダーは、ファインダー光学系と撮影光学系が分離されている点に問題があり、特に望遠レンズではファインダーと撮影レンズの見えている範囲のズレ(視差)が大きすぎて使い物になりません。

この問題点の改善のために撮影光学系とファインダー光学系が一体となった一眼レフカメラが生まれました。

なお、構造についてより詳しくはこちらの記事「一眼レフカメラのしくみ」をご覧ください。

一眼レフカメラが開発されたことで、色々なレンズの中でも「望遠レンズ」は大変な恩恵を受けたと言え、ファインダーの問題以外でも「近代レンズ発展とは望遠レンズの発展であった」と言い換えても良いぐらいに重要な要素です。

例えば「オートフォーカス」も、深度の深い広角レンズではさほどの効力はありませんが、望遠レンズでは絶大な威力を発揮し、スポーツや報道の世界で写真の力を見せつけた立役者であったと言えるでしょう。

プロの世界でも瞬く間にオートフォーカス機能が定着しました。

また、「手振れ補正」なる機能も特に望遠レンズで威力を発揮します。プロクラスは重視していないかもしれませんが、入門層ユーザーの失敗写真をどれだけ救済したのかと想像すると足を向けて寝られませんね。

一眼レフカメラの進化と望遠レンズの進化とは、近代レンズ史のなかで殊更重要な関係性を持っているわけです。

当ブログはこれまであまり望遠レンズを分析する機会がなかったのですが、この記事を望遠ズーム分析の基準といたしまして、今後も様々な望遠ズームレンズの分析に着手いたしたいと計画しております。

文献調査

実は、初代50-300mmも分析したかったのですが、残念ながら1970年以降の特許文献でないと電子化されておらず現時点では断念しています。

ただし、60年代のズームレンズの性能を見えても相応に悪いだけであろうとも思いますので、現代も入手がしやすそうな二代目50-300mmを分析し、比較的古い時代の望遠ズームの基準にしたいと思います。

その2代目レンズは特開52-146250の実施例3が近い構成であることは添付の図面や出願時期から考えても妥当と考えてよいでしょう。

これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5Sの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離300mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

さらに、当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は11群15枚、黄色で示す第2レンズが望遠レンズにおいて補正が困難な軸上色収差に効果的なED(Extra-Low Dispersion)ガラスです。

EDガラスは、1971年にNIKONが他社に先駆けて生産を開始し、報道機関専用として限定販売されたNIKKOR‒H 300mm F2.8に初搭載されました。

なお先代となる初代50-300mmは、1967年の発売なのでEDガラスは間に合わず搭載されていません。

当記事の二代目50-300mmの発売された1977年には一部の一般向け望遠レンズでも採用が広がり始めていたようです。

おそらくEDガラスの効果なのでしょう、初代50-300mmは20枚のレンズ構成だったのが、二代目では15枚のレンズ構成で済んでおり、軽量化にも大きく貢献しているようです。

続いて、ズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは4ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、このズーム構成を凸(正)群先行型と表現します。

この凸(正)群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。

高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸(正)群先行型と見て間違いありません。

第1ユニットはフォーカス時に移動するため、ズーム時は移動しません。

第2ユニットと第3ユニットは、ズーム時に広角端から望遠端へ向かいお互いに引き寄せ合うように移動します。

第4ユニットは固定されています。

第1ユニットは、ピント合わせの際に動かす「フォーカスユニット」と称されます。

第2ユニットは、画角(焦点距離)を大きく変える作用を持っており、通称「バリエーターユニット」と表現します。

第3ユニットは、第2ユニットの移動で変化したピントを補正するレンズユニットで、通称「コンペンセーターユニット」と表現します。

最像側で固定された第4ユニットは通称「リレーユニット」と表現します。

古い時代のズームレンズはこのように各ユニットの役割が明確です。

加工技術的に多数のレンズユニットを同時に移動させるのが困難だったこともありますが、シンプルながら力強い構造でレンズの構成がとても美しいですね。

現代のズームレンズは多数のユニットが複雑怪奇に移動するので、どこがコンペンセーターなのかよくわかりませんし、フォーカスユニットも2つあるものが増えています。

NIKONではNIKKOR Z 24-70mm F2.8あたりが最たる例でしょうか。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離300mm。

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、広角側(Wide)の基準光線d線(黄色)は良くまとまっていますが、Tele(望遠端)は大きくプラス側へ倒れ大胆な状態です。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、やはり望遠端(Tele)の状態が厳しく、C線(赤)がスケール一杯に乱れています。

望遠レンズは、軸上色収差が大きくなり、それをEDガラスのような特殊ガラスで補うのですが、やはり1枚では満足とはいかないようです。

しかし、このレンズは、焦点距離が300mmの割に望遠端のFnoがF4.5とそこそこに明るく、Fnoが明るいほど軸上色収差の発生量が増えますから、あえて仕様的にも厳しい道を選択している点も考慮したいところです。

像面湾曲

面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、基準光線であるd線(黄色)は十分な補正であるものの色収差の影響で、光の色ごとのズレが大きく、画面の周辺での色のにじみの発生や、フレアと言われる解像感の低下現象が気になります。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、広角端の画面隅ではマイナス5%に達し大きく樽型に歪みます。望遠端では逆にプラス5%に達しており大きく糸巻き型に歪むことを示しています。

現代のレンズはこれを画像処理により補正するものが増えていますが、当レンズはフィルム時代の物ですからこのまま写ってしまいますね。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離300mm。

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、広角端を見ると画面の隅(上端側)を除けばかなり小さくまとまっており、色にじみの低減が期待できそうです。

望遠端は、g線(青)とC線(赤)を重ねるように平均値としては小さくなる配慮はされているものの、絶対値としてかなり甚大な量が発生しているようです。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離300mm。

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、広角端/望遠端ともに画面の中間部の像高12mmからコマ収差(非対称)が強く表れ解像度の低下につながるようです。

右列サジタル方向は、Fnoが4.5と少々控えめでもあるため、スケール内に収まる程度には補正されています。


最新フィルムカメラもどうでしょうか?

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離300mm。

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

Fnoが4.0を超えて暗いレンズはピントの合う距離(深度)が深くなるため、ディフォーカス量(グラフ横方向)を±0.4mmと通常設定の4倍としてるのでご注意ください。

ピントの合っている中心列を見ると、広角端は倍率色収差が少なく、巧みな横収差の補正により、画面内全域でかなり均質で小さくまとめられているようです。

望遠端側は、軸上色収差の影響で全体が赤く大きくにじんでいる様子がわかります。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

このスケールは現代の超高性能レンズ用に準備しているものですから、この時代のレンズに適用するのは少々酷な設定です。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離300mm。

開放絞りF4.5

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

Fnoが4.0を超えて暗いレンズはピントの合う距離(深度)が深くなるため、ディフォーカス量(グラフ横方向)を±0.4mmと通常設定の4倍としてるのでご注意ください。

開放絞りでのMTF特性図で、広角端の画面中心部の性能を示す青線のグラフを見るとしっかりとした高さがあり、画面の周辺のグラフも同様に高さのある山型になっています。

一方の望遠端は、中心(青線)からだいぶ苦しい山の高さで、画面の周辺のグラフも同様の傾向です。

小絞りF8.0

FnoをF8まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

広角端は、全体の山が高く位置のズレも少なく良好です。望遠端もF8にしては控えめですが、全体にしっかりと山の形に整ってきました。

一般的な撮影にはまったく差し支えないレベルです。

なお、このレンズが異常に性能が低いわけではなく、この時代のレンズとはひと絞りして使うことが常識で、開放での撮影はあくまで緊急時の撮影と考えるのが前提の時代です。

また、フィルムの粒状性や解像感なども当然ながら発展途上の時代でしたから、当時の望遠ズームレンズとしては十分な性能だったのです。

総評

1970年代の高倍率望遠ズーム二代目NIKKOR 50-300mm F4.5は、シンプルな中に力強さと機能美に溢れた望遠ズームレンズのお手本のような構成で、つい魅了されてしまいますね。

重厚感溢れる佇まいに、さりげなくEDガラスを採用するなど心憎い演出に所有欲が刺激されます。

ぜひ、我が家の床の間に飾りたい1本です。

今後は、このお手本的なズームレンズを基に多種多様な望遠ズームレンズの分析を進めたいと思います。

 

価格調査

NIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5Sの中古価格は、下記の有名通販サイトで見つかるかもしれません。

マップカメラ楽天市場店

作例・サンプルギャラリー

NIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5Sの作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、今回の分析結果が妥当であったのか?ご自身の手で実際に撮影し検証されてはいかがでしょうか?

それでは最後に、あなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5S

画角46-8.10度
レンズ構成11群15枚
最小絞りF32
最短撮影距離2.5m
フィルタ径95mm
全長247mm
最大径98mm
重量2200g
発売日1977年

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