フジカラー「写ルンです」とは、富士フィルムが販売する「レンズ付きフィルム」の商標です。
「レンズ付きフィルム」とは、簡易的なカメラにフィルムや電池を製造時に装填した状態にして販売されている商品で、購入した瞬間から撮影が可能であり、撮影後にはそのままカメラ店へ持ち込めば写真がプリントされ、またカメラ部分は回収されリサイクルし再販売されるシステムとなっています。
よく「使い捨てカメラ」と呼ぶ方がいますが、リサイクルを前提としたエコなシステムであり、写真・カメラ好きを自称される方は正規名称である「レンズ付きフィルム」と呼んでいただきたいものです。
「写ルンです」には多様な仕様の製品が発売されおりますが、今回の分析記事では「望遠」モデルを前編/後編の2部構成で分析リポートします。
なお、後編の光学編はこちらです。
関連記事:写ルンです望遠 光学編
また、過去には「写ルンです」標準モデルを詳しく分析したシリーズ記事を作成しておりますので参考にご覧ください。
新刊
写ルンですシリーズ
「写ルンです」シリーズには多様な派生モデルが発売されてきました、30周年記念モデル(2016年)のおまけとして添付されていた製品一覧表をご覧ください。
これだけでもかなりの種類ですが、ほんの一部だと思われます。
この中で、望遠モデルにマーキングしてみました。
青矢印が初代の望遠モデルで、赤矢印は2代目と思われる「new望遠」モデルだそうです。
今回は「new望遠」モデルを分析します。
その他、私が入手できた一部がこちらになります。
パッケージ外観
まずは「写ルンですnew望遠」の外観や機能を確認しましょう。
前面
「写ルンです望遠」の梱包された状態は、初代標準モデルから踏襲されている遮光アルミ袋のパッケージです。
写真では見づらいですが、レンズ部分が飛び出している影響で、表面の一部が盛り上がっています。
パッケージの文字をよく確認すると
- 焦点距離100mm
- ISO1600 超高感度フィルム
- 撮影枚数27ショット
などが読み取れます。
少し補足しますと、一般的なフィルムの感度とはISO100かISO400でした。
ISO800やISO1600も発売されていたものの画質面の問題もあり、特にISO1600は一般人が購入するものではありませんでした。
背面
背面には使用の有効期限年月日や、5m以上離れて撮影するように、などの注意書きがあります。
使用期限は2004年でした。正常に写るでしょうか…
どうでもいい事ですが、ベルマークの得点がとても高いですね。(12点)
製品外観
さて、外袋を開け中身を取り出してみました。
前面
使用期限が2004年とありましたが一般的なフィルムの使用期限は2~3年なので、製造年は2002年頃と推定されます。
執筆現在は2022年ですから、およそ20年前に製造されたのでしょう。
角部分などにわずかに変形が見受けられますが、とても綺麗な外観です。
背面
背面は、よく読む必要があります「写ルンです標準モデル」には存在しない特殊な機能があるのです。
「光量調節レバー」なるものが存在し、撮影シーンの明るさに合わせてユーザーが露光条件を切り替えるように書かれているのです。
「日中の明るい状態」と、「室内の暗い状態」のどちらでも撮影できるようにユーザーの判断で露出切替ができるようになっています。
そのため、撮影には注意が必要で、袋から取り出して適当に撮影すると見事な失敗写真になってしまいます。
標準モデルのようにただ押せば写るわけではないので、よく背面を読みましょう。
記事後半の分解分析のところで、この構造も紹介します。
上面
背面に説明のあった光量調節は、実際には上面側にあります。
写真で左側のスライドレバーが、露出切替のための「光量調節レバー」になります。
「昼間」と「薄暗い場面」で適切に切り替える必要があります。
右側のフィルム残数カウンターとシャッターボタンは、標準モデルと変わりませんね。
上面から見ると望遠だけにレンズが飛び出していることがよくわかります。
分解
さてこの「写ルンです望遠」モデルを見ると、気になる点がある方も多いのではないでしょうか?
それは「レンズが本体の上寄りに付いている」点です。
本体上部にファインダーやシャッターボタンが付いていると言うことは、フィルムは本体の下よりに付いているはずです。
写ルンです標準モデルもそのような配置でした。
すると、当然レンズも少し「下寄り配置」になるはずですが、反対の位置にレンズが付いています。
レンズ位置とフィルム位置のイメージ図はこちらです。
普通に考えると、フィルムとレンズの位置は重なるはずですが、どう見てもレンズが上寄りに配置されているのです。
フィルムの取り出し
早速、分解して確認してみましょう。
まずは、外側の紙製の化粧箱をはぎ取ります。
ひっくり返し、底面を見ると注意書きシールが貼られていました。
フィルムの取り出しに関する注意書きです。
少々気になる一文がありますね「本体は廃却してください」これは?リサイクルしているんじゃなかったでしたっけ…
見なかった事にして…
気を取り直し、フィルムボックスのフタをこじ開け、フィルムパトローネを引きずり出します。
ご丁寧に開け方の図がモールディングされています。
御開帳いたしますと20年ほど前のフィルムとご対面となりました。
フィルムパトローネは写ルンです専用の物になっていました。
専用パトローネの理由は、管理の都合なのでしょうか、それとも一般用のフィルムとは特性が違うのでしょうか?
レンズユニット
続いて、レンズ部分を取り出してみます。
前側のカバーを開けました。レンズユニットはすぐに外れるようです。
取り出したレンズユニットには、接着やネジはなくリング状の部品を回転させると即バラバラになります。
レンズユニットを分解し、順番に並べてみました。
左側は被写体側の部品で、右側ほどフィルム側の部品の順番としています。
左の被写体側から順番に、リング蓋、第1レンズ、遮光部品、第2レンズ、ホルダとなっています。
2枚のレンズは、どちらも写ルンです標準モデルと同様にプラスチック素材のようですが、レンズサイズ(径)は3倍ほどはあるでしょうか。巨大です。
光量調整
望遠モデル特有の「光量調節レバー」の仕組みを確認します。
レンズユニットをはずした前側の様子です。
中央の丸い穴部分は、レンズの装着されていた場所です。
右側の四角い窓のように見えるのがファインダーです。
上写真での光量調節レバーの状態は、室内などの「薄暗い場所」で撮影する状態です。
続いて「光量調節レバー」を「日中」側へ切り替えました。
上の2つ画像の変化がお分かりでしょうか?
中央の撮影レンズの装着されていた丸い穴には「絞り」が挿入されました。要は「小絞り」になったわけです。
右側の四角い窓のようなファインダーには「青いフィルム」のような物が挿入されました。
ファインダーの青みは「明るすぎから、絞る」ことを視覚的にわかるようにしているわけですね。
「まぶしいのでサングラスをする」ようなイメージを伝えていると表現すれば良いでしょうか。
また、ファインダーの明るさを抑えて見やすくする効果もあるのでしょう。
シャッターユニット
レンズユニットのさらに奥にはシャッターユニットが配置されています。取り出してみました。
2枚の羽根がばねの力で高速に開閉することでシャッターの役割をしています。
写ルンです標準モデルのシャッター羽は、わずか1枚でした。この望遠モデルは、2枚羽ですから豪勢と言えるのでしょうか…
背面カバー
本体側に戻りまして、背面カバー(裏ふた)をはずし、フィルム圧板部分を確認します。
圧板は、フィルムを押し付け平らにするのが本来の役割ですが、圧板がゆるくカーブしていることがわかります。
写ルンです標準モデルは、とても少ないレンズ枚数で高画質な写真を得るために、フィルムをレンズの収差の形にカーブさせるという荒業で対処しています。
「天動説 vs 地動説?」まさに超大逆転的な発想で、現代のカメラ技術者が見たら卒倒しそうなアイデアです。
関連記事:写ルンです 構造編
望遠モデルも同様の発想で、フィルムをカーブさせ収差を補正していることが確認できました。
本体
レンズユニットやシャッターユニットを取り外し、空洞になった本体をレンズ側から見ると、矢印の場所に「1個目の鏡」を発見できます。
反対にこちらは、背面カバーをはずした状態で、フィルム側から本体を見た写真です。
写真ではわかりづらいのですが、矢印の場所には「2個目の鏡」があることがわかります。
実際の手順では、分解して最初に目に飛び込んできたのは、この大きな鏡に映った「自分の瞳」で「息が止まりそう」になりました。
なぜなら、「やはり、そうか!」と瞬時に構造を完全に理解したためです。
構造編のまとめ
今回、写ルンですの望遠モデルを分解し内部構造を分析しました。
部分的な写真では全容がわかりずらいので、分解によって得られた情報から断面模式図をまとめました。
はじめに、望遠レンズとは、言い換えれば「焦点距離の長いレンズ」であって要するに「長いレンズ」なわけです。
この長いレンズを「写ルンです」の中に入れるために「2枚の鏡を使って光路を折りたたんでいる」これが「レンズが上寄りの理由」でした。
分解する前から想像はしていたものの、1000円ほどで販売されていた「写ルンです」の中に鏡を2枚入れ、光路を曲げる様子を実際に見ると、富士フィルムの執念に恐怖すら憶えますね。
今回は、分解によって構造を理解することができました。
「写ルンです」は、一見するとオモチャのように見える製品ですが、当時の最新技術を投入しながら、随所に創意工夫が凝らされており、開発者の熱い心意気を感じる、日本平成期における歴史的工業製品なのです。
次回に続く後半部は、皆様お待ちかねのレンズ分析編です。
関連記事:写ルンです望遠 光学編
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関連記事:いろんな写ルンです開封してみた
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