レンズ分析

【レンズ性能評価】MINOLTA STF 135mm F2.8 [T4.5] Part2:アポダイゼーション編 -分析090

ミノルタ STF 135mm F2.8分析記事の後半となる「アポダイゼーション編」です。

前半の収差分析編はこちらです。

 関連記事:MINOLTA STF 135mm F2.8

レンズの仕組みやその性能は一体どう違うのか、具体的な違いがほとんどよくわかりませんよね。

雑誌やネットで調べても似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな記事ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析します。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。

それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

レンズの概要

SFT 135mmは、1985年に発売となった世界初のオートフォーカス一眼レフカメラMINOLTA「α」シリーズ用の特殊な中望遠レンズです。

オートフォーカスには非対応ですが、アポダイゼーション素子を搭載することで、極めて美しいボケと高い次元の解像感を両立する特殊なレンズです。

当記事のSTF135mmは、MINOLTAからカメラ事業を引き継いだSONYが2021年まで製造しており、現在(2022執筆時)でも在庫品が販売されているようです。

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アポダイゼーション素子

当記事のMINOLTA STF135 mmには、独特で柔和なボケ味を生むアポダイゼーション素子が搭載されています。

アポダイゼーション素子とは、中央部は透明で、周辺部になるほど暗くなる特性を持つ光学素子です。

下図は、アポダイゼーション素子のイメージ図です。周辺が暗くなる様子がおわかりでしょうか。

このアポダイゼーション素子の周辺部を暗くする加工方法ですが、真空蒸着法で周辺が暗くなるようコーティングで生成することが一般的です。

光学部品メーカーからこちらのように素子単体でも発売されています。

アポダイゼーション素子を搭載した製品は、MINOLTA STF 135mm以外にもいくつか存在します。

例えば、過去に分析したFujiFilm XF56mmには通常仕様モデルと、「APD」の名が付くアポダイゼーション素子搭載モデルの2種が販売されております。

 関連記事:FujiFilm XF 56mm F1.2 R

FujiFilm公式HPの説明を見ると、絞りの撮像素子側にアポダイゼーション素子の配置する説明があり、挿絵などから推測するに板ガラスにコーティングをかけて生成しているのではないか、と推測されます。

また、SONY FE 100mm F2.8 GMは、当STF 135mmの後継的な製品でSONY公式HPによればアポダイゼーション素子が搭載されているようです。

しかし、当記事のSTF 135mmは、コーティングによりアポダイゼーション素子を生成しているのではないようです。

このレンズでは、NDフィルターに使われる黒色のガラス素材を凹レンズの形状にすることで周辺部が暗くなる機能を実現しています。

NDフィルターは、一般的な撮影用品として販売されていますからご存じの方も多いと思いますが下記のような物です。

簡単に表現すれば、NDフィルターとはサングラスのような半透明な黒色のガラスで、シャッタースピードを下げて撮影したい場合に一般的には利用されますね。

STF 135mmは、NDフィルタのガラスを凹レンズの形にすることでアポダイゼーション素子を形成しています。

この他に類を見ない特徴的な素子がどのような物か、以下に詳しく分析しましょう。

光路図

まずはアポダイゼーション素子をどのように配置しているか確認してみましょう。

下図はMINOLTA STF135mm F2.8の光路図です。

第5レンズがアポダイゼーション素子となっています。

下図ではわかりやすく着色しました。

素子全体は、凹レンズと凸レンズの貼り合わせレンズで構成されています。

この凹レンズは、NDフィルターと同じ半透明の黒色のガラスできており、この中央部は厚みが薄く光をたくさん透過します。

一方の素子の周辺部では、厚みがあるため光をほとんど透過しません。

下図は、あらためてアポダイゼーション素子を前から見た様子と合わせて作図しました。

光路図は、レンズの側面図(Side View)ですが、これを前から見ると(Front View)、中心が明るいドーナツ状に見えるわけです。

厚みの薄い所は透明に、厚い所は黒色に見えるためですね。

さらに光線に対するアポダイゼーション素子の影響をイメージとして下図に示します。

簡単のためにレンズの中心部を通る光線のみ表示し、アポダイゼーション素子の「効果のイメージ図」を重ねました。

光線の経路とアポダイゼーション素子の効果を重ねて見ると

・レンズ中央部を通過する光は、透明部を通るので明るく写ります。(強度が強い)

・レンズ周辺部を通過する光は、黒色部分を通るので暗く写ります。(強度が弱い)

収差への影響

収差図として見る場合、どのような影響があるのか確認してみましょう。

縦収差

下図はMINOLTA STF135mm F2.8の縦収差図です。

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差の順で並んでいます。

縦収差のなかで影響を受けるのは球面収差(左図)です。

球面収差図にアポダイゼーション素子の効果を模式的に記載します。

球面収差図のグラフの根本は、レンズ中心部側を通過する光で、グラフ上端はレンズの周辺部を通過する光です。

アポダイゼーション素子は、レンズ周辺部に影響を及ぼしますからグラフの上端ほど効果が強くなります。

レンズのボケ味とは主に球面収差の形で決まります。

球面収差図の上端が複雑な形になるほど一般的に「ボケが汚い」と言われますが、アポダイゼーション素子はボケの汚い部分の光量を低下させて写りづらくしてしまう作用があります。

横収差

下図はMINOLTA STF135mm F2.8の横収差図です。

左側はタンジェンシャル方向、右側はサジタル方向です。

横収差図にアポダイゼーション素子の効果をイメージ的に記載します。

横収差図は、画面内の5つの場所(像高)における光線の結像具合を示しています。

絞りの隣へアポダイゼーション素子を配置することで、すべて像高(全画面)で同じような効果が得られることになります。

どの像高の光線に対しても光束の中心付近の光線は強く通し、光束の周辺は弱まるため、画面全域でボケ味の改善が期待できるというわけです。

実際の写り方

実際のところどのように写るのか、玉ボケを例にしてシミュレーションしてみましょう。

下の写真は別のレンズですが、OLYMPUS Zuiko 135mm F3.5で参考に撮影した夜景です。

玉ボケができるように至近端にピントを合わせて、遠くにある街灯を撮影したものです。

玉ボケとは、被写体の背景にある点光源(照明など)が大きくボケた時に写り込むもので、夜景などの撮影で目にする機会が多いでしょう。

玉ボケは、光源までの距離が遠く、かつ小さな光源であるほど輪郭がはっきりとします。

この玉ボケにアポダイゼーション素子を適用すると輪郭部の光量が低減されてボケの輪郭が薄くなり、とても柔和な雰囲気になります。

玉ボケがどのように変化するか模式図を用意しました。

アポダイゼーション素子を適用すると右のように輪郭が薄くなります。

要は素子の見た目と逆転したようなボケになります。

実際の実写画像は、前編の方へ掲載しておりますのでご参照ください。

アポダイゼーション素子の利点と欠点

アポダイゼーション素子による写真への効果の利点と欠点をまとめます。

利点

ボケを美しくする手法はいくつか存在しますが、アポダイゼーション素子の最大の利点は、「背景ボケ、前景ボケの双方に改善する」点にあります。

例えば、球面収差の補正によりボケをきれいにしようとしても、球面収差がピント方向に非対称に残存するのは除去しきれないため、背景ボケと前景ボケの双方を同時に改善することはできません。

全画面内の全方向に均質に作用するところが、アポダイゼーション素子の最大の利点です。

ただし、絞りを開放Fnoにしている場合に最大の効果を発揮し、小絞りになると効果が弱まります。

欠点

アポダイゼーション素子の欠点は、実際のFnoが暗くなる点です。

原理の方で説明した通り、レンズ内にサングラスを入れるようなものですから、撮像素子に届く光量が低下するため、対策としてシャッタースピードをより遅くしなければなりません。

焦点距離135mmと言えば大別すれば望遠の範疇ですから、手振れ防止のためにもシャッタースピードはできるだけ早めたいところですから欠点と言えます。

しかし、現代のデジタルカメラではISO感度をかなり大きくしても十分な画質が得られるので、アポダイゼーション素子のデメリットもだいぶ減ったとも考えられますね。

Tno

アポダイゼーション素子を導入すると光量が低下してしまうことから、MINOLTA STF 135mm F2.8にはTナンバーが表示されおり、[T4.5]と製品名称に記載されています。

このTナンバーとは、透過率を考慮したFナンバーに相当します。

当レンズは、「口径と焦点距離から求まるFno」はF2.8ですが、アポダイゼーション素子により光が減衰し、露光時間として考えるための「実際の明るさ」はF4.5相当であることを示しています。

 関連記事:Fnoとレンズの大きさ

F2.8がF4.5相当になるので、アポダイゼーション素子によって1段以上暗くなってしまいます。

しかし、フィルム時代には少々苦しくなる数値ですが、現代のデジタルカメラならそう問題ありませんね。

まとめ

MINOLTA STF 135mm F2.8の後編としてアポダイゼーション素子について詳しく紹介しました。

なかなかに独創的な仕掛けでアポダイゼーション素子を作っていることがよくわかりましたね。

特殊なレンズゆえにオートフォーカス化も対応していませんが、MINOLTAから生産を引き継いだSONYが長く生産し続けた理由が良くわかりました。

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