分析064 Apple iPhone

この記事では、Apple iPhoneに代表されるスマートフォンや携帯電話などに搭載されている小型撮影レンズの構造を分析します。

現代(2021現在)では、世界中の人々が手にしているスマートフォンですが、コンパクトカメラとしての機能も近年急激に向上し、カメラ市場を圧迫しているとまで言われています。

その一方で、誰もが常に身に着けているスマートフォンですが、そのカメラとしての仕組みや構造をご存じの方はとても少ないのではないでしょうか?

そもそも、カメラが内蔵されていると言われても「本当にレンズが入っているのか?」不思議に感じるサイズです。

そこで、本記事ではApple iPhoneに代表されるスマートフォン用カメラのレンズについて特許情報や実写の作例から光学系の設計値を推測し、シミュレーションによりレンズ性能を分析します

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください

作例写真は準備中です。

レンズの概要

近年のApple iPhoneに代表されるスマートフォンは、「多眼化」と言われる複数のカメラを並べて搭載する構造にまで発展し、これにより疑似的なズーム化までを実現しています。

執筆時現在の最新機種であるApple iPhone 13 Proでは背面には3つのカメラが並んでおり、超広角、広角、望遠の3つのカメラが搭載されています。

このカメラのレンズ仕様(焦点距離とFno)は、以下のようになっています。

  • 超広角:焦点距離13mm F1.8
  • 広角 :焦点距離26mm F1.5
  • 望遠 :焦点距離77mm F2.8

 ※焦点距離はフルサイズ換算値

これまで、Apple iPhoneには、フルサイズ換算で焦点距離28mm前後のレンズが「広角レンズ」として必ず搭載されています。

ちなみに、焦点距離50mm前後のレンズは搭載されていないため「標準レンズ」との呼称はAppleの公開する技術資料には使われていないようですね。少々カメヲタのみなさんに気を使っているのかもしれませんよ。

本記事ではApple iPhoneの「広角レンズ」についてさらに深く分析したいと思います。

私的回顧録

本ブログでApple iPhoneに代表されるスマートフォンのレンズを紹介するのは初となりますので、まずは歴代のApple iPhoneの広角レンズを調査しました。

iPhone4iPhone5iPhone6iPhone7iPhone8iPhoneXiPhone11iPhone12iPhone13
全画角°687373757575808080
焦点距離322929282828262626
Fno2.42.42.21.81.81.81.81.61.5
レンズ構成4枚5枚5枚6枚6枚6枚6枚7枚7枚
画素数500万800万800万1200万1200万1200万1200万1200万1200万
発売年2010年2012年2014年2016年2017年2017年2019年2020年2021年

 ※焦点距離はフルサイズ換算値

カメラとしての使用に十分耐える性能となったiphone5のひとつ前から表にしてみました。

表をご覧いただく通り、iPhone創成期の換算焦点距離は32mmだったようですが、近年は徐々に広角化が進み26mmに落ち着いたようですね。

レンズの構成枚数は、iPhone4で4枚ほどだったのが、iPhone12からは7枚にまで増加しています。

それに伴いFnoも大口径化が進んでいるようです。

次項で詳しく紹介しますが、今回詳細分析するレンズはiPhone8に近い物と予想していますので、上表では赤字にしてあります。

文献調査

そもそもの話ですが、Apple iPhoneのレンズを含むカメラモジュールの開発・製造はAppleでは行っていません。

台湾のラーガンプレシジョン(大立光電)が受託しています。

また、ラーガン以外でもスマートフォン用のカメラレンズを開発する会社いくつかあるようで、レンズの開発・製造をさらに外部に委託している可能性もあり一体どうなっているのか実態はよくわかりません。

ただし、スマートフォン用と思われるレンズ特許は毎月数十件が出願されているのですが、どれも同じような見た目で、さして性能も変わらないようです。

おそらく、新しい素材が開発される度に少しづつ小型を図っていたり、仕様を少し変えて出願しているのでしょう。

カメラメーカーと違ってスマートフォンのメーカーはレンズの構成を公表しませんし、あまりに出願件数が多いのでどのスマートフォンにどんなレンズが入っているのか良くはわかりませんが、仕様や性能はどんぐりの背比べであることはわっているので、正確な設計値を推測することは描写性能を知るうえであまり重要ではありません。

逆に、Appleが出願しているレンズの特許が、わずか数件だけ存在することがわかっています。

推測ですが、製品の重要部分の権利をApple自身が保有するために出願していると思われます。

実際の設計はラーガンなどですから、直接の製品とは少し異なるのかもしれませんが、普段はレンズの特許を取らないAppleが執着するほどの特許は真理に近いところを抑えているはずです。

その一つがアメリカで出願されいてるUS2017/0299845で、どうやらレンズ内部での反射である一般に言うゴーストを低減させるレンズ構成を権利化したもののようです。

おそらくApple iPhoneのレンズ内のゴースト低減に極めて重要な技術なのでしょう。また、そのような重要特許に記載された実施例であれば実際の製品へも色濃く反映されているものではないかと推測されます。

そこで、この記事では実施例1を設計データとして以下に再現してみます。

また、この特許の出願時期は2016年で、実施例1の焦点距離仕様は28mm F1.8なのでiPhone8あたりに採用された光学系に近いのではないかと推測しております。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

本ブログで扱うレンズはフルサイズ用レンズが多いのですが、今回のレンズはスマートフォン向けのレンズであるため、撮像素子は非常に小さいサイズの物です。

特許情報から逆算した撮像素子のサイズは対角線長さで約6mmであり、一般に「1/3インチサイズ」の名称で呼ばれる撮像素子サイズです。

ちなみにフルサイズセンサは、対角線長さが約42mmですから7倍のサイズ比になりますね。

本ブログではAPS-Cサイズでもフルサイズセンサのレンズと比較が容易なようにグラフのスケール合わせを行っています。

 関連記事:センササイズとレンズサイズ

今回の「1/3インチサイズ」 でも同様の方針でスケール合わせを実施しています。

これは、イメージ的に表現すると「もしもiPhoneレンズをフルサイズ用に拡大したらこうなる」の関係になるようにグラフ類を作成していることになります。

注意事項としては、レンズ的(光学的)にはこの評価で特に問題はありませんが、実際の写真としてはセンサの小さいカメラはノイズや画素数の点でより大型のセンサには劣ります、またスマートフォンは一般的なカメラとは異なる画像処理が様々に加えられているとも言われますので単純比較は難しいことをご注意ください。

その他、性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がApple iPhone 8のレンズに近いと思われる光路図になります。

6群6枚構成、すべてのレンズの表裏が非球面のレンズで構成されています。

初めてご覧いただく方は「どのようなご感想を抱かれるのか?」できればコメント欄に記載していただきたいですが、思ったよりたくさんの枚数が使われていることに驚くのではないでしょうか?

6枚ものレンズがあの薄いスマートフォンの筐体に収まっているのです。

何も知らなければ「たった1枚のレンズだけではないか」と思うのがむしろ普通ではないでしょうか?

各レンズを見てみますと、材料の特性値からすべてのレンズがプラスチック(樹脂)の材料と思われます。

プラスチックのレンズなので、射出成型で加工されていると推測されます。

射出成型とは、金属の型に溶かした材料(プラスチック)を流し込み固める加工方法で、イメージ的にはあんこの無い今川焼みたいな加工方法とお考えいただくと良いでしょう。

 関連外部記事:今川焼

また、プラスチックレンズの材料とはどんなものか、参考リンク以下に準備いたしました。参考にご覧ください。

 関連外部記事:光学樹脂材料ユピターゼ

さて、すべてのレンズがプラスチックの非球面レンズと言えば「写ルンです」が有名ですが、こちらも少し前に分析したことがあります。

技術的にはiPhoneレンズの始祖と言えるのかもしれませんね。

 関連記事:写ルンです【光学編】

しかし、本ブログで通常取り上げるようなフルサイズ用レンズとはかなり趣が異なることは一見してわかります。

最も被写体側の第1レンズは凸レンズで、第4レンズまでは凸レンズなのか凹レンズなのかは見た目でなんとかわかりますが、第5レンズあたりから「これをレンズと呼ぶのがふさわしいのか?」と少々躊躇するような形です。

特に最も撮像素子側の第6レンズに至っては「どんな形」とお伝えすれば良いのでしょう?

第6レンズを私の世代風に表現しますと「ウルトラセブンが変身する時のアレ」としか見えませんが、今のお若い方には伝わりづらいでしょうねぇ…困ったものです。

なお、全体のサイズ感ですが、各レンズの厚みは1mmにも満たない薄さで、第1レンズから撮像素子までの総厚みでも5.5mmほどです。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、かなり極小に補正されているようです。一般的なフルサイズレンズでは非球面レンズは多くて2から3枚程度ですが、このレンズは6枚すべてが非球面レンズですから補正は容易なんでしょう。

軸上色収差は若干多いものの、スマートフォンレンズは絞りと言うものがありませんから開放でのみ目立ちづらい形状にまとめてあればそれで良いので、問題無いのでしょう。

像面湾曲

像面湾曲は非球面レンズが多いだけに複雑な変曲形状となっています。

全画面において平均的に湾曲成分を抑えようとしているのでしょう。極小というほどではありませんが及第点レベルです。

歪曲収差

歪曲収差は広角レンズでありながら、ほんのわずかにプラス側の糸巻き形状にズレています。

倍率色収差

倍率色収差は大きいようですが、この原因はプラスチック材料で構成されている点にあると思います。

プラスチックレンズの材料は、一般の光学ガラスと違い種類が少なく、色補正効果の高い材料も無いので色収差の補正が難しくこの程度が限界なのでしょう。

しかし、倍率色収差は画像処理で補正しやすい収差なので問題は無いのかもしれません。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

サジタル方向の収差はF1.8の大口径にしては極小さく抑えられています。

一方で、タンジェンシャル方向は画面隅での変動は少し目立ちますが、主には色成分(赤や青)のズレなので倍率色収差が抑えられていないことに起因しています。

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

球面収差が良好に抑えられているため中心から中間部分のスポットは十分小さく良好です。

周辺部ではサジタル方向の収差が少ないのでV字感はありませんが、縦方向にg線(青)とC線(赤)が分離しているのがおわかりかと思いますが、これは倍率色収差が大きいことを示しています。

スポットスケール±0.1(詳細)

MTF

開放絞りF1.8

中心近傍の山の頂点は極めて高く、SIGMA ArtやSONY GMのようなハイグレードレンズに匹敵する高解像でありますが、周辺部の山のまとまりには少々乱れがあり、さすがに一般的なレンズに近いレベルでしょうか。

なお、いつもの分析記事ではこの後に小絞り(F4あたり)のMTF特性図を記載していますが、スマートフォンには虹彩絞りが搭載されていませんから割愛します。

総評

搭載するすべてのレンズを非球面レンズとして極限までの薄さを実現しているのが、スマートフォン用の撮影レンズの特徴ですが、逆の意味でとらえると現代の技術ではまだたくさんのレンズを駆使して画像を形成することが必要であるとも言えます。

近年は、スマートフォンの影響で、カメラ市場が甚大な影響を受けていますが、レンズ技術はまだまだ重要不可欠であると言えるわけです。

今後は、逆輸入的にカメラレンズへこれらの技術が搭載されると、カメラの方がまた面白い展開へ繋がるのかもしれませんね。

なお、後日さらにスマートフォン用レンズとフルサイズレンズの比較分析記事を制作する計画です。

お楽しみに。

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 関連記事:2022年賀状印刷のススメ



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作例・サンプルギャラリー

Apple iPhoneの作例集は準備中です。


なお本ブログでは、作例写真は全てSILKYPIX 10で現像しております。

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 関連記事:SILKYPIX10のおすすめポイントをたくさんの作例で紹介

 

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その他のレンズ分析記事をお探しの方は以下の目次ページをご参照ください。

 関連記事:レンズ分析リスト

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