この記事では、オリンパス の一眼レフカメラ用交換レンズシリーズのコンパクトな広角レンズ ズイコー 21mm F3.5の歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
現代にもその名を残すOLYMPUS(現OMDS)の銘カメラと言えばOMシリーズですが、元は1970年代より始まるフィルム式一眼レフカメラがその源流です。
OLYMPUS初の35mmフイルムを採用したレンズ交換式一眼レフカメラ「OM-1」は1972年に発売され、当時の35mmフィルム一眼レフカメラの中で最小・最軽量で驚異的なサイズ感を実現したカメラでした。
OMシステムに合わせて準備されたのがOMマウント専用「Zuiko(ズイコー)」レンズ群で、基本のフィルタサイズがφ49かφ55とレンズも小型化されながら高画質化も達成し人気のシステムとなりました。
Zuikoレンズシリーズは、FnoがF2.0と当時では大口径シリーズと、F2.8やF3.5とFnoは控えめながらも超小型で性能に定評のある小口径シリーズの二系統が準備されたことも大きな特徴のひとつです。
今回分析するレンズ Zuiko 21mm F3.5は、超広角側の小口径レンズです。
Zuikoの小口径レンズは各所で絶賛されておりこちらもその1本で、性能もさることながら現代ならパンケーキレンズと言われてもおかしくない小型化を達成しています。
一眼レフカメラ用のレンズは、広角レンズの性能が出しづらいと言う宿命があります。
広角レンズとは焦点距離が示す通り「短いレンズ」であるわけですが、一眼レフ用レンズはファインダーへ光を導くためのミラーと干渉を避けるため「長いバックフォーカス」を確保しなければならないという物理的な矛盾が存在します。
そのためライカに代表されるレンジファインダー機に比較すると長らく性能が低く、これを克服することが一眼レフ用レンズの進化の歩みだったとも言えます。
いわゆるライカ用レンズと言われるレンジファインダーカメラの広角レンズの性能が高いのは、簡単に言えばミラーが不要なのでバックフォーカスを短く設計できため構造的な矛盾が無く、設計自由度が高いためです。
よろしければこちらの「一眼レフカメラのしくみ」の記事もご覧ください。
このZuiko 21mmは、超広角側のレンズでは私の大好きな焦点距離です。
フィルム時代には50mmと21mmを装備するのがいつものパターンでした。
焦点距離が21mmになると、超広角の領域に入ります。このあたりから人間の眼の画角を超えた誇張された映像の世界となります。
かと言って、18mmや16mmのように異常に広い画界ではありませんから、不自然さは無く広く撮れるのが21mmの特徴でしょう。
なお、近い仕様のレンズでZuiko18mmF3.5も捨てがたい選択なのですが、こちらは第1レンズが張り出した形状のいわゆる「出目金」形で扱いに少々気を使うのが難点です。
文献調査
Zuiko21mmの調査のために特許文献を読み漁ると断面形状が酷似する特開昭54-34234が発見できました。
なお、今回分析する21mm以外にも24mmや18mmなども発見したのですが、印刷か保管品質の悪さからか実施例の数値が読めない物があり、計算が上手くできない物が多数あります。
40年以上前の紙保存の資料ですから諦めるしかないのでしょうか…
断片的な情報を元に再設計するという事もできますが時間がかかるので、Zuikoレンズシリーズの分析はこのレンズで一旦終了し、他のレンズの分析に取り掛かろうと思います。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がzuiko 21 F3.5の光路図です。
7群8枚構成、非球面レンズは非採用です。被写体側のレンズが相対的に大きいいかにもな広角レンズの構成です。
超広角レンズながら第1レンズを凸レンズとしているのは像面湾曲と歪曲の低減のためで、非球面レンズを非採用の古い光学系で良くある構造です。
全体の構成は、対称型に近い並びのため性能には期待できそうです。
なお、超広角レンズは各社ともこのような構成を基本とし、どこに非球面レンズを配置するかという開発競争が繰り広げられていました。
簡単に言うと第1レンズのような前側の大径レンズを非球面レンズにすれば性能は劇的な改善が可能ですが、レンズ径と値段は比例するため販売価格が高騰します。
また非球面レンズは大き過ぎると加工自体が困難となりますから、値段と性能とその時代の技術のバランスが浮き出てくるわけです。
このZuiko 21mmは、非球面は採用しておりませんから球面レンズのみで地道に収差を補正した努力が結晶化した物であるはずです。
このようなレンズを分析しておき、また改めて近代的なレンズを見ることでレンズ設計の発展の歴史を味わうことができるでしょう。
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。