レンズ分析

【レンズ性能評価】NIKON AF-S Micro-Nikkor 60mm F2.8G ED -分析070

ニコン マイクロニッコール 60mm F2.8Gの性能分析・レビュー記事です。

レンズの仕組みやその性能は一体どう違うのか、具体的な違いがほとんどよくわかりませんよね。

雑誌やネットで調べても似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな記事ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析します。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

AF-S Micro Nikkor 60mm F2.8は、NIKONのFマウント用Micro(マイクロ)レンズシリーズの焦点距離55mm系のレンズとしては4代目となり、Fマウントでは最後のマクロレンズとなります。

まずは、NIKONのFマウントレンズから最新のZマウントに至るマクロレンズの系譜を確認してみましよう。

焦点距離仕様ごとに発売年と構成をリストにしました。光学系を共通とする物は除いています。

◆Micro Nikkor 55mm系

◆ Micro Nikkor 105mm系

  • New Micro Nikkor 105mm F4 (1975) 3群5枚
  • Ai Micro Nikkor 105mm F2.8S (1984) 9群10枚
  • AiAF Micro Nikkor 105mm F2.8S (1989) 8群9枚
  • AF-S VR Micro-Nikkor 105mm F2.8G (2006) 12群14枚
  • Nikkor Z MC 105mm F2.8 VR S (2021) 11群16枚

◆ Micro Nikkor 200mm系

  • Ai Micro Nikkor 200mm F4 (1979) 6群9枚
  • AiAF Micro Nikkor 200mm F4D (1993) 8群13枚

前回の分析では、55mm系では3代目となるAiAF Micro Nikkor 60mm F2.8を分析しました。

今回、取り上げる4代目AF-S Micro Nikkor 60mm F2.8Gの特筆すべき進化点は、旧来のマクロレンズで象徴的でもあったフォーカス時のレンズの大きな繰り出しが無くなりました。

近距離撮影時にレンズが飛び出さない(全長固定)構造となっています。これをインナーフォーカスと言います。

インナーフォーカスレンズの面白い効用は、一見レンズが不動に見えるため、動物類への刺激が少なく撮影しやすいなどとも言われます。

また、旧来の前群繰り出しタイプのレンズは、近距離撮影時にレンズを被写体にぶつける事故を誘発するのも問題でしたが、この問題も解消されますね。

私的回顧録

『等倍』

ここ3回連続でマクロレンズの分析を行っていますが、改めて最大撮影倍率「等倍」とは何か、図解しながらやさしく説明しましょう。

まず最初に「マクロレンズと一般レンズの最大の違い」はなんでしょうか?

「マクロレンズは近くの物が撮影できる」この回答は間違いではありませんが、本質とは少し異なります。

正解となる"その違い"とは「被写体を大きく写すことができる」点にあります。

大きく写るのは望遠レンズではないか?と思われる方もいるかもしれません。

しかし、望遠レンズも含め一般のレンズは、撮像素子に被写体が小さく写っているのです。

下図では一般のレンズで撮影した時の、被写体と撮像素子上の結像のサイズ比を示します。

図では、NIKONの標準単焦点レンズの代表であるNikkor 50mm F1.8Dの最短撮影距離(最大で写る距離)の光路図になります。

改めて、光路図を見れば当然ですが、小さな撮像素子(フィルムなど)へ人物などの大きな被写体が写し込まれるのですから、一般レンズで撮影すると実際の被写体サイズよりも「小さく写る」のです。

続いてマクロレンズでの撮影の様子は以下となります。

上図は前回分析したAIAF NIKKOR 60mm F2.8 Macroの最短撮影距離の光路図です。

このレンズは、最短撮影距離で使用すると撮影倍率等倍(1.0倍)で撮影できます。

等倍の様子について、皆様のお手元にもあるわかりやすい被写体として500円玉で表現してみました。

この図で被写体としている500円玉は、直径26mmとフルサイズ撮像素子よりも縦に少し大きい程度です。

マクロレンズにて撮影倍率等倍の距離で500円玉を撮影すると画面から少しはみ出したように写ります。

このように「等倍とは」縮小されずに写るという意味で「大きく写る」のです。

さて「等倍」の意味をご理解いただけたでしょうか?

少し違う言葉でマクロレンズの効果を表現すると「撮像素子に原寸大で写すレンズ」とも言えますね。

なお、一部のレンズは等倍よりさらに大きなサイズで拡大撮影できる物もありますが、あまり一般的ではありません。


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文献調査

このAF-S Micro Nikkor 60mm F2.8Gは2000年以降の製品ですから調査は簡単、特開2008-257200が該当文献です。

実施例の確認しますと、実施例1と実施例2の形状が製品形状と一致するようですが、実施例1は焦点距離が約55mmであり、実施例2の方が60mmに近いようです。

では、実施例2を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。


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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図が焦点距離55mm系マクロの4代目AF-S Micro Nikkor 60mm F2.8Gの光路図になります。

9群12枚構成、球面収差の補正に効果的な非球面レンズを2枚、色収差の補正のためにEDレンズも1枚採用しています。

前回分析した先代の3代目AiAF Micro Nikkor 60mm F2.8は、被写体側にダブルガウス型レンズを配置し、撮像素子側へ2枚のリアコンバータ的なレンズを配置する構成でした。

しかし、この4代目レンズは、ガウス型とはまったく異なる形態となっています。

この形態の秘密は、ピント合わせのための繰り出し方法が、以前とまったく異なることに由来しています。

下図の繰り出し状態の図をご覧ください。

左図(青字Far)は遠距離にピント合わせた状態、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態です。

遠距離とは正確には無限遠であり例えば「星を撮影している状態」とお考えください、一方の近距離とは本レンズの最大撮影倍率となる等倍(1.0倍)に写る最短撮影の繰り出し状態です。

レンズ全体は4つの群に分割されています。

被写体側の第1群は繰り出さずに固定されています。

第2群は近距離撮影時には撮像素子側(絞り側)へ移動し、第3群は逆に絞りへ近づくように移動しています。

最も撮像素子側の第4群は固定されています。

補助線を付けて少々わかりやすくしてみました。

3代目AiAF Micro Nikkor 60mm F2.8はレンズを3つの群に分割し移動させていましたが、4代目ではついに4群構成化することでフォーカスレンズが被写体側へ繰り出さない「インナーフォーカス化」を達成しています。

縦収差

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、非球面レンズ2枚の効果で近距離も遠距離も球面収差は極小に補正されています。

3代目レンズAiAF 60mm F2.8と比較すると極めて小さくなっていることがよくわかります。

軸上色収差は、遠距離では十分ですが、近距離は従来の3代目レンズなどと同程度となっています。

像面湾曲

像面湾曲は、遠距離では十分ですが、近距離の画面隅の像高21mm付近ではサジタルとタンジェンシャル方向の差が大きくなっています。

それでも3代目レンズに比較すれば半減程度に改善しているようです。

歪曲収差

歪曲収差は、遠距離と近距離が見分けが付かないレベルに変動が抑えられています。

倍率色収差

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

倍率色収差は、遠距離も近距離も少々大き目です。現代のカメラでは倍率色収差は画像処理で補正されてしまうので遠距離は気にならないでしょうが、近距離の画面隅では少々補正不足感があるかもしれません。

3代目レンズのようなダブルガウス型をベースとした対称性の強い構成ですと倍率色収差の補正が容易ですが、非対称構造のこの4代目レンズは倍率色収差の補正に苦労しているようですね。

近距離で平面を正対して撮影するのは一般的にはあまりない機会とも思えますが。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

タンジェンシャル方向の横収差は遠距離と近距離ともに十分に補正されています。

サジタル方向の画面隅は補正残りがありますが、先代の3代目レンズと比較すれば半減程度に削減されています。


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スポットダイアグラム

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイヤグラムから見てみましょう。

遠距離では3代目レンズに比較するとスポットサイズも半減程度に改善されています。

近距離ではスポットサイズが小さくなりますが、このタイプのレンズは近距離では絞りが小さくなるのでF5.0程度になるためです。

スポットスケール±0.1(詳細)

詳細スケールに拡大しますと、倍率色収差の大きさがあらわれています。

倍率色収差の影響で、各色ごとにスポット像の位置がずれているのがよくわかります。

MTF

左図(青字Far)は遠距離に、右図(赤字Near)は近距離にピントを合わせた状態

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

遠距離では山が十分高いうえにきれいに一致しています。

近距離では像面湾曲の影響で画面隅の像高21mmの山の位置がだいぶずれています。

小絞りF4.0

遠距離では開放から十分な性能なので絞りによる効果は体感しづらいかもしれません。

近距離では画面隅まで山が高くなることで画面全体が均質な解像感となりそうです。

総評

ついに4つの群を移動させる光学系の採用で、インナーフォーカス化を達成したMicro Nikkor 55mm系ですが、少々疑問に残るのは、なぜ焦点距離を60mmにしたのかが気になります。

こちらのNIKON自身が過去のレンズを回顧する「ニッコール千夜一夜物語」によれば、3代目AiAF 60mmレンズはバックフォーカスの確保とオートフォーカス化の両立のために焦点距離を60mmにしたとあります。

今回分析した4代目AF-S 60mmについては、焦点距離を60mmとした理由は語られていませんが、特許文献の実施例1の設計仕様が55mmであったことを知ると「NIKONの担当者としては55mmにしたかったのではないか」と心情を察してしまいます。

発売ごとに構成を大きく進化させてきたMicro Nikkorですが、Zマウントではどのような進化を遂げたのか興味は尽きませんね。


作例・サンプルギャラリー

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製品仕様表

製品仕様一覧表 AF-S Micro Nikkor 60mm F2.8G

画角39.4度
レンズ構成9群12枚
最小絞りF32
最短撮影距離0.185m
フィルタ径62mm
全長89mm
最大径73mm
重量425g
発売日2008年3月14日

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レンズ分析リスト

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