レンズ分析

【レンズのプロが解説】 ペンタックス大口径中望遠レンズ HD PENTAX-D FA★85mmF1.4-分析037

HD ペンタックス FA 85mm F1.4の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?

雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。

それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

PENTAXレンズのレンズには、超高性フラッグシップ製品「★(スター)」シリーズと、サイズと性能のバランスに所有する喜びもプラスした「Limited」のシリーズが存在します。

当記事のPENTAX D-★FA 85mm F1.4は★シリーズの1本で、性能に妥協を許さず、堅牢性、防塵防滴を備えた大口径中望遠レンズです。

PENTAXのレンズシリーズでは、永く欠番となっていた焦点距離85mmレンズですが、2020年に満を持してとの表現がふさわしい登場をしました。

このHD PENTAX 85mm F1.4は、発売に至る前まで噂掲示板やまとめサイトでは開発が遅延しているとか、OEM(外部メーカーの開発/生産)になるとか色々と風説が流布されヤキモキとしました。

結果として、この記事にまとめますようにPENTAXから出願された特許が存在しますので、純PENTAX製のレンズが発売されたものと推定されます。

最初に、PENTAXにおける85mm F1.4の系譜を振り返ってみましょう。

まずPENTAXレンズは古くはタクマーとの名称でしたが、その時代の中望遠レンズはF1.8が最大口径だったようです。

タクマー時代の中望遠レンズの構成枚数の情報からすると「大きなガウスタイプ」だろうと想像されます。

そして時は流れ1984年にPENTAX Aシリーズの時代に★(スター)レンズとして85mm F1.4仕様のレンズが初登場します。

その後、発売された85mm F1.4仕様レンズの発売時期と構成枚数は以下のようになっているようです。

  • 初代 :SMC PENTAX A★85mmF1.4(1984)6群7枚
  • 二代目:SMC PENTAX FA★85mmF1.4(1992)7群8枚
  • 三代目:HD PENTAX D FA★85mmF1.4(2020)10群12枚

いずれの85mm F1.4レンズも全て高性能シリーズ★(スター)として発売されているようです。

当記事では、二代目発売から28年もの歳月が流れ発売となった三代目レンズを分析いたします。

私的回顧録

先代(二代目)のSMC PENTAX FA★85mm F1.4が終売となってからおよそ15年ほどでしょうか、2020年ついにPENTAXの85mmがリニューアルとなりました。

なぜ各社で定番とされている85mm F1.4を長らく欠番としていたのか?内部事情はわかりませんが、2020年にPENTAXが唐突に宣誓した「光学ファインダー宣言」とセットでの再発売となるあたりにPENTAXの覚悟のほどを感じます。

なお、当ブログとしましては過去に二代目85mm F1.4であるSMC PENTAX FA★85mmF1.4を分析しました。

 関連記事:SMC PENTAX FA★85mmF1.4

二代目85mmレンズはフォーカシングレンズ群を小型軽量にすることで、実にスタイリッシュと言えるスマートな光学系を実現した、近代大口径単焦点レンズの基礎のような製品です。

二代目の壁が厚かったのか、★の重みか、28年目の答えをPENTAXはどのようにまとめあげたのか、早速分析してみましょう。

文献調査

先代となる二代目85mmを分析したのはこの三代目の発売記念行事として分析を行いました。

通常、出願された特許が公開となるまではおよそ1年半~2年はかかります。

製品発表の直前に特許が出願されたとすると、その特許が公開されるのは製品発売後1年ぐらい経過してからと言うパターンが最長となります。

なんらかの事情で特許が出願されない事も当然ありますし、そもそもほとんど出願しないメーカーもあります。

PENTAXは基本的には製品発売と供に特許を出願するメーカーなので私としては、少々気長に待つつもりでおりました。

ですが、予想よりもだいぶ早くその日は訪れました。

三代目85mm発売は2020年6月26日ですが、その特許となる特開2020-154060は同年9月24日に公開されています。

早すぎず、遅すぎないタイムリーな対応にPENTAX並びに特許庁には感謝申し上げたい気持ちです。

それではこの特許文献から断面図の似る実施例3を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

 

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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がHD PENTAX D FA 85mm F1.4の光路図になります。

10群12枚、最も撮像素子側に非球面レンズを1枚と、特殊低分散ガラス(ED)は2枚採用しているようです。

少し距離の離れた撮像素子側の後群でフォーカスする二代目85mm光学系の構成を元にして、レンズ枚数を増し高性能化を図ったことが見て取れます。

だいぶ衝撃的なのは、最も被写体側(左側)となる第1レンズの第1面が凹面です…

要はレンズを前から見たときにレンズ面が凹んでいるのです…

前が凹面のレンズが無いというわけではありません。

ミラーレスのレンズには最近多いのですが、ミラー付き一眼レフ用のレンズではかなり珍しいのです。

例えば現行のNIKONのFマウントレンズで前側が凹面の形状があるか?と言われる「無かったような?」と言うレベルです。(Zはある)

なんとも珍しいなと思いましたら、やはり特許文献の中にもその記述がありました。

【請求項5】
 第1レンズ群は、最も物体側に位置する物体側に凹面を向けた負レンズ…

特開2020-154060より引用

やはりこの第1レンズがこの光学系の肝なのでしょう。収差の良好な補正に寄与している旨の説明も本文中に記載されています。

なぜ私がこれほどまでに凹面に驚くのか少々説明しましょう。

この衝撃の凹面を見た時、私の脳裏には「伝説の師匠」が降臨しました。( 注:"伝説"なのは私の脳内においての話で、あくまで一般人です)

今から数十年前の私が駆け出しだった頃、光学設計のお師匠様に以下のように指南されたのです。下図は師匠の記憶図です。

「小僧よ、第1レンズは凹面にはするでない、やったら破門ね…」

と当時は言われたのです。(だいぶ昔の話なので、イラストを含めかなり脚色されています)

この発言を受けた若き私は「カメヲタの私には他に適職も無いし、破門だけはマズイ…」と、理由は考えずこの教えを固く守ることを誓ったのです。

ところで師匠、大変お懐かしゅうございます。当時は浮いてはいなかったと思いますが…

ま、話題を本題へ戻し、本日は改めて「凹面は破門」の理由を考察してみます。

まず第1面が張り出した凸面のレンズならば見た目が立派で魂が吸い込まれるような気持ちになり「ずっと見ていられそう…」となります。(注:この効果にはだいぶ個人差があります)

逆に第1面が凹面ですと、魂を吸い込む効果も薄いだけでなく、凹レンズ越しに見ることで錯覚によってレンズ内部が小さく見える効果が強くなるわけです。

昔のレンズはマニュアルフォーカスだった事もあり、小振りな製品が多かったわけですから高級感を出すために「大きく立派に見せたい」と言う気持ちが根底にあり、第1面の凹面はご法度だったのでしょう。

しかし、時は流れ「超弩級大型レンズ」でなければ許されないような現代ですから「性能も良くなるし、凹面効果でわずかでも小さく見せたい…」としてつまらない慣例を打ち破ったのかもしれませんね。

「凹面は破門」の理由が間違っていそうな気もするので、私は師匠にしばかれそうですが…

縦収差

球面収差像面湾曲、歪曲収差

球面収差 軸上色収差

球面収差は極良好に補正されています。★レンズの気概を感じます。

軸上色収差もほぼ理想値と言えるでしょう。

像面湾曲

像面湾曲も極小に補正されています。

歪曲収差

歪曲収差は「ゼロ」です。

もう一度記載しますよ「ゼロ」です。

公式HPにもゼロディストーションと書かれていますが、その通りです。

一般的にメーカーはゼロとか無限などの表現を避けます。

製造上のばらつきや計測条件によって「ゼロで無い場合」が発生すると万が一にも誇大広告と言われるのを恐れるためです。

しかし、このデータを見る限り「もうゼロって言うしかないわ」と思えるほどの小ささですから支障無いと考えているのでしょう。

二代目85mmが歪曲収差をほぼゼロとしていたので「この三代目レンズもゼロにしなくては発売できない!」と言う、激しいプレッシャーを設計担当者が受けていたものと推測されます。

倍率色収差

倍率色収差は絶対値的には十分小さくまとめらています。

もう少しg線(青)をプラス側にしたい気もしますが、ここまでの少量ともなるとスポットダイアグラムなどで正確に判断したいところです。

横収差

左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

全体にコマ収差も少なく良好にまとまっています。

大口径だけあって像高21mmの隅でサジタルコマが残りますが、星景撮影などの特殊用途でなければわからないレベルでしょう。


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スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

標準スケールでは小さすぎてよくわかりませんね…

スポットスケール±0.1(詳細)

拡大スケールでようやくわかります。

スポットダイアグラムは若干軸上からc線(赤)が残りますが、拡大スケールでようやく見えるレベルですから実写上気になるレベルでは無いでしょう。

少々懸念した倍率色収差もスポットダイアグラムでは目立つ雰囲気もありません。

MTF

開放絞りF1.4

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放FnoのMTFは、十二分に高く新世代の★(スター)レンズにふさわしい高性能です。像高21mmの隅ではさすがに山の位置ずれ(ピントズレ)がありますが、中心の山位置にMTF値が残っていますから十分な解像度は得られるでしょう。

小絞りF4.0

F4まで絞ればもはやコメントも不要です。

総評

85mm★レンズ三代目として高性能を実現する重荷の中で誕生した新85mm F1.4レンズは、当然のごとく超高性能な大口径中望遠レンズでありました。

この高性能に防塵・防滴と言った定番の付加機能も漏れなく搭載されたこの製品は後年「希少な逸品」と言われる事、間違いない製品でしょう。

私個人としましては、まさかのレンズ形状に伝説の師匠の思い出がよぎる衝撃の展開となりました。

引き続きまして今後は二代目との比較分析も行いたいと思います。

類似仕様のレンズ分析記事はこちらです。

 関連記事:SIGMA Art 85mm F1.4 DG DN(ミラーレス用)
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製品仕様表

製品仕様一覧表 HD PENTAX 85mm F1.4

画角28.5度
レンズ構成10群12枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.85m
フィルタ径82mm
全長123.5mm
最大径95mm
重量1255g
発売2020年

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