レンズ分析

【レンズ性能評価】smc PENTAX FA31mm F1.8 AL Limited-分析036

ペンタックス FA 31mm F1.8の性能分析・レビュー記事です。

レンズの仕組みやその性能は一体どう違うのか、具体的な違いがほとんどよくわかりませんよね。

雑誌やネットで調べても似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな記事ばかりではないでしょうか?

当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析します。

一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

PENTAXレンズの高性能製品シリーズには「★(スター)」との名称が与えられており、一方で小型高性能シリーズには「Limited」の名前が付けられています。

★レンズは、性能に妥協を許さず、堅牢性、防塵防滴を備えたプロ仕様でありその結果、サイズも大きくなりがちでした。

過去にはこんな★レンズを分析しています。

 関連記事:smc FA★85mmF1.4ED

一方のLimitedシリーズは単に小型な製品と言うわけではなく、金属製の高い質感の外観に絞り操作環などマニュアル操作を意識したプレミアムな作りで「所有する喜び」にも重点を置いた製品となっています。

フルサイズ用のLimitedレンズは、執筆現在(2020)において3種類が販売されており本項では31mm F1.8を取り上げます。

今回の31mmもそうですが、Limitedレンズは全て焦点距離が少し変わった数値となっています。

公式HPにもある通り、焦点距離31mmと言う仕様は、35mmと28mmの中間という意味合いとされています。

1976年発売のsmc PENTAX 30mm F2.8を意識していたら面白いのですが、残念ながらそのような情報は見当たりませんでした。

私的回顧録

Limitedシリーズ全般のコンセプトは小型高性能ですが、この31mm F1.8は広角な焦点距離でありながら「F1.8」という大口径でボケ味にも配慮したことが伺えます。

単に小型に仕上げたいならFnoを少し暗めにすれば良いところを逆に明るくしているわけです。

31mmならF2.8でも違和感がなかったと思うのですが、F1.8まで明るくするのですから「男前」と言わずにはいられません。

このPENTAX 31mm F1.8は2001年発売ですが、フィルム時代の末期でコンデジの黎明期といった時期になり、デジタル一眼が普及するのはまだ少し先の時代でした。

レンズの描写に対してボケ味が、ことさら重要視されるようになったのはデジタル一眼レフカメラが普及してからの事です。

この時代のFnoの明るさとは高速シャッターを切る為というのがまだ大儀であった時代です。

また、フィルムカメラは取り直しが効きませんし、デジカメのように枚数を多く撮ることも難しく、ピント合わせの失敗などに備えて「開放での写真は極力控える」のが正しい作法とされていたのです。

ボケ味を問われるのはポートレート用の中望遠かマクロぐらいの時代で、問う人もプロクラスもしくは「沼の底に沈んだような人々」だけだったと思います。

そんな時代背景で「広角でも開放のボケ味を重要視する」と言う、恐ろしく先見の明のある方がPENTAXにはいたようです。

他に、鑑賞環境を振り返っても、この時代のインターネットは超低速回線でアナログ回線の人も多かった頃ですから、写真データをやり取りするのは困難でした。

写真の鑑賞は、写真プリントや本などの印刷物がまだ主だったのです。

当然ながら大きなサイズにプリントできる方は少数ですから、ボケ味を語るほどの画質で多くの人が写真を鑑賞できる時代ではなかったのです。

そんな時代に発売された、この早すぎた逸品とも言えるPENTAX 31mm F1.8をじっくりと分析してみましょう。


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文献調査

さてメーカーごとに特許の出願戦略というのは様々で、思いついた事を片っ端から出すメーカー、厳選して出すメーカー、ほとんど出さないメーカーとありますが、PENTAXは比較的厳選して出すメーカーなので検索するとすぐにわかります。

見た目と仕様から特開2002-040325の実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。


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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

PENTAX 31mm F1.8 断面図 光路図

上図がPENTAX 31mm F1.8の光路図になります。

7群9枚構成、非球面レンズが1枚採用されています。

被写体側に少し間隔を空けた負レンズ群がある、広角レンズに一般的に見られるレトロ的な配置です。

過去に分析した事例ではNIKON 28mm F2.8DNIKON 35mm F2.0Dを足し合わせたような形状と言えるでしょうか。

焦点距離的には2つのNIKONレンズの間になりますが、Fnoがより明るいF1.8であるため、足し合わせたような構成になったのでしょうね。

大口径化による収差を抑制するために非球面レンズを投入したようです。

派手すぎず地味すぎない、この断面は「男前」と称するべき機能的で美しい形状です。

縦収差

球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

PENTAX 31mm F1.8 縦収差

球面収差 軸上色収差

球面収差は、ほんのり味の出そうなマイナス側に膨らみのあるフルコレクション形状ですが、広角・大口径の仕様を考慮するとかなり小さくまとめていることがわかります。

軸上色収差は極小とまでは言えませんが、広角レンズは小さくなりますので特に支障のある値ではなさそうです。

先に挙げたNIKON 28mm F2.8DNIKON 35mm F2.0Dは価格帯や発売時期、商品コンセプトが異なりますから並べて批評できませんが、NIKONの事例に比較すると収差が良好に補正されている事が良くわかります。

像面湾曲

像面湾曲は球面収差に合わせる形でマイナスに残しています。

球面収差を残している場合は、そちら側とのバランスが重要でゼロになっていれば良いというものではありませんからMTFで最終バランスは確認しましょう。

歪曲収差

歪曲収差は大口径・広角・しかも小型でありがら十分小さな値にまとめています。

倍率色収差

PENTAX 31mm F1.8 倍率色収差

倍率色収差は極小とは言えませんが、このクラスとしては十分に補正されています。

横収差

左タンジェンシャル、右サジタル

PENTAX 31mm F1.8横収差

横収差のタンジェンシャル方向を見ますと、大口径広角レンズとしては像高ごとの特性変化が少なくみごとな美しいまとまりを感じます。

コマ収差(非対称)が少ないおかげですっきりとした収差図の眺めに見とれます。

サジタル方向は、大口径らしくサジタルコマが残りますが、それでも先のNIKONレンズに比較すると激減している様子がわかると思います。


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スポットダイアグラム

PENTAX 31mm F1.8 スポットダイアグラム

スポットダイアグラムは、画面中間12mmまではきれいな形でまとまっていますが、周辺18mmを超えると大口径特有のV字形状になってきます。

MTF

開放絞りF1.8

PENTAX 31mm F1.8 MTF開放F1.8

開放FnoのMTFは、大口径広角仕様でありながら実用上十分な高さと、位置のバランスも良好なようです。

小絞りF4.0

PENTAX 31mm F1.8 MTF F4.0

開放Fnoではほんのり残した球面収差の影響で若干低下していた高さが絞り込みによって回復することが見て取れます。若干の周辺部のズレは残るようです。

総評

製品の外観は小振りでありながら、精緻な質感と高いデザイン性。

収差補正は、過剰さもなければ不足もない、その一方で、無機質とは言えない味も残す。

大口径広角かつ小型と言う仕様を鑑みると憎らしいレベルで”適切”に補正された収差図です。

収差が少ないだけのレンズを設計することは機械で可能な事ですが、適切に残すのは天性の芸術性が必要です。

日本が光学大国となった理由の一端には「詫び・寂び」と言った完璧を求めない独自の空気感を形成する能力と「収差補正(残し)」に共通する美学があり、そのため国民性的に光学設計に向いた民族であったからだと私は考察しています。

余談はさておき一言で総括しますと、私も「人生で1本ぐらいこんな製品を設計してみたかったなぁ」と、ため息の出る性能でした。


作例・サンプルギャラリー

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製品仕様表

製品仕様一覧表 PENTAX 31mm F1.8

画角49度
レンズ構成7群9枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.3m
フィルタ径58mm
全長68.5mm
最大径65mm
重量345g
発売日2001年

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