この記事では、シグマの一眼レフカメラ用の交換レンズである大口径広角レンズ 28mm F1.4 DG HSMの歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
新刊
レンズの概要
各社のマウントに対応した製品を販売する老舗レンズメーカーのひとつSIGMAは、2012年より「怒涛の超高性能Art」「超快速超望遠Sports」「小型万能なContemporary」と、わかりやすい3つのシリーズで製品を分類し構成しています。
その中でもArt(アート)シリーズは、超高性能を前提に金属部品を多用した高剛性、かつ端正なデザインの重厚長大なフラッグシップレンズです。
本項で紹介する28mm F1.4 DG HSM Artは、大口径広角レンズでありながら極めて高い解像性能を誇るレンズです。
焦点距離28mmと言えば、マニュアルフォーカス時代は広角レンズの定番でしたが、SIGMAが誇る一眼レフ用のArt大口径単焦点シリーズの中では最後発のレンズとなりました。
このレンズは、SIGMAのHPにて「クラシカルな焦点距離」と表現されています。
確かに近年は焦点距離28mmの仕様を耳にする機会が少ない気がしますが、クラシカルとはいかがな真意なのでしょうか?
私が思うに、近年ズームレンズの広角端は24mmからの製品が多くなったせいか28mmと言う数値を見かける機会が減っており、そのためクラシカルな印象を持たれるのではないかと思います。
また近年は、ボケ至上主義的な考え方が幅を利かせていますから焦点距離的にあまりボケるわけでも無いし、超広角レンズというほどでも無い、そのため特徴も出しづらく出番がめっきりと減っている事も影響しているかもしれません。
さて憶測はさておき、広角側のレンズとしては最後発のこのレンズの性能には期待がふくらみますね。
なおこのレンズは、各社マウントに対応した専用モデルがありますが、一眼レフカメラ用のマウントの製品はマウントアダプターを利用することで、ミラーレス一眼カメラにも使用できます。
文献調査
さて、特許文献を調べると現代の製品なので関連すると思われる特許が簡単に見つかりました。
詳細に見ますとHP記載の形状とわずかに異なるものの、特開2019-219472実施例4が形状的には最も近いようですので、これを設計値と仮定し設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSIGMA Art 28 F1.4の光路図です。
レンズの構成は12群17枚、非球面レンズ(赤色)は3枚も採用し、色収差を良好に補正するための特殊低分散材料も3枚配置しています。
非球面レンズを3枚も採用する単焦点レンズはなかなかありません。また、これまでこのブログで取り上げたレンズの中で最大枚数になります。
非球面も多くて、入力が面倒だった…しかも私が使用しているOPTALIXという解析ソフトの問題でしょうがて、謎の計算エラーでかなりの時間を費やしました。疲れた…
縦収差
球面収差 軸上色収差
Artシリーズ自体、高性能を売りにしていますが、その中でも後発だけあって画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差と、画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は十分に抑制されています。もはやコメントの必要性がありません。
像面湾曲
広角レンズほど、画面全域の平坦度の指標の像面湾曲の補正が困難となりますが、基準光線であるd線(黄色)を見ると劇的に小さくまとまっています。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、もはや「気持ち悪い」と言われるレベルで少ない…
この設計担当者は、歪曲収差に何かトラウマがあったのでしょうか?
倍率色収差
画面全域の色にじみの指標の倍率色収差も、良好に補正されています。
歪曲収差の光の波長分のズレが倍率色収差とも言えますから歪曲収差を極めて良好にすることで倍率色収差を抑えたのかもしれませんね。
横収差
画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差を見てみましょう。
一般的に広角レンズほど像高ごとの特性変化が大きくなるので横収差は、”はしたない”感じになるのですが、極めて良好に補正されています。
非球面レンズを3枚も採用する意味がここにあるようです。
新発売
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
横収差で見ての通り、サジタル・タンジェンシャル供にバランスよく補正されているようで、大口径レンズにありがちなサジタルフレアによるV字状のスポット形状にはならないようです。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
画面の周辺部の像高18mmからより外側では少しC線(赤)のズレがあります。
MTF
開放絞りF1.4
最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
これまで解析したArtの望遠側レンズ同様に開放Fnoから高いMTFです。最周辺の像高21mmでは像面湾曲の影響がありますが、画面の隅での話ですから撮影で気になることはないでしょう。
小絞りF4.0
FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
像面湾曲は改善しませんが、山の高さが上がるので写真自体の解像性能はさらに改善します。
総評
さすが、Art広角側の最新レンズだけあり極めて高性能でありました。
性能を追い求め「腰と膝」の許可があればこのレンズで決まりでしょう。
郷愁の28mm画角に最高性能が組み合わさるとどのような写真が取れるのか作例制作が楽しみです。
逆に設計の古い味のある焦点距離28mmとして過去にNIKONの下記のレンズを分析しておりますので比較してお楽しみください。
関連記事:NIKON Ai AF Nikkor 28mm f/2.8D
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
マウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラでも使用できます。
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
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製品仕様表
SIGMA Art 28 1.4製品仕様一覧表(Lマウント用)
画角 | 75.4度 |
レンズ構成 | 12群17枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.28m |
フィルタ径 | 77mm |
全長 | 131.7mm |
最大径 | 82.8mm |
重量 | 960g |