ニコンの大口径F2.8超広角ズームレンズの「Fマウント用ニッコール 14-24 F2.8」と、「Zマウント用ニッコールZ 14-24 F2.8」の広角端(14mm)での性能比較の記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能などの具体的な違いがよくわからないと感じませんか?
雑誌やネットで調べても、似たような「口コミ程度のおススメ情報」そんな情報ばかりではないでしょうか?
当ブログでは、レンズの歴史やその時代背景を調べながら、特許情報や実写作例を元にレンズの設計性能を推定し、シミュレーションによりレンズ性能を技術的な観点から詳細に分析しています。
一般的には見ることのできない光路図や収差などの光学特性を、プロレンズデザイナー高山仁が丁寧に紐解き、レンズの味や描写性能について、深く優しく解説します。
あなたにとって、良いレンズ、悪いレンズ、銘玉、クセ玉、迷玉が見つかるかもしれません。
それでは、世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。
個別の分析記事については以下のリンク先をご参照ください。
レンズの概要
まず、今回の分析対象であるFマウント用NIKKOR 14-24は「F 14-24 F2.8」、Zマウント用NIKKOR 14-24は「Z 14-24 F2.8」と以下に記載いたします。
2018年Zマウントシステムを立ち上げたNIKONは、そこから約2年の歳月を経て大三元ズームと呼ばれる3本の大口径ズーム(F2.8)を市場へ導入しました。
Zマウントにおいても、いわゆるプロ御用達レンズをそろえることで、実質的に一眼レフカメラの終焉、ミラーレスカメラ本流の時代を明言したといえるでしょう。
当記事では、この2つのレンズの広角端の比較検証を行います。
それぞれのレンズの個別詳細分析については各ページをご覧ください。
私的回顧録
広角ズームレンズは、技術的には「非球面レンズ開発そのもの」と言えます。
なぜなら広角レンズは、より大きな非球面レンズを製造し、製品へ投入できれば性能がその分だけ良くなります。
製造技術の高いメーカーほど「より広角な仕様へ設計変更する」とか、「小型化する」とか、「高性能化する」などが可能になります。
先代のFマウント版のレンズは2007年の発売、新型Zマウントは2020年の発売となりました。
およそ13年の期間にどれだけ非球面の製造技術が進歩したのか?新旧製品を比較分析することで検証できるはずです。
さらに、着目すべきはZマウントはミラーレスマウントである点です。
一眼レフはミラーの配置スペースを確保するためにレンズと撮像素子の間に広い空間を確保する必要があります。
しかし、広角レンズとは「焦点距離が短いレンズ」とも言います。
焦点距離が短いレンズですから「全長が短い方が自然」なわけですが、一眼レフ用レンズはミラー用の広い空間を確保しなければならない(=長いレンズ にしたい)そんな矛盾が発生します。
この矛盾から一眼レフの広角レンズは性能改善が難しかった経緯があります。そして超広角ズームほどミラー空間の影響は甚大なはずです。
ついにミラーレスマウントではその束縛から解き放たれ自由な光学設計が可能となっているはずですが、この14-24の超広角レンズを分析することで自由な光学設計の恩恵を堪能できると思われます。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図

上図の左側(青字)は旧レンズ F 14-24 F2.8、右側(赤字)は新レンズ Z14-24 F2.8の広角端での光路図になります。
通常の分析記事での光路図は枠いっぱいにレンズを描画していますが、今回は比較のため同スケール比で描画しています。
一目してわかるのは仕様的には同じレンズながら、新レンズであるNIKKOR Z 14-24 F2.8は圧倒的にサイズが小さいことがわかります。
また、新レンズZ 14-24 F2.8はミラーレス用のレンズであるため、旧レンズよりも撮像素子に近くなっていることがわかります。
赤色に着色している非球面レンズの配置を確認してみると、新レンズZ 14-24 F2.8では第1レンズに両面共に非球面のレンズを配置しています。
口径も巨大であり、かつ形状もかなりいびつなレンズでありますから、おそらく相当に加工も難しいのでしょう。
そんな非球面レンズを市場に流通させたわけですから、ここ十数年で確立した高い製造技術の賜物と想像されます。
なお、レンズのできるだけ被写体側に非球面レンズを配置すると像面湾曲と歪曲収差の補正に効果的です。
どちらの収差も広角レンズほど補正が困難な種類の収差です。
では、どのような補正効果があったのか以下に収差図を見てみます。
縦収差
左側(青字)は旧レンズ F 14-24 F2.8、右側(赤字)は新レンズ Z14-24 F2.8

球面収差 軸上色収差
球面収差は新レンズZ 14-24 F2.8は旧レンズのおよそ半分ほどにまで補正されています。
軸上色収差も同様のレベルに補正されています。
像面湾曲
像面湾曲もおよそ半減といったレベルで改善されています。
歪曲収差
歪曲収差は意外なことに同レベルです。小型化を優先したのでしょうか?デジタル製品では歪曲収差は画像処理で修正しやすい収差ですから画像処理にまかせてあえて犠牲にしたのかもしれません。
これは個人的な趣味ですが、広角レンズは歪曲収差が残っている方が写真に広角レンズらしい雰囲気が出るため歪曲収差は少し残るのが好きでもあります。
倍率色収差
左側(青字)は旧レンズ F 14-24 F2.8、右側(赤字)は新レンズ Z14-24 F2.8

倍率色収差図を見ると、新レンズZ 14-24 F2.8はおよそ半減といったレベルで改善しています。
横収差
左側(青字)は旧レンズ F 14-24 F2.8、右側(赤字)は新レンズ Z14-24 F2.8
左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。
縦収差と同様に新レンズZ 14-24 F2.8は横収差も全域で改善していることがわかります。
記事の途中ですが、防湿庫を購入すると不思議と収納上限までレンズが生えてしまうというそんな恐ろしい都市伝説があるらしいですよ。
スポットダイアグラム
左側(青字)は旧レンズ F 14-24 F2.8、右側(赤字)は新レンズ Z14-24 F2.8
スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
双方供に標準スケールでは甲乙つけがたいレベルのスポットサイズの小ささです。
どちらが画面の中心側なのか、一瞬わからなくなりますね。
スポットスケール±0.1(詳細)

こちらはスケールを変更し拡大したスポットダイアグラムです。
旧レンズF 14-24 F2.8の方がスポットサイズ的にはわずかに小さく見えますが、色味的に視感度の高いC線(赤)は、新レンズの方が小さくまとまり改善しおり、新レンズZ 14-24 F2.8のg線(青)は一見すると大きくなったように見えますが、適度に拡散させてているので通常の実写では視感度の低いg線(青)を犠牲にし、C線(赤)が優位な方が解像度も向上し好ましいでしょう。
MTF
左側(青字)は旧レンズ F 14-24 F2.8、右側(赤字)は新レンズ Z14-24 F2.8
開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
右側の新レンズZ 14-24 F2.8は、超広角ズームレンズであることが信じ難いレベルで高い性能にまとまっています。
小絞りF4.0

新レンズZ 14-24 F2.8は開放から性能が高すぎて高いレベルの意味で小絞りでも性能が変わりませんね。
総評
新レンズZ 14-24 F2.8はかなりの小型化を達成しつつさらに一段の高性能化を実現する恐ろしいレンズであることがわかりました。
ミラーレスシステムの良い点を全て引き出しつつ、高次元の非球面レンズ製造技術によって達成できていることが伺えます。
実写が大変楽しみな1本です。
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価格調査
Zマウント NIKKOR 14-24mm F2.8 の価格については、以下の有名通販サイトで最新情報をご確認ください。
Fマウント NIKKOR 14-24mm F2.8 の価格については、以下の有名通販サイトで最新情報をご確認ください。
Fマウントレンズもマウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラで使用することができます。
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
作例・サンプルギャラリー
14-24 F2.8の作例は個別分析ページをご参照ください。
当ブログの画像編集には国産現像ソフトSILKYPIXを利用しております。
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製品仕様表
製品仕様一覧表 NIKKOR F 14-24 F2.8、Z 14-24 F2.8
F 14-24 F2.8 | Z 14-24 F2.8 | |
画角 | 114度 | 114度 |
レンズ構成 | 11群14枚 | 11群16枚 |
最小絞り | F22 | F22 |
最短撮影距離 | 0.28m | 0.28m |
フィルタ径 | ---- | ---- |
全長 | 131.5mm | 124.5mm |
最大径 | 98mm | 88.5mm |
重量 | 970g | 650g |
発売 | 2007年 | 2020年 |
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以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。
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レンズ分析リスト
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