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【深層解説】歴史的銘玉 ゾナー大口径標準レンズ CarlZeiss Sonnar 50mm F1.5 -分析118

1930年代にドイツの名門光学メーカーCarlZeiss(カールツアイス)が開発したContax用の大口径標準レンズ50mm F1.5の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

あまりカメラの歴史に詳しくない方でも、Leica(ライカ)と聞けば、現代カメラの始祖として有名なブランドであことはご存知でしょう。

その一方で、今回の記事で紹介するCarlZeiss(カールツアイス)は、かなり詳しい方でなければわからないかもしれませんので、簡単にご紹介しましょう。

まずCarlZeissは、1846年に創業された光学機器メーカーで、工業用光学ガラスの製造プロセスや、計算によりレンズを設計する近代的な光学設計理論を確立した名門光学メーカーです。

なお、35mmカメラの始祖とされるLeicaを発明したOskar Barnack氏(オスカー バルナック)は、若かりし頃CarlZeissで働き、その素養を身に着けたとされています。

そのCarlZeissもカメラの開発を行っており、これがLeicaと双璧を成すContax(コンタックス)です。

Sonnarとは、Contax用に開発されたレンズの名称で、CarlZeissに所属していた名光学設計者Ludwig Jakob Bertele氏(ベルテレ博士)により設計され、焦点距離やFnoの異なる様々なバリエーションが存在します。

今回の記事で紹介するSonnar 50mm F1.5は、Contax用に開発された大口径標準レンズで、Leicaレンズより一早く大口径化を達成しながら性能も良好で銘レンズと称賛されました。

一般的に標準レンズのSonnarならば、今回の50mm F1.5仕様が最も有名で、1932年に発売されたそうです。

ちなみにSonnarの語源には諸説あるようですが、ドイツ語の太陽を意味する(Sonneゾンネ)とも言われており、大口径レンズに相応しい高エネルギー感のある名前ですね。

さて、執筆現在(2023年)より約100年前のレンズの歴史的な銘玉を分析してみましょう。

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文献調査

その昔に聞いた話ですが、CarlZeissは技術の独占を悪とする考えから特許を取得しない主義と聞いたことがあり、このレンズの特許が存在することを知りませんでした。

たまたま、海外のサイトを調査していましたところドイツとアメリカで出願されていることを知りました。

その特許の番号はUS1975678だそうで、確かに有名なSonnarの構成図が記載されておりベルテレ博士の名前も刻まれています。

これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がCarlZeiss Sonnar 50mm F1.5の光路図になります。

レンズの構成は3群7枚、最も被写体側には凸レンズの単玉と続いて3枚の貼り合わせレンズが2つ続きます。

なんとも個性的で、現代のレンズではあまり見かけません。

特に凸形状の第2レンズ、凸形状の第3レンズを貼り合わせていますが、光線収差の補正としては凸形状レンズどうしを貼ることには意味がありません。

では、どうしてこのような形状としたのか?

その理由は、空気とレンズの境界面で発生する反射を低減するためです。

現代のレンズはコーティングが施されているためほとんど問題になりませんが、コーティングが登場する1950年より前のレンズではこれが大きな問題でした。

下図はコーティングの無いレンズで光が反射してしまうイメージ図です。

まず、被写体から届く光を100%とした時、コーティングの無いレンズでは1面で約4%の光が反射(reflection)し、残りの96%だけ透過して次の面へ届きます。

その次の面では、また4%が反射して0.96x0.96=92%が透過となり、レンズを通過するごと次々に減衰します。

この対策として、貼り合わせ面では光の反射がとても少ない特性を利用し、このSonnarのレンズでは多くのレンズを貼り合わせているのです。

このSonnarタイプの空気とレンズの境界面は6面あるので、96%の6乗で撮像素子へ届く光の総量は78%の減衰に抑えらています

仮に、貼り合わせ面が無く、バラバラのレンズだったとすると、空気とレンズの境界面は14面となり、撮像素子へ届く光の総量は96%の14乗で56%まで大きく減衰します。

光の量が少なくなれば、シャッター速度を落とさねばなりません。Fnoが明るい意味がなくなってしまいますね。

さらに困ることに、レンズ内部で多重に反射が起きることでハーレーションという現象を起こし、写真の解像度が低下しフワッとした写りになります。

このレンズの開発された1930年代、Sonnarタイプが優秀とされた理由が「大口径レンズの割にハレーションが少ないこと」とされています。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、中間部がマイナスに大きくふくらむフルコレクション型で、100年前から知られた特性だったわけですね。

現代的視点で見れば大きな収差量ですが、当時としては驚異的なF1.5の大口径レンズでありながらこの収差量に収めたわけですから銘玉と称賛されるわけです。

なにしろ当時、コンピューターはおろか電卓も無い時代です。(電卓は1963年発売 )

この1930年代、日本ならば「そろばん」で計算したのでしょうが、西洋ではどう計算するんでしょうね?私も良く知りません。タイガー計算機のような機械式計算機みたいな物が普及してたのでしょうかね?

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、球面収差に比べるといくぶん控えめで構成枚数が多いことが功を奏しているようです。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、実線のサジタル方向の特性と破線のタンジェンシャル方向の特性が大きくわかれています。

開放で夏の葉の多い木立のような細かい被写体を撮影すると、いわゆる「グルグルぼけ」になります。

この時代の開放Fnoでの撮影は、あくまで緊急時に使うもので、通常は2段ほど絞り撮影することが常識の時代です。

「ぼけ味を堪能する」などの「詫び寂び」にも似た高尚な発想は無い時代です。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、対称型レンズでもないのにとても優秀ですが、わずかにプラス側に残るのでよく見ると「糸巻き型」に写ります。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、画面の周辺の像高17mmぐらいまではかなり優秀に補正されています。

画面の隅に向かってかなり甚大になりますが、フィルム時代の写真は隅が少しカットされてプリントされますし、像面湾曲も大きいので極端に目立つわけではないでしょう。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、画面の中間の像高12mmあたりから非対称型に大きく曲がりコマ収差が大きいことを示しています。

右列サジタル方向は、大きいですが現代でも販売されるダブルガウスタイプと大きく変わるほどでは無いようです。

後年設計された近代的なダウブルガウスの事例としてはNIKKOR 50mm F1.4Dを参考にされてはいかがでしょうか?


最新フィルムカメラもどうでしょうか?

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

中心部からスポットのサイズがかなり大きいことがわかりますが、意外なことに画面の中間の像高12mmより外側は甚大なコマ収差が発生しているはずですが、スポットとしては不思議とそこそこに見れる状態に補正されています。

これが、天才ベルテレ博士の神のごとき設計技術ということなのでしょうか…

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

こちらは現代的な超高性能レンズ用のスケールなので、この時代のレンズには不適でしょうね。

MTF

開放絞りF1.5

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、頂点部は0.5ポイントあたりまであり、画面の中間18mmぐらいまではなんとか山を残しています。

MTF的には開放でも十分写ります。

まだ、MTFという物が存在せず、計算もできなかった時代ですが、経験的にこの解を導き出すのですから恐れ入ります。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

画面の中間部までは現代的なレンズと遜色ないレベルですが、画面の周辺の像高18mmを越えるとさすがに少々苦しさが残ります。

なお、レンズ内部で発生するハレーションはMTF計算には反映されませんので、コーティングの無いこの時代のレンズは快晴時の撮影や、逆光での撮影時は解像度の低下に注意が必要です。

総評

さすがは銘玉と称されるSonnar 50mm F1.5思わず唸ってしまうような補正が施されています。

単純に貼り合わせを多くしハレーションを抑えただけのレンズではなく、100年前の設計とは思えない現代に通ずる素晴らしい補正の施されたレンズです。

残念ながら、コーティング技術の発達した現代では、Sonnarタイプはすっかり減りましたが、当時の趣きある設計思想を継承したレンズをCOSINAが開発し販売しています。

現代的にアレンジされたSonnarとして、味わってみてはいかがでしょうか?

 

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COSINAのレンズは、Leicaマウントですからマウントアダプターを使えば各社のミラーレス一眼カメラでも楽しめますね。

マウントアダプターを使えば下記のSONYのカメラで使うことも可能です。

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作例・サンプルギャラリー

CarlZeiss Sonnar 50mm F1.5の作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表CarlZeiss Sonnar 50mm F1.5

画角--度
レンズ構成3群7枚
最小絞りF--
最短撮影距離--m
フィルタ径40.5mm
全長--mm
最大径--mm
重量160g
発売日1932年

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