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【深層解説】ミラーレス一眼カメラ用 標準レンズ NIKON Panasonic SONY 50mm F1.8 の比較 -分析114

現代の交換レンズシステムは、すっかりミラーレス一眼カメラが主流となり、これと同時に各社からミレーレス専用の標準レンズである50mm F1.8も新たに発売されています。

この記事では、NIKON、SONY、Panasonicから発売されている50mm F1.8の大口径標準レンズを比較分析・レビューいたします。

過去の記事で、それぞれのレンズは個別に分析しておりますので、上記のリンク先も合わせてご参照ください。

レンズの概要

2013年にSONYから始まったフルサイズのミラーレス一眼カメラですが、執筆現在(2023年)では各社とも主力製品として販売されるまでに至っています。

このカメラの変化に合わせて、各社から大口径標準レンズとして新たな50mm F1.8が発売されていますが、各社どのような違いがあるのか改めて比較分析してみたいと思います。

今回、取り上げるのは以下の4本のレンズになります。

各レンズを簡単に紹介しましょう。

NIKON AiAF NIKKOR 50mm F1.8D

このレンズは、一眼レフカメラ時代の基準として記載しています。

フィルム一眼レフ時代1960年代から続くFマウント用の交換レンズで、1978年に開発された光学系を連綿と受け継いでおり、デジタル一眼レフ絶頂期の2010年前後まで発売されていた超ロングセラーです。

伝統的なダブルガウス型を採用した、一眼レフカメラ時代を代表する標準レンズとなります。

このレンズを元にミラーレス一眼カメラ用のレンズがどのように発展したのか確認いたしましょう。

以下の説明では、NIKON Fレンズと表記します。

NIKON NIKKOR Z 50mm F1.8S

NIKONは1960年から続くFマウントを採用した一眼レフカメラを開発販売し続けてきましたが、2018年からZシリーズとしてマウントも一新したミラーレス一眼カメラを販売しています。

このZマウントに合わせて、同年2018年に50mm F1.8を標準レンズとして発売しています。

以下の説明では、NIKON Zレンズと表記します。

Panasonic LUMIX S 50mm F1.8

Panasonicは、2008年から開始したマイクロフォーサーズシステムの立ち上げに賛同していち早くミレーレス市場へ参入していますが、フルサイズミラーレスへの参入は2018年のLマウントアライアンス発足からとなります。

2021年、Panasonicのフルサイズミラーレスとしては10本目のレンズに50mm F1.8が発売されました。

以下の説明では、Panasonicレンズと表記します。

SONY Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA

2013年に世界初のフルサイズミレーレスシステムを発売したSONYですが、同年55mm F1.8を発売しています。

少々ややこしいのですが、このレンズはSONYの純正レンズFEシリーズですがドイツの名門光学メーカーZeissの認定を受けており、かつての銘玉Sonnar(ゾナー)の名前を冠しています。SONY製ですが。

以下の説明では、SONYレンズと表記します。

私的回顧録

『F1.8』

Fnoとは光を取り込む量の指標で、レンズを正面から見た時の「絞りの径」と焦点距離の比に相当します。

こちらはレンズ正面から見た様子ですが、中央の白く見える部分が絞りの径に相当します。

人の眼球では瞳孔に相当し、レンズでも瞳(ひとみ)あるいは瞳径(ひとみけい)と表現します。

この絞りの面積が光を取り込む量(明るさ)に相当し、Fnoが小さいほど光を取り込む能力が高いレンズであると言えます。

絞りは実際には多角形ですが、近似的には「円の面積」と考えます。

円の面積は、径を√2倍すると面積が倍になり、1/√2倍すると半分となる関係を持ち、この「2倍になる」(半分になる)特性の変化を「1段」と表現します。

 ※√2とは2乗すると"2"になる数値で、その実態は1.414…ですね。

この2倍(あるいは半分)になる「1段」ごとの刻みでFnoを並べると以下の関係になります。

 暗い側←F16、F11、F8.0、F5.6、F4.0、F2.8、F2.0、F1.4、F1.0→明るい側

この並びをひとつ隣へ移動すると、明るさが2倍あるいは半分になるわけです。

何か規則性が無さそうに見えますが、√2が何個分なのかと表現すると少しわかりやすくなるでしょう。

  • F1.4=√2 (=1.414…)
  • F2.0=√2*√2  (=2.0)
  • F2.8=√2*√2*√2  (=2.828…)
  • F4.0=√2*√2*√2*√2  (=4.0)
  • F5.6=√2*√2*√2*√2*√2  (=5.656…)

この「倍になる関係」がなぜ好まれるのか?と言えば、Fnoと対になるシャッタースピードとの関係性をわかりやすくするためです。

例えば、シャッタースピードは1/125秒と表示されますが、さらに倍の速度でシャッターを切りたい場合には1/250秒と設定しますね。

この「2倍の速度」の変化1段と表現します

しかし、同じ光の条件下で、1段早いシャッター速度で適正露光を得るためには、Fnoを1段明るくしなければ光量不足になってします。

ここでようやく、「Fnoを1段明るくする」(絞り面積を2倍にする)に繋がるわけですね。

ところが、本記事のレンズのFnoであるF1.8を改めて思い返すと、1段刻みのFnoにはF1.8は存在しません

F1.8は、1/3段ごとのFnoの表を書いてみると現れてきます。

1/3段刻みのFno理論値
基準F1.00
+1/3段F1.12
+2/3段F1.26
+1段F1.41
+1段+1/3段F1.59
+1段+2/3段F1.78
+2段F2.00
+2+1/3段F2.24
+2+2/3段F2.52
+3段F2.83
+3+1/3段F3.17
+3+2/3段F3.56
+4段F4.00

上の表は、F1.0を基準にFnoを1/3段刻みで書いた物です。なお、単純な√2のべき乗なので、カメラに表示されるFnoとは数値の丸め方が異なります。

F1.8(≒F1.78)は、表の赤字で示した位置になり、F1.4から見ると2/3段暗い位置で、F2.0から見ると1/3段明るい位置となります。

ぴったり2倍の関係からずれてしまうので覚えづらい数値です…

個人的には「標準レンズは√2を整数乗しているF1.4かF2.0にしてほしい」と思ってしまいます。

しかし、F2.0だと商売的に見劣りしてしまうためか、いつしか「安価な標準レンズはF1.8」の図式が固定化され数十年が経過しました。

そして近代、2010年を過ぎるとデジタル一眼レフの革新が目覚ましくなり、これに呼応するように超高画質な50mm F1.4レンズが登場してきます。

例えば、SIGMA 50mm F1.4 DG HSM Art(2014)がその代表例です。

一方の50mm F1.8にはその後もしばらく特段の変化が無かったのですが、各社のミラーレス一眼の登場以降、これに合わせて新たな時代にふさわしい個性溢れるレンズが続々と登場してきました。

と言う訳で、今回の記事では各社ミラーレス一眼用の標準レンズ50mm F1.8を改めて比較分析してみましょう。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON Fレンズ、NIKON Zレンズ、Panasonic、SONYの50mm F1.8レンズの光路図になります。

SONYは厳密には55mmですが。

NIKON AiAF NIKKOR 50mm F1.8D

レンズの構成は5群6枚、最も定番の6枚構成で被写体側の接合レンズを分離した、ダブルガウスの典型的構成です。

ダブルガウスは、絞りの前後で反転した見た目を指す「対称型」に属する物で、少ない構成枚数で収差を適切に抑えることができる優れた構造です。

フィルム時代の一眼レフ用の50mmレンズのほとんどがこの形を基本に1枚足したり、非球面を追加するなどの改良を加えた物でした。

当記事では古き良き時代の代表する基準として掲載しています。

 以下、NIKON Fレンズ。

NIKON NIKKOR Z 50mm F1.8S

レンズの構成は10群12枚、2枚の非球面レンズを採用し、特殊低分散ガラス(ED)も2枚採用ています。

Fマウントレンズに比較するとなんと2倍の構成枚数になり、非球面レンズも2枚追加するという大きな進化を遂げています。

絞りを挟んで前後6枚はダブルガウス型のような形状で、その前後を凹レンズ群で挟むような構成です。

公式にビオゴン型と説明しているようです。

ミレーレス化によって空間の空いた撮像素子付近に、大径のレンズを配置しているところがまさにミレーレスカメラの恩恵ですね。

 以下、NIKON Zレンズ。

SONY Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA

レンズの構成は5群7枚構成、非球面レンズを3枚採用しています。

発売順に考えると、ミレーレス用レンズとしてはこのレンズが圧倒的に早く、2013年に発売されています。(次のNIKON Zは2018年)

初めてこの構成を見たとき、あまりのダブルガウス型との違いに強い衝撃を受けたのですが、後に発売されたNIKON Zレンズを見ると「光学系の前後を凹レンズで挟み込む」という基本的な構造は一致しており、SONYの先見性の高さを感じます。

Panasonic LUMIX S 50mm F1.8

レンズの構成は8群9枚、非球面レンズ3枚採用し、特殊低分散ガラス(ED)も1枚採用しています。

NIKON Zレンズに比較すると、少し枚数は少ないものの、非球面レンズの枚数がより多く、特殊低分散ガラスも採用しています。

他のミレーレス用レンズは第1レンズが凹レンズですが、このレンズは凸レンズであるところがポイントなのではないでしょうか?

非球面レンズの配置の仕方などSONYに近しい雰囲気も感じます。

 

ミレーレス用レンズ50mm F1.8を見ると、前後に凹レンズ群を挟むように配置する基本的な構造は、どれも近い解に見えますが、ダブルガウス型を核に発達したようなNIKON Zレンズに対して、まったく別方面から進化したSONYとPanasonicに大別できそうです。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう。

一眼レフ用のNIKON Fレンズを見ると、大きくマイナス側にふくらむ形状しており、これをフルコレクション型と言い、収差が大きく残る割にはバランスが良く仕上がる伝統的な設計スタイルです。

一方のミラーレス用レンズは豊富なガラス枚数や非球面レンズによって、基準光線であるd線(黄色)はほとんど収差を感じないレベルにまで補正しています。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、レンズの構成枚数が多いほど補正には有利なだけあってNIKON Zマウントレンズが優秀でありますが、構成枚数の少ないSONYレンズもFマウントレンズの半分以下に抑えているのですから、これはまた違う意味で驚異的です。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、一眼レフ用のNIKON Fレンズは大きく収差を残していますが、球面収差も同程度残す事でバランスさせています。

ミラーレスレンズは、甲乙つけがたいところですが、やはり構成枚数の多いNIKKOR Zが若干有利でしょうか。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、デジタル時代となってからは画像処理による補正に頼るレンズが増えましたが、この3本のレンズはいずれも歪曲収差が小さく抑えてられいます。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、一眼レフ用のNIKON Fレンズは対称型光学系の大きな特徴である倍率色収差の低減効果で現代のミラーレスレンズにも劣らない補正を実現しています。

一方のミラーレスレンズはPanasonicは秀逸で画面周辺の色収差をかなり意識していることがわかります。

一方のSONYは少々収差を残しており、倍率色収差も画像処理による補正が容易ですからデジタル補正を前提としているのかもしれません。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、一眼レフ用のNIKON Fレンズは強いコマ収差(非対称性)が強く、画面周辺部での解像度低下に繋がります。

一方のミラーレスレンズは大きな遜色も無く秀逸に補正いるようです。これは非球面レンズを多数採用していることがポイントでしょう。

右列サジタル方向も、一眼レフ用のNIKON Fレンズは強いサジタルコマフレアが発生しています。古き良き時代の大口径レンズの味の秘密でもあります。

一方のミラーレスレンズは大きな遜色も無く秀逸に補正いますが、Panasonicが最後発だけあって最も秀逸でしょうか。

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スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

標準スケールで見ると、一眼レフ用のNIKON Fレンズに比較してミラーレスレンズはおよそ1/3程度にまでスポットサイズが小さくなっているようです。

ミラーレスレンズはあまりに小さいので下記の詳細スケールで見てみましょう。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

拡大して見ると、画面中心から中間の像高12mmあたりまではNIKON Zレンズが最も秀逸なようです。やはり構成枚数の違いが大きのでしょう。

SONY、Panasonicはかなり拮抗するようです。

MTF

開放絞りF1.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、一眼レフ用のNIKON Fレンズも画面中心での性能はミラーレスレンズに引けをとりませんが、画面周辺に至ると急激に低下します。

ミラーレスレンズはかなり僅差ですが、わずかにNIKON Zレンズが高くPanasonic、SONYがそれに続くような印象ですね。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

一眼レフ用のNIKON Fレンズも画面中心から中間の像高12mmあたりまでは大きく改善します。

ミラーレスレンズは元の開放Fnoの状態が高いので、実用的な観点では差が付かないレベルに高まっています。

総評

かつては撒き餌レンズなどと言われ「安かろう」の代名詞のような扱いであった50mm F1.8仕様のレンズですが、ミラーレス時代に突入し激烈な進化を遂げ、もはや別物となっています。

基本的な性能はなかり拮抗しており、今回分析した3本のミラーレス用レンズにハズレなどと言う物は無さそうです。

この新時代の高性能レンズの中から、あなたならどれを選びますか?

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

作例・サンプルギャラリー

レンズの作例集は、各分析ページをご参照ください。

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製品仕様表

製品仕様一覧表

AiAf NIKKOR 50mm F1.8NIKKOR Z 50mm F1.8Panasonic 50mm F1.8SONY 55mm F1.8
画角46度47度47度43度
レンズ構成5群6枚9群12枚8群9枚5群7枚
最小絞りF22F16F22F22
最短撮影距離0.45m0.4m0.45m0.5m
フィルタ径52mm62mm67mm49mm
全長39mm76mm82mm70.5mm
最大径63.5mm86.5mm73.6mm64.4mm
重量155g415g300g281g
発売日1978年2018年12月7日2021年6月25日2013年12月20日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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