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【光学エンジニアの解説】リコー コンパクトカメラ RICOH GR4 18mm F2.8 GR3との比較-分析152

この記事では、リコーのコンパクトカメラGR4用のレンズである広角単焦点18mm F2.8 の設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

レンズの概要

デジタルカメラ普及の足音が聞こえ始めた1996年、フィルムコンパクトカメラGRシリーズが発売されました。

その後GRシリーズは、デジタル化にも対応しながら、四半世紀を超えてなお新たな製品が開発される人気カメラとなっています。

当ブログでも、GR3Xの発売を記念し、GRシリーズの総まとめする分析記事を執筆したこともありました。

 関連記事:RICOH GRシリーズGR3X

2018年に発売されたGR3は、品切れで入手困難になるほどの人気カメラでカラーチェンジの派生モデルも発売になるほどでしたが、しばらく後継機が発売されず不安な日々が続きました。

そして、前機種の発売から実に6年以上も経過した2025年、待望の正統な後継機種GR4が発売されることになりました。

文献調査

2022年にリコーから出願された特許文献、特開2024-67294ではGR3のレンズに形が良く似た広角レンズが記載されていました。

GR3のレンズは35mm版換算の焦点距離28mm、GR3Xは焦点距離40mm、この特許文献には焦点距離20mmの広角な仕様のレンズが記載されており、私の個人的な妄想ではGR3Yは広角モデルだろうと思い込んでおりました。

ところが、残念ながらGR広角モデルが発売される気配は無く、GRシリーズの先行きに不安を感じた頃、2025年5月22日にGR4が開発発表されました。

その後、2025年8月21日に発売日(2025年9月12日)が発表となりました。

さて、2025年5月1日には2023年に出願の特開2025-69516が公開され、この文献には第1レンズ群と、開口絞りと、第2レンズ群と、第3レンズ群とから構成されフォーカス時に第1レンズ群から第2レンズ群までが一体で移動することを特徴とする光学系が記載されています。

この文献の実施例1は、GR4の公式サイトに記載されるレンズ構成図とおおむね一致するようです。

では、このレンズデータを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみましょう。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

左図(青字Wide)はGR3、右図(赤字Tele)はGR4

今回の分析では、前機種GR3と新機種GR4を比較しながら進めます。

上図の左側はGR3、右側のGR4は光路図になります。

前機種GR3は、4群6枚構成の絞りを中心として略対称型に配置された極めて美しいレンズで、美しさに裏付けられた高性能レンズで、詳しくは過去の記事をご覧ください。

 関連記事:RICOH GRシリーズ

新機種GR4は、一見するとGR3にも似た略対称型に配置されたレンズかと思いきや、撮像素子側に巨大なレンズが追加された5群7枚構成となっています。

図中の赤い線で描かれたレンズは非球面レンズで、前機種GR3には2枚が採用されていましたが、新機種GR4では3枚が採用されており、追加された撮像素子側の巨大レンズが非球面となっています。

非球面レンズは、球面収差や像面湾曲やコマ収差の補正など、主に解像力の向上に非常に強力な効果を発揮する一方で、口径が大きくなると加工が難しく高価な部品となります。

当然ながらエンジニア達は、コストを抑え利益を上げたいため、できるだけ小さな口径のレンズを非球面レンズにしたり創意工夫を凝らすものです。

ところがこのGR4は、もはや理想のみを追求したとしか思えない「圧倒的大口径」な箇所に非球面レンズを配置し、見ただけで「高性能が約束されている」と言わんばかりのレンズを開発したようです。

これが現実であることが、まだにわかに信じ難いレンズですが、さらに詳しく分析して参りましょう。

縦収差

左図(青字Wide)はGR3、右図(赤字Tele)はGR4

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、d線(黄色)は双方ともにゼロに近いので遜色在りません。

良すぎてコメントに困るパターンですね。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、GR4の方がf線(水色)が小さいため解像度優先でGR3は色にじみのバランス優先のようにも見えますが、一定以上の水準なのでスポットダイアグラムなどの詳細シミュレーションで検証しないと甲乙つけがたいですね。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、GR3の収差形状は見慣れた携帯で中間部が少しマイナスにふくらみ、上端で少しプラスに戻るタイプです。一方のGR4は、なにやら見慣れぬ形の不気味に小さなまとまりになっています。

今回追加された大きな非球面レンズは、配置的に像面湾曲の補正効果を狙っていると思いますのでその効果なのでしょう。

MTFシミュレーション結果で詳細検証しましょう。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、わずかですがGR4の方が減少しています。近年は画像処理による歪曲補正に依存する製品も増えていますが、GRは光学的にしっかりと補正する方針のようですね。

倍率色収差

左図(青字Wide)はGR3、右図(赤字Tele)はGR4

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、似た傾向ですがほんのりGR4の方が少なく見えますね。

横収差

左図(青字Wide)はGR3、右図(赤字Tele)はGR4

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、双方差はあまりなさそうです。

右列サジタル方向は、GR4の方が画面の周辺の像高12mmあたりから少しサジタルコマフレア(非対称)が少し大きいようです。



スポットダイアグラム

左図(青字Wide)はGR3、右図(赤字Tele)はGR4

スポットスケール±0.2(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

双方とも高性能すぎてこちらの標準スケールでは判別が難しいレベルなので、下の詳細スケールで確認しましょう。

スポットスケール±0.07(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

画面の中心部側(グラフ上段側)は、大きな差はありませんが、画面周辺の像高12mm以上の領域ではGR4の方がスポットが小さくまとまっているようです。

MTF

左図(青字Wide)はGR3、右図(赤字Tele)はGR4

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、高さに大きな差はありませんが、画面周辺の像高11mm(黄色)以上の領域では、GR4の方が山の高さが低いところもありますが、山の頂点の位置がとてもきれいに一致しています。

これはGR3に比較して、画面全域でより均質な画質をGR4は実現していることを示しています。

画面内の性能において均質性が高いと、背景などピントのあってない箇所がより自然でなめらかにボケる効果も期待できます。

ボケ味の質の改善にも取り組んだ成果なのかもしれませんね。

横収差で若干サジタルコマフレアが大きめとなっていたのも、山の高さよりも均質性やボケ味を優先するための処置とも推測できます。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

小絞りにしてもGR4の方が山の頂点位置がそろっており、均質性が高いことがわかります。

総評

名機と謡われたGR3をさらに凌駕し、画質の均質性とボケ味の改善にも取り組んだGR4の分析はいかがだったでしょうか?

正直なところ、GR3からの進歩は難しいのではないかとも思っていましたが、大胆な形態の非球面レンズの採用でさらなる進化を見せつけてくれましたね。

GR3と同様に入手困難な日々が続くことでしょうから、一日も早く注文されることをお勧めいたします。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

製品仕様表

製品仕様一覧表 RICHO GR4

GRIIIGRIV
撮像素子COMS
APS-Cサイズ
COMS
APS-Cサイズ
レンズ構成4群6枚5群7枚
最短撮影距離0.06m0.06m
発売日2019年3月15日2025年9月12日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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